赤字であるが資産を有する会社の非上場株式に価値はあるか

この記事の位置付け

本ページは、非上場株式の適正価格に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。

▶ 会社が提示する株式買取価格はどのように検証するか

本ページは、会社から「赤字であるから株式に価値はない」と説明された場面に限り、赤字であることが評価の方法ごとにどう働くか、及び事業の継続と清算のいずれを前提とするかによって結論がどう変わるかを扱っています。時価純資産法の計算の技術そのものは非上場株式の時価純資産法を少数株主側からどう見るかに、会社を解散させて残余財産の分配を受けるという手続は会社を解散させて残余財産の分配を受けるという出口に譲っています。

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保有する非上場株式について会社に買取りを求めたところ、「当社は赤字であるから株式に価値はない」「額面で買い取るのが精一杯である」という説明を受けた、というご相談を数多く頂きます。他方で、その会社は本社の土地建物や賃貸用の不動産を保有し、借入れも多くはなく、役員報酬は毎年支払われています。決算書の末尾に記載された純資産の額は、会社が提示する金額の何十倍にもなっています。説明に納得がいかないのは当然です。

結論から申し上げます。赤字であることは、収益に着目する評価においては価格を押し下げる事情ですが、資産に着目する評価においてはそうではありません。そして、いずれの評価によるべきかは、その会社が事業を継続する見込みにあるのか、清算する見込みにあるのかという前提によって変わります。「赤字だから価値がない」という説明は、この前提を明らかにしないまま結論のみを述べたものです。前提を示すよう求めるところから、この場面の交渉は始まります。

もっとも、赤字であれば必ず価値があると申し上げるものではありません。負債の額が資産の時価を上回る場合には、株式に価値が認められないという結論に至ることもあります。本記事は、そうした場合を含め、何を確かめれば会社の説明の当否を判断することができるのかを、確認すべき資料の名称を挙げて具体的に述べます。

この記事の位置付けを先に申し上げます。本記事は、赤字であるが資産を有する会社の株式がどのように評価されるかという評価上の論点を扱います。会社を解散させて残余財産の分配を受けるという手続そのもの、すなわち解散の訴えの要件や清算の手続については、会社を解散させて残余財産の分配を受けるという出口において扱いますので、そちらをご覧ください。本記事では、解散の手続そのものではなく、「清算の蓋然性」が評価にどう影響するかという点に限って述べます。また、時価純資産法の計算の技術、収益還元法及びDCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)の仕組みそのものは、それぞれの解説の頁に譲ります。

目次
  1. 「赤字だから価値がない」という説明の何が問題か
    1. 結論だけが述べられ前提が示されていないこと
    2. どの評価の方法によったのかが示されていないこと
    3. 赤字の内容が示されていないこと
    4. まず前提を書面により求めること
  2. 赤字の内容を分けて見る
    1. 一時的な赤字と継続的な赤字
    2. 本業の損益と特別損益
    3. 役員報酬その他の裁量的な費用による赤字
    4. 減価償却及び引当てによる赤字
  3. 資産に着目する評価においては赤字は決定的ではありません
    1. 資産及び負債を時価により評価する考え方
    2. 不動産の帳簿価額と時価の乖離
    3. この評価が価格の下限を画するものとされる場合があること
    4. 負債の側で見落とされやすい項目
  4. 事業を継続する前提か、清算する前提かで結論が変わります
    1. 事業を継続する見込みがある場合
    2. 清算の蓋然性が高い場合
    3. 株主の側が清算を現実化させ得る立場にあるかどうか
    4. 2つの前提の使い分けが価格に与える影響
  5. 会社の説明に対する反論をどう組み立てるか
    1. 資産の内容を確かめるために求める資料
    2. 赤字の内容を確かめるために求める資料
    3. 算定書がある場合に確かめる4点
    4. 協議が調わない場合に進む手続
  6. この場面でしてはならない4つの対応
    1. 会社の説明をそのまま前提として判断すること
    2. 先に希望する金額を提示すること
    3. 記録に残らない形で協議を進めること
    4. 期間の制限を確かめないまま検討を続けること
  7. よくあるご質問
    1. 債務超過の場合はどうなるのでしょうか
    2. 会社に不動産しか残っていない場合はどうでしょうか
    3. 赤字が何年続くと評価に影響するのでしょうか
    4. 会社が資料を出さない場合はどうすればよいのでしょうか
    5. 会社の株価算定書に反論するには、こちらも算定書を用意する必要があるのでしょうか
    6. 額面の額で買い取ると言われていますが、応じる義務はあるのでしょうか
  8. 弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
  9. 本記事の根拠条文及び裁判例

「赤字だから価値がない」という説明の何が問題か

この説明は、一見すると筋が通っているように聞こえます。会社が儲かっていないのだから、その会社の株式に価値はない、という理屈です。しかし、株式の価格の算定という観点から見ますと、この説明には確かめるべき欠落が3つあります。順に申し上げます。

結論だけが述べられ前提が示されていないこと

株式の価格は、何らかの評価の方法を当てはめて算出されるものです。したがって「価値がない」という結論には、必ずその前に、どの評価の方法を、どの基準の日において、どのような資料に基づいて用いたのかという前提があります。会社の説明にその前提が含まれていない場合、その説明は算定の結果ではなく、交渉における立場の表明にすぎません。

実務においては、会社が株価算定書を取得していながら、その存在も内容も株主に示さないまま「価値がない」とだけ述べる例があります。まず、算定の根拠となる書面の有無を確かめてください。存在するのであれば、その提示を求めます。

どの評価の方法によったのかが示されていないこと

非上場株式の評価においては、収益に着目する方法、資産に着目する方法、配当に着目する方法、類似する会社と比較する方法が用いられます。赤字という事情は、このうち収益に着目する方法においては価格を大きく押し下げますが、資産に着目する方法においては、直接には価格を押し下げません。資産に着目する方法は、その時点で会社が何を持ち、何を負っているかを見るものだからです。

そのため、「赤字だから価値がない」という説明は、収益に着目する方法のみを用いたことを前提としています。なぜ資産に着目する方法を用いないのか、という点についての説明が伴っていなければ、その結論は一面的なものにとどまります。

赤字の内容が示されていないこと

赤字と一口に申しましても、その内容は一様ではありません。本業の売上総利益の段階から損失が生じている会社と、本業では利益が出ているものの役員報酬を支払った結果として最終の損益が赤字となっている会社とでは、意味が全く異なります。前者は収益力そのものの問題ですが、後者は利益をどこへ配分しているかという問題です。

また、固定資産の除却損や投資有価証券の評価損といった特別損失によって赤字となっている場合、その損失は将来にわたって繰り返されるものとは限りません。会社が「赤字である」と述べるときは、どの段階の損益を指しているのかを確かめる必要があります。

まず前提を書面により求めること

以上の3点は、いずれも口頭のやり取りでは記録に残りません。会社に対しては、書面により、次の事項の回答を求めてください。第1に、提示額の算定に用いた評価の方法。第2に、算定の基準となる日。第3に、算定に用いた資料の範囲。第4に、株価算定書その他の算定の根拠となる書面の有無及びその提示の可否です。

会社がこれらに答えないという事実自体が、その後の協議において意味を持ちます。回答を求めた事実と、回答が得られなかった事実を、日付とともに記録に残してください。提示額の検証の具体的な手順は、会社が提示する株式買取価格はどのように検証するかにおいて段階を追って述べていますので、あわせてご覧ください。会社の提示額が低すぎるとお感じの場合の当事務所の取扱いは、提示された株式売買価格が低すぎてお困りではありませんかに整理しています。

赤字の内容を分けて見る

会社の説明の当否を判断するためには、まず赤字の内容を分けて見る必要があります。決算書のうち、損益計算書を上から順に読み、どの段階で損失が生じているのかを確かめます。売上総利益、営業利益、経常利益、税引前当期純利益、当期純利益という段階のいずれで赤字に転じているかによって、評価上の意味は大きく変わります。

一時的な赤字と継続的な赤字

直近の1期のみが赤字であり、それ以前の期においては利益が計上されているのであれば、その赤字は一時の事情によるものである可能性があります。大口の取引先を失った、災害により営業を停止した、大規模な修繕を行ったといった事情です。この場合、直近の1期の損益のみを取り出して将来の収益力を否定することは、適切とは申せません。

これに対し、5期にわたって売上総利益の段階から損失が続いているのであれば、収益に着目する評価において価格が低く算出されることは避けられません。したがって、直近5期分の損益計算書を通して見ることが出発点となります。1期分のみを示されて判断してはなりません。

本業の損益と特別損益

営業利益は黒字であるにもかかわらず、当期純利益が赤字となっている場合、その差の原因は営業外損益又は特別損益にあります。固定資産の除却損、投資有価証券の評価損、貸倒れの損失といった項目です。これらは将来にわたって毎期生じるものとは限りませんので、特別損益の明細を求め、内容を確かめてください。

逆に、特別利益によって当期純利益が黒字となっている場合もあります。会社が「黒字である」と述べる場面では、この点が問題となります。いずれの場合も、本業の損益と本業以外の損益とを分けて見るという姿勢が必要です。

役員報酬その他の裁量的な費用による赤字

同族の会社においては、役員報酬の額が支配株主側の裁量によって定められます。その結果、本業では利益が出ているにもかかわらず、役員報酬を支払った後の最終の損益が赤字となることがあります。この場合、利益は消えたのではなく、配分先が変わっただけです。

役員報酬の内訳、支給を受けている者の氏名及び役職、支給の額の推移を確かめてください。勘定科目内訳明細書及び関連当事者との取引に関する注記が手掛かりとなります。なお、役員報酬の額それ自体が過大であることを理由として評価上の調整を求める場面の詳細は、別の記事において扱います。

減価償却及び引当てによる赤字

減価償却費、退職給付引当金の繰入額、貸倒引当金の繰入額は、いずれも当期に資金の流出を伴わない費用です。これらの計上によって赤字となっている場合、会社の資金の状況は、赤字の額から受ける印象ほどには悪くないことがあります。減価償却の明細及び引当金の明細を求め、資金の流出を伴う費用と伴わない費用とを区別してください。

以上を整理しますと、次の表のとおりとなります。

赤字の内容 価格への影響 確かめる資料
一時的な赤字(取引先の喪失、災害、大規模な修繕等) 将来の収益力を否定する事情とは直ちには申せません 直近5期分の損益計算書、販売費及び一般管理費の明細
継続的な赤字(売上総利益の段階からの損失) 収益に着目する評価においては価格を押し下げます 直近5期分の損益計算書、売上高及び売上総利益の推移
特別損失によるもの(除却損、評価損、貸倒れの損失) 本業の収益力とは区別して見ます 特別損益の明細、固定資産台帳
役員報酬その他の裁量的な費用によるもの 利益の配分先の問題であり、収益力そのものの問題とは異なります 役員報酬の内訳、勘定科目内訳明細書、関連当事者との取引に関する注記
減価償却及び引当てによるもの 資金の流出を伴わないため、資金の状況は赤字の額ほど悪くない場合があります 減価償却の明細、引当金の明細

資産に着目する評価においては赤字は決定的ではありません

ここからが本記事の中心です。資産に着目する評価は、会社が保有する資産と負担する負債とを時価により評価し直し、その差額をもって株主に帰属する価値とする考え方によります。損益計算書ではなく、貸借対照表を見る方法です。したがって、当期の損益が赤字であるという事情は、この方法による算定の結果を直接には左右しません。

資産及び負債を時価により評価する考え方

帳簿に記載された純資産の額は、取得したときの価額を基礎として積み上げられたものです。これに対し、資産に着目する評価においては、主要な資産及び負債を評価の基準となる日の時価に置き直します。土地、建物、有価証券、保険積立金といった項目について、帳簿価額と時価との差額を反映させるという作業です。この作業を経た純資産の額を発行済株式総数で除したものが、1株当たりの価額の目安となります。

この方法の技術的な内容、すなわち資産の側で問題となりやすい項目や負債の側の取扱いの詳細は、非上場株式の時価純資産法を少数株主側からどう見るか及び純資産方式とは 株式価格評価方法としての妥当性についてにおいて述べていますので、本記事では繰り返しません。本記事で申し上げたいのは、赤字であることがこの方法による評価を妨げるものではない、という一点です。

不動産の帳簿価額と時価の乖離

古くから事業を営んでいる会社においては、本社の土地が取得した当時の価額のまま帳簿に記載されていることが少なくありません。その場合、帳簿上の純資産の額は、実際に会社が保有する価値を大きく下回ります。会社が「純資産も少ない」と述べる場合、その根拠が帳簿上の数値にとどまっているのであれば、それは時価による評価とは異なるものです。

確かめるべき資料は、固定資産台帳、不動産の登記事項証明書、固定資産税の課税明細書、直近の不動産の鑑定評価に関する資料です。会社が近年に借入れを行っている場合には、金融機関に対して担保となる不動産の評価に関する資料が提出されていることがあります。内部留保及び含み益の一般的な考え方については、会社に不動産や多額の内部留保がある場合の非上場株式評価をご覧ください。

この評価が価格の下限を画するものとされる場合があること

裁判例においては、純資産を時価により評価する方法について、それが基準となる日における清算価値に近い評価方法であることを理由として、鑑定の評価額の最低額を画するものとして採用した例があります。札幌地方裁判所平成26年6月23日決定(平成24年(ヒ)第34号 株式買取価格決定申立事件)です。

もっとも、この判示は、当該事案において提出された鑑定の評価の枠組みに関するものです。純資産を時価により評価した額が、あらゆる事案において常に価格の下限となるという一般的な準則を示したものではありません。この点を取り違えて主張しますと、かえって主張全体の信用を損ないます。当事務所は、この判示を、資産に着目する評価を軽視すべきでないことの裏付けとして用いています。

負債の側で見落とされやすい項目

資産の側だけを見て喜んではなりません。負債の側にも、帳簿に現れにくい項目があります。実務上、確認を要するのは次の項目です。第1に、退職金の規程がありながら退職給付引当金が十分に計上されていない場合の、将来の退職金の負担です。第2に、会社が代表者又は関係する会社の借入れについて保証を負っている場合の、保証に係る債務です。第3に、係争中の事件がある場合の、その帰結に伴う負担です。第4に、未払いの残業代その他の未計上の債務です。

これらは、いわゆる簿外の債務として、資産に着目する評価の結果を引き下げる方向に働きます。会社側がこれらを主張してくることも当然に想定されますので、株主の側においても、注記表、勘定科目内訳明細書及び直近の税務申告書の添付書類を確かめ、その内容と金額の根拠を求めてください。金額の裏付けのない主張は、そのまま受け入れるべきではありません。

なお、役員に対する貸付金及び保険積立金は、資産の側に計上されていながら、その実質が問題となりやすい項目です。役員に対する貸付金については回収の見込みを、保険積立金については解約したときの返戻金の額を確かめます。いずれも、勘定科目内訳明細書及び保険会社が発行する解約返戻金の額の証明により確認することができます。

事業を継続する前提か、清算する前提かで結論が変わります

資産に着目する評価には、大きく2つの立て方があります。1つは、会社が事業を継続することを前提として、資産及び負債を通常の取引において成立する価額により評価するものです。もう1つは、会社が事業を止めて資産を処分することを前提として、処分によって実際に得られる価額により評価するものです。前者を時価純資産法、後者を清算処分時価純資産法と呼びます。前提の違いは、そのまま金額の違いとなって現れます。

事業を継続する見込みがある場合

会社が現に事業を営み、従業員を雇用し、取引先との関係を維持しているのであれば、評価は事業の継続を前提として行うことになります。この場合、資産は継続して用いられることを前提に評価され、直ちに換価することに伴う費用や値引きは考慮されません。赤字であっても事業が継続している以上、清算を前提とする評価を当然に採ることにはならないという点が重要です。

また、事業の継続を前提とする場合には、資産の含み益が実現していないという事情をどう扱うかという論点が生じます。含み益は、実際に資産を売却して初めて現金となるものであり、売却すればその利益に対して法人税等の負担が生じます。そこで、含み益の額に一定の割合を乗じた額を法人税等相当額として控除するという考え方があります。もっとも、事業の継続を前提とする限り資産を売却する予定はないのであるから控除すべきでないという考え方もあり、控除の要否及びその割合は事案ごとに争われます。この論点の詳細は、前掲の時価純資産法の記事及び会社に不動産や多額の内部留保がある場合の非上場株式評価に譲ります。

清算の蓋然性が高い場合

これに対し、事業が事実上停止しており、従業員もおらず、賃貸用の不動産から生じる収入のみで会社が維持されているといった場合には、清算を前提とする評価が問題となります。この前提によりますと、不動産は速やかに処分することを前提とした価額により評価され、処分に要する費用、清算に伴う人件費、法人税等の負担が控除されます。したがって、同じ資産であっても、事業の継続を前提とする場合より低い金額となるのが通常です。

もっとも、裁判所は、事業の継続性を疑うべき事情が認められない限り、清算を前提とする評価を採ることに慎重です。前掲の札幌地方裁判所平成26年6月23日決定(平成24年(ヒ)第34号 株式買取価格決定申立事件)は、純資産を時価により評価する方法は基本的に清算価値を算定する手法であることを指摘した上で、近い将来において清算される蓋然性が低い企業の株式の評価には妥当しないとしています。赤字であるという一事から直ちに清算を前提とする評価が導かれるものではない、ということです。

株主の側が清算を現実化させ得る立場にあるかどうか

清算を前提とする評価が採られるかどうかを考えるにあたっては、株主の側がその前提を現実のものとし得る立場にあるかどうかが問題となります。前掲の札幌地方裁判所の決定は、株主が自らの意思により会社を解散させて清算価値を現実化させる可能性が低いことを考慮しています。持株の割合が小さく、他の株主の賛同も得られない状況においては、清算価値を前提とする主張は説得力を欠くことになります。

逆に申しますと、解散を求め得る立場にあるかどうかは、評価の前提の議論に影響を及ぼし得ます。その手続の要件及び流れそのものは会社を解散させて残余財産の分配を受けるという出口において扱いますので、ご自身の持株の割合と他の株主の状況を確かめた上で、そちらをご覧ください。清算を経た場合の分配は株式の数に応じて行われます(会社法第504条第3項)。

2つの前提の使い分けが価格に与える影響

裁判所は、1つの評価の方法のみによるのではなく、複数の方法を併用することがあります。福岡高等裁判所平成21年5月15日決定(平成20年(ラ)第145号 株式売買価格決定に対する抗告事件)は、各評価方法にはそれぞれ一長一短があり、1つの方法のみを用いるとその短所が増幅されるとした上で、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法を3、純資産価額法を7の割合で併用するのが相当であるとしました。累積した赤字を抱えていた会社の事案において、資産に着目する評価に重い比重が置かれた例です。

また、広島地方裁判所平成21年4月22日決定(平成20年(ヒ)第1号、第2号、第6号、第8号 株式売買価格決定申立事件)は、会社法第144条第3項が定める「一切の事情」の考慮には、会社の収益の状況、1株当たりの収益又は配当の額、将来の事情の見込み等が含まれるとしています。赤字であることも、資産を有することも、いずれもこの「一切の事情」に含まれるものであり、一方のみを取り上げて結論を導くことは、この考え方に沿いません。

なお、収益に着目する評価としては収益還元法及びDCF法が、配当に着目する評価としては配当還元法が用いられます。赤字の会社においては、収益還元法及びDCF法は将来の利益又は資金の流れを前提とする方法であるため、そのままでは正の価値を導きにくく、無配であれば配当還元法による価額は極めて低い額にとどまります。だからこそ、資産に着目する評価が意味を持つのです。各方法の仕組みは非上場株式の収益還元法とはにおいて述べています。

説明のために、仮設の数値を挙げます。発行済株式総数10,000株、帳簿上の純資産の額5,000万円、賃貸用の不動産の帳簿価額2億円に対する時価4億円、当期純損失1,500万円、直近5期は無配という会社を想定します。

評価の前提 算定の考え方 1株当たりの試算
資産に着目する評価(法人税等相当額を控除しない場合) 帳簿上の純資産5,000万円に含み益2億円を加えた2億5,000万円を10,000株で除します 25,000円
資産に着目する評価(含み益に仮に37%を乗じた額を控除する場合) 2億5,000万円から7,400万円を控除した1億7,600万円を10,000株で除します 17,600円
収益に着目する評価(直近の損益をそのまま用いる場合) 当期純損失1,500万円を基礎とします 正の価値を導きにくい結果となります
配当に着目する評価(無配の場合) 配当の額を基礎とします 極めて低い額にとどまります
会社が提示した額 額面の額によるとの説明 500円

上記は説明のための仮設の数値であり、実際の事案における価格を示すものではありません。用いるべき評価の方法、法人税等相当額の控除の要否及びその割合、複数の方法を併用する場合の比重、少数株主であることに伴う調整は、いずれも事案ごとの事実関係及び提出された資料により異なります。本記事の記載は一般的な法制度及び実務の説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。

会社の説明に対する反論をどう組み立てるか

ここまで述べた内容を、実際の交渉においてどう用いるかを申し上げます。反論は、意見ではなく資料によって組み立てます。以下では、求めるべき資料と、その資料から何を確かめるかを対応させて示します。

資産の内容を確かめるために求める資料

会社の資産の実態を確かめるためには、次の資料を求めます。会社が任意に応じない場合には、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)及び計算書類等の閲覧の請求(会社法第442条第3項)という手段があります。前者については、請求の理由を具体的に明らかにする必要があり、会社が拒むことができる場合も定められています(同条第2項)。

求める資料 その資料から確かめる事項
固定資産台帳 土地及び建物の取得の時期と取得価額。帳簿価額と時価との乖離の程度
不動産の評価に関する資料(鑑定の書面、固定資産税の課税明細書、担保の評価に関する資料) 不動産の時価の水準。会社自身が別の場面で用いている評価の額
直近5期分の損益計算書 赤字が一時的か継続的か。どの段階から損失が生じているか
役員報酬の内訳 支給を受けている者と支給の額の推移。利益の配分先
特別損益の明細 当期の赤字が本業によるものか、本業以外の一時の事情によるものか
勘定科目内訳明細書 役員に対する貸付金、保険積立金、関係する会社に対する債権債務の内容
注記表及び税務申告書の添付書類 保証に係る債務、退職給付に係る負担その他の帳簿に現れにくい負担

赤字の内容を確かめるために求める資料

赤字の内容については、損益計算書のほか、販売費及び一般管理費の明細、減価償却の明細、引当金の明細を求めます。あわせて、直近5期の売上高、売上総利益、営業利益、当期純利益を一覧に並べてください。数値を並べるだけで、会社の説明がどの数値に依拠しているかが明らかになります。

また、関係する会社との間に取引がある場合には、その取引の条件が第三者との取引の条件と異なっていないかが問題となります。この点は評価に影響を及ぼしますが、その詳細は関係会社との取引を扱う別の記事に譲ります。本記事においては、勘定科目内訳明細書により取引の相手方と金額を把握するところまでを申し上げます。

算定書がある場合に確かめる4点

会社が株価算定書を提示した場合には、次の4点を確かめてください。この4点が明らかでない算定書は、価格の根拠としては弱いものです。

確かめる点 着眼
目的 何のために作成されたものか。税務上の申告のためのものか、当事者間の売買のためのものか
基準となる日 いつの時点の資産及び損益に基づくものか。直近の決算より古くないか
評価の方法 どの方法を用い、複数の方法を併用した場合はどのような比重によったか。資産に着目する方法を用いない場合、その理由が述べられているか
依拠した資料の範囲 会社から提供された資料のみによるものか。不動産の時価について独立した評価を経ているか

算定書の限界については、株価算定書があれば会社との価格交渉に勝てるのかにおいてさらに述べています。

協議が調わない場合に進む手続

譲渡制限の付された株式について株式譲渡承認請求を行い、会社が承認をしない場合には、会社又は指定買取人が当該株式を買い取ることになります。その際の売買価格は、まず当事者の協議により定めます。協議が調わないときは、株式買取通知を受けた日から20日以内に、裁判所に対して売買価格の決定を求める申立てをすることができます(会社法第144条第2項)。裁判所は、譲渡等承認請求の時における会社の資産の状況その他一切の事情を考慮して価格を定めます(同条第3項)。

この20日という期間は、経過すると戻りません。期間内に申立てをせず協議も調わない場合には、1株当たり純資産額に対象となる株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(同条第5項)。この額は法務省令の定めにより算定されるものであり、不動産の含み益が十分に反映されるとは限りません。期間の管理は、そのまま結論を左右します。手続のご案内は提示された株式売買価格が低すぎてお困りではありませんかにまとめています。

この場面でしてはならない4つの対応

最後に、この場面において、かえって不利に働く対応を4つ申し上げます。いずれも実際に生じている例です。会社との協議が既に始まっている場合の進め方は、提示された株式売買価格が低すぎてお困りではありませんかにも整理していますので、あわせてご覧ください。

会社の説明をそのまま前提として判断すること

「赤字だから価値がない」という説明を受けた段階で、資料を確かめないまま検討を打ち切ってしまう例があります。しかし、その説明が何を前提としているかは、ここまで述べたとおり、確かめてみなければ分かりません。帳簿上の純資産の額すら見ないまま判断することは、避けてください。

先に希望する金額を提示すること

会社の説明に納得がいかないあまり、こちらから先に希望する金額を伝えてしまう例があります。しかし、先に提示した金額は、その後の協議において上限として働きます。会社の資産及び損益の実態を把握するまでは、金額に触れないという方針を保ってください。

記録に残らない形で協議を進めること

電話や面談のみで協議を重ね、会社の説明が記録に残っていないという例があります。会社が述べた内容は、後に変わることがあります。求めた事項と回答の有無を、日付とともに書面に残してください。会社が資料の提示を拒んだという事実も、記録に残す価値があります。

期間の制限を確かめないまま検討を続けること

株式譲渡承認請求を行った後の手続には、期間の定めがあります。とりわけ、売買価格の決定の申立てについての20日という期間は短く、資料の検討をしているうちに経過してしまうことがあります。まず期間の起算点と満了の日を確かめ、その上で検討の順序を決めてください。

よくあるご質問

ご相談の際に多く頂くご質問に、順にお答えします。いずれも一般的な説明であり、具体的な結論は事案ごとの事実関係により異なります。

債務超過の場合はどうなるのでしょうか

資産を時価により評価してもなお負債の額が上回る場合には、株式に価値が認められないという結論に至ることがあります。もっとも、その判断は、帳簿上の数値ではなく時価により行う必要があります。帳簿上は債務超過であっても、不動産の含み益を反映すると債務超過ではなくなる会社は少なくありません。まず時価により確かめてください。

会社に不動産しか残っていない場合はどうでしょうか

事業が停止し、賃貸用の不動産のみが残っているという場合には、資産に着目する評価が中心となります。あわせて、清算を前提とする評価を主張し得るかどうかが論点となります。この場合、ご自身の持株の割合と、他の株主の意向を確かめることが出発点となります。

赤字が何年続くと評価に影響するのでしょうか

何年という一律の基準はありません。実務においては直近5期分の推移を見ることが多く、売上総利益の段階から損失が続いているかどうかが1つの目安となります。ただし、赤字の年数のみで結論が決まるものではなく、資産の内容とあわせて判断されます。

会社が資料を出さない場合はどうすればよいのでしょうか

会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)及び計算書類等の閲覧の請求(会社法第442条第3項)という手段があります。前者については請求の理由を具体的に明らかにする必要があり、会社が拒むことができる場合も定められています(同条第2項)。会社が資料を示さないという事実自体も、その後の手続において意味を持ちます。

会社の株価算定書に反論するには、こちらも算定書を用意する必要があるのでしょうか

必ずしも当初から必要というものではありません。まずは会社の算定書について前記の4点を確かめ、前提の当否を問うところから始めます。その上で、なお隔たりが大きい場合には、こちらの算定を用意することを検討します。順序を誤ると、費用のみが先に生じます。

額面の額で買い取ると言われていますが、応じる義務はあるのでしょうか

額面という考え方は、現在の会社法の下では株式の価値を示すものではありません。会社の提示額は、会社が一方的に定めた金額であり、交渉の出発点にすぎません。協議が調わない場合には、期間内に裁判所に対して売買価格の決定を求めることができます(会社法第144条第2項)。

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赤字であるが資産を有する会社の非上場株式について、会社から低い金額を提示されている方のご相談を、弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)がお受けします。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主側の代理人として、資料の取得、株式の価値の検討、会社との任意の買取交渉、必要に応じた裁判上の手続を行うものです。

ご相談の際には、会社から示された書面、株価算定書、直近3期分から5期分までの決算書、勘定科目内訳明細書、定款の写し、株主名簿の写しをご用意頂けますと検討が早く進みます。お手元にない場合でもご相談頂けます。会社に知られることなくご相談頂けます。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門4丁目3番1号 森トラスト城山トラストタワー17階
  • 代表弁護士 土屋 勝裕(東京弁護士会所属)

株式の売却に伴う課税の関係については、税理士にご確認ください。本記事の記載は一般的な法制度及び当事務所の取扱いの説明であり、個別の事案について一定の結果を保証するものではありません。

本記事の根拠条文及び裁判例

会社法 第144条第2項(売買価格の決定の申立て及び20日の期間)、同条第3項(譲渡等承認請求の時における会社の資産の状況その他一切の事情の考慮)、同条第5項(申立てがない場合の1株当たり純資産額による価格)、第433条第1項及び第2項(会計帳簿の閲覧謄写の請求及び会社が拒むことができる場合)、第442条第3項(計算書類等の閲覧の請求)、第504条第3項(残余財産の分配は株式の数に応じて行われること)

裁判例 札幌地方裁判所平成26年6月23日決定(平成24年(ヒ)第34号 株式買取価格決定申立事件。純資産を時価により評価する方法が基準となる日における清算価値に近い評価方法であることを理由に鑑定の評価額の最低額を画するものとして採用した判示、当該方法は基本的に清算価値を算定する手法であるため近い将来における清算の蓋然性が低い企業の株式の評価には妥当しないとした判示、及び株主が自らの意思により会社を解散させて清算価値を現実化させる可能性が低いことを考慮した判示)、福岡高等裁判所平成21年5月15日決定(平成20年(ラ)第145号 株式売買価格決定に対する抗告事件。各評価方法には一長一短があり1つの方法のみを用いると短所が増幅されるとして、ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法を3、純資産価額法を7の割合で併用するのが相当であるとした判示)、広島地方裁判所平成21年4月22日決定(平成20年(ヒ)第1号、第2号、第6号、第8号 株式売買価格決定申立事件。会社法第144条第3項の「一切の事情」の考慮に収益の状況、1株当たりの収益又は配当の額及び将来の事情の見込み等が含まれるとした判示)

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