非上場株式の売却を弁護士に依頼するとき 少数株主が任せられる手続と、依頼の前に確認する事項
会社から株式の買取りを断られ、あるいは提示された価格に納得できないまま、どこへ相談すればよいのか分からずにお過ごしの少数株主の方からの御相談が増えております。非上場株式は市場で売ることができませんので、相手方は会社又は支配株主のいずれかに限られます。交渉の相手が限られているという一点だけで、少数株主の立場は構造的に不利になります。
本ページは、非上場株式・少数株式の売却を弁護士に依頼することを検討しておられる少数株主の方に向けて、弁護士に何を任せることができるのか、任せた場合に何が変わるのか、そして依頼の前に確認していただきたい事項を整理したものです。
結論から申し上げます。少数株主の側で用いる手続には、20日、2週間、3か月という短い期限が定められたものが複数あります。期限を過ぎますと、その手続はもう使えません。弁護士に依頼するかどうかを迷っておられる時間そのものが、選択肢を減らしてまいります。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
弁護士への依頼という同じ主題であっても、判断の分かれ目となる論点は場面ごとに異なりますので、次のとおり整理しております。
- 弁護士に任せられる手続の全体像と、依頼の前に確認する事項……本記事
- 御自身で交渉なさる場合との具体的な違い……少数株主が自分で会社と交渉する場合と弁護士に依頼する場合の違い
- 着手金及び報酬金の考え方……少数株式の売却で弁護士費用はどのように考えるか
- 相談の際に持参する資料……非上場株式の売却相談で弁護士に持参すべき資料
「弁護士に頼むほどのことなのか」と迷っておられる方へ
御相談をお受けしておりますと、次のようにおっしゃる方が少なくありません。
「まだ争いになっているわけではない」「社長は親族であるから、話し合いで済ませたい」「弁護士を立てると角が立つのではないか」。
いずれも自然な御心情です。もっとも、非上場株式の買取りをめぐる交渉は、当事者の感情の問題である前に、制度の問題です。会社が買い取る義務を負う場面と負わない場面とは会社法により定まっており、価格を裁判所に決めてもらうことができる場面とできない場面も、同じく会社法により定まっております。どれだけ丁寧にお願いをしても、制度上の手順を踏んでいなければ、会社は応じる必要がありません。
逆に申し上げれば、手順さえ踏めば、会社は応じざるを得なくなります。弁護士に依頼するということは、会社に対して「応じなければならない状態」を作り出すということです。
弁護士に依頼すると、何が変わるのか
変わるのは、次の4点です。
第1 交渉が「お願い」から「手続」に変わります
株主が会社に対して「買い取ってほしい」と述べるだけでは、会社に応答の義務は生じません。これに対し、譲渡制限株式について株式譲渡承認請求を行い、あわせて会社又は指定買取人による買取りの請求を行った場合には、会社は2週間以内に承認又は不承認を通知しなければならず、通知をしないときは承認をしたものとみなされます(会社法第139条第2項、第145条第1号)。
すなわち、沈黙が会社にとって不利に働く状態が作り出されます。これが手続を用いるということの意味です。
第2 価格を裁判所に決めてもらう道が開かれます
会社が不承認とし、会社又は指定買取人が買い取る旨の通知をした場合には、売買価格は当事者の協議により定めます。協議が調わないときは、当該通知があった日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項、第7項)。
この申立てがされないまま20日を経過しますと、売買価格は1株当たり純資産額に株式数を乗じて得た額とされます(会社法第144条第5項)。会社の資産構成によっては、これが株主にとって著しく不利益な結果となる場合があります。
第3 会社が持っている資料を取り寄せることができます
価格の交渉は、決算書類がなければ始まりません。総株主の議決権の100分の3以上又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上を有する株主は、会社の営業時間内はいつでも、理由を明らかにして会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。
会社が正当な理由なくこれを拒む場合には、閲覧謄写の仮処分を申し立てる方法があります。実務上、仮処分の申立てを受けた段階で会社が任意に開示に応じる例も少なくありません。
第4 会社の側の担当者が交代します
株主本人からの連絡は、社長又は総務の担当者が受け止めます。弁護士からの通知は、会社の顧問弁護士が受け止めます。専門家同士のやり取りになりますと、感情的な応酬が減り、争点が価格と手続に絞られてまいります。これは、親族間の紛争において特に大きな意味を持ちます。
少数株主の側で弁護士が用いる手続の全体像
非上場株式・少数株式の問題において、少数株主の側が用いる手続は、おおむね次のとおりです。
| 場面 | 用いる手続 | 根拠条文 | 期限 |
|---|---|---|---|
| 株式を売却したい | 株式譲渡承認請求及び買取請求 | 会社法第136条、第138条 | なし |
| 価格に納得できない | 売買価格の決定の申立て | 会社法第144条第2項、第7項 | 通知の日から20日以内 |
| 決算書類を見せてもらえない | 会計帳簿の閲覧謄写の請求及び仮処分 | 会社法第433条第1項 | なし |
| 株主総会を開いてもらえない | 株主総会の招集の請求及び裁判所の許可 | 会社法第297条第1項、第4項 | 請求の日から8週間以内の期日 |
| 総会の決議に手続の瑕疵がある | 株主総会決議取消しの訴え | 会社法第831条第1項 | 決議の日から3か月以内 |
| 役員が会社に損害を与えている | 責任追及等の訴え(株主代表訴訟) | 会社法第847条第1項、第3項 | 提訴の請求から60日 |
| 株主であることを否定された | 株主名簿の名義書換請求、株主の地位の確認の訴え | 会社法第133条 | なし |
弁護士に依頼するということは、これらの手続のうち、その方の置かれた状況において最も効き目のあるものを選び、順序を決めて実行するということです。手続の選択と順序を誤りますと、後の手続が使えなくなる場合があります。
期限のある手続 20日を過ぎると失われるもの
最も注意を要するのが、売買価格の決定の申立ての期限です。
設例で申し上げます。会社が株式譲渡承認請求を不承認とし、会社自らが買い取る旨の通知を令和8年11月4日に発した場合、売買価格の決定の申立てをすることができる期間は、令和8年11月4日から起算して20日以内、すなわち令和8年11月24日までです。この日を1日でも過ぎますと、売買価格は1株当たり純資産額を基礎として定まってしまい、裁判所に価格を決めてもらうことはできなくなります。
20日という期間の中で、株主は、会社の提示額の当否を検討し、必要であれば株式価値の評価を専門家に依頼し、協議が調わないと判断したうえで、申立書を作成して裁判所に提出しなければなりません。実務上、通知を受け取ってから弁護士を探し始めたのでは間に合わない場合があります。会社に対して株式譲渡承認請求を行う段階で、あらかじめ相談を済ませておくことをお勧めしております。
また、株主総会の決議に招集の手続又は決議の方法の法令若しくは定款への違反がある場合の決議取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。この期間は不変期間であり、経過すれば主張することができなくなります。
会社の側の事情 なぜ会社は少数株主に対して強く出てくるのか
読み手の方が最も知りたいのは、「なぜ会社はここまで頑なな態度をとるのか」という点であろうと存じます。会社の側には、次の事情があります。
第1に、買取代金は会社の資金から支払われるからです。自己株式の取得は、分配可能額の範囲内でしか行うことができません(会社法第461条第1項第2号、第3号)。会社に十分な分配可能額がなければ、そもそも会社は買い取ることができません。会社が「買い取れない」と述べる場合、それが交渉上の駆け引きなのか、財源規制による法律上の制約なのかを見極める必要があります。
第2に、1人の株主に対して価格を認めますと、他の株主にも波及するからです。同族会社では、同じ立場の株主が複数存在することが通例です。会社としては、最初の1人に対して高い価格を認めることを避けたいと考えます。だからこそ、最初の1人に対して最も強く出てまいります。
第3に、株主が手続を知らないことを前提としているからです。期限のある手続を株主が知らなければ、会社は待っているだけで足ります。弁護士が就いた時点で、この前提は崩れます。
株式買取業者に売ることと、弁護士に依頼することの違い
非上場株式を買い取ると称する業者から、直接に打診を受けておられる方もいらっしゃいます。この点については、法律上の整理を申し上げておく必要があります。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で、訴訟事件その他一般の法律事件に関して、鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができません(弁護士法第72条)。また、何人も、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によってその権利の実行をすることを業とすることができません(弁護士法第73条)。
株式を買い取ったうえで会社に対して価格の交渉や訴訟を行うという業務の形態は、これらの規定との関係が問題となり得ます。実際に、株式買取業者への株式の譲渡が弁護士法違反により無効であると判断された裁判例が存在します。詳細は、株式買取業者への株式売却を弁護士法違反(非弁行為)で無効とした裁判例が2件出ましたを御覧ください。
実務上の相違点は、次のとおりです。
| 項目 | 株式買取業者へ売却する場合 | 弁護士に依頼する場合 |
|---|---|---|
| 株式の帰属 | 業者へ移転します | 株主のもとに残ります |
| 受け取る金額 | 業者の提示額で確定します | 交渉又は裁判所の決定による価格 |
| その後の関与 | 業者と会社との紛争に巻き込まれる場合があります | 株主の意向により方針を決めます |
| 法律上の問題 | 弁護士法第72条及び第73条との関係が問題となり得ます | 生じません |
背景 株式の評価の考え方が見直されつつあります
国税庁は、令和8年(2026年)4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年(1964年)に公表された財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しております。
第1回会議(令和8年4月20日)の資料においては、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の中央値の26パーセントから27パーセント程度にとどまること、類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満である会社が77.6パーセントを占めること、評価対象会社の82.4パーセントが直前2期に配当をまったく支払っていないことが示されております。第5回会議(令和8年8月20日)においては、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社の規模による区分を廃止してインカムアプローチによる評価を主軸とすべきとの方向性が示されております。
もっとも、内容も時期も確定したものではありません。今後の議論により変更される可能性がありますので、確定した制度として取り扱うことはできません。
あわせて申し上げておかなければならないのは、税法上の評価と、会社法上の「公正な価格」又は「売買価格」とは、目的も算定方法も異なるという点です。財産評価基本通達は行政庁の内部の取扱いを定めたものであって、裁判所を拘束するものではありません(国家行政組織法第14条第2項)。会社から「相続税評価額はこの金額であるから、これが株式の価格である」と説明を受けた場合には、その説明は法律上の根拠を欠いております。
依頼の前に確認していただきたい事項
第1 その弁護士が非上場株式の価格の争いを扱った経験があるか
会社法の分野は広く、非上場株式の価格をめぐる争いは、その中でも特殊な領域です。株式価値の評価の方法、鑑定人の意見に対する反論の組み立て、非流動性による減価の主張への対応など、経験の蓄積がなければ対応が難しい論点が続きます。相談の際に、これまでに扱った事件の類型を尋ねていただいて差し支えありません。
第2 費用の考え方が説明されているか
着手金、報酬金、実費(申立ての手数料、鑑定の費用等)の区別と、それぞれの算定の基礎が説明されているかを御確認ください。とりわけ、裁判所が鑑定を実施する場合の鑑定費用は、事案により相当額に上ることがあります。誰がいつ負担するのかを、着手の前に確認しておく必要があります。費用の考え方については、少数株式の売却で弁護士費用はどのように考えるかに整理しております。
第3 会社との関係をどこまで維持したいかを伝えているか
親族が経営する会社の株式である場合、「金銭は受け取りたいが、親族との関係は壊したくない」という御意向をお持ちの方が多くいらっしゃいます。この点は、手続の選択に直接影響いたします。訴訟を提起するのか、まず任意の交渉から始めるのか、方針は御意向を踏まえて決めます。遠慮なく最初にお伝えください。
第4 当事務所の初回の相談は有料です
当事務所における非上場株式・少数株式に関する初回の相談は、原則として有料の弁護士相談として承っております。相談の場では、お持ちいただいた資料に基づいて、採り得る手続、想定される期間、費用の見込みを具体的に申し上げます。
いま確認していただきたいこと
本日のうちにお手元で確認していただける事項を挙げます。
1 会社の履歴事項全部証明書を取得してください。発行済株式の総数、株式の譲渡制限に関する定め、役員の構成が分かります。
2 御自身が保有する株式の数と、取得の経緯(相続、贈与、出資、従業員持株会からの取得等)を確認してください。
3 会社から書面を受け取っておられる場合は、その書面が届いた日付を確認してください。期限の起算点になります。封筒も保管してください。
4 過去の配当金の受領の記録(通帳の記載、支払通知書)を探してください。株主であることの有力な証拠となります。
5 会社に対する連絡は、口頭ではなく書面で行い、控えを残してください。会社からの回答も、書面で受け取ってください。
よくあるご質問
会社と争うつもりはないのですが、弁護士に依頼してもよいのでしょうか。
差し支えありません。弁護士に依頼することは、訴訟を提起することを意味しません。実際には、任意の交渉により解決に至る事案が相当数あります。弁護士が関与することで、かえって交渉が整理され、短期間で解決する例も少なくありません。
株式の数が少ないのですが、それでも依頼する意味はありますか。
株式の数の多寡は、権利の行使ができるかどうかとは別の問題です。会計帳簿の閲覧謄写の請求のように議決権の100分の3以上を要する権利もありますが、株式譲渡承認請求及び売買価格の決定の申立ては、1株でも行うことができます。もっとも、費用と回収の見込みとの均衡は検討する必要がありますので、相談の場で率直に申し上げます。
会社から「株主ではない」と言われております。
株主名簿に記載がないことを理由として株主性を否定される事案は、実際に多く発生しております。この場合、まず株主であることを認めさせる手順から始めることになります。詳細は、会社から「あなたは株主ではない」と言われたとき 株主であることを認めさせる手順と集めるべき証拠を御覧ください。
解決までにどのくらいの期間がかかりますか。
任意の交渉により解決する場合と、売買価格の決定の申立てを経る場合とで大きく異なります。裁判所が鑑定を実施する場合には、相応の期間を要します。見込みは事案により異なりますので、相談の場で具体的に申し上げます。
他の弁護士に相談したうえで依頼先を決めても構いませんか。
差し支えありません。むしろ、扱った事件の類型と費用の考え方を複数の事務所で確認なさることをお勧めいたします。
おわりに
非上場株式の問題は、外から見えにくく、御相談者が孤立しやすい分野です。会社の中の情報は会社が握っており、株主の手元には株券も決算書もないということが珍しくありません。
もっとも、会社法は、そのような状態に置かれた株主のために、資料を取り寄せる手続と、価格を裁判所に決めてもらう手続とを用意しております。使える手続があるにもかかわらず、期限を過ぎたために使えなくなるということが、最も避けなければならない事態です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
非上場株式・少数株式の売却に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
法令
会社法第133条(株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録)、第136条(株主からの承認の請求)、第138条(譲渡等承認請求の方法)、第139条第2項(譲渡等の承認の決定等)、第141条(株式会社による買取りの通知)、第142条(指定買取人による買取りの通知)、第144条第2項、第5項及び第7項(売買価格の決定)、第145条第1号(株式会社が承認をしたとみなされる場合)、第297条第1項及び第4項(株主による招集の請求)、第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)、第461条第1項第2号及び第3号(配当等の制限)、第831条第1項(株主総会等の決議の取消しの訴え)、第847条第1項及び第3項(責任追及等の訴え)
弁護士法第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)、第73条(譲り受けた権利の実行を業とすることの禁止)
国家行政組織法第14条第2項(訓令及び通達)
公表資料
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
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