非上場株式を相続したが会社の決算書を持っていない場合

非上場株式を相続したものの、会社の決算書を見たことがない、会社に問い合わせても応じてもらえない、というご相談は多くいただきます。株式の価値が分からなければ、保有を続けるか売却を検討するかの判断もできません。

もっとも、株主には、会社の資料を求める法的な手段が用意されています。しかも、その手段は資料の種類によって要件が異なります。本稿では、相続人が株主として資料を入手する方法を、根拠条文とその要件に即して整理いたします。

まず確認すべきは株主としての地位です

相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した場合には、会社の承認を要せずに名義書換えを請求することができます(会社法第134条第4号)。名義書換えの請求は、原則として株主名簿に記載された者と共同してすべきものとされていますが、一般承継の場合には、その事実を証する資料を提供して請求し得るものとされています(会社法第133条第2項、会社法施行規則第22条第1項)。

もっとも、遺産分割が終了するまでの間、相続財産に含まれる株式は共同相続人の準共有に属します。この場合、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、会社に対してその者の氏名又は名称を通知しなければ、原則として株式についての権利を行使することができません(会社法第106条)。権利行使者の指定については、最高裁判所平成27年2月19日第一小法廷判決が、共有に属する株式についての議決権の行使は、特段の事情のない限り、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられる旨を判示しています。

したがって、遺産分割が未了の段階では、共同相続人間で権利行使者を定めて会社に通知したうえで請求することを検討する必要があります。会社が資料の開示に応じない理由が、この点にある場合も少なくありません。まずは、株主名簿の記載と遺産分割の状況を確認いたします。

計算書類等の閲覧謄写には持株数の要件がありません

株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも、計算書類等について、書面の閲覧の請求、謄本又は抄本の交付の請求等をすることができます(会社法第442条第3項)。この請求に持株数の要件はありません。1株のみを保有する株主であっても請求することができます。

計算書類等は、定時株主総会の日の1週間前(取締役会設置会社にあっては2週間前)の日から5年間、本店に備え置かなければならないものとされています(会社法第442条第1項)。支店には、その写しを3年間備え置くものとされています(同条第2項)。したがって、過去の一定期間分について請求することが可能です。

なお、謄本又は抄本の交付を請求する場合には、会社の定めた費用を支払う必要があります(会社法第442条第3項ただし書)。まずはこの請求により、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、個別注記表及び事業報告並びにこれらの附属明細書の内容を確認することが、実務上の出発点となります。

会計帳簿の閲覧謄写請求には持株数の要件があります

これに対し、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写を請求することができるのは、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主に限られます(会社法第433条第1項)。定款でこれを下回る割合を定めることは可能です。

この請求は、請求の理由を明らかにしてしなければなりません(会社法第433条第1項後段)。また、会社は、法定の拒絶事由に該当する場合には請求を拒むことができます(会社法第433条第2項)。拒絶事由には、株主の権利の確保又は行使に関する調査以外の目的による請求、会社の業務の遂行を妨げ株主の共同の利益を害する目的による請求、請求者が会社と実質的に競争関係にある事業を営む場合等が定められています。

計算書類等が集計された結果であるのに対し、会計帳簿は個々の取引の記録に及びます。役員報酬の水準、関係会社との取引の内容、資産の取得の経緯といった事項は、会計帳簿の水準で確認することになります。要件と拒絶事由の双方を検討する必要がありますので、請求の理由の記載を含め、慎重な準備を要します。

そのほかに確認できる資料

株主が確認し得る資料は、計算書類等と会計帳簿に限られません。実務上は、次の資料も併せて確認いたします。

定款については、株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも閲覧の請求等をすることができます(会社法第31条第2項)。譲渡制限の内容、承認機関、相続人等に対する売渡しの請求の定めの有無は、いずれも定款により確認いたします。

株主名簿については、株主及び債権者は、請求の理由を明らかにしたうえで閲覧謄写を請求することができます(会社法第125条第2項)。持株比率の確認に必要です。株主総会議事録については、株主は営業時間内はいつでも閲覧謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。取締役会議事録については、株主はその権利を行使するため必要があるときに請求することができますが、監査役設置会社等においては裁判所の許可を要します(会社法第371条第2項、第3項)。

会社は、定時株主総会の終結後遅滞なく、貸借対照表(大会社にあっては貸借対照表及び損益計算書)を公告しなければなりません(会社法第440条第1項)。官報又は日刊新聞紙による公告のほか、電子公告による場合もあります。また、商業登記の登記事項証明書により、資本金の額、役員の構成、発行可能株式総数、株式の譲渡制限に関する定めを確認することができます。これらは会社に請求することなく取得できる情報です。

請求する資料と要件の一覧

資料 根拠条文 持株数の要件 主な留意点
計算書類等(貸借対照表、損益計算書等) 会社法第442条第3項 なし 本店に5年間、支店に写しを3年間備置き(同条第1項、第2項)。謄本等の交付には会社の定めた費用を要する
会計帳簿又はこれに関する資料 会社法第433条第1項 総株主の議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上 請求の理由を明らかにする必要がある。法定の拒絶事由がある(同条第2項)
定款 会社法第31条第2項 なし 譲渡制限、承認機関、相続人等に対する売渡しの請求の定めを確認する
株主名簿 会社法第125条第2項 なし 請求の理由を明らかにする必要がある。法定の拒絶事由がある(同条第3項)
株主総会議事録 会社法第318条第4項 なし 本店に10年間、支店に写しを5年間備置き(同条第2項、第3項)
取締役会議事録 会社法第371条第2項、第3項 なし 権利行使のため必要があるとき。監査役設置会社等では裁判所の許可を要する
貸借対照表の公告 会社法第440条第1項 株主でなくても確認可能 官報、日刊新聞紙又は電子公告による
登記事項証明書 商業登記による 株主でなくても取得可能 資本金の額、役員、譲渡制限の定め等を確認できる

資料がそろわない段階でも検討できること

すべての資料がそろうまで何もできないというわけではありません。相続の経緯、被相続人が保有していた株式数、会社の事業内容、他の株主の構成といった事情が分かるだけでも、採り得る方法の見当をつけることは可能です。

また、資料の請求そのものが目的化しないよう注意が必要です。株主としての情報取得の権利は、株式の価値を把握し、保有又は売却の判断をするための手段です。どの資料をどの順序で求めるかは、最終的に何を目指すかによって異なります。

なお、会社が資料の開示に応じない場合には、閲覧謄写を求める法的手続を検討することになります。この場合、名義書換えの完了、権利行使者の通知(会社法第106条)、持株比率の要件といった前提の充足が争点となることがありますので、事前の整理が重要です。

法的手続としては、閲覧謄写を求める訴えの提起のほか、事案によっては民事保全法上の仮の地位を定める仮処分の申立てが用いられることがあります(民事保全法第23条第2項)。もっとも、これらの手続には相応の期間と費用を要します。まずは、請求の根拠となる条文と請求の対象を明示した書面により請求を行い、会社の対応を確認することから始めるのが通常です。会社が拒絶する場合には、その理由を書面で明らかにするよう求めることも考えられます。拒絶の理由が明らかになりますと、争点が絞られ、その後の手続の見通しも立てやすくなります。

よくあるご質問

質問1 会社に決算書の写しを送るよう求めましたが、無視されています。

計算書類等の閲覧謄写の請求は、会社の営業時間内に本店等において行うものとされています(会社法第442条第3項)。まずは、この請求であることを明示したうえで、日時を指定して請求する方法が考えられます。それでも応じられない場合には、法的手続を検討することになります。

質問2 持株比率が100分の3に満たない場合、何も見ることができないのですか。

会計帳簿の閲覧謄写請求には100分の3以上の要件がありますが(会社法第433条第1項)、計算書類等の閲覧謄写には持株数の要件がありません(会社法第442条第3項)。定款、株主名簿、株主総会議事録についても同様です。まずは持株数の要件のない資料から確認いたします。

質問3 遺産分割が終わっていない状態でも請求できますか。

遺産分割が終了するまでは株式は共同相続人の準共有に属し、権利行使者を定めて会社に通知しなければ原則として権利を行使することができません(会社法第106条)。共同相続人間で権利行使者を定めることができるかどうかにより、採り得る方法が変わります。

質問4 資料を見た結果、株式の価値がほとんどないと分かった場合はどうなりますか。

その場合も、保有を続けることの負担、次の相続における取扱い、会社との関係をどう整理するかという検討は残ります。価値の多寡にかかわらず、事実関係を確認したうえで方針を決めることに意味があります。

交渉手法の詳細を開示していないことについて

当事務所では、非上場株式・少数株式について、当初は株式買取りに消極的であった会社又は関係者との交渉を行い、任意の株式買取りに至る案件を取り扱っています。もっとも、会社が株式買取りに応じるか否かは、株主構成、会社の財務状況、株式価値、株主間の従前の経緯、会社支配権、相続・事業承継の状況その他の事情によって異なります。どのような事情を踏まえ、どのような順序及び方法で会社に資料を求め、また交渉するかは、当事務所が個別案件の経験を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは具体的な交渉手法の詳細を開示していません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

相続した非上場株式について会社の資料が得られない場合には、弁護士法人M&A総合法律事務所にご相談ください。

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ご相談の際は、相続関係の分かる資料、株主名簿の写し、定款、相続税の申告書、会社との従前のやり取りの記録をお持ちいただけますと検討が進めやすくなります。決算書その他の資料が一切お手元になくてもご相談いただけます。むしろ、資料がない状態からどのように情報を得るかが、ご相談の中心となる場面です。

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