少数株主が弁護士に依頼するとき 会社に権利を認めさせるために使える手続と期限
非上場会社の少数株主の方から、「会社が自分を株主として扱ってくれない」という御相談をいただくことが増えております。配当は何年も支払われず、決算書類を見せてほしいと申し入れても回答がなく、株主総会の招集通知すら届かないという状態です。本ページは、そのような状況に置かれた少数株主の方が、会社に対して自らの権利を認めさせるために用いることのできる会社法上の手続と、その手続に付されている期限を整理したものです。
少数株主の方が最終的に望んでおられることは、多くの場合、保有する株式を適正な価格で買い取ってもらうことです。もっとも、その交渉に入る前の段階で、株主として扱われていない、会社の中で何が起きているのかを知る手段がない、という壁に突き当たっておられる方が少なくありません。この壁を越えるための道具が、会社法に定められた各種の権利です。
結論から申し上げます。少数株主の権利には、3か月、60日、20日、8週間といった短い期限が定められたものが含まれております。期限を過ぎますと、その権利はもはや行使することができません。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
弁護士への依頼という同じ主題であっても、用いる手続と判断の分かれ目は場面ごとに異なりますので、次のとおり整理しております。
- 少数株主としての権利を会社に認めさせる場面……本記事
- 譲渡制限株式を第三者に売却するために承認を求める場面……株式譲渡承認請求を弁護士に依頼するとき 譲渡制限株式を売却するための手順と2週間の期限
- 会社そのものに買取りを求める場面……会社に株式の買取りを求めるとき弁護士に依頼する意味 任意の買取交渉と法定の買取請求の使い分け
- 株主であることを否定されている場面の立証……会社から「あなたは株主ではない」と言われたとき 株主であることを認めさせる手順と集めるべき証拠
「株主として扱われていない」という状態から御相談が始まります
御相談の入口となる4つの状況
御相談の入口は、おおむね次のいずれかです。父が保有していた株式を相続したが、会社が名義の書換えに応じない。長年配当がなく、社長一族の役員報酬だけが増えている。決算書類を見せてほしいと申し入れたところ、株主には見せる義務がないと言われた。株主総会が開かれた形跡がないのに、登記だけは変更されている。
情報を渡さない態度は、価格の交渉にそのまま現れます
これらはいずれも、会社の側が「株主に情報を渡さない」「株主に判断の場を与えない」という一貫した態度をとっている場面です。情報を持たない株主に対しては、会社はいくらでも低い価格を提示することができます。
弁護士に依頼するということの意味
したがいまして、価格の交渉に先立ち、又はこれと並行して、株主としての権利を行使し、会社に応答を義務付けていく必要があります。弁護士に依頼するという選択は、この作業を法律上の形式を整えたうえで行うということを意味します。
会社に権利を認めさせるとは、どういうことか
「権利を認めさせる」と申しますと、会社を説得することのように聞こえますが、実際には異なります。会社法が定めているのは、次の3つの仕組みです。
第1 会社に応答の義務を生じさせること
株主が単に「教えてください」と述べるだけでは、会社に応答の義務は生じません。これに対し、会社法が定める要件を満たした請求を行えば、会社は応答をしなければならず、応答をしないこと自体が会社に不利益な結果を生じさせます。譲渡制限株式について承認を求める請求を受けた会社が2週間以内に決定の内容を通知しなかったときに承認をしたものとみなされる(会社法第139条第2項、第145条第1号)のは、その典型です。
第2 会社の判断を裁判所の判断に置き換えられる形にすること
会社が拒む場面であっても、一定の手続を経れば、判断の主体を会社から裁判所に移すことができます。株主総会の招集を会社が行わないときは裁判所の許可を得て株主自らが招集することができ(会社法第297条第4項)、価格の協議が調わないときは裁判所に売買価格の決定を求めることができます(同法第144条第2項)。
第3 会社の内部にある資料を株主の側に移すこと
株式の価格を論じるには、会社の資産、負債、損益及び役員報酬の状況を把握しなければなりません。これらの情報は会社の内部にありますので、株主の側から取りに行く手続を用います。会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)が、その中心です。
株主であること自体を争われている場合に用いる手続
最も深刻な類型は、会社から「あなたは株主ではありません」と言われている場合です。権利の内容を論じる前に、株主としての地位そのものを確定させなければなりません。
株主名簿への記載又は記録を求める請求
株式を会社以外の者から取得した者は、会社に対し、株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができます(会社法第133条第1項)。もっとも、この請求は、法務省令で定める場合を除き、株主名簿に記載され、又は記録された者又はその一般承継人と共同してしなければなりません(同条第2項)。譲渡人の協力が得られない場合には単独では書換えができないという構造ですので、取得の原因を正確に整理することが出発点となります。
株主名簿の閲覧又は謄写の請求
会社は株主名簿を本店に備え置かなければならず、株主は、営業時間内はいつでも、請求の理由を明らかにして、株主名簿の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第125条第1項、第2項)。会社が拒むことができる場合は限定されております(同条第3項)。株主名簿を確認すれば、御自身の記載の有無のみならず、他にどのような株主が存在するのかを把握することができます。
株主であることの確認を求める訴え
会社が名義の書換えにも閲覧にも応じない場合には、株主であることの確認を求める訴えを提起いたします。この訴えに会社法上の出訴期間の定めはありませんが、時間の経過により証拠が失われますので、早期の着手が必要です。
集めておいていただきたい資料
株主であることを基礎付ける資料としては、株券、出資の払込みを示す通帳の記載、配当金の支払通知書、株主総会の招集通知、法人税の確定申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書の写しなどが考えられます。1つの資料で足りることはまれですので、複数の資料を組み合わせて主張を構成いたします。
会社の数字を取り寄せる手続
会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写の請求
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内はいつでも、請求の理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項第1号、第2号)。
会社が拒むことができる場合
会社は、請求が株主の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的で行われたとき、会社の業務の遂行を妨げ株主の共同の利益を害する目的で行われたとき、請求者が会社と実質的に競争関係にある事業を営むときなどに限り、請求を拒むことができます(会社法第433条第2項各号)。会社の側はこの拒絶事由を広く主張してまいりますので、請求の理由の書き方がそのまま結果を左右いたします。どの帳簿を、なぜ必要とするのかを具体的に記載しなければなりません。
計算書類等の閲覧等の請求
持株比率が100分の3に満たない場合であっても、株主は、会社の営業時間内はいつでも、計算書類及びその附属明細書等の閲覧又は謄本の交付等を請求することができます(会社法第442条第3項)。まずはこの請求から始め、開示された内容を踏まえて会計帳簿の閲覧謄写請求に進むという順序をとります。
資料がそろって初めて価格の話ができます
会社が提示してくる価格は、多くの場合、根拠の説明を伴いません。これに反論するには、貸借対照表上の純資産の内訳、土地及び有価証券の含み損益、役員報酬の水準、関係者との取引の内容といった具体的な数字が必要です。
株主総会という場を用いる手続
株主総会の招集の請求
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、取締役に対し、株主総会の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法第297条第1項)。公開会社でない株式会社では、6か月前からという要件は適用されません(同条第2項)。請求の後に遅滞なく招集の手続が行われない場合、又は請求があった日から8週間以内の日を会日とする招集の通知が発せられない場合には、請求をした株主は、裁判所の許可を得て株主総会を招集することができます(同条第4項)。
株主総会の目的である事項とすることの請求
株主は、取締役に対し、一定の事項を株主総会の目的とすることを請求することができます(会社法第303条第1項)。取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主に限られ、株主総会の日の8週間前までに請求をしなければなりません(同条第2項)。公開会社でない取締役会設置会社では、6か月前からという要件は適用されません(同条第3項)。
株主総会の決議の取消しの訴え
招集の手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反し、又は著しく不公正なとき、決議の内容が定款に違反するとき、特別の利害関係を有する者が議決権を行使したことによって著しく不当な決議がされたときは、株主等は、決議の日から3か月以内に、訴えをもって決議の取消しを請求することができます(会社法第831条第1項各号)。招集通知が届いていない株主総会について後から知った場合であっても、この3か月という期間は決議の日から進行いたします。
責任追及等の訴え
6か月前から引き続き株式を有する株主は、会社に対し、取締役等の責任を追及する訴えの提起を請求することができます(会社法第847条第1項)。公開会社でない株式会社では、6か月前からという要件は適用されません(同条第2項)。会社が請求の日から60日以内に訴えを提起しないときは、請求をした株主が会社のために訴えを提起することができます(同条第3項)。会社の資産が関係者に不当な条件で流出している場合に用います。
期限を具体的な日付で確認いたします
4つの期限を一覧にいたします
「3か月」「60日」と申し上げても実感が湧きにくいと存じますので、日付を当てはめて示します。
| 手続 | 起算点 | 設例における期限 | 根拠 |
| 株主総会の決議の取消しの訴え | 決議の日(令和8年6月26日) | 令和8年9月26日まで | 第831条第1項 |
| 責任追及等の訴え | 会社への提訴請求の日(令和8年9月1日) | 令和8年10月31日を経過すれば株主が提訴可能 | 第847条第3項 |
| 株主総会の招集の請求 | 請求の日(令和8年9月1日) | 令和8年10月27日以内の日を会日とする招集通知がなければ裁判所の許可を求めることが可能です | 第297条第4項 |
| 売買価格の決定の申立て | 会社からの買取りの通知の日(令和8年11月2日) | 令和8年11月22日まで | 第144条第2項 |
起算点は、書面が会社に届いた日です
これらの期間は、御自身が事情を知った日ではなく、決議の日、請求の日、通知の日から進行いたします。封筒の消印及び配達の記録を保管しておいてください。
最も注意を要するのは20日です
最も注意を要するのが、最下段の20日です。会社又は指定買取人から買取りの通知を受けた後、20日以内に裁判所に対して売買価格の決定の申立てをしなかった場合には、協議が調ったときを除き、売買価格は1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額とされます(会社法第144条第5項)。20日という期間は、資料を集め、評価を検討し、申立書を作成するには短すぎます。通知が届いてから弁護士を探し始めるのでは間に合わないことがあるのは、このためです。
会社の側の事情 なぜ会社は少数株主の請求を拒むのか
会社の対応が不誠実に見える場合であっても、その背後には会社なりの事情があります。事情を理解しておくことは、交渉の進め方を決めるうえで役立ちます。
第1 資金の流出を避けたいという事情
非上場会社の多くは、手元の資金に余裕がありません。加えて、会社が自己株式として取得する場合には、株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額が分配可能額を超えてはならないという制約があります(会社法第461条第1項)。買取りに応じたくても応じられないという場面が現実に存在いたします。
第2 他の少数株主への波及を恐れる事情
1人の少数株主に対して高い価格で買取りに応じますと、他の少数株主が同じ条件を求めてまいります。同族会社に少数株主が複数存在する場合、会社の側は前例を作らないことを最優先いたします。交渉が進まない原因が、実は御自身とは無関係のところにある場合が少なくありません。
第3 内部の数字を見られたくないという事情
会計帳簿を開示すれば、役員報酬の水準、関係者との取引、資産の含み損益といった事情が明らかになります。これらは、株式の価格の算定に直結するだけでなく、取締役の責任の問題にも波及し得ます。会社が閲覧謄写の請求に強く抵抗すること自体が、開示されると困る事情の存在を示す場合があります。
権利の行使は、株式の売却とどのように結び付くのか
交渉の土俵に会社を引き出す効果
会計帳簿の閲覧謄写の請求や株主総会の招集の請求は、会社に対して具体的な作業と期限を課します。会社は弁護士に対応を委ねざるを得ず、その過程で、買取りによって早期に解決したほうがよいという判断が生じます。
価格の主張を根拠のあるものにする効果
裁判所に売買価格の決定を求める場合にも、株主の側が資料に基づく具体的な主張をしているかどうかで、審理の進み方が変わります。
不当な取扱いを是正する効果
配当が支払われないまま役員報酬のみが増加している、株主総会が実質的に開催されていないといった事情は、それ自体が是正の対象です。是正を求める姿勢を示すことにより、会社の態度が変わることがあります。
いま確認していただきたいこと
第1に、御自身の持株数と発行済株式の総数を確認してください。持株比率が100分の3以上であるかどうかによって、用いることのできる手続が変わります。
第2に、会社から届いた書面の日付をすべて確認してください。議事録、招集通知、買取りに関する通知など、日付の入った書面は期限の起算点となります。
第3に、直近3期分の計算書類を入手しているかどうかを確認してください。入手していない場合には、まず会社法第442条第3項に基づく請求から始めることになります。
第4に、株式を取得した経緯を時系列で書き出してください。相続、贈与、譲渡、出資のいずれであるかを整理しておけば、初回の相談の内容が充実いたします。
第5に、期限が迫っている書面が手元にある場合には、その日のうちにお電話ください。20日又は3か月は、準備をしているうちに経過してしまう長さです。
よくあるご質問
持株比率が100分の3に満たないのですが、できることはありますか。
あります。計算書類等の閲覧等の請求(会社法第442条第3項)、株主名簿の閲覧又は謄写の請求(会社法第125条第2項)及び株主総会の決議の取消しの訴え(会社法第831条第1項)には、持株比率の要件がありません。また、他の少数株主と持株を合算することにより100分の3の要件を満たす場合もありますので、株主名簿の確認が重要となります。
会社と全面的に争うつもりはないのですが、権利を行使してもよいのでしょうか。
差し支えありません。権利の行使は、法律が株主に与えている手段を用いることにすぎません。実務上は、まず穏当な内容の請求から始め、会社の対応を見ながら段階を上げてまいります。関係を維持したいという御意向がある場合には、それに沿った進め方を設計いたします。
株主総会の招集通知が届いていなかったことを、決議から半年後に知りました。
株主総会の決議の取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。知った日からではなく決議の日から起算されますので、半年が経過している場合には用いることができません。もっとも、決議が存在しないと評価される場合や、決議の内容が法令に違反する場合には、期間の制限のない別の訴えを検討する余地があります。議事録及び登記事項証明書をお持ちのうえ御相談ください。
会社が「株主名簿は作成していない」と回答してきました。
会社法は株式会社に対して株主名簿の備置きを義務付けております(会社法第125条第1項)。作成していないという回答は、義務の不履行を自認するものであって、株主の権利を否定する理由にはなりません。この場合には、法人税の確定申告書に添付される同族会社等の判定に関する明細書などから株主の構成を推認していくことになります。
おわりに
少数株主の方が置かれている状況は、多くの場合、御自身に落ち度があって生じたものではありません。会社の側が情報を渡さず、判断の場を与えないために身動きが取れなくなっているというのが実情です。会社法は、そのような状況を想定して、株主の側から状況を動かすための手続を用意しております。用意されている手続を、期限内に、正しい形式で用いること。それだけで、会社の対応は変わります。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
少数株主の権利行使に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
法令
会社法第125条第1項から第3項まで(株主名簿の備置き及び閲覧等)、第133条(株主名簿記載事項の記載等の請求)、第139条第2項(譲渡等の承認の決定等)、第144条第2項及び第5項(売買価格の決定)、第145条第1号(承認をしたとみなされる場合)、第297条第1項、第2項及び第4項(株主による招集の請求)、第303条(株主提案権)、第433条第1項及び第2項(会計帳簿の閲覧等の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)、第461条第1項(配当等の制限)、第831条第1項(決議の取消しの訴え)、第847条第1項から第3項まで(責任追及等の訴え)
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