関係会社との取引が多い会社の非上場株式はどう評価されるか

この記事の位置付け
本記事は、株式の売却を望む少数株主の立場から、関係会社又は関連当事者との取引によって利益が移転している会社の非上場株式について、正常収益力への引き直しの考え方と、取引の内容を確かめるための資料を解説するものです。
会社が提示する金額の検証の全体像は会社が提示する株式買取価格はどのように検証するかを、収益還元法そのものの解説は非上場株式の収益還元法とはを、会計帳簿の閲覧謄写の請求は会計帳簿閲覧謄写請求権は株式売却交渉にどう関係するか及び会計帳簿閲覧謄写請求を弁護士に依頼するときを、株価算定書の読み方は株価算定書があれば会社との価格交渉に勝てるのかを、取締役会議事録の閲覧謄写の請求は取締役会議事録閲覧謄写請求権をご覧ください。
会社に対して保有する株式の買取りを求めましたところ、示された金額が想定を大きく下回っており、その根拠も十分に説明されない。そうした場面において、手元にある決算書を改めて眺めますと、支配株主が支配する別の法人との間で、不動産の賃貸借、業務の委託、資金の貸付けといった取引が長年にわたり続いていることに気付く場合があります。取引の相手方は、社長個人の資産管理会社であったり、社長の親族が代表者を務める同族の別会社であったりします。
関係会社との取引が行われていること自体は、違法でも異常でもありません。同族の企業群においては、不動産の保有と事業の運営とを別の法人に分けることに合理的な理由がある場合も多くあります。問題となるのは、その取引の条件が、独立した第三者との間で成立するであろう条件と異なっている場合です。条件が異なっていますと、本来であれば評価の対象となる会社に残るはずの利益が継続的に別の法人へ移り、損益計算書に現れる利益は本来の収益力を表さなくなります。収益に着目して株式の価値を算定する場合、その出発点となる数値が低く抑えられることになります。
本記事が扱いますのは、関係会社又は関連当事者との取引という経路を通じて利益が移転している場合に、株式の価値の算定においてこれをどのように扱うか、取引の内容をどの資料により確かめるか、そして会社側の算定書の何を検証するか、という点です。他方、同じく利益が圧縮される経路でありましても、オーナー及びその一族の役員報酬が過大であることによる圧縮は、別の記事において扱います。役員報酬の水準の検討は、確かめるべき資料も、比較の基準も、法律上の争い方も異なりますので、社長一族の役員報酬で利益が圧縮されている会社の株式はどう評価されるかにおいて扱います。また、正常収益力の把握そのものの一般論、資本還元率の設定、会計帳簿の閲覧謄写の請求権の要件及び拒絶事由の詳細、並びに株価算定書の種類及び限界の一般論も、それぞれ別の記事に譲ります。本記事は、関連当事者との取引という個別の修正項目に絞って述べます。
同族企業群において利益が移る典型的な経路
利益の移転は、多くの場合、特別な仕組みによってではなく、日常の取引の条件によって生じます。取引そのものは正規の契約に基づき、帳簿にも正しく記録されています。異なるのは価格又は数量です。以下では、実務上よく見られる経路を挙げます。いずれも、その取引の存在それ自体を問題とするものではなく、条件が独立した第三者との間の条件と異なる場合に、はじめて評価上の論点となります。
典型的な経路としては、不動産の賃貸借の賃料、業務委託料及び管理料、仕入れ及び外注の単価、資金の貸付けと利息のほか、のれん又は商標の使用料の名目による支払、及び人件費の付替えがあります。まず全体を対照表として整理します。
| 経路 | 利益の移転の生じ方 | 確かめる資料 | 対比の基準 |
| 不動産の賃貸借の賃料 | 相場を上回る賃料を関係会社へ支払う | 賃貸借契約書、勘定科目内訳明細書の地代家賃の内訳、固定資産税の課税明細 | 同種同規模の物件の近隣における賃料の水準 |
| 業務委託料及び管理料 | 役務の内容が明確でない委託料又は経営指導料を支払う | 業務委託契約書、支払手数料及び支払報酬の内訳、業務の報告書 | 同種の役務を外部に委託した場合の価格、役務の提供の実態 |
| 仕入れ及び外注の単価 | 高い単価で仕入れ、又は低い単価で販売する | 取引基本契約書、仕入先元帳、得意先元帳、単価表 | 同種の商品又は役務に係る他の取引先との単価 |
| 資金の貸付けと利息 | 無利息又は低い利率で貸し付け、回収を行わない | 金銭消費貸借契約書、貸付金及び仮払金の内訳、受取利息の内訳 | 金融機関の貸出金利、返済の実績の有無 |
| のれん又は商標の使用料 | 権利の帰属が明確でないまま使用料を継続して支払う | 使用許諾契約書、商標登録の原簿、支払使用料の内訳 | 同種の権利の使用料の水準、権利が誰に帰属するか |
| 人件費の付替え | 勤務の実態のない者への給与、出向料の一方的な負担 | 賃金台帳、出向契約書、組織図、社会保険の被保険者の記録 | 勤務の実態、出向者が実際に従事する業務 |
不動産の賃貸借による移転
最も多く見られる経路です。事業の用に供する土地又は建物を支配株主又はその資産管理会社が保有し、評価の対象となる会社がこれを賃借して賃料を支払う形をとります。賃料の額は当事者間の合意により定まりますので、相場より高い額を定めましても、契約としては有効に成立します。しかしながら、その差額は、評価の対象となる会社から関係会社への利益の移転にほかなりません。
確認の出発点は、法人税の申告書に添付される勘定科目内訳明細書の地代家賃の内訳です。ここには、支払先の名称、物件の所在及び年間の支払額が記載されます。支払先の名称が支配株主の資産管理会社と一致していないかを確かめます。次に賃貸借契約書を求め、賃料の額、契約の期間、改定の条項、敷金及び保証金の額を確かめます。保証金として多額の金銭が差し入れられたまま返還されていない例も見られます。
業務委託及び管理料による移転
経営指導料、業務委託料、管理料、事務代行料といった名目により、関係会社へ毎月定額の支払が行われている例です。この経路の特徴は、提供される役務の内容が契約書において抽象的にしか定められておらず、役務が実際に提供されているかどうかを外形から確かめにくい点にあります。定額であり、かつ長期にわたって金額が変わらない場合は、役務の量と対価とが対応していない可能性を示す一つの手掛かりとなります。
求めるべき資料は、業務委託契約書のほか、委託の対象となる業務について作成された報告書、議事録、成果物です。これらが一切存在しない場合、対価に見合う役務が提供されているかについて、会社に説明を求める余地があります。
貸付け及び利息による移転
評価の対象となる会社が関係会社又は支配株主個人に対して資金を貸し付けている場合です。無利息又は著しく低い利率であるとき、本来得られるはずの利息の分だけ収益が失われています。さらに、返済の実績がなく、毎期同額の貸付金が計上されているときは、資産としての回収の可能性そのものが問題となります。貸借対照表においては資産として計上されていても、実質的には回収の見込みが乏しいことがあるためです。
貸付金、仮払金、立替金、未収入金といった科目の内訳を、勘定科目内訳明細書により確かめます。相手方の名称、残高、増減の状況を、複数の期にわたって並べて見ますと、返済が行われているかどうかが判明します。
仕入れ及び販売の価格による移転
関係会社を仕入れの経路に介在させ、通常の価格に上乗せした金額で仕入れる形、又は関係会社に対して通常より低い価格で製品を販売する形です。取引の量が多い会社では、単価のわずかな差が年間では大きな金額となります。他の取引先との単価表を並べて比較し、関係会社を経由することに事業上の必要があるかどうかもあわせて確認します。
通常の取引の条件と異なるかをどう見分けるか
関係会社との取引があるというだけでは、株式の価値の算定に影響を及ぼしません。影響を及ぼしますのは、その条件が、独立した当事者の間で成立するであろう条件と異なる場合です。この考え方を、実務では独立第三者間価格との比較と呼びます。同じ役務又は同じ物について、資本関係も人的関係もない相手方との間であればどのような価格で取引が成立したかを想定し、現実の価格と対比する方法です。以下の4つの視点により検討します。
同種の取引の相場との対比
最も直接的な方法です。不動産であれば、同一の地域における同種同規模の物件の賃料の水準を、公表されている取引の事例又は不動産業者の資料により把握します。資金の貸付けであれば、同時期に会社が金融機関から借り入れている場合の利率が有力な基準となります。会社自身が年3%で借り入れながら、関係会社へは無利息で貸し付けているといった対応の不整合は、説明を求める端緒となります。
取引の開始の経緯と決定の手続
その取引がいつ、どのような理由により開始されたかを確かめます。事業上の必要から始まった取引が、その後の事情の変化にもかかわらず条件が改定されないまま続いている例が多く見られます。また、取引の条件を誰がどのように決めたかも重要です。取締役会において審議された形跡がなく、支配株主の判断のみにより定められている場合は、条件の妥当性を担保する手続が働いていないことを意味します。
取引の相手方と支配株主との関係
相手方の商業登記事項証明書を取得し、代表者、取締役、本店の所在地を確かめます。支配株主本人が代表者である場合、その配偶者又は子が代表者である場合、本店の所在地が評価の対象となる会社と同一である場合は、実質的に一体として運営されている可能性が高いといえます。株主の構成についても、判明する範囲で確認します。
取引の規模が損益に占める割合
金額の大小は、評価への影響の大きさを左右します。年間の売上高又は税引前利益に対して、その取引の金額がどの程度の割合を占めるかを算出します。税引前利益と同程度又はそれを上回る金額の支払が関係会社に対して行われている場合、その条件の当否は、株式の価値を左右する中心的な論点となります。
株式の価値の算定において行うべき修正
関係会社との取引の条件が独立第三者間の条件と異なることが明らかとなった場合、株式の価値の算定においては、その影響を取り除いた上で会社の収益力を把握します。この作業を、実務では正常収益力への引き直し又はノーマライゼーションと呼びます。決算書上の利益をそのまま用いるのではなく、通常の条件であればどれだけの利益が残ったはずかを算定し直すものです。
正常収益力を把握するために取り除くべき影響
引き直しの対象となりますのは、独立した第三者との間であれば生じなかったはずの費用又は収益です。相場を上回る賃料の差額、役務の実態を伴わない委託料、無利息の貸付けにより失われた利息などがこれに当たります。逆に、関係会社へ低い価格で販売していた場合には、通常の価格との差額を収益に加えます。なお、役員報酬の過大な部分も引き直しの対象となる項目の一つですが、その検討は前掲の別の記事に譲ります。
次に、簡略な数値例を掲げます。理解のための例であり、実際の事案の結論を示すものではありません。
前提条件は次のとおりです。評価の対象となる会社は、支配株主の資産管理会社が保有する建物を賃借して事業を行っています。年間の賃料は3,600万円です。同種同規模の物件の近隣における賃料の水準は年間1,800万円です。その他に引き直すべき項目はないものとします。
| 項目 | 金額 |
| 決算書上の税引前利益 | 1,000万円 |
| 関係会社へ支払う建物の賃料(決算書上) | 3,600万円 |
| 近隣の水準に基づく賃料 | 1,800万円 |
| 差額(過大と考えられる部分) | 1,800万円 |
| 引き直した後の税引前利益(正常収益力) | 2,800万円 |
この例では、引き直しを行うかどうかにより、収益に着目する評価の出発点となる数値が2.8倍の開きとなります。株式の価値そのものは、採用する算定方法、割引率又は資本還元率の設定、その他の事情によって定まりますので、この差がそのまま価格の差となるわけではありません。もっとも、出発点の数値がこれだけ動く以上、引き直しの有無は算定の結論に相当の影響を及ぼし得ます。上記の金額は前提条件を置いた試算であり、前提条件が異なれば結論も異なります。個別の事案において同様の結果となることを保証するものではありません。会社から示された金額の根拠に納得がいかない場合の進め方は、提示された株式売買価格が低すぎてお困りではありませんかにおいて整理しています。
資産に着目する評価において問題となる債権及び債務
収益に着目する評価だけでなく、資産に着目する評価においても、関係会社との取引は論点となります。関係会社に対する貸付金、未収入金、立替金は、貸借対照表においては資産として計上されていますが、回収の見込みが乏しい場合には、その評価額を減額すべきかが問題となります。逆に、関係会社に対する債務が計上されているにもかかわらず、実際には返済が求められていない場合もあります。関係会社の株式を保有している場合には、その株式自体の時価をどのように把握するかという問題も生じます。
連結ではなく単体で評価することの限界
非上場の同族会社では連結の計算書類が作成されていないことがほとんどであり、評価は単体の計算書類に基づいて行われます。企業群の全体としては利益が生じていましても、その分配が法人の間で偏っている場合、単体の数値のみでは実態を把握できません。関係会社との取引を個別に引き直すことは、この限界を補う作業でもあります。
修正を行った場合と行わない場合の差
裁判所の判断においても、関係会社の存在が評価に反映された例があります。福岡地方裁判所平成20年4月8日決定(平成18年(ヒ)第76号)及び福岡高等裁判所平成21年5月15日決定(平成20年(ラ)第145号 株式売買価格決定に対する抗告事件)は、非連結の子会社及び関連会社の株式について時価による算定額を認定した上で、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)を3、純資産価額法を7の割合により併用することが相当であるとしました。また、大阪地方裁判所平成25年1月31日決定(平成22年(ヒ)第54号、第62号 株式売買価格決定申立事件)は、同族関係者への利益の還元の在り方が争点とされた事案において、収益還元法を80%、配当還元法を20%の割合により加重平均した価格を相当としました。いずれも事案に即した判断であり、他の事案において同じ取扱いとなるものではありませんが、関係会社との関係が評価の場面で考慮され得ることを示すものです。
取引の内容を確かめるための資料
以上の検討は、いずれも資料がなければ行うことができません。少数株主の立場では、会社の内部の資料を当然には入手できませんので、法律上認められた請求権を用いて資料を求めることになります。ここでは、関連当事者との取引を確かめるという目的に絞って、何をどの順序で求めるかを述べます。
会計帳簿及びこれに関する資料の請求
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内はいつでも、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。この請求においては、請求の理由を明らかにしなければなりません。会社は、同条第2項に掲げる事由があるときに限り、請求を拒むことができます。
関連当事者との取引を確かめる場合、請求の理由には、株式の価値を把握する必要があること、そのために関係会社との取引の内容を確認する必要があることを述べ、対象となる勘定科目と期間を特定して記載します。記載の例を挙げます。「請求者が保有する株式の価値を把握する必要があるところ、貴社の計算書類には支配株主が代表者を務める法人に対する多額の地代家賃及び支払手数料が計上されている。当該取引の条件が通常の取引の条件と同等であるかを確認する必要があるため、直近3事業年度に係る総勘定元帳のうち、地代家賃、支払手数料、支払利息、貸付金及び仮払金の各勘定並びにこれらの取引に係る契約書及び請求書の閲覧謄写を求める。」といった記載です。
なお、会計帳簿の閲覧謄写の請求権それ自体の要件、拒絶事由の詳細、会社が応じない場合の仮処分及び訴訟の手続については、会計帳簿閲覧謄写請求権は株式売却交渉にどう関係するかにおいて詳しく述べていますので、そちらをご覧ください。
子会社の会計帳簿等についての請求
関係会社が評価の対象となる会社の子会社である場合には、株主は、その権利を行使するため必要があるときは、裁判所の許可を得て、子会社の会計帳簿又はこれに関する資料についても閲覧謄写の請求をすることができます(会社法第433条第3項及び第4項)。この請求には裁判所の許可が必要であり、親会社の帳簿と同じように当然に請求することができるものではありません。また、相手方が子会社ではなく、支配株主個人が保有する別の法人にすぎない場合には、この規定は用いることができません。
計算書類等及び附属明細書における関連当事者との取引の注記
株主は、会社の営業時間内はいつでも、計算書類及び事業報告並びにこれらの附属明細書について、閲覧又は謄本若しくは抄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求には、会計帳簿の場合のような持株数の要件がありません。したがいまして、持株比率が100分の3に満たない株主であっても、まずこの請求により資料を得ることができます。
ここで重要となりますのが、関連当事者との取引に関する注記です。会社計算規則第112条は、関連当事者との取引に関する注記の内容を定めています。会社の区分によっては注記を要しない場合がありますが、注記が付されている場合には、取引の相手方、取引の内容、取引の金額、取引の条件の決定の方針が記載されます。これは、外部の資料により関係会社との取引の存在と規模を把握できる、数少ない手掛かりです。あわせて、附属明細書に記載される固定資産の明細、引当金の明細も確認します。
法人税の申告書に関する資料
会社が任意に開示する場合、又は交渉の過程で提出を求めた場合には、法人税の申告書及びその添付書類が有力な資料となります。とりわけ勘定科目内訳明細書は、地代家賃、支払手数料、貸付金、借入金、役員の状況などについて相手方の名称と金額を個別に記載するものであり、関係会社との取引を把握する上で最も有用です。法人税申告書の別表においては、別表2により株主の構成と同族会社に該当するかどうかを、別表4及び別表5により所得の金額の計算上の加算及び減算の内容を確認します。これらの資料は会社法上の請求権の対象ではありませんので、協議の中で任意の提出を求めることになります。
取締役会議事録による承認の有無の確認
関係会社との取引が後述の利益相反取引に当たる場合、その承認の有無は取締役会の議事録により確認します。株主は、その権利を行使するため必要があるときは、取締役会の議事録の閲覧又は謄写の請求をすることができますが、取締役会設置会社においては裁判所の許可を要します(会社法第371条第2項)。無条件に請求できるものではありません。手続の詳細は、取締役会議事録閲覧謄写請求権の記事に譲ります。
会社が拒んだ場合に採り得る手段
会社が請求に応じない場合には、拒絶の理由を書面により明らかにするよう求めます。会社法第433条第2項に掲げる事由のいずれに当たるのかを特定させることにより、争点が明確になります。その上で、閲覧謄写を求める訴え又は仮処分の申立てを検討します。もっとも、資料の入手それ自体が目的ではありません。株式の価値を把握し、価格の協議を有利に進めるための手段です。どこまでの資料を求めるかは、費やす時間と費用との均衡において判断します。会社との協議の進め方については、提示された株式売買価格が低すぎてお困りではありませんかをご覧ください。
手続上の瑕疵が見つかった場合
資料を確認しますと、取引の条件そのものよりも先に、手続の欠落が判明することがあります。ここでは、会社法上の問題として何が生じるかを述べます。なお、関係会社との取引をめぐっては、法人税法上の寄附金の認定又は移転価格の議論が語られることがありますが、これらは課税の場面における議論であり、株主が株式の価値を争う場面における会社法上の議論とは、目的も要件も効果も異なります。両者を混同してはなりません。本記事が述べますのは、会社法上の議論に限られます。
利益相反取引について承認を欠く場合の位置付け
取締役が自己又は第三者のために会社と取引をしようとするとき、及び会社が取締役の債務を保証するなど取締役以外の者との間で会社と取締役との利益が相反する取引をしようとするときは、その取引について重要な事実を開示し、承認を受けなければなりません(会社法第356条第1項第2号及び第3号)。取締役会設置会社においては、この承認は取締役会の決議によります(同法第365条第1項)。支配株主が評価の対象となる会社の取締役であり、かつ取引の相手方である法人の代表者を兼ねている場合、その取引は第三者のためにする取引として承認の対象となり得ます。
承認を経ずに取引が行われていた場合、その一事により取引が当然に無効となるわけではありませんが、手続を欠いたまま長期にわたり取引が継続してきた事実は、その条件が第三者との間の条件と同等であるかを検証する契機となります。会社が「取引の条件は適正である」と説明する場合であっても、その適正さを担保する手続が働いていなかったことになるためです。
取締役の責任の追及と株式の買取りの関係
利益相反取引により会社に損害が生じたときは、当該取引をした取締役、会社が当該取引をすることを決定した取締役、及び当該取引に関する取締役会の承認の決議に賛成した取締役は、その任務を怠ったものと推定されます(会社法第423条第3項)。任務を怠ったことにより会社に生じた損害を賠償する責任を負います(同条第1項)。株主は、一定の要件の下で、会社に代わって取締役の責任を追及する訴えを提起することができます(同法第847条)。
ただし、この責任は会社に対する責任であり、賠償金は会社に支払われます。株主個人が直接に金銭を受け取るものではありません。もっとも、賠償により会社の財産が回復すれば、株式の価値は間接的に高まります。
責任の追及を目的とするのではなく交渉の材料とすること
実務においては、取締役の責任の追及そのものを目的とするよりも、株式の買取りの価格を協議する際の材料として位置付けることが多くあります。責任を追及する訴えは、立証に相当の労力と期間を要します。他方、関係会社との取引に手続上の問題があり、条件についても説明がつかないという状況は、会社の側にとっても放置しにくい事情です。したがいまして、まず事実を正確に把握し、これを協議の場に示した上で、価格の是正を求める順序が現実的です。株主が会社に代わって責任を追及する訴えの手続及び費用については、株主代表訴訟の記事に譲ります。
会社側の算定書を検証する視点
会社が株式の価値を算定した書面を示してきた場合、その内容を検証します。関係会社との取引がある会社においては、次の4つの視点が特に重要となります。算定書の一般的な読み方、算定の方法の種類、前提条件の意味については別の記事に譲り、ここでは関連当事者との取引に関する点に絞ります。
| 視点 | 確認する内容 | 不十分な場合に指摘すること |
| 修正の有無 | 関連当事者との取引について引き直しが行われているか | 決算書上の利益をそのまま用いていないか。引き直しを行わない理由が記載されているか |
| 修正の根拠 | 引き直しの根拠となる資料が具体的に示されているか | 近隣の賃料の水準、他の取引先との単価など、比較の基準が示されているか |
| 期間の対応 | 基準日と、参照した取引の期間とが対応しているか | 直近の1期のみを見ていないか。取引の条件が変更された時期が考慮されているか |
| 算定者の独立性 | 算定を行った者と会社又は支配株主との関係 | 会社の顧問税理士が算定している場合、その立場と依頼の目的が明示されているか |
関連当事者との取引の修正が行われているか
算定書の本文を通読し、関連当事者、関係会社、役員又は同族という語が現れるかを確かめます。全く現れない場合、引き直しが検討されていない可能性があります。収益に着目する方法を用いながら、決算書上の利益をそのまま出発点としている算定書は、この点で説明を欠いています。
修正の根拠となる資料が示されているか
引き直しを行った旨の記載があっても、その根拠が示されていないことがあります。賃料であれば近隣の水準をどの資料により把握したのか、単価であれば何と比較したのかを確かめます。根拠が示されていない引き直しは、金額の当否を検証できません。
基準日と取引の期間が対応しているか
株式の価値は特定の日を基準として算定されます。他方、関係会社との取引は複数の期にわたって継続します。直近の1期のみを参照している場合、その期がたまたま例外的であった可能性を排除できません。3期から5期程度の推移を確認することが望まれます。
算定者の独立性
算定を行った者が、会社の顧問税理士又は支配株主の側で継続的に業務を行ってきた者である場合、その算定は会社の立場に立つものとなりやすいといえます。算定者の氏名又は名称、資格、依頼者及び算定の目的が記載されているかを確かめます。記載がない場合には、その開示を求めます。
よくあるご質問
関係会社との取引が関わる事案について、実際に多くいただくご質問を掲げます。個別の事情により結論は異なりますので、あくまで一般的な考え方としてご覧ください。
関係会社の資料まで見ることができますか。
相手方の法人が評価の対象となる会社の子会社である場合には、裁判所の許可を得て、子会社の会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写を請求することができます(会社法第433条第3項及び第4項)。他方、支配株主個人が保有する別の法人にすぎない場合には、株主の立場でその法人の帳簿を直接に見ることはできません。もっとも、評価の対象となる会社の側に残る資料、すなわち契約書、請求書、元帳の記載から、取引の内容を相当程度まで把握することができます。
会社から「取引の条件は適正である」と説明されました。どうすればよいですか。
適正であるという結論だけでは検証できませんので、その根拠を求めます。賃料であれば何を基準として定めたのか、委託料であればどの役務に対応するのか、貸付けであればなぜ無利息としたのかを、書面により明らかにするよう求めます。あわせて、その条件を決定した手続、すなわち取締役会の承認の有無を確かめます。根拠と手続の双方が示されない場合には、その旨を協議の記録に残します。
持株比率が100分の3に満たない場合は、何もできませんか。
会計帳簿の閲覧謄写の請求はできませんが、計算書類及びその附属明細書の閲覧又は謄本の交付の請求には持株数の要件がありません(会社法第442条第3項)。関連当事者との取引に関する注記が付されていれば、取引の相手方、内容及び金額を把握できます。また、他の少数株主と共同して議決権を合算することにより、100分の3の要件を満たす方法もあります。株主名簿の閲覧により、他の株主の状況を確認することが出発点となります。
どの期間の資料を求めるべきですか。
直近の3事業年度を基本とし、取引の条件が変更された時期がある場合には、その前後を含めます。関係会社との取引は長期にわたって継続していることが多いため、1期のみでは条件の推移を把握できません。他方、期間を過度に広げますと、会社から請求の範囲が広きに失すると反論される余地が生じますので、目的との関係で必要な範囲を特定します。
資料を集めるだけで、価格は上がるのですか。
資料それ自体が価格を動かすものではありません。資料により把握した事実に基づき、会社の収益力が決算書上の数値より高いことを具体的に示すことが、協議における主張の根拠となります。勘定科目内訳明細書と契約書という具体的な資料に基づく指摘には、会社も説明を要します。結果は事案により異なります。
費用はどの程度かかりますか。
手続の範囲により異なります。計算書類の閲覧の請求のみであれば、要する費用は限られます。会計帳簿の閲覧謄写の請求を行い、会社が応じない場合に訴え又は仮処分の申立てに進む場合には、裁判所に納める費用と弁護士の費用が生じます。最終的に株式売買価格の決定の申立てまで進む場合には、算定に要する費用も見込む必要があります。ご相談の際に、想定される手続と費用の見込みを具体的に申し上げます。
まとめ
関係会社との取引が多い会社の株式については、決算書に現れる利益がその会社の本来の収益力を表しているとは限りません。取引の存在それ自体が問題なのではなく、条件が独立した第三者との間で成立するであろう条件と異なっている場合に、利益の移転という評価上の論点が生じます。まず、不動産の賃料、業務委託料及び管理料、仕入れ及び外注の単価、貸付けの利息、使用料、人件費という経路のうち、どれが自社に当てはまるかを見定めます。
次に、計算書類及びその附属明細書、関連当事者との取引に関する注記、勘定科目内訳明細書、会計帳簿及びこれに関する資料により、取引の相手方、内容、金額を具体的に把握します。その上で正常収益力への引き直しを行い、会社側の算定書が同じ修正を行っているかを検証します。手続の欠落が判明した場合の会社法上の責任の追及は、実務上、価格の協議を進めるための材料として用いることが多くあります。税務上の議論とは切り分けて整理します。
示された金額に納得がいかないまま期間だけが経過することは、株主にとって不利に働きます。取引の内容を確かめる手段は法律上用意されていますので、まず資料を求めるところから着手されることをお勧めします。当事務所の取扱いと進め方は提示された株式売買価格が低すぎてお困りではありませんかに整理しています。事案により採り得る手段と見通しは異なりますので、個別にご相談ください。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。




