会社に株式を買ってほしいと頼んでも応じてもらえないのはなぜか
会社に株式を買い取ってほしいと申し入れても、「検討します」と言われたきり返答がありません。「うちではそういうことはしていない」と一言で断られます。書面を送っても受領の連絡すらありません。そのような対応が続くと、会社が意図的にご自身を無視しているのではないかとお感じになるのも自然なことです。
結論から申し上げますと、会社が応じない理由の多くは、株主個人に対する敵意ではなく、会社側の意思決定の仕組み、資金の制約、手続の負担、他の株主との関係にあります。会社に非上場株式を買い取る一般的な法律上の義務はありませんので、「断る」という選択が最も手間のかからない対応になりがちです。会社側の事情を正確に把握することは、その後の検討の出発点になります。
第1節 そもそも会社に買取義務がないという前提
株主は原則としてその有する株式を自由に譲渡することができますが(会社法第127条)、これは買主を見つけて売却する道が開かれているという意味であり、会社が買主となることを義務付ける趣旨ではありません。非上場会社の多くは、譲渡による株式の取得について会社の承認を要する旨を定款で定めております(会社法第107条第1項第1号、第108条第1項第4号)。
会社法上、株主の請求により会社が当然に株式を買い取らなければならない場面は、特定の会社行為を前提とする類型に限られております。
表1 法律上の株式買取請求権の主な類型
| 場面 | 根拠条文(価格の決定を含みます) | 行使期間の原則 |
|---|---|---|
| 定款変更により譲渡制限の定めを設ける場合等に反対する株主 | 第116条第1項、第117条第2項 | 効力発生日の20日前から前日まで |
| 事業譲渡等・組織再編に反対する株主 | 第469条・第470条、第785条・第797条・第806条 | 同上 |
| 株式の併合により端数が生ずる場合 | 第182条の4、第182条の5第2項 | 同上 |
| 単元未満株式を有する株主 | 第192条、第193条 | 定めはありません |
いずれも会社の側に何らかの動きがあって初めて用いることのできる制度であり、価格の協議が調わない場合には原則として効力発生日から30日以内に裁判所へ価格の決定の申立てをいたします。会社が何も行っていない平常の状態で株主の側から単独で買取りを請求することのできる規定は存在いたしません。したがって、会社が「買い取る義務はない」と回答すること自体は、法律論として誤っているわけではありません。義務がないということと、任意に買い取ることができないということとは、別の事柄です。
第2節 会社が単独で即断できる事項ではないという事情
会社法第155条は自己の株式を取得することができる場合を列挙しており、同条第3号は株主との合意により有償で取得する場合(第156条第1項の決議があった場合)を掲げております。会社が少数株主から株式を買い取ることは、この類型に当たります。手続としては、まず株主総会の普通決議により、取得する株式の数、取得と引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間(1年を超えることができません)を定めます(会社法第156条第1項各号)。次に、その都度、1株当たりの対価の内容及び額並びに譲渡しの申込みの期日等を定め(会社法第157条第1項。取締役会設置会社にあっては取締役会の決議によります。同条第2項)、これを株主に通知いたします(会社法第158条第1項)。通知を受けた株主が譲渡しの申込みを行い、会社は申込期日において承諾したものとみなされます(会社法第159条第1項、第2項)。
この原則的な手続では、すべての株主に申込みの機会を与えなければなりません。特定の株主から取得する場合には、第156条第1項の決議は株主総会の特別決議によらなければならず(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)、当該特定の株主は原則としてこの決議について議決権を行使することができません(会社法第160条第4項)。さらに会社は、当該株主総会の日の2週間前までに他の株主に対し自己をも売主に加えることを請求できる旨を通知しなければならず(会社法第160条第2項、会社法施行規則第28条)、通知を受けた株主はその請求をすることができます(同条第3項)。これが売主追加請求であり、一部の株主だけが買い取ってもらうことによる不公平を防ぐための仕組みです。会社としては、一人の株主から買い取ろうとしたところ他の株主から同様の請求が相次ぎ、想定を超える資金負担が生ずる展開を懸念することがあります。もっとも、会社は同項及び同条第3項を適用しない旨を定款で定めることができ(会社法第164条第1項。当該定款変更には当該株式を有する株主全員の同意を要します。同条第2項)、公開会社でない会社が一般承継により株式を取得した者から取得する場合にも原則として適用されません(会社法第162条)。
表2 自己株式の取得(株主との合意による有償取得)の手続
| 順序 | 手続 | 要件 | 根拠条文 |
|---|---|---|---|
| 1 | 取得枠の決定 | 普通決議。特定の株主からの取得は特別決議 | 第156条第1項、第160条第1項、第309条第2項第2号 |
| 2 | 売主追加請求ができる旨の通知 | 総会の2週間前まで。定款で排除可能 | 第160条第2項・第3項、第164条第1項 |
| 3 | 取得価格等の決定 | 取締役会設置会社では取締役会 | 第157条第1項・第2項 |
| 4 | 株主への通知と申込み | 申込期日に承諾のみなし | 第158条第1項、第159条 |
| 5 | 財源の確認 | 分配可能額の範囲内 | 第461条第1項第3号 |
つまり、担当者や代表者が「買い取ってもよい」と考えたとしても、その場で即答できる事柄ではありません。会社の窓口が明確な回答を避けるのは、権限がないためであることが少なくありません。
第3節 財源の制約という現実的な要因
自己株式の取得は株主に対する会社財産の払戻しに当たりますので、株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、その取得が効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないとされております(会社法第461条第1項第3号。株式譲渡承認請求に伴う買取りにつき同項第1号)。分配可能額は剰余金の額(会社法第446条)を基礎として、自己株式の帳簿価額その他の所定の金額を控除して算定されます(同条第2項)。これに違反した場合、金銭等の交付を受けた者及び業務執行者等は会社に対して連帯して支払義務を負い(会社法第462条第1項)、分配可能額を超える部分の責任は総株主の同意によっても免除することができません(同条第3項)。会社の担当者が慎重になる理由の一つはここにあります。
もっとも、分配可能額の範囲内であっても、実際に支払う現金があるかどうかは別の問題です。貸借対照表上の純資産が厚い会社であっても、資産の大部分が事業用不動産や在庫であり、手元資金に余裕がない例は珍しくありません。「内部留保があるのだから買えるはずだ」という株主側の理解と、「支払える現金がない」という会社側の認識とがすれ違うのは、この点に原因があります。
> 仮設例。発行済株式総数20,000株、保有株式数1,000株。その他利益剰余金2億円、自己株式なし、現預金3,000万円。1株当たり40,000円で1,000株を取得するとすれば総額4,000万円となり、分配可能額の範囲内であっても手元の現預金では不足いたします。逆に現預金が2億円ありながらその他利益剰余金が3,000万円にとどまる場合には、資金はあっても分配可能額を超えることとなります。
上記は仮設例であり、事案により異なります。実際の分配可能額は会社法第446条及び会社計算規則の定めに従って算定されます。財源が直ちに十分でないことは、買取りが将来にわたってできないことを意味いたしません。取得の時期、株式数の分割、買主を会社とするか大株主等の個人とするかによって、検討の余地が生じる場合があります。
第4節 株主構成と将来のリスクに対する会社側の意識
会社が少数株式の買取りに慎重になる背景には、株主構成に対する意識もあります。会社が取得した株式は自己株式となり議決権を有しないこととなりますので(会社法第308条第2項)、相対的に他の株主の持株比率が上昇いたします。同族会社では、この比率の変動が支配関係に影響することがあり、とりわけ特別決議に必要な3分の2、普通決議に必要な過半数、会計帳簿の閲覧謄写請求に必要な100分の3といった比率の境目に関わる場合には、会社側の検討が長引く傾向があります。
他方で、会社の側にも、少数株式が分散したまま放置されることのリスクがあります。株主に相続が発生すれば相続人が株式を承継し(民法第896条)、株主の数はさらに増えます。会社の実情を知らない相続人が株主となること、将来の事業承継や第三者への譲渡の際に手続が煩雑になることは、会社にとって不利益です。会社にとっても少数株式の整理には利益があり得るという点が、任意の買取りが検討される余地の根拠になります。ただし、会社がその利益を優先するかどうかは事案により異なります。
第5節 断られた状態を放置した場合に生じること
会社に断られたまま何もせずに年数が経過すると、状況は改善するよりも複雑になる傾向があります。
株主本人に相続が発生すれば、遺産分割が終了するまでの間、株式は共同相続人の準共有に属し、権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ、原則として当該株式についての権利を行使することができません(会社法第106条)。最高裁判所平成27年2月19日第一小法廷判決は、共有に属する株式についての議決権の行使は、特段の事情のない限り、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられる旨を判示しております。
また、時間の経過とともに、株式を取得した経緯を説明できる資料や当時の事情を知る関係者が失われていきます。株式の譲渡は、取得者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載又は記録しなければ会社その他の第三者に対抗することができませんので(会社法第130条第1項。株券発行会社につき同条第2項)、名義書換が未了である場合には株主名簿記載事項の記載又は記録の請求を検討いたします(会社法第133条)。保有を続けること自体が選択肢の一つであることは確かですが、それを積極的な選択として行うのか、検討を先送りした結果として行うのかでは、意味が異なります。
第6節 会社に検討してもらうために整理すべき事項
会社が動かない原因の一つは、検討の対象が特定されていないことにあります。誰が、何株を、どの手続により、いくらで、どの財源から取得するのかが具体化しない限り、会社は意思決定に進むことができません。
表3 申入れの前に整理していただきたい事項
| 区分 | 確認する事項 | 手がかり(根拠条文) |
|---|---|---|
| 株式の内容 | 保有株式数、発行済株式総数、持株比率 | 株券、株主名簿(第125条第2項)、登記事項証明書 |
| 会社の定め | 譲渡制限、承認機関、売主追加請求の排除の定め | 定款(第31条第2項)、第164条第1項 |
| 財務の状況 | 直近3期の計算書類、純資産、剰余金、現預金 | 計算書類等(第442条第3項) |
| 意思決定の履歴 | 過去の自己株式取得の決議、買取りの前例 | 株主総会議事録(第318条第4項) |
| 会計情報 | 勘定科目内訳明細書、総勘定元帳等 | 会計帳簿(第433条第1項) |
計算書類及びその附属明細書については、株主は営業時間内はいつでも閲覧又は謄本の交付等を請求することができ(会社法第442条第3項)、会社は定時株主総会の日の1週間前(取締役会設置会社にあっては2週間前)から5年間これを本店に備え置かなければなりません(同条第1項)。この請求には持株比率の要件がなく、1株でも有していれば請求することができますので、最初に検討すべき手段です。株主名簿は請求の理由を明らかにして閲覧謄写を請求することができ(会社法第125条第2項。拒絶事由につき同条第3項)、株主総会の議事録は本店に10年間備え置かれ、営業時間内はいつでも閲覧謄写を請求することができます(会社法第318条第2項、第4項)。会計帳簿及びこれに関する資料は、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除きます)の100分の3以上の数の株式を有する株主が、理由を明らかにして請求することができますが(会社法第433条第1項)、同条第2項に拒絶事由が定められております。
なお、譲渡制限株式については、任意の買取りに応じてもらえない場合の制度上の受け皿として株式譲渡承認請求の手続があります(会社法第136条から第145条まで)。譲り渡そうとする株式の数及び譲受人を明らかにして承認を請求し、あわせて承認をしない場合には会社又は指定買取人が買い取ることを請求いたします(会社法第138条第1号イからハまで)。承認の通知は2週間(会社法第145条第1号)、買取りの通知は会社が40日・指定買取人が10日(同条第2号、会社法施行規則第26条第1号・第2号)、売買価格の決定の申立ては供託を証する書面の交付の日から20日(会社法第144条第2項、第7項)とされ、申立期間を徒過すると1株当たり純資産額に株式数を乗じて得た額が売買価格となります(同条第5項)。
第7節 弁護士に依頼する意味
弁護士は、株主本人の代理人として、会社側の意思決定の枠組みに乗る形で申入れを行います。法律上の位置付けの整理、株主としての情報取得(会社法第442条第3項、第433条第1項等)、株価の検討、会社との交渉、必要に応じた裁判手続がその内容です。「買ってほしい」という要望を繰り返すのではなく、会社が社内で判断するために必要な材料を示すという性質の業務です。
ここで重要なのは、代理人と買手は立場が異なるという点です。株式買取業者は株式の買手であり、株主本人の代理人ではありません。買手は取得価額が低いほど利益が大きくなる立場にあります。大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、他人の権利を譲り受けてその実行をすることを業とすることを禁ずる弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。業者一般が違法であるという趣旨ではありませんが、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるということです。
よくあるご質問
質問1 会社は本当に買い取れないのでしょうか。それとも買い取りたくないだけでしょうか。
その区別は、会社の財務内容と手続上の制約を確認しなければ判断できません。分配可能額(会社法第461条第1項第3号、第2項)と手元資金は別の問題です。分配可能額が十分にあるにもかかわらず「財源がない」との説明がされている場合には、その根拠を確認する意味があります。
質問2 会社の担当者が「社長に聞いてみます」と言ったきり回答がありません。
自己株式の取得は株主総会の決議を要する事項であり(会社法第156条第1項。特定の株主からの取得は第160条第1項及び第309条第2項第2号により特別決議)、担当者限りで決められるものではありません。回答がないこと自体は拒絶の意思表示とは限りません。
質問3 他の株主も同じように断られているようです。まとまって申し入れたほうがよいでしょうか。
複数の株主が関係する場合、売主追加請求(会社法第160条第2項、第3項)との関係を含め、進め方が単独の場合と異なります。定款により売主追加請求が排除されていることもあります(会社法第164条第1項)。株主間で保有株式数や希望される時期が異なることも多く、利害が完全に一致するとは限りません。
質問4 会社に嫌がらせをされるのではないかと心配です。
株主が自らの株式について売却を申し入れることは、正当な行為です。株主総会の招集通知の不送付、計算書類等の閲覧謄写請求(会社法第442条第3項)の不当な拒絶など、株主としての権利が制限された場合には、別途法的な対応を検討いたします。
質問5 「他の株主から買い取った前例がない」と言われました。
前例の有無は法律上の要件ではありません。会社法第155条第3号及び第156条以下の手続により、会社が株主との合意で自己株式を取得することは正面から認められた行為です。前例がないという説明は、社内に手続の段取りがないという意味であることが多いものです。
交渉手法の詳細について
具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは開示しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま、会社又は大株主との任意の買取交渉、株価の検討、必要に応じた裁判手続を行うものです。
ご相談の際には、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、株式を取得した経緯が分かる資料、会社とのやり取りの記録をご用意いただけますと検討が早く進みます。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から24時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
過去の取扱い実績は将来の結果を保証するものではありません。売却に伴う課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文・裁判例
会社法 第106条(共有株式の権利行使)、第107条第1項第1号・第108条第1項第4号(譲渡制限株式)、第127条(譲渡の自由)、第130条・第133条(対抗要件、名義書換)、第136条から第145条まで(譲渡等承認請求)、第155条第3号・第156条から第160条まで(自己株式の取得、売主追加請求)、第162条・第164条(売主追加請求の例外)、第308条第2項、第309条第2項第1号・第2号、第31条第2項・第125条・第318条・第433条・第442条(定款、株主名簿、議事録、会計帳簿、計算書類等の閲覧等)、第446条・第461条・第462条(分配可能額及び責任)、第116条・第117条・第182条の4・第182条の5・第192条・第193条・第469条・第470条・第785条・第786条・第797条・第806条(法定の株式買取請求権)
会社法施行規則 第26条第1号・第2号、第28条 / 民法 第896条 / 弁護士法 第73条
裁判例 最高裁判所平成27年2月19日第一小法廷判決(共有に属する株式の議決権の行使)、大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)
内部リンク
既存記事(いずれも/archives/配下) share_baikyakukaitorigimu、share_kaitoriseikyu(第1節)、share_urinushitsuikaseikyu(第2節)、share_kaitoridaikinzaigenkisei(第3節)、minority-unlisted-buyout(第2節・第6節)、minority-share-transfer-approval、share_kaikeichouboetsuranseikyuken(第6節)、unlisted-share-fair-price(価格)、share_hanrei_hiben(第7節)
関連記事 記事A01、A03、B02、A09、A12、E02、C04、C05
送客先 LP02(/landing/minority/。主)、LP05(/landing/share/。補助)
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。



