株式買取請求権の期限を過ぎても、少数株主に残されている手段 期限の定めのある手続と期限の定めのない手続

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本ページは、株式買取請求権に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
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「期限を過ぎてしまったので、もう何もできない」と言われた方々へ
合併や株式併合の通知が届いていたのに、意味が分からないまま放置してしまった。株主総会の招集通知は受け取ったが、反対の通知を出さなかった。株式買取請求の期限が過ぎてから、はじめて事の重大さに気づいた。
このようなご相談を、数多くお受けしています。そして、多くの方が「期限を過ぎたのだから、もう終わりだ」とお考えになっています。
その前提は、正しくありません。
会社法が定める手続には、厳格な期限が付されているものと、期限の定めがないものとがあります。反対株主の株式買取請求は前者ですが、少数株主が採り得る手段の多くは後者です。本記事では、この2つを分けて整理いたします。
なお、手続に入る前に何を備えておくべきかについては、株式買取請求権を行使できずに終わる失敗の型をご覧ください。本記事は、期限を過ぎてしまった後に何ができるかを扱います。
【令和8年8月20日】非上場株式の評価は、見直しの局面にあります
国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第5回会合において、国税庁は「類似業種比準方式を存置することは困難ではないか」とし、「インカムアプローチによる評価を主軸とすべき」との方向性を示しました(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料・令和8年8月20日)。皆様が「もう価値がない」と諦めておられる株式について、価値の見方が変わろうとしています。なお、内容も時期も確定したものではありません。
数字が示すこと 諦めることの代償は小さくありません
国税庁が第1回有識者会議(令和8年4月20日)に提出した資料によれば、類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の26%から27%程度にとどまり、類似業種比準価額が純資産価額の0.5倍未満である会社は77.6%に及びます。また、評価対象会社の82.4%が直前2期において配当をまったく支払っていません(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料・令和8年4月20日)。
これらの数字は、非上場株式が長年にわたって実態より低く評価されてきたことを、国の側から裏づけるものです。「期限を過ぎたから諦める」という判断が、どれほどの価値を手放すことになるのか。まずはその点をご認識ください。
まず正確に 反対株主の株式買取請求の期限
誤解を避けるため、期限の定めのある手続について、正確に申し上げます。
行使できる場面
反対株主の株式買取請求は、会社が一定の重要な行為をする場合に認められます。事業譲渡等(会社法第469条)、吸収合併等における消滅会社の株主(会社法第785条)、存続会社の株主(会社法第797条)、新設合併等(会社法第806条)、株式併合により端数が生じる場合(会社法第182条の4)、定款変更により株式に譲渡制限を設ける場合等(会社法第116条)です。
総会に先立つ反対の通知と、総会での反対
株主総会の決議を要する場合、株式買取請求ができるのは、当該株主総会に先立って当該行為に反対する旨を会社に通知し、かつ、当該株主総会において反対した株主です。いわば「2回の反対」が必要になります。総会で反対しただけでは足りません。
請求の期間
株式買取請求は、効力発生日の20日前の日から効力発生日の前日までの間に、株式買取請求に係る株式の数を明らかにして行わなければなりません。この期間を過ぎますと、株式買取請求そのものができなくなります。
株式売買価格決定の申立ての期間
株式買取請求をした後、価格について協議が調わないときは、効力発生日から30日以内に協議が調わない場合において、その期間の満了の日後30日以内に、裁判所に対して価格の決定の申立てをすることができます(会社法第470条、第786条、第798条、第807条、第182条の5等)。
撤回の制限
株式買取請求をした後は、会社の承諾を得た場合を除き、撤回することができません。安易な行使も、また慎重を要します。
以上が、期限の定めのある手続です。ここからが本題です。
期限を過ぎても採り得る手段 その1 価格を争う手続
株式譲渡承認請求と株式売買価格決定の申立て
最も重要な手段です。譲渡制限株式の株主は、いつでも、会社に対して株式譲渡承認請求をすることができます(会社法第136条)。この請求には、期間の制限がありません。合併の株式買取請求の期限を過ぎていようと、5年前の株式併合について何もしていなかろうと、関係ありません。
手続の骨格は次のとおりです。
- 譲受人を特定したうえで、会社が承認をしない場合には会社又は指定買取人が買い取ることを請求する旨を併せて記載して、株式譲渡承認請求を行います(会社法第138条第1号)
- 会社が承認をしないときは、会社が買い取るか、指定買取人を指定します(会社法第140条)
- 会社又は指定買取人から買取りの通知を受けたときは、価格について協議いたします(会社法第144条第1項)
- 協議が調わないときは、株式の買取通知があった日から20日以内に、裁判所に対して株式売買価格決定の申立てをいたします(会社法第144条第2項)
裁判所は、「会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」とされています(会社法第144条第3項)。会社が主張する額面額にも、相続税評価額にも、裁判所は拘束されません。
なお、この手続の中には20日という短い期限が現れます。手続を「開始する」ことに期限はありませんが、「開始した後」には期限が生じます。この点は必ずご注意ください。
会社又は支配株主との任意交渉、民事調停
裁判所の手続によらず、会社又は支配株主との間で任意に売買の交渉を行う道も、当然に開かれています。これにも期限はありません。交渉が難航する場合には、簡易裁判所の民事調停を用いることも考えられます。
期限を過ぎても採り得る手段 その2 会社の情報を取る手続
価格を争うにせよ、責任を追及するにせよ、出発点は会社の実態を知ることです。次の権利には、いずれも行使の期限がありません。
会計帳簿の閲覧謄写請求(会社法第433条)
議決権又は発行済株式の3%以上を保有する株主が、請求の理由を明らかにして行使できます。他の株主と共同して3%に達すれば、共同で請求することも可能です。会社が正当な理由なく拒む場合には、仮処分の申立てを検討いたします。
計算書類等の閲覧謄写請求(会社法第442条)
貸借対照表、損益計算書等の計算書類及びその附属明細書について、持株数の要件なく、営業時間内はいつでも閲覧謄写を請求することができます。3%に満たない株主にとって、まず用いるべき権利です。
株主名簿の閲覧謄写請求(会社法第125条)
誰が株主であるかを把握することは、他の株主との共同行使を検討するうえでも重要です。
株主総会議事録及び取締役会議事録の閲覧謄写請求
株主総会議事録については、株主は営業時間内はいつでも閲覧謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。取締役会議事録については、株主はその権利を行使するため必要があるときに請求することができますが、監査役設置会社等においては裁判所の許可が必要です(会社法第371条第2項、第3項)。
検査役の選任の申立て(会社法第358条)
会社の業務の執行に関し不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、議決権又は発行済株式の3%以上を保有する株主は、裁判所に対して検査役の選任を申し立てることができます。
期限を過ぎても採り得る手段 その3 責任を追及する手続
株主代表訴訟(会社法第847条)
取締役等が会社に損害を与えた場合、株主は会社に代わって責任を追及する訴えを提起することができます。公開会社でない会社においては、6か月前から引き続き株式を有していることという要件は課されません(会社法第847条第2項)。
過大な役員報酬、会社資産の私的流用、不当な取引による会社の損害。これらは、少数株主が価格の交渉を進めるうえでも、重要な事実となります。もっとも、責任の消滅時効の問題がありますので、時期の検討は必要です。
役員等の第三者に対する責任の追及(会社法第429条)
役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負います。株主が個人として損害を被った場合に、検討の余地があります。
取締役の解任の訴え(会社法第854条)
取締役の職務の執行に関して不正の行為又は法令若しくは定款に違反する重大な事実があったにもかかわらず、解任の議案が株主総会で否決されたときは、決議の日から30日以内に、取締役の解任の訴えを提起することができます。これは期限の定めのある手続です。
期限を過ぎても採り得る手段 その4 決議や新株発行を争う手続
株主総会決議の取消しの訴え(会社法第831条) これは3か月です
招集手続又は決議の方法が法令若しくは定款に違反する場合等には、決議の取消しの訴えを提起することができますが、決議の日から3か月以内という厳格な期限があります。
株主総会決議の不存在確認及び無効確認の訴え(会社法第830条) これには期限がありません
ここが重要な分かれ目です。決議の内容が法令に違反する場合の無効確認の訴え、及びそもそも決議が存在しない場合の不存在確認の訴えには、提訴期間の定めがありません。
株主総会が実際には開催されておらず、議事録だけが作成されていた。招集通知が一部の株主に全く送られていなかった。このような事案では、3か月を過ぎていても争う余地があります。同族会社においては、決して珍しい事態ではありません。
新株発行無効の訴え(会社法第828条)と新株発行不存在確認の訴え(会社法第829条)
新株発行の無効の訴えは、公開会社では効力が生じた日から6か月以内、公開会社でない会社では1年以内に提起しなければなりません。他方、新株発行の不存在の確認の訴えには、期間の制限がありません。
持株比率を下げられたという事案では、まずこの区別を確認いたします。
期限の定めのある手続と、期限の定めのない手続
| 期限の定めのある手続 | 反対株主の株式買取請求(効力発生日の20日前の日から前日まで)/その株式売買価格決定の申立て(協議期間満了後30日以内)/株式売買価格決定の申立て(株式の買取通知の日から20日以内)/株主総会決議取消しの訴え(決議の日から3か月以内)/新株発行無効の訴え(公開会社6か月、非公開会社1年)/取締役の解任の訴え(否決の決議の日から30日以内)/定款の定めによる相続人等に対する売渡しの請求(会社側が相続を知った日から1年以内。会社法第176条第1項) |
| 期限の定めのない手続 | 株式譲渡承認請求(会社法第136条)/会計帳簿の閲覧謄写請求(第433条)/計算書類等の閲覧謄写請求(第442条)/株主名簿の閲覧謄写請求(第125条)/株主総会議事録及び取締役会議事録の閲覧謄写請求(第318条、第371条)/検査役の選任の申立て(第358条)/株主総会決議の不存在確認及び無効確認の訴え(第830条)/新株発行不存在確認の訴え(第829条)/会社又は支配株主との任意交渉、民事調停 |
諦める前に、この表の下段をご覧ください。皆様に残されている手段は、決して少なくありません。
会社側が「期限は過ぎました」と繰り返す理由
会社の側の事情を、率直に申し上げます。
第一に、期限の話は、争いを終わらせる最も簡単な説明だからです。「法律で決まっているので仕方がない」と言われれば、多くの方は引き下がります。
第二に、株式買取代金は会社の資金から支払われるからです。同族会社においては、少数株主に支払わずに済めば、それだけ経営者一族の支配する資金が会社に残ります。
第三に、1人に手続を認めれば、他の少数株主にも波及するからです。だからこそ、最初の1人に対して強く出てきます。
そして、評価ルールの見直しが広く知られるようになれば、会社側が「いまのうちに」と称して買集めを急ぐ場面が増えることが予想されます。会社が急いでいるということ自体が、その株式に相応の価値があることの現れです。
いま確認していただきたいこと
届いた書類をすべて保管し、日付を並べてください
招集通知、合併や株式併合の通知、公告の写し、会社からの手紙。どの日にどの通知が届いたのかを時系列に並べることが、どの手続が使えるかの判断の出発点です。封筒も捨てないでください。
株主名簿にご自身の名義が記載されているかを確認してください
株主名簿の閲覧謄写請求(会社法第125条)によって確認できます。名義の状況によって、採り得る手段が変わります。会社から「あなたは株主ではない」と言われている場合には、まずこの点を確定させる必要があります。
決算書類を入手してください
計算書類等の閲覧謄写請求(会社法第442条)には持株数の要件がありません。まずこれを行使し、そのうえで会計帳簿の閲覧謄写請求(同法第433条)を検討いたします。
株主総会が実際に開催されていたかを確認してください
招集通知を受け取ったことがない、総会に出席したことがないという場合には、決議の不存在確認又は無効確認という、期限の定めのない手続の対象となる可能性があります。議事録の閲覧謄写請求によって、記載内容と実態との食い違いを確認いたします。
よくあるご質問
合併の株式買取請求の期限を過ぎてしまいました。もう何もできませんか
株式買取請求そのものはできませんが、株式譲渡承認請求と株式売買価格決定の申立てという道は残されています(会社法第136条、第144条)。この手続に開始の期限はありません。あわせて、合併の手続に瑕疵がなかったかも検討いたします。
10年以上前の株式併合で持分が減らされました。いまからでも争えますか
年数だけで結論は出ません。手続がそもそも行われていなかったのか、行われたが瑕疵があったのかによって、用いる手続が異なります。決議の不存在確認の訴えには期間の制限がありません。まずは登記簿と議事録を確認いたします。
期限を過ぎたことについて、会社に損害賠償を求められますか
会社が必要な通知を行っていなかった場合など、事案によっては検討の余地があります。もっとも、一般には、価格を争う手続を用いる方が現実的です。いずれの手段が適切かは、事実関係を確認したうえで判断いたします。
もう10年以上、会社から何の連絡もありません。それでも株主なのですか
株主名簿に記載されているのであれば、株主です。連絡がないことは、株主でないことを意味しません。むしろ、招集通知が送られていないのであれば、株主総会の手続そのものに問題がある可能性があります。
おわりに
「期限を過ぎたら終わりだ」という前提は、正しくありません。会社法が厳格な期限を置いているのは、会社の行為の効力を早期に確定させる必要がある一部の手続についてです。
皆様が株主であること、そして株主として会社の情報を求め、株式の価値に見合う対価を求めることができるという地位そのものには、期限はありません。株式譲渡承認請求はいつでもできますし、会計帳簿の閲覧謄写請求にも、計算書類等の閲覧謄写請求にも、期限の定めはありません。
そして、いま非上場株式の評価は見直しの局面にあります。国税庁自身が、現行の評価が純資産価額の3割弱にとどまることを公表し、収益力を主軸とする評価への移行を検討しています。「もう価値がない」と言われて手放してしまう前に、確かめていただきたいことがあります。
弁護士法人M&A総合法律事務所は、非上場株式の少数株主の皆様の側に立って、会社に対する株式買取請求、価格の交渉、株式売買価格決定の申立てを取り扱ってまいりました。期限を過ぎたと言われた事案でも、まずはお聞かせください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
株式買取請求の期限を過ぎたとお考えの方のご相談
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出典
- 会社法(第116条、第125条、第136条、第138条、第140条、第144条、第176条、第182条の4、第182条の5、第318条、第358条、第371条、第429条、第433条、第442条、第469条、第470条、第785条、第786条、第797条、第798条、第806条、第807条、第828条、第829条、第830条、第831条、第847条、第854条)
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