非上場株式の公正な価格を弁護士に依頼して争うとき 適正価格の考え方と会社提示額の検証
非上場会社の少数株主の方が、会社から株式の買取価格として1株当たりの金額を示され、その数字が正しいのかどうかを判断できないまま返答を迫られている、という御相談をいただきます。示された金額の根拠として「顧問税理士に計算させた」とだけ説明され、計算の過程は開示されないことが少なくありません。本ページは、そのような立場に置かれた少数株主の方が、会社が示した金額の当否を弁護士に依頼して争う場面に限り、適正な価格をどのように考え、会社の提示額をどの順序で検証していくのかを整理したものです。
非上場株式には市場価格がありません。したがって、価格は「計算して求めるもの」であり、どの方式を用い、どの数字を前提とするかによって、同じ会社の同じ株式であっても金額は大きく変わります。会社が示した金額は、いくつもある答えのうちの一つ、それも会社にとって都合のよい前提を積み上げた一つにすぎません。
そして、争う場合には期限があります。譲渡制限株式について会社が買い取る旨を通知してきた場合、裁判所に価格を決めてもらう申立ての期限は、その通知があった日から20日です(会社法第144条第2項)。金額の当否を検討している間に、その期限が過ぎてしまうことがあります。検証と期限の管理は、同時に進めなければなりません。
本記事が扱う場面と、扱わない場面
価格の話は、算定の理論を知る場面と、目の前の金額を争う場面とで、必要になるものが異なりますので、次のとおり整理しております。
- 会社が示した金額の当否を弁護士に依頼して争う場面……本記事
- 裁判所が用いる算定方法そのものを知りたい場面……裁判所における非上場株式の価格算定方法|評価のポイントを弁護士が解説
- 裁判所への申立ての段取りと費用を知りたい場面……株式売買価格決定申立を弁護士に依頼するとき 20日の期限、鑑定の進み方及び費用の負担
- まだ譲渡の承認を求める段階にいる場面……株式譲渡承認請求を弁護士に依頼するとき 譲渡制限株式を売却するための手順と2週間の期限
会社が示した金額は、どこから出てきた数字なのか
「税理士に計算してもらった」という説明の意味
会社が提示額の根拠として税理士による計算を挙げる場合、その多くは、相続税及び贈与税の課税のために用いられる財産評価基本通達に基づく評価です。この通達は、税務署が課税価格を算定するための行政庁内部の取扱いを定めたものであって、株式の売買価格を定めるために作られたものではありません。
税法上の評価と、会社法上の価格とは目的が異なります
税法上の評価は、課税の公平と大量の事案を一律に処理する必要から、簡便な計算式によって算出されます。これに対して会社法上の「公正な価格」や「売買価格」は、当事者間の利害を調整し、株主が投下した資本を回収できるようにするための金額です。目的が異なる以上、同じ数字になる理由はありません。
通達は裁判所を拘束しません
行政庁が発する通達は、その行政組織の内部において下級の機関を拘束するものにとどまります(国家行政組織法第14条第2項)。裁判所は通達に拘束されず、請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して価格を定めます(会社法第144条第3項)。「通達どおりに計算した金額だから正しい」という説明は、法律上の根拠を持ちません。
「公正な価格」と「売買価格」は、同じ言葉ではありません
反対株主の株式買取請求における「公正な価格」
組織再編や定款の変更などに反対する株主が株式買取請求をする場合、会社が支払うべき金額は「公正な価格」と定められております。協議が調わないときは、裁判所が価格を決定します(会社法第117条第2項、第182条の5第2項、第470条第2項)。株主が自らの意思によらずに会社との関係を絶たれる場面ですので、その点が評価にも反映されます。
譲渡制限株式における「売買価格」
譲渡制限株式について会社又は指定買取人が買い取る場合の金額は「売買価格」と定められており、協議が調わないときは裁判所が定めます(会社法第144条第1項、第2項、第7項)。こちらは、株主の側から売却を求めたことが出発点になっている点で、前者と性質が異なります。
どちらの土俵にいるかで、主張の組立てが変わります
同じ「1株いくらか」という問題であっても、根拠となる条文が違えば、考慮される要素も、期限も異なります。御相談の際に弁護士がまず確認するのは、お手元の書面がどちらの場面のものかということです。ここを取り違えたまま議論を進めることが、最も避けなければならない事態です。
評価の方式には、どのようなものがあるのか
方式ごとに、見ているものが違います
| 方式 | 何を基礎とするか | 争いになりやすい点 |
| 純資産方式 | 貸借対照表の資産と負債 | 簿価か時価か、含み損益の扱い |
| 収益還元方式 | 平準化した将来の利益 | 基礎とする利益の額、還元率 |
| ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式 | 将来の資金の流れの現在価値 | 事業計画の合理性、割引率 |
| 配当還元方式 | 現実に支払われた配当の額 | 配当が抑えられている場合の適否 |
| 類似会社比準方式 | 上場している同業他社の指標 | 比較する会社の選び方 |
純資産方式は、資産の中身を見なければ意味がありません
純資産方式は分かりやすい方式ですが、簿価をそのまま用いるか、時価に引き直すかで金額が大きく変わります。長く保有している土地、含み益のある有価証券、解約返戻金のある保険契約は、簿価と実勢との差が大きくなりがちです。会社が簿価純資産のみを根拠として低い金額を示している場合、まずここを検証します。
収益還元方式とディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式
いずれも、会社が将来生み出す利益や資金の流れを基礎とする方式です。過去の利益が役員報酬によって圧縮されている場合、その圧縮された数字をそのまま基礎にすれば、金額は低く出ます。適正な水準を超える役員報酬は、利益に戻して考えるべきかどうかが争点になります。
配当還元方式と類似会社比準方式
配当還元方式は、現実に支払われた配当を基礎とします。配当が支払われていない会社に機械的に当てはめれば、金額は極めて小さくなります。類似会社比準方式は、上場している同業他社の指標を用いるものですが、どの会社を比較の対象に選ぶかによって結果が動きます。
市場性がないことによる減価は、どこまで認められるのか
収益還元法による場合について、最高裁の判断があります
最高裁判所平成27年3月26日決定は、吸収合併に反対する株主の株式買取請求に係る「公正な価格」の算定について、収益還元法は市場における取引価格との比較という要素を含まないものであるから、収益還元法によって算定された株式の価格について、非流動性による減価を行うことはできない、と判示しております。
譲渡制限株式の売買価格については、別の判断が示されています
最高裁判所令和5年5月24日決定は、会社法第144条第2項に基づく譲渡制限株式の売買価格の決定について、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法によって算定された評価額から非流動性による減価を行うことができる場合があるとしました。もっとも、評価額の算定の過程で市場性がないことが既に考慮されている場合には、二重に減価することになりますので、これを行うことはできません。
減価の当否は、算定の中身に立ち入って検証します
会社の側は、少数株主の株式であることを理由に、大幅な減価を主張してくることがあります。これに対しては、どの方式で算定したのか、その方式の中で市場性の欠如が既に織り込まれていないか、減価率の根拠は何かを一つずつ確認していきます。減価の割合は結論を大きく左右しますので、ここを曖昧にしたまま合意してはなりません。
会社が示した金額を、どの順序で検証するのか
第一に、算定の過程を開示させます
提示額だけを示して計算の過程を明かさない場合、まずその開示を求めます。どの方式を用い、どの事業年度の数字を基礎とし、どのような調整を加えたのかが分からなければ、反論のしようがありません。開示を拒む場合には、会計帳簿の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)や計算書類等の閲覧の請求(同法第442条第3項)を用います。
第二に、貸借対照表の資産を実勢に置き換えます
土地については取得の時期と所在、有価証券については銘柄と数量、保険契約については解約返戻金の額を確認します。ゴルフ会員権、機械設備、営業権の扱いも検討します。反対に、回収の見込みのない売掛金や、実体のない資産が計上されていることもあります。
第三に、損益計算書から、経営者側に配分された分を戻します
役員報酬、役員退職慰労金、役員に対する貸付け、役員の親族が所有する不動産の賃借料、経営者が支配する別の会社との取引を確認します。これらが同業の水準を大きく超えている場合、その超過分は本来の利益であったと主張することが考えられます。
第四に、将来の計画の前提を確認します
ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー方式が用いられている場合、事業計画の数字が過度に保守的でないかを検証します。金融機関に提出した計画と、評価のために作成された計画とで数字が異なっていることもあります。両者を突き合わせることが有効です。
なぜ会社は、配当還元方式や低い金額を持ち出すのか
金額が最も低く出る方式だからです
会社が支払う金額は、そのまま会社又は経営者側の負担になります。複数の方式のうち最も低い金額が出るものを選ぶことは、交渉の相手方として自然な行動です。少数株主の方に有利な方式を会社が自ら選ぶことは、まずありません。
配当をしていない会社では、特に低くなるからです
同族会社では、利益が配当ではなく役員報酬の形で経営者側に配分されていることが多く、配当がまったく行われていない会社も珍しくありません。配当還元方式は現実に支払われた配当を基礎としますので、配当がなければ、株式の価値はほとんど無いという結論に近づきます。配当を支払わないという判断をしてきたのは経営を担う側であり、その結果を株式の評価に反映させることが公平かどうかが、まさに争点です。
「少数株主には支配権がない」という説明がしやすいからです
議決権が少なく会社の意思決定に関与できない以上、その株式の価値は低いという説明は、一見もっともらしく聞こえます。しかし、株式を買い取るのは会社又は経営者側であり、買い取った後は支配権と一体になります。少数であることによる減価をどこまで認めるかは、法律上の評価の問題であって、会社が一方的に決められるものではありません。
この構造は、公的な場でも数値として示されています
国税庁は、令和8年4月20日から「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」を開催し、昭和39年に公表された財産評価基本通達の抜本的な見直しを検討しております。第1回の資料では、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の26パーセントから27パーセント程度であり、類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満である会社が77.6パーセントを占め、評価対象会社の82.4パーセントは直前2期に配当をまったく支払っていないとされております。第5回では、類似業種比準方式を存置することは困難ではないかとされ、会社規模による区分を廃止してインカムアプローチによる評価を主軸とすべきとの方向性が示されております。もっとも、これらは検討の途上にあるものであって、内容も時期も確定したものではありません。また、税法上の評価と会社法上の価格とは目的も算定方法も異なりますので、そのまま持ち込めるものでもありません。
弁護士に依頼した場合に、何がどう変わるのか
資料を出させる手段があります
検証は資料がなければ始まりません。会計帳簿の閲覧謄写の請求、計算書類等の閲覧の請求、裁判所への申立て後の会計帳簿の提出命令(会社法第434条)といった手段を組み合わせて、必要な資料を確保します。個人で申し入れても応じなかった会社が、代理人からの書面には応じることがあります。
評価の専門家と組み立てます
算定そのものは公認会計士等の専門家の領域です。弁護士の役割は、どの方式を主張するか、どの調整を求めるか、どの資料を証拠として出すかという全体の設計と、法律上の主張の構成にあります。この二つが噛み合って初めて、金額が動きます。
期限を管理します
検証には時間がかかりますが、期限は待ってくれません。令和8年10月1日に会社法第141条第1項の買取りの通知が届いた場合、価格の決定の申立ての期限は令和8年10月21日です。また、株主総会の決議そのものに瑕疵がある場合の決議の取消しの訴えは、決議の日から3か月以内に提起しなければなりません(会社法第831条第1項)。令和8年6月26日の決議であれば、令和8年9月26日が期限です。
費用の考え方
増額が見込まれる幅と、要する期間、鑑定費用の負担の見込みを踏まえて設計します。金額の差が小さい場合には、争わずに合意する方が有利になることもあります。この見極めを最初に申し上げることも、弁護士の役割です。
いま確認していただきたいこと
本日のうちに、次のことを確認してください。
- 会社から示された金額と、その提示の日付を書き出してください。期限の起算点になります。
- 算定の過程が書かれた書面があるかを確認してください。なければ、その開示を求めることが最初の一手です。
- 直近3期分の決算書類を手元に集めてください。貸借対照表と損益計算書、勘定科目内訳明細書があれば、おおよその見当がつきます。
- 会社が所有する不動産の所在を確認してください。登記事項証明書は誰でも取得できます。
- 配当の有無と、役員報酬の水準について分かる範囲を整理してください。提示額を崩す最大の材料になります。
よくあるご質問
会社が示した金額は、相続税の評価額とほぼ同じです。適正といえますか。
相続税の課税のための評価額と、会社法上の売買価格や公正な価格とは、目的も算定方法も異なります。通達は行政庁内部の取扱いを定めたものであり、裁判所を拘束するものではありません(国家行政組織法第14条第2項)。相続税の評価額と同じであることは、適正であることの根拠にはなりません。
争えば、必ず金額は上がりますか。
必ず上がると申し上げることはできません。会社の財務内容によっては、提示額が相応の水準にあることもあります。だからこそ、争う前に資料を検証し、増額の見込みと費用とを比べる作業が必要になります。当事務所では、この見通しを最初に申し上げております。
少数株主であることを理由に、大幅に減額されると言われました。
市場性がないことによる減価をどこまで認めるかについては、最高裁判所の判断が示されており、用いた算定方式によって扱いが異なります。会社の主張をそのまま受け入れる必要はありません。どの方式で算定されたのかを確認するところから始めます。
評価のために、こちらで会計士に依頼する必要がありますか。
裁判所に申立てをした場合には、裁判所が選任した鑑定人による鑑定が行われることがあります。これとは別に、交渉の段階で株主の側が独自に試算をしておくことは有効です。どの段階でどこまで費用をかけるかは、事案の規模に応じて判断いたします。
おわりに
示された1株当たりの金額には、必ず前提があります。どの方式を選んだのか、どの数字を基礎としたのか、どのような減価を加えたのか。その前提を一つずつ確かめれば、金額が動く余地があるかどうかは見えてまいります。
会社の側は、前提を明かさないまま返答を求めてくることがあります。しかし、根拠の示されない金額に応じる義務はありません。お手元の書面と決算書類を拝見できれば、どこに争う余地があるかを具体的に申し上げることができます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
非上場株式の公正な価格に関する御相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜・日曜・祝日を含みます)
出典
- 会社法第117条第2項(反対株主の株式買取請求に係る価格の決定)
- 会社法第144条第1項、第2項、第3項、第7項(売買価格の決定及び考慮事情)
- 会社法第182条の5第2項(株式の併合に係る価格の決定)
- 会社法第433条第1項(会計帳簿の閲覧等の請求)
- 会社法第434条(会計帳簿の提出命令)
- 会社法第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
- 会社法第470条第2項(事業譲渡等に係る株式の価格の決定)
- 会社法第831条第1項(株主総会等の決議の取消しの訴え、3か月)
- 会社法第141条第1項(株式会社による買取りの通知)
- 国家行政組織法第14条第2項(訓令及び通達)
- 最高裁判所平成27年3月26日決定(収益還元法による価格からの非流動性による減価の可否)
- 最高裁判所令和5年5月24日決定(会社法第144条第2項に基づく売買価格と非流動性による減価)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
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