会社法上の株式買取請求権と任意の買取交渉は別物

いずれも「公正な価格で買い取ることを請求することができる」と定められており、会社にはこれに応ずる義務が生じます。単元未満株式の買取請求のみは、会社の行為を前提とせず、いつでも行使することができますが、対象は単元未満の端数の株式に限られますので、少数株主が保有する株式全体の現金化の手段とはなりません。

第2節 行使の手続と価格の決定

株式買取請求は、期間内に、買取りを請求する株式の数を明らかにして行います。株主総会において決議される事項については、その株主総会に先立って当該行為に反対する旨を会社に対し通知し、かつ、株主総会において反対することが要件とされております。

表2 行使から価格の確定までの流れ

段階 内容
1 会社が行為をする旨の通知又は公告を行います
2 株主が反対の意思を通知し、株主総会で反対いたします
3 法定の期間内に株式買取請求を行います
4 価格について会社と協議いたします
5 協議が調わないときは裁判所に価格の決定の申立てをいたします
6 裁判所が価格を決定いたします

価格の決定の申立てについては、効力発生日から30日以内に協議が調わないときは、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対して申立てをすることができるものとされております(会社法第117条第2項、第470条第2項、第786条第2項、第798条第2項、第807条第2項)。前節で述べた「20日」は買取請求そのものの行使期間であり、価格の決定の申立ての期間とは異なります。この二つの期間を混同しないことが重要です。

また、株式買取請求をした株主は、会社の承諾を得た場合に限り、その請求を撤回することができるものとされております(会社法第116条第7項等)。いったん請求をした後は、株主の側から一方的に取り下げることができません。

なお、会社が株式買取請求に応じて株式を取得する場合において、支払われた金銭の額が分配可能額を超えるときは、業務執行者の責任が定められております(会社法第464条)。会社の財務状況は、この場面においても関係いたします。

第3節 平常時に一般的な買取請求権はない

以上のとおり、会社法上の株式買取請求権は、会社が特定の行為をしようとする場面に結び付いた制度です。会社が合併も事業譲渡も定款変更も行っていない平常の状態において、株主が「保有する株式を買い取ってほしい」と会社に請求することのできる一般的な規定は、会社法に置かれておりません。

株主は原則としてその有する株式を自由に譲渡することができますが(会社法第127条)、これは買主を見つけて売却する道が開かれているという意味であり、会社が買主となることを義務付ける趣旨ではありません。非上場会社の多くは、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定款で定めておりますので(会社法第107条第1項第1号、第108条第1項第4号)、事実上、自由に買主を見つけることも容易ではありません。

したがいまして、会社が「買い取る義務はない」と回答すること自体は、法律論として誤っているわけではありません。もっとも、義務がないということと、任意に買い取ることができないということとは、別の事柄です。この点が、次に述べる任意の買取交渉の位置付けにつながります。

第4節 譲渡承認請求に伴う買取請求は、また別の制度

さらに区別を要するのが、譲渡制限株式についての株式譲渡承認請求に伴う買取りの請求です。これは、反対株主の株式買取請求権とは別の制度です。

譲渡制限株式を譲り渡そうとする株主は、会社に対し、譲渡を承認するか否かの決定をすることを請求することができます(会社法第136条)。この請求に際して、会社が承認をしない旨の決定をする場合には会社又は指定買取人が当該株式を買い取ることを請求する旨を明らかにしておくことができます(会社法第138条第1号ハ)。会社が承認をしない旨の決定をし、かつこの請求が付されていたときは、会社は対象株式を買い取らなければならず、又は指定買取人を指定することとなります(会社法第140条)。

この制度は、会社の行為を前提とせず、株主の側から手続を開始することができる点に特徴があります。もっとも、譲受人を明らかにして請求することが前提となり、また、買取りの通知があった日から20日以内に売買価格の決定の申立てをしないときは、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(会社法第144条第2項、第5項、第7項)。手続の詳細につきましては、記事「株式譲渡承認請求で会社が不承認とした場合に何が起きるか」に整理しております。

表3 三つの制度の位置付け

制度 開始の契機 相手方 会社の義務
反対株主の株式買取請求権 会社が一定の行為をすること 会社 公正な価格で買い取る義務が生じます
譲渡承認請求に伴う買取請求 株主が譲渡承認請求をすること 会社又は指定買取人 承認をしない場合に買い取る義務が生じます
任意の買取交渉 当事者の申入れ 会社、大株主、第三者 義務はありません

第5節 任意の買取交渉の法的な性質

任意の買取交渉は、法律上の権利の行使ではなく、契約の締結に向けた交渉です。したがいまして、相手方には応ずる義務がなく、価格も当事者の合意によって定まります。

もっとも、会社が任意に自己の株式を取得することは、会社法上正面から認められた行為です。株式会社は、株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得することができ(会社法第155条第3号、第156条第1項)、その場合には株主総会の決議によって取得する株式の数、対価の内容及びその総額、取得することができる期間を定めます。特定の株主から取得する場合には、この決議は特別決議によらなければならず(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)、原則として、他の株主は自己をも売主に加えることを請求することができます(会社法第160条第2項、第3項)。ただし、定款でこれを排除することができ(会社法第164条第1項)、公開会社でない会社が一般承継により株式を取得した者からその株式を取得する場合には、原則としてこの請求は適用されません(会社法第162条)。

また、自己株式の取得は株主に対する会社財産の払戻しに当たりますので、対価の総額は分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第3号)。

表4 法律上の買取請求権と任意の買取交渉の比較

項目 会社法上の株式買取請求権 任意の買取交渉
法的性質 形成権としての法律上の権利 契約の締結に向けた交渉
発生の前提 会社が一定の行為をすること 前提はありません
相手方 会社 会社、大株主、第三者
相手方の義務 買い取る義務が生じます 義務はありません
期間の制限 短期の法定期間があります 制限はありません
価格 公正な価格。協議が調わなければ裁判所が決定いたします 当事者の合意によります
撤回 会社の承諾を要します 合意の成立まで自由です
対象株式 請求に係る株式 数量も交渉の対象となります

任意の交渉には期間の制限がなく、対象とする株式数や支払の時期についても柔軟に取り決めることができます。会社の資金繰りに配慮した分割払を含む合意が成立することもあります。他方で、相手方が応じなければ何も生じません。この性質の違いを踏まえて、いずれの道を進むかを検討することとなります。

第6節 誤解が生じやすい場面

表5 よく見られる誤解と正確な理解

よく見られる説明 正確な理解
株主にはいつでも買取りを請求する権利がある 平常時に一般的な買取請求権はありません
会社には株式を買い取る義務がある 法定の場面を除き、義務はありません
株主総会で反対すれば買い取ってもらえる 会社が法定の行為をする場合に限られ、期間の制限もあります
買取請求をすれば裁判所が高い価格を決める 裁判所は公正な価格を決定するものであり、結論は事案によります
買取請求はいつでも取り下げられる 会社の承諾を要します

株式買取業者から「会社には買取義務がある」といった説明を受けたという例も見受けられます。買手である業者と株主本人とでは立場が異なります。買手は取得価額が低いほど利益が大きくなる立場にあり、株主本人の代理人ではありません。大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。業者一般が違法であるという趣旨ではありませんが、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるということです。

第7節 弁護士に相談する意味

いずれの制度によるべきかは、会社の状況によって異なります。会社が組織再編や定款変更を予定している場合には、法定の買取請求権の要件と期間を確認する必要があります。会社が何も行っていない場合には、任意の交渉、又は譲渡制限株式についての株式譲渡承認請求という受け皿を検討することとなります。

弁護士は、株主本人の代理人として、まず現在の会社の状況に照らして採り得る手段を整理し、株主に認められた情報取得の手段(会社法第442条第3項、第433条第1項等)を用いて資料の範囲を確保したうえで、協議及び必要に応じた裁判手続を行います。なお、当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。

よくあるご質問

質問1 会社から株主総会の招集通知が届き、合併の議案が記載されていました。

組織再編に反対する株主には株式買取請求権が認められる場合があります(会社法第785条、第797条、第806条等)。株主総会に先立って反対の意思を通知し、株主総会で反対したうえで、法定の期間内に請求を行う必要があります。期間は極めて短いものですので、通知を受領された段階でご相談ください。

質問2 定款変更で譲渡制限が設けられると聞きました。

一定の定款の変更については、反対株主に株式買取請求権が認められております(会社法第116条第1項)。行使期間は効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までです(同条第5項)。会社からの通知又は公告の内容と日付を確認する必要があります。

質問3 単元未満株式の買取請求はいつでもできると聞きました。

単元未満株主は、会社に対し、その単元未満株式を買い取ることを請求することができます(会社法第192条第1項)。価格について協議が調わないときは、請求をした日から20日以内に裁判所に売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第193条第2項)。ただし、対象は単元未満の株式に限られます。

質問4 買取請求権がない場合、株式を現金化する方法はありませんか。

任意の買取交渉のほか、譲渡制限株式については株式譲渡承認請求という制度上の受け皿があります(会社法第136条以下)。会社ではなく大株主に買い取ってもらうという方法も検討の対象となります。

質問5 「公正な価格」とはいくらのことですか。

会社法は「公正な価格」と定めておりますが、その具体的な金額は事案ごとの事実関係と資料によって定まります。協議が調わない場合には裁判所が決定いたします。あらかじめ金額が定まっているものではありません。

交渉手法の詳細について

具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。組織再編や定款変更に関する通知を受領された場合には、短い期間の制限がありますので、速やかにご連絡ください。

ご相談の際には、会社から届いた通知書及び招集通知、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、会社とのやり取りの記録をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階

本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文・裁判例

会社法 第107条第1項第1号・第108条第1項第4号(譲渡制限株式)、第116条・第117条(一定の定款変更等に係る反対株主の株式買取請求及び価格の決定)、第127条(株式の譲渡の自由)、第136条・第138条第1号・第140条・第144条(譲渡等承認請求及び売買価格の決定)、第155条第3号・第156条第1項・第160条・第162条・第164条第1項(自己株式の取得)、第182条の4(株式の併合に係る買取請求)、第192条・第193条(単元未満株式の買取請求及び価格の決定)、第309条第2項第2号(特別決議)、第433条第1項・第442条第3項(会計帳簿及び計算書類等の閲覧等)、第461条第1項第3号(分配可能額による財源規制)、第464条(買取請求に応じた取得に係る責任)、第469条・第470条、第785条・第786条、第797条・第798条、第806条・第807条(組織再編等に係る反対株主の株式買取請求及び価格の決定)

弁護士法 第73条

裁判例 大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)

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