株式買取代金の分割払いを提案された場合に確認すべき事項 株式が移る時期の定め方

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本記事は、中核ページ少数株主が非上場株式を会社に買い取ってもらう方法 手続と価格の下位に位置し、株式の買取りの価格について合意に至った後、代金の支払方法として分割払いを提案された場面に限って、株主の側が確認し、契約書に定めておくべき事項を扱います。買い取る株式の数そのものを分けるという場面(会社が保有株式の一部だけを買い取ると言ってきた場合に確認すべき事項)、自己株式の取得の手続及び分配可能額の算出の詳細、並びに供託の手続については、それぞれ別のページに整理しています。
あわせて、非上場株式譲渡契約書の書き方とフォーマット、会社や指定買取人からの譲渡制限株式の買取通知と売買契約の成立時期、自己株式取得で会社が少数株式を買い取る場合の会社法上の留意点、非上場株式を会社ではなく大株主に買い取ってもらう方法、株主名簿の名義書換請求とはをご覧ください。
会社又は大株主との間で、保有する非上場株式の買取りの価格については話が付いたにもかかわらず、いまになって「一括では支払えない」「3年から5年に分けて支払いたい」と言われて、判断に迷っておられる方は少なくありません。価格の交渉に長い時間を費やした後にこの話が出てまいりますので、ここで断れば全てが振り出しに戻るのではないかという不安から、内容を十分に確かめないまま承諾してしまう例が見受けられます。
分割払いに応ずること自体は、差し支えありません。会社が自己株式を取得する場合には財源に法律上の制約があり、大株主個人が買主となる場合には現実の資金繰りの制約があります。分割払いの提案には相応の理由があることが多いのです。問題は、応ずるかどうかではなく、応ずる場合に何を定めておくかにあります。ここを誤りますと、株式は既に相手方に移っているのに代金の残額は回収できないという、最も避けなければならない結果を招き得ます。
本記事は、代金の支払方法を分割とする場合に、株主の側が確認し、契約書に定めておくべき事項を扱います。株式が相手方に移る時期の定め方、支払が止まった場合に備える定め、担保の取り方、契約書に書く8つの事項、及び税務上あらかじめ確かめる事項の順に述べます。他方で、会社が保有株式の一部だけを買い取ると言ってきた場合、すなわち買い取る株式の数を分ける場合の対応は、別の記事において扱います。数を分ける場合と代金の支払を分ける場合とでは、確認すべき事項が異なりますので、前者については会社が保有株式の一部だけを買い取ると言ってきた場合に確認すべき事項をご覧ください。また、株式譲渡契約書の全体の書き方及び条項ごとの意味は非上場株式譲渡契約書の書き方とフォーマットに、会社又は指定買取人からの買取通知による売買契約の成立の時期は会社や指定買取人からの譲渡制限株式の買取通知と売買契約の成立時期に、それぞれ譲ります。本記事は、任意の交渉により価格が定まった場面を前提とします。供託の手続及び株主名簿の名義書換えの請求の手続そのものについては、別のページに整理しています。
なぜ分割払いが提案されるのか
分割払いの提案を受けたとき、株主の側が最初に行うべきことは、相手方が「支払えない」と言っているのか、「支払いたくない」と言っているのかを見分けることです。前者であれば、財源の制約を前提として、確実に回収するための仕組みを作る交渉になります。後者であれば、そもそも合意の内容そのものを見直す必要があります。両者は、確認すべき資料が異なります。
会社が買主である場合の財源の制約
会社が自己の株式を取得する場合には、株主に対して交付する金銭等の帳簿価額の総額が、その効力を生ずる日における分配可能額を超えてはならないものとされています(会社法第461条第1項)。特定の株主からの合意による取得は、同項第3号が掲げる、会社法第157条第1項の規定による決定に基づく取得としてこの制約を受けます。分配可能額は、剰余金の額を基礎として算出されるものであり、剰余金の額の算出方法は会社法第446条が定めています。
ここで重要なのは、分配可能額は、会社の預金の残高とは別の概念であるという点です。手元に現金があっても分配可能額が乏しい会社があり、その逆もあります。会社が「資金がない」と説明する場合、それが預金の不足を指すのか、分配可能額の不足を指すのかによって、採り得る対応が変わります。分配可能額が不足しているのであれば、そもそも一度に取得することが法律上できませんので、期を分けて取得する方法を検討することになります。預金の不足にとどまるのであれば、金融機関からの借入れ、大株主個人による買取り、又は担保の提供といった代替の手段を求める余地があります。なお、自己株式の取得の手続及び分配可能額の算出の詳細は、自己株式取得で会社が少数株式を買い取る場合の会社法上の留意点をご覧ください。
大株主個人が買主である場合の資金の事情
買主が会社ではなく大株主個人又は代表者個人である場合には、分配可能額の制約は働きません。制約となるのは、その方個人の資金と信用です。役員報酬から支払う、金融機関から個人として借り入れる、保有する不動産を売却するといった原資が想定されますが、いずれも会社の決算書からは分かりません。個人が買主となる場合には、会社が買主となる場合よりも、資力の裏付けを確かめる必要が高いと申し上げてよいと思われます。他方で、個人であれば連帯保証や個人所有の不動産への担保の設定を求めやすいという面もあります。大株主に買い取ってもらう方法の全体像は、非上場株式を会社ではなく大株主に買い取ってもらう方法に整理しています。
提案の理由を確かめる方法
理由を確かめるには、口頭の説明ではなく資料によることです。会社が買主である場合には、直近3期分の貸借対照表及び損益計算書、株主資本等変動計算書、並びに個別注記表を求めます。分配可能額の不足を理由とするのであればその算出の過程を書面により示すよう求め、預金の不足を理由とするのであれば資金繰りの見込みを示す書面を求めます。買主が個人である場合には、支払の原資を説明する書面を求め、借入れによるのであれば金融機関の内諾の有無を確かめます。
これらの求めに一切応じない場合には、分割払いに応ずるべきではないという判断もあり得ます。資料を示さないまま長期の分割払いを求めるのは、履行の意思又は能力に疑いがあることの徴表となり得ます。もっとも、非上場の同族会社では株主に財務の資料を示すこと自体に強い抵抗が示される例も多く、直ちに履行の意思がないと決め付けることも適当ではありません。求めた資料と、示された資料と、示されなかった資料とを、日付とともに記録に残しておいてください。
応ずるかどうかを判断する前に確かめる3点
第1に、支払の総期間です。3年を超える分割払いは、その間に相手方の資力が変動する危険が現実のものとなります。第2に、1回あたりの金額と相手方の年間の資金の余裕との関係です。年間の余裕を超える約束は、初めから履行が困難です。第3に、担保を提供する意思の有無です。担保を一切提供しないという態度は、それ自体が判断の材料となります。この3点を確かめた上で、なお進めるのであれば、次に述べる株式が移る時期の定め方の検討に入ります。買取りを断られた後の進め方を含めた全体の見通しについては、会社から株式の買取りを断られ、その後の進め方が分からずお困りの方へのご案内もあわせてご覧ください。
最も重要なのは株式が移る時期です
分割払いの交渉において、株主の側が最も強く意識しなければならないのは、株式が相手方に移る時期と、代金が支払われる時期とを一致させることです。株式を先に全部渡してしまいますと、株主としての地位を失いながら、手元には代金債権だけが残ります。これは、単に回収の手間が増えるという話ではありません。株主としての地位を失えば、株主総会における議決権も、計算書類の閲覧の請求も、会計帳簿の閲覧謄写の請求も、剰余金の配当を受ける権利も、いずれも失われます。相手方の内部の状況を知る手立てを失った状態で、数年にわたり支払を待つことになるのです。
交渉における立場も変わります。株式を保有している間は、株主として権利を行使され得る状態が続くこと自体が相手方の負担であり、この負担が支払を促す力として働きます。株式が移った瞬間に、この力は消滅いたします。株式は、代金の支払を確保するための最も有力な担保であると考えて差し支えありません。
代金の完済までは名義を移さないという定め方
最も安全な定め方は、代金の完済を停止条件として株式の譲渡の効力が生ずるものと定め、完済に至るまでは株主名簿の名義書換えを行わないこととするものです。売買の目的物の所有権を代金の完済まで売主に留めておく、いわゆる所有権留保に相当する取扱いです。この定め方によれば、支払が止まった場合であっても、株主としての地位は失われていません。既に受領した金銭の取扱いについて別に定めを置く必要はありますが、株式そのものを取り戻すための手続を要しないという点で、株主の側に大きな利点があります。
株式の譲渡は、株主名簿に記載又は記録をしなければ、株式会社その他の第三者に対抗することができないものとされています(会社法第130条第1項)。したがって、名義書換えを行わない限り、相手方は会社に対して株主であることを主張することができません。契約書には、代金の完済を確認した日から一定の期間内に、売主が名義書換えの請求に協力する義務を負うことを明記します。完済までは名義を移さないという定めと、完済後は速やかに協力するという定めとは、必ず一組で置いてください。前者だけを置きますと、完済後に手続が滞る原因となります。
先に名義を移す場合に必要となる担保
相手方が名義書換えを先に行うことを強く求める場合があります。会社が買主であれば自己株式として計上する会計上の処理の都合が、個人が買主であれば金融機関からの借入れのために株式を担保に入れる必要があることが、それぞれ理由として示されます。これらに理由がないとは申しませんが、その場合には、株式に代わる担保を確実に得ておかなければなりません。求めるべきものは、後述する不動産に対する担保の設定、代表者個人の連帯保証、及び強制執行認諾文言のある公正証書の作成です。これらを一切得られないまま先に名義を移すことは、避けるべきです。担保を得たとしても相手方が無資力となれば回収できない場合があり得ますので、担保があれば必ず回収できると申し上げることはできませんが、担保の有無によって結果が大きく分かれることは確かです。
株券が発行されている場合と発行されていない場合
定款に株券を発行する旨の定めがある会社では、株式の譲渡は、株券を交付しなければその効力を生じないものとされています(会社法第128条第1項)。この場合には、株券の交付の時期を代金の完済の時期と一致させるという、分かりやすい方法を採ることができます。契約書には、株券を完済と引換えに交付する旨を定め、それまでは売主が株券を保管することを明記します。株券を先に預けてしまうことのないよう、ご注意ください。
他方、株券を発行しない会社では、交付すべき物がありませんので、名義書換えを行うか否かが唯一の分岐点となります。実際には、定款に株券を発行する旨の定めがあるにもかかわらず株券が作成されていない会社が相当数あり、この場合には株券の交付を要するか否かに争いが生じ得ます。契約書に株券の不発行の事実を双方が確認する条項を置き、名義書換えの時期によって処理する旨を明記しておくことが安全です。定款及び登記事項証明書により、株券を発行する旨の定めの有無を必ず確認してください。
会社が買主である場合の名義の扱い
買主が会社自身である場合、取得された株式は自己株式となり、議決権を有しないものとして扱われます。ここで注意を要するのは、名義書換えが行われた時点で、株主としての権利は失われるという点です。会社が買主であるからといって、支払が確実になるわけではありません。むしろ、会社が買主である場合には、分配可能額の制約により、そもそも支払うことができない期が生じ得るという固有の危険があります。会社を買主とする分割払いにおいては、各回の支払の時期に分配可能額が確保されているかを確認する仕組みを、契約書に組み込んでおくことが望まれます。
次の表は、株式が移る時期の3つの定め方について、株主の側の危険と、相手方が受け入れる可能性とを整理したものです。実際の交渉では、第1の方法を求めた上で、相手方の事情に応じて第2の方法へ歩み寄るという順序を採ることが通例です。
| 定め方 | 内容 | 株主の側の危険 | 相手方が受け入れる可能性 |
|---|---|---|---|
| 1 完済まで移さない | 代金の完済を停止条件とし、完済まで名義書換えを行わない。株券発行会社では完済と引換えに株券を交付する | 小さい。支払が止まっても株主の地位を保持し、権利の行使を継続することができる | 相手方の会計上又は資金調達上の都合により難色を示される場合がある |
| 2 先に移して担保を取る | 名義書換えを先行させ、不動産への担保の設定、連帯保証及び公正証書により代金債権を保全する | 中程度。担保の価値が代金の残額に満たない場合、又は担保の対象に先順位の権利がある場合には回収できない部分が残り得る | 比較的高い。もっとも、担保の目的物を有しない相手方には応じ得ない |
| 3 先に移して担保を取らない | 名義書換えを先行させ、代金債権のみが残る | 大きい。株主の地位を失った上、支払が止まれば訴訟又は強制執行によるほかなく、相手方が無資力であれば回収の見込みが乏しい | 最も高い。相手方にとって負担がないため |
支払が止まった場合に備える定め
長期の分割払いにおいて、支払が予定どおりに完了しない事例は相応に生じます。契約書は、順調に進んだ場合を想定して作るものではありません。止まったときに何が起きるかを定めておくものです。ここに定めがないと、1回の遅滞が生じても、その回の分の請求しかできず、残りの支払期日が到来するのを待つほかないという事態に陥ります。
期限の利益を失わせる定め
分割払いは、各回の支払期日まで支払を猶予するものですから、買主は期限の利益を有しています。民法は、債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき、及び担保を供する義務を負う場合において供しないときに、期限の利益を主張することができないものと定めています(民法第137条)。しかし、これらは限られた場合にとどまります。1回の支払を怠っただけでは、法律上当然に期限の利益が失われるものではありません。そこで、契約書に期限の利益の喪失に関する条項を置く必要があります。
条項には、期限の利益を当然に失う場合と、催告の上で失わせることができる場合とを書き分けます。当然に失う場合としては、破産手続開始等の申立てがあったとき、手形又は小切手が不渡りとなったとき、及び強制執行又は滞納処分を受けたときを掲げ、買主が個人である場合には担保として提供した不動産を第三者に譲渡したときを加えます。「1回でも怠ったとき」という定め方は株主の側に有利ですが、相手方の抵抗も大きいため、実務上は「2回分に相当する額の支払を怠り、かつ、催告後14日以内に支払わないとき」といった折衷的な定め方が用いられます。なお、買主の側から期限の利益を放棄して繰り上げて支払うことは、相手方の利益を害しない限り可能です(民法第136条第2項)。
遅延した場合の損害金の定め
金銭債務の不履行による損害賠償の額は、原則として法定利率によって定まりますが、約定利率が法定利率を超えるときは約定利率によるものとされています(民法第419条第1項)。法定利率は、現在のところ年3%であり、3年ごとに見直されるものとされています(民法第404条)。したがって、遅延損害金の定めを置かなければ、遅延が生じても年3%相当額しか請求することができません。これでは、支払を遅らせることが相手方にとって不利益となりません。契約書には、年14.6%といった約定を置くことが通例です。
あわせて申し上げますと、分割払いの期間中の利息についても定めを置かないと、利息は発生しません。利息は、特約がなければ生じないものだからです。代金3,000万円を5年に分けて受け取る場合、無利息であれば、株主の側は5年分の運用の機会を失うことになり、実質的な値引きに応じたのと同様の結果となります。分割払いに応ずる交渉においては、利息を付す旨の定めを求めるか、これに応じられないのであれば代金の総額の引上げを求めるか、いずれかを検討してください。
契約を解除することができる場合の定め
債務の不履行があった場合、相当の期間を定めて履行の催告をし、その期間内に履行がないときは契約を解除することができます(民法第541条)。また、債務の全部の履行が不能であるとき等には、催告をすることなく解除をすることができます(民法第542条第1項)。もっとも、これらの規定だけを頼りにするのは適当ではありません。解除の要件をめぐる争いを避けるため、契約書において、解除をすることができる場合と、解除の意思表示の方法とを明記します。
解除の意思表示は到達の日を証することができる方法による必要がありますので、配達証明付きの内容証明郵便によることを定めておきます。また、期限の利益を失わせて残額の全部を請求するのであれば契約は存続し株式の譲渡の効力も維持されますが、解除をするのであれば契約は遡って効力を失い、株式は売主に戻ります。どちらが有利であるかは相手方の資力と株式の価値の変動によって異なりますので、契約書では両方の手段を確保しておき、実際に選ぶのは事態が生じた時点とするのが賢明です。
解除した場合に株式をどう戻すか
解除をした場合には、株式を売主に戻す必要があります。既に名義書換えが行われているときに相手方が任意に応じなければ、名義書換えを求める訴えを提起し、判決を得た上で手続を進めることとなり、相当の期間を要します。この点からも、代金の完済まで名義を移さない定め方に大きな利点があることが分かります。
また、既に受領した金銭の取扱いも定めておかなければなりません。解除により契約が遡って効力を失う以上、受領した金銭は原則として返還すべきものとなります。もっとも、支払が止まったことにより株主の側が被った損害の賠償と相殺する旨を定めることは可能です。「既払金は違約金として没収する」という定め方は、その額が過大であると評価される場合に効力を争われる余地がありますので、損害の賠償の予定として合理的な範囲にとどめることが安全です。次の表は、支払が止まった場合の金額の推移を示した数値例です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 前提条件 | 代金の総額3,000万円、60回の均等分割(1回50万円)、毎月末日限り支払、分割期間中の利息の定めなし、遅延損害金は年14.6%、期限の利益の喪失は催告後14日以内に支払がないときとする。うるう年を考慮せず1年を365日として計算し、税及び費用を考慮しない |
| 10回目までの経過 | 既払額500万円、残額2,500万円 |
| 11回目の支払を怠った場合 | 催告後14日を経過した時点で期限の利益を喪失し、残額2,500万円の全部について直ちに請求することができる |
| 遅延損害金(約定あり) | 2,500万円×年14.6%=年365万円。1日あたり1万円 |
| 遅延損害金(約定なし) | 法定利率年3%による場合、2,500万円×3%=年75万円。1日あたり約2,054円 |
| 1年間放置した場合の差 | 約定がある場合と法定利率による場合とで、年間290万円の差が生ずる |
この数値例から分かるとおり、遅延損害金の定めの有無は、回収の実効性に直結します。あわせて、消滅時効にもご注意ください。債権は、権利を行使することができることを知った時から5年間、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときは、時効によって消滅するものとされています(民法第166条第1項)。分割払いの各回の債権は、それぞれの支払期日から時効が進行します。支払が止まったまま何年も放置いたしますと、古い回の分から順に時効にかかる危険が生じます。支払が滞ったときは、速やかに催告その他の手段を採ってください。
担保をどのように取るか
代金の完済まで名義を移さないという定め方を採ることができれば、株式そのものが担保として機能いたしますので、別に担保を求める必要は乏しくなります。これに対し、先に名義を移すことを受け入れる場合には、株式に代わる担保を確保しなければなりません。以下に述べる手段は、いずれか1つで足りるというものではなく、相手方の資産の状況に応じて組み合わせて用いるものです。
買主の資産に対する担保
最も実効性が高いのは、不動産に対する抵当権又は根抵当権の設定です。買主が会社である場合には本社又は工場の敷地及び建物が、個人である場合には自宅が対象となり得ます。設定に際しては、必ず登記事項証明書を取得し、先順位の抵当権の有無と、その被担保債権の額を確認してください。金融機関の抵当権が先順位にある場合、不動産の価額から先順位の債権額を差し引いた残りの部分しか、実際の引当てとはなりません。固定資産税の課税明細書及び不動産業者による査定書により、おおよその価額を把握した上で判断します。
不動産以外では、買主が保有する他の会社の株式、売掛債権、及び定期預金に対する質権の設定が考えられますが、価値の変動が大きく、又は対抗要件の具備に手続を要しますので、実効性は劣ります。担保を設定する費用(登録免許税及び司法書士の報酬)の負担者も、契約書に明記してください。
保証人を求める方法
保証は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、保証人がその履行をする責任を負うものです(民法第446条第1項)。買主が会社である場合には、代表者個人に連帯保証を求めることが通例です。連帯保証人は、催告の抗弁及び検索の抗弁を有しませんので(民法第454条)、株主の側は、主たる債務者である会社に請求することなく、直ちに連帯保証人に対して請求することができます。単なる保証ではなく、連帯保証とすることを必ず求めてください。
もっとも、保証の効果は保証人の資力に依存しますので、連帯保証を得たからといって回収が確実になるものではありません。保証人となる方の資産の状況について、不動産の登記事項証明書及び直近の確定申告書の写しの提示を求めることが望まれます。
公正証書を作成しておくことの意味
公証人が作成した公正証書のうち、金銭の一定の額の支払等を目的とする請求について、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されているものは、債務名義となります(民事執行法第22条第5号)。これを強制執行認諾文言のある公正証書といい、実務では執行証書と呼ばれます。これを作成しておけば、支払が止まった場合に、訴訟を経ることなく、直ちに預金債権又は不動産に対する強制執行に着手することができます。訴訟には1年から2年を要することが通例ですので、この差は極めて大きいものです。
もっとも、注意を要する点があります。執行証書は、金銭の支払を目的とする請求について債務名義となるものであり、株式を返還させることについて債務名義となるものではありません。解除をして株式を取り戻す場面では役に立たず、この点からも完済まで名義を移さない定め方の優位は動きません。作成には当事者双方が公証役場に出頭する必要がありますので、契約の締結と同じ日に手続を済ませるよう段取りを組んでください。
担保を取ることが難しい場合の代替の方法
相手方が担保の目的となる資産を有しない場合には、株式の分割譲渡という方法が有力です。これは、代金の入金の都度、その入金額に対応する数の株式のみを譲渡し、名義書換えを行うというものです。例えば、1,000株を3,000万円で譲渡し、5回に分けて600万円ずつ支払を受けるのであれば、各回の入金の確認後に200株ずつ名義書換えを行います。支払が止まった時点で、株主は未だ譲渡していない株式を保有したままですから、損失は生じません。
この方法の利点は、担保の設定に要する費用も手続も不要である点にあります。難点は、名義書換えの手続を回数分だけ繰り返す負担が生ずること、及び持株比率が段階的に低下してまいりますので、途中で株主総会の招集の請求等の権利を行使することができなくなる場合がある点です。なお、買い取る株式の数そのものを分けるという交渉、すなわち会社が保有株式の一部だけを買い取ると言ってきた場合の対応は、本記事とは別の問題です。会社が保有株式の一部だけを買い取ると言ってきた場合に確認すべき事項をあわせてご覧ください。会社に買取りを断られた後の進め方については、株式の買取りを断られた後の対応のご案内に整理しています。
契約書に必ず書く8つの事項
分割払いに応ずる場合の契約書は、一括払いの場合の契約書に、支払方法に関する定めを加えるだけでは足りません。次の8つの事項は、いずれか1つでも欠けますと、支払が止まったときに対応を採ることができなくなる可能性があります。以下に一覧として掲げます。
- 株式の特定 会社の商号及び本店の所在地、株式の種類、株式の数、並びに発行済株式総数に占める割合を記載します。株券の発行の有無もあわせて記載します。
- 代金の総額と各回の額 総額を明記した上で、各回の額と回数を記載します。端数がある場合には、初回又は最終回のいずれで調整するかを明記します。
- 支払の期日と方法 各回の支払期日を「毎月末日限り」等により特定し、振込先の口座を記載します。振込手数料の負担者も明記します。
- 株式が移る時期 代金の完済を停止条件とするのか、契約の締結と同時に移転するのかを明記します。株券発行会社では株券の交付の時期を、それ以外では名義書換えの時期を、それぞれ特定します。
- 期限の利益の喪失 当然に喪失する場合と、催告を経て喪失させることができる場合とを書き分けます。催告の方法と期間も記載します。
- 遅延損害金 年率を明記します。定めを置かなければ法定利率によることとなります。分割期間中の利息を付すか否かも、あわせて明記します。
- 解除 解除をすることができる場合、意思表示の方法、及び解除の場合における既払金と株式の取扱いを記載します。
- 名義書換えの手続と協力の義務 いずれの当事者が、いつまでに、どのような手続を行うか、及び相手方がこれに協力する義務を負うことを記載します。会社に対する請求の手続の詳細は、株主名簿の名義書換請求とはをご覧ください。
次の表は、分割払いに固有の条項について、記載の骨子を示したものです。実際の文言は事案により異なりますので、そのまま用いることは避け、必ず個別にご検討ください。
| 条項 | 記載の骨子 |
|---|---|
| 代金及び支払方法 | 代金の総額を定め、これを何回に分割し、各回いくらを、いつまでに、どの口座に振り込む方法により支払うかを定める。振込手数料は買主の負担とする旨を付す |
| 株式の移転の時期 | 本件株式の譲渡は、代金の全額の支払を停止条件として、その効力を生ずる旨を定める。売主は、完済の日から2週間以内に、名義書換えの手続に協力する旨を付す |
| 期限の利益の喪失 | 買主が2回分に相当する額の支払を怠り、催告後14日以内に支払わないとき、又は破産手続開始の申立てその他の事由が生じたときは、当然に期限の利益を失い、残額を直ちに支払う旨を定める |
| 遅延損害金 | 買主が支払を怠ったときは、支払期日の翌日から支払済みまで、年14.6%の割合による遅延損害金を支払う旨を定める |
| 解除 | 期限の利益の喪失の事由が生じたときは、売主は催告をすることなく本契約を解除することができる旨を定め、解除の意思表示は配達証明付内容証明郵便による旨を付す |
| 連帯保証 | 連帯保証人は、買主が本契約に基づき負担する一切の債務について、買主と連帯して履行の責任を負う旨を定める |
契約書の案が整いましたら、次の点検表により、8つの事項が全て記載されているかを確かめてください。1つでも「記載なし」となる項目があれば、署名又は記名押印の前に補ってください。
| 番号 | 点検の項目 | 確認の着眼点 |
|---|---|---|
| 1 | 株式の特定 | 商号、株式の種類、株式の数、株券の発行の有無が記載されているか |
| 2 | 代金の総額と各回の額 | 総額と各回の額の積が総額と一致し、端数の調整の方法が明記されているか |
| 3 | 支払の期日と方法 | 各回の期日が特定され、振込先と手数料の負担者が記載されているか |
| 4 | 株式が移る時期 | 完済を条件とするか否かが一義的に読み取れるか。名義書換えの時期が特定されているか |
| 5 | 期限の利益の喪失 | 喪失の事由と催告の要否が明記され、残額の全部を請求することができると読めるか |
| 6 | 遅延損害金 | 年率が明記されているか。分割期間中の利息の有無が明記されているか |
| 7 | 解除 | 解除の事由、意思表示の方法、既払金及び株式の取扱いが記載されているか |
| 8 | 名義書換えの協力 | 誰が、いつまでに、何を行うかが特定され、協力の義務が明記されているか |
税務上あらかじめ確かめる事項
分割払いに応ずる場合、法律上の手当てと同じくらい重要でありながら、見落とされやすいのが税務の取扱いです。以下に述べるとおり、代金を受け取る時期と、課税を受ける年分とは、必ずしも一致いたしません。当事務所は税務の判断を行う立場にありませんので、以下は一般的な考え方のご紹介にとどめ、具体的な取扱いは必ず税理士にご確認ください。
譲渡の時期と課税の年分の関係
株式の譲渡による譲渡所得について、収入すべき時期は、原則としてその資産の引渡しがあった日によるものとされ、納税者の選択により、譲渡に関する契約の効力が発生した日によることも認められる取扱いとなっています。すなわち、代金を実際に受け取った日を基準とするものではありません。その結果、契約を締結した年に代金の全額について課税を受けながら、手元に入るのは初年度分だけであるという事態が生じ得ます。5年に分けて受け取る合意をしたにもかかわらず、初年度に納税の資金を用意しなければならないことになりかねません。
この点は、分割の回数と期間を決める段階であらかじめ確認しておくべき事項であり、納税の資金を確保するため初回の支払額を大きくするという交渉が有効な場合があります。株式が移る時期の定め方によっても取扱いが変わり得ますので、契約書の案そのものを税理士にご覧いただくことをお勧めいたします。
代金の一部が回収できなくなった場合の取扱い
支払が途中で止まり、残額の回収ができなくなった場合に、既に納めた税がどのように扱われるかも、あらかじめ確かめておくべき事項です。回収することができなくなった金額について、一定の要件のもとに課税上の調整を行う仕組みが設けられていますが、その適用の可否は、回収不能の事実をどのように立証するかによって左右されます。相手方に対する催告の記録、強制執行を試みた記録、及び相手方の資産の状況に関する資料は、この場面でも意味を持ちますので、必ず保存してください。
確かめるべき相手と、確かめる時期
確かめるべき相手は、税理士です。非上場株式の譲渡は、譲渡所得の課税のほか、買主が会社である場合のみなし配当の取扱い、及び価格が時価と乖離する場合の取扱いなど、判断を要する点が複数あります。当事務所は、法律上の手当てについて助言いたしますが、税額の計算及び申告の要否については判断を行いません。確かめる時期は、契約書に署名又は記名押印をする前です。締結の後では、分割の回数も支払の時期も変更することができません。契約書の案、株式の取得の経緯を示す資料、及び直近の決算書を持参して、ご相談ください。
よくあるご質問
分割払いの提案を受けた株主の方から、実際にお寄せいただくことの多いご質問について、順にお答えいたします。いずれも一般的な考え方をお示しするものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
分割払いを断ってよいのでしょうか
断って差し支えありません。株主の側に、分割払いを受け入れる法律上の義務はありません。もっとも、断った結果として交渉が振り出しに戻る可能性はありますので、直ちに断るのではなく、担保の提供、連帯保証、及び期間の短縮を条件として応ずる余地があると伝え、相手方の対応を見るという進め方が現実的です。断ることができるという前提を持って交渉に臨むことが、条件を改善する力になります。
何回までであれば応じてよいのでしょうか
一律の基準はありませんが、担保を得ていない場合には、1年以内かつ4回程度までにとどめることをお勧めいたします。担保を得た場合には3年程度まで、株式の分割譲渡による場合には5年程度までが一つの目安となります。期間が長くなるほど、相手方の資力の変動、担当者の交代、及び資料の散逸といった危険が高まるためです。
利息を求めることはできるのでしょうか
求めることができます。分割払いは、本来直ちに受け取ることができる金銭の受領を先に延ばすものですから、その対価として利息を求めることは、交渉上も筋の通った要求です。ただし、利息は特約がなければ発生いたしませんので、契約書に明記しなければ、後から請求することはできません。利息の定めに応じられないと言われた場合には、代金の総額の引上げを求めるという方法もあります。
会社が支払を止めた場合、どうなるのでしょうか
期限の利益の喪失に関する定めがあれば、残額の全部について直ちに請求することができます。定めがなければ、遅滞となった回の分しか請求することができません。会社が買主である場合には、分配可能額の不足を理由として支払うことができないという事態が生じ得ます。この場合、直ちに催告を行い、応答がなければ強制執行認諾文言のある公正証書に基づく強制執行、又は訴訟の提起を検討いたします。放置いたしますと時効の問題が生じますので、早期にご相談ください。
既に名義を移してしまいました。今からできることはありますか
あります。まず、支払が遅れていない段階であっても、追加の担保の提供、連帯保証人の追加、及び強制執行認諾文言のある公正証書の作成を求める交渉を行うことができます。相手方に履行の意思があるのであれば、応じられる場合があります。次に、支払が既に滞っているのであれば、内容証明郵便による催告を行い、期限の利益の喪失を主張した上で、相手方の資産を調査いたします。時間の経過は不利にしか働きませんので、速やかにお動きください。会社から株式の買取りを断られ、その後の進め方が分からずお困りの方は、株式の買取りを断られた後の対応のご案内をご覧ください。
公正証書は必ず作成すべきでしょうか
代金の完済まで名義を移さない定め方を採ることができるのであれば、必須とまでは申し上げません。これに対し、先に名義を移す場合には、作成することを強くお勧めいたします。訴訟を経ることなく強制執行に着手することができる利益は大きく、費用に見合うものです。ただし、株式を取り戻すことについては債務名義となりませんので、その点はご留意ください。
まとめ
株式の買取代金について分割払いを提案された場合、応ずること自体は差し支えありません。会社が買主であれば分配可能額による財源の制約が、個人が買主であれば資金の事情が、それぞれ背景にあることが多いからです。もっとも、代金の完済までは株式の名義を移さないこと、又はこれに代わる担保を得ておくこと、及び支払が止まった場合に直ちに残額の全部を請求することができる定めを置くことは、不可欠です。これらを欠いた契約は、株主としての地位を失った上で代金を回収することができないという結果を招き得ます。
実務上の要点をまとめますと、第1に、提案の理由を資料により確かめること、第2に、株式が移る時期と代金が支払われる時期とを一致させること、第3に、期限の利益の喪失と遅延損害金の定めを置くこと、第4に、連帯保証、不動産に対する担保の設定、及び強制執行認諾文言のある公正証書により保全を図ること、第5に、契約書に署名又は記名押印をする前に税理士にご確認いただくこと、の5点です。担保を得たとしても回収できない場合があり得ますので、必ず回収することができると申し上げることはできませんが、これらの手当ての有無によって結果が大きく分かれることは確かです。契約書の案が整いましたら、締結の前に、一度ご相談ください。
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