会社が当初買取りを拒否していた非上場株式が任意買取りで解決した事例

> 本事例は、実際にお取り扱いした複数の案件に共通する経過を、依頼者が特定されないよう抽象化して構成したものです。結果を保証するものではなく、帰結は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。

非上場会社の少数株式を保有される方が、会社に買取りを申し入れたところ断られ、その後の手立てが分からないままになっているというご相談は少なくありません。「買い取る義務はない」との一言で終わってしまい、それ以上どうすればよいのか分からないまま、数年が経過しているという方もいらっしゃいます。本記事では、当初は買取りに応じられなかった事案において、最終的に任意の買取りに至った類型について、事案の構造、採った手続、要した期間の幅、及び留意点をご説明いたします。事件名、当事者名、会社名及び金額の実額は記載しておりません。

1 ご相談をお受けした時点の状況

ご相談者は、非上場会社の発行済株式のうち少数を保有される株主でした。経営には関与しておらず、株主総会の招集通知が届く以外に会社との接点はなく、配当も行われていない状況でした。株式を取得された経緯は、先代からの相続によるもの、かつて役員又は従業員であった当時に取得したもの、創業に際して出資したものなど、事案により異なります。

ご相談者は、株式を現金化したいとお考えになり、会社に対してご自身で買取りを申し入れられました。これに対する会社の回答は、買い取る義務はない、買い取る予定もない、という趣旨のものでした。ご相談者は、この回答をもって手段が尽きたとお考えになり、その後しばらく何もなさらないまま時間が経過しておりました。

この段階でご相談者が抱えておられた困難は、次の三点に整理することができます。第一に、会社の回答が法律上正しいのか否かを判断できないこと。第二に、株式にどの程度の価値があるのかが分からないこと。第三に、会社との関係を悪化させたくないという心情から、それ以上の申入れをためらわれることです。

2 最初に確認した法律関係

当事務所において最初に確認いたしましたのは、次の事項です。

確認事項 確認の目的 主な資料
定款における譲渡制限の定めの有無 株式譲渡承認請求の手続を採り得るかを判断するため 定款、登記事項証明書
定款における売主追加請求の排除の定めの有無 会社が特定の株主から取得する際の手続上の負担を把握するため 定款
株主名簿における記載の状況 株主としての権利行使の前提を確認するため 株主名簿の写し
株式を取得された経緯 取得原因及び持株数の変動を確認するため 相続関係書類、譲渡契約書、出資に関する資料
会社の機関構成及び株主構成 意思決定の主体と、他の少数株主の存否を把握するため 登記事項証明書、株主名簿
会社の財務状況 会社が取得する場合の分配可能額を検討するため 直近3期分の決算書

これらは、その後に採り得る手段の範囲を画する事項です。

あわせて、会社から届いていた書面及びご相談者が会社に送付された書面を拝見し、会社が何を理由として買取りに応じなかったのかを整理いたしました。理由の類型によって、その後の検討は異なるからです。

会社の回答の理由 法律上の位置付け 検討の方向
買取義務がないという法律論 一般的な買取義務がない点は正しいものです 任意の取得は制度上可能である旨を整理いたします
価格が折り合わない 協議の対象となる事項です 価値の検討と資料の確認を行います
資金の手当てがつかない 分配可能額による財源規制が関係いたします 会社以外の取得者の可能性、対価の支払方法を検討いたします
前例を作りたくないという事実上の理由 法律上の根拠を伴わないものです 他の株主との均衡、株式分散の将来のリスクを整理いたします
手続が分からない 会社側に会社法上の手続の理解が不足している場合があります 手続の枠組みを整理して提示いたします

3 会社に一般的な買取義務がないという前提の整理

会社法上、株主が会社に対して常に株式の買取りを請求できるという一般的な権利は定められておりません。反対株主の株式買取請求権は、一定の定款の変更等の場合(会社法第116条)、合併その他の組織再編の場合(会社法第785条、第797条、第806条)、株式の併合の場合(会社法第182条の4)など、法律が定める場面に限られております。

もっとも、会社が株主との合意により自己の株式を取得することは可能です(会社法第155条第3号、第156条以下)。特定の株主から取得する場合には、株主総会の特別決議を要し、他の株主が自己をも売主に加えることを請求できるのが原則ですが(会社法第160条第1項・第3項、第309条第2項第2号)、定款にこれを排除する旨の定めが置かれている場合もあります(会社法第164条第1項)。また、取得の対価の総額が分配可能額を超えることはできません(会社法第461条第1項第2号・第3号)。

すなわち、「買取義務はないが、任意の買取りは制度上可能である」というのが正確な整理です。会社の当初の回答は、買取義務がないという点においては正しいものでしたが、任意の買取りが不可能であることを意味するものではありませんでした。この区別を明らかにすることが、検討の出発点でした。

4 株式の価値についての検討

次に、資料に基づいて株式の価値を検討いたしました。ご相談者のお手元にあった資料は限られておりましたので、株主として認められている手段を用いて、検討に必要な情報の範囲を確認するところから始めております。

株主は、営業時間内はいつでも、計算書類及びその附属明細書等の閲覧又は謄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。また、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等は、理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。ただし、同条第2項に拒絶事由が定められております。定款及び株主名簿についても、それぞれ閲覧等の請求が認められております(会社法第31条第2項、第125条第2項)。

会社の純資産の内容、保有する資産の状況、収益の推移、配当の実績を踏まえ、複数の評価の考え方によって幅をもった検討を行いました。この段階で重要でしたのは、単一の金額を主張することではなく、どのような前提を置けばどのような結論となるのかを整理し、会社側の説明と突き合わせられる状態にしておくことでした。

とりわけ確認を要しましたのは、会社が保有する不動産その他の資産に含み損益がないか、事業に用いられていない資産がないか、収益に一時的又は非経常的な要素が含まれていないか、役員報酬その他の費用の水準が事業の実態に照らして通常のものかという点です。これらは、いずれの評価の考え方を用いる場合であっても、その前提となる事実です。

5 代理人としての協議の申入れ

その後、当事務所が代理人として会社に対して協議の申入れを行いました。ご本人が直接申し入れられた際とは異なり、法律関係と資料に基づく協議として整理されたことにより、会社側においても改めて検討がなされる状況となりました。会社側にも代理人が就き、双方の代理人の間で書面によるやり取りを重ねる形となる例が多うあります。

なお、申入れの方法、時期、資料の提示の順序、価格に関する主張の組立て方につきましては、案件ごとに事実関係が異なり、また当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、詳細は公開しておりません。

6 要した期間の幅

本類型において要した期間は、事案によって相当の幅があります。類型としての一般的な目安を段階ごとに整理いたしますと、次のとおりです。いずれも幅のある目安であり、個別の事案における期間を示すものではありません。

段階 一般的な期間の幅 期間を左右する主な事情
ご相談から受任及び資料の整理まで 数週間程度 資料の保有状況、相続関係の確定の要否
資料の取得(株主としての請求を要する場合) 数週間から数か月程度 会社の対応、拒絶事由の主張の有無
株式の価値の検討 数週間から数か月程度 資料の分量、含み損益の検討の要否、専門家の関与の要否
会社との協議 数か月程度から1年を超える場合まで 会社側の意思決定の速度、株主総会の開催時期、他の株主との調整
合意及び決済 数週間から数か月程度 手続の履践、資金の手当て、対価の支払方法

会社が自己の株式を取得する場合には、株主総会の決議を要しますので(会社法第156条第1項、第160条第1項)、その開催時期が全体の期間に影響いたします。また、分配可能額の状況によっては、対価を分割して支払う方法が検討され、決済までの期間が延びることもあります。

期間の見通しにつきましては、新設記事「少数株式の買取交渉はどのくらいの期間がかかるか」(G07)に一般的な考え方を整理しております。

7 結果と、この類型から申し上げられること

本類型におきましては、当初は買取りに応じられなかった会社との間で、最終的に任意の買取りに至っております。価格その他の条件につきましては、依頼者が特定されるおそれがありますので記載いたしません。

この類型から申し上げられますのは、会社が一度買取りを断ったという事実が、それだけで以後の協議の成否を決めるものではないということです。会社の回答の理由を確認し、法律上の位置付けを整理し、価値についての検討を経たうえで改めて協議を行うことにより、結論が変わることがあります。

もっとも、これはあらゆる事案において妥当するものではありません。会社の財務状況、株主構成、資料の有無によっては、任意の買取りに至らないこともあります。その場合には、譲渡制限株式についての株式譲渡承認請求(会社法第136条、第138条)及び売買価格の決定の申立て(会社法第144条第2項)を含め、法律上の手続を検討することとなります。この手続には20日という期間の制限がありますので(会社法第144条第5項、第7項)、通知を受領された場合には速やかな確認が必要です。

8 この類型における留意点

本類型に関して、ご相談の段階でお伝えしている留意点は、次のとおりです。

第一に、会社に対して口頭で「その金額でよい」と述べてしまわれますと、合意が成立したと評価される場合があります。回答は書面によることとし、内容についてはあらかじめご相談ください。

第二に、資料をご自身で会社に返却してしまわれる例があります。会社から届いた書面、株主総会の招集通知、配当に関する通知は、いずれも後の検討の手掛かりとなりますので、そのまま保管なさってください。

第三に、時間の経過により会社の財務状況及び株主構成が変わっている場合があります。過去に断られた際の判断が、現時点でも同じであるとは限りません。

第四に、この段階で株式買取業者から打診を受けられる方がいらっしゃいます。業者は株式の買手であり、株主ご本人の代理人ではありません。売却をなさいますと株主の地位を失い、その後に採り得る手段も失われます。なお、株式買取業者の事業形態につきましては、株式譲渡契約が弁護士法第73条に違反し無効であると判断した大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)があります。契約の前にご相談いただくことをお勧めいたします。

第五に、相続によって株式を取得された場合において、遺産分割が未了であるときは、株式は相続人の準共有となり、権利を行使する者を定めて会社に通知する必要があります(会社法第106条)。この点の整理が先行することがあります。

9 同種のご相談をご検討の方へ

会社に断られた経緯がある場合であっても、当時のやり取りの記録が残っていれば、検討の手掛かりとなります。会社に送付された書面、会社から届いた回答書、株主総会の招集通知、配当に関する通知は、いずれも有用です。資料がお手元にない場合であっても、ご相談をお受けしております。

よくあるご質問

質問1 私の場合も同じように解決しますか。

そのように申し上げることはできません。本記事は複数の案件に共通する経過を抽象化したものであり、帰結は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。当事務所は、一定の結果を保証するものではありません。

質問2 会社に断られてから何年も経っていますが、今からでも相談できますか。

ご相談を承っております。時間の経過により会社の財務状況や株主構成が変わっていることがありますので、現在の状況を前提に改めて整理いたします。なお、株式譲渡承認請求に伴う売買価格の決定の申立てには期間の制限がありますので、会社から通知を受領しておられる場合には、その日付をご確認ください。

質問3 資料が何も残っていない場合はどうすればよいですか。

資料がお手元にない場合であっても、ご相談をお受けしております。登記事項証明書は誰でも取得することができます。定款、株主名簿、計算書類等については、株主として認められている閲覧等の請求により取得できる場合がありますので、その範囲を確認するところから検討を始めます。

質問4 会社との関係が悪くならないか心配です。

代理人を通じた協議は、法律上の論点と資料に基づくやり取りとなりますので、当事者間で直接応酬することによる感情的な対立を避けやすいという面があります。ご懸念の内容を伺ったうえで進め方をご相談いたします。

質問5 どのくらいの期間がかかりますか。

本記事の第6節に、類型としての一般的な期間の幅をお示ししております。もっとも、会社側の意思決定の速度、株主総会の開催時期、資料の取得に要する時間によって大きく異なりますので、個別の事案における見通しは、ご相談の際に資料を拝見したうえで申し上げます。

本記事における非開示事項について

本記事は、解決に至る一般的な法的検討の流れをご説明するものです。発行会社又は大株主に対する申入れの方法及び時期、資料の提示の順序、価格に関する主張の組立て方につきましては、案件ごとに事実関係が異なり、また当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、詳細は公開しておりません。また、依頼者の特定を避けるため、事件名、当事者名、会社名、金額の実額、業種、地域その他の具体的な事実は記載しておりません。

本事例は複数の事案を組み合わせて再構成した一般的な類型であり、同様の結果を保証するものではありません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

会社に買取りを断られた方のご相談は、弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)へお寄せください。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主側の代理人としてお受けいたします。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
  • 代表弁護士 土屋 勝裕(東京弁護士会 登録番号26775)

ご相談に際しましては、定款、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、会社とのやり取りの記録、株式を取得された経緯の分かる資料をお持ちいただけますと、より具体的なご説明が可能です。これらの資料がお手元にない場合であっても、ご相談をお受けしております。売却に伴う課税関係については税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文・裁判例

会社法 第31条第2項(定款の閲覧等)、第106条(共有に属する株式についての権利の行使)、第116条(反対株主の株式買取請求)、第125条第2項(株主名簿の閲覧等)、第136条・第138条・第140条・第144条第2項・第3項・第5項・第7項(譲渡等承認請求及び売買価格の決定)、第155条第3号・第156条第1項・第160条第1項・第3項・第164条第1項(自己株式の取得)、第182条の4(株式の併合に係る買取請求)、第309条第2項第2号(特別決議)、第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)、第461条第1項第2号・第3号(分配可能額による財源規制)、第785条・第797条・第806条(組織再編に係る反対株主の株式買取請求)

弁護士法 第73条(他人の権利を譲り受けて訴訟その他の手段によりその権利の実行をすることを業とすることの禁止)

裁判例 大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)

内部リンク

区分 リンク先 パス 備考
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