会社がM&A又は株式上場を予定している場合に少数株主が採るべき対応

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本ページは、非上場株式・少数株式の売却に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
▶ 少数株主が非上場株式を会社に買い取ってもらう方法 手続と価格
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保有しておられる非上場株式について、会社又は支配株主から買取りの打診を受けておられるのではないでしょうか。これまで何年も株式の話など出なかったのに、ある時期を境に、会社が急に買取りを進めようとし始めた。示された金額は相続税の評価額を根拠とするものであり、どのような資料に基づき、どのような方法で算定したのかという説明はないままである。そうしたご相談は、決して珍しいものではありません。
会社が買取りを急ぐ理由の1つに、会社自身が第三者への売却、すなわちM&Aを準備している、あるいは株式上場を準備しているという事情があります。会社の側は、その予定を当然に知っています。他方、少数株主の側は、そのような予定があるのかどうかすら知らされていません。価格の協議に必要な会計帳簿その他の資料も、すべて会社の側にあります。この情報の偏りが、価格の協議を株主にとって不利なものといたしています。
本記事は、会社自身がM&A又は株式上場を予定していると思われる局面において、少数株主が何を資料により確かめ、どの手続を、どの順序で用いるべきかを整理するものです。他方、相続税評価の見直しの内容そのもの、相続税評価額と売買価格が異なる理由の一般論、会社が提示する価格の検証の手順、株価算定書の種類と裁判手続における位置付け、スクイーズアウトの手法ごとの対抗手段、及び組織再編に反対する株主の株式買取請求権の行使の手順そのものについては、本文中でそれぞれの解説のページをご案内いたします。あわせて申し上げますと、本記事は法律上の手段と情報の取り方を述べるものであり、株式を保有し続けることの当否その他の投資の判断について助言を申し上げるものではありません。
会社が買取りを急ぎ始めたときに何が起きているか
長く動きのなかった会社が、ある時期から株式の買取りを進めようとし始めるとき、その背景には会社の側の事情があります。少数株主の側からは、その事情が見えません。まず、どのような事情が考えられるかを整理いたします。以下に掲げるものは、あくまで典型的な類型であり、実際にいずれに当たるかは、資料により確かめるほかありません。推測のまま話を進めることは、価格の協議において最も避けるべきことです。
第三者への売却の準備という場合
会社の株式の全部又は大部分を第三者に譲り渡す取引を進める場合、買主となる者は、株主が分散したままの状態を嫌います。買主は、取得後に議決権の全部を確保したいと考えるのが通常であるためです。そこで、取引の前に少数株主の株式を集約しておこうという動きが生じます。この場合、会社又は支配株主は、買主との間で想定している金額を知っているにもかかわらず、少数株主に対しては相続税の評価額を根拠とする金額を示す、という状況が生じ得ます。
この局面に特有の兆候として、次のようなものがあります。株主名簿の記載事項の確認を求められること、株券の保管状況を尋ねられること、定款の変更や種類株式の発行について株主総会が開かれること、役員の構成が短期間に変わること、そして、これまで応答のなかった会社から突然に連絡があることです。いずれも単独では決め手になりませんが、複数が重なる場合には、会社の側で何らかの取引が動いていることを疑う手がかりとなります。
株式上場の準備という場合
株式上場を準備する場合にも、株主構成の整理が行われます。上場の審査においては、株主の構成、関係会社との取引、内部管理体制その他が確認されるため、会社は事前に整理を進めようといたします。もっとも、ここで強く申し上げておかなければならないことがあります。上場の予定があるからといって、株式が必ず高く売れるようになるわけではありません。
理由は3つあります。第1に、上場の準備は途中で中止されることが少なくありません。市況、業績、審査の結果その他の事情により、予定が実現しないことは実際にあります。第2に、上場が実現した場合であっても、上場前から株式を保有していた株主については、一定期間にわたり譲渡が制限される取扱いがされることがあります。すなわち、上場したその日に自由に売却できるとは限りません。第3に、上場後の株価は市場の需給により定まるものであり、あらかじめ見込むことはできません。したがって、上場の予定は、価格を検討するうえで考慮し得る事情の1つではありますが、それ以上のものではありません。
支配株主の相続の準備という場合
会社自身の取引ではなく、支配株主個人の相続の準備として株式の集約が進められる場合もあります。支配株主の側で、次の世代に議決権を集中させておきたい、あるいは相続税の負担を見越して株式の分布を整理しておきたいという事情がある場合です。この場合、少数株主に示される金額は、支配株主個人の税務上の都合を前提としたものとなりがちであり、会社法上の公正な価格とは別の考慮に基づくものとなります。
なお、相続により譲渡制限のある株式を取得した者に対しては、会社が定款の定めに基づき売渡しを請求してくることがあります(会社法第174条、第176条)。この請求がされた場合において協議が調わないときは、請求の日から20日以内に、裁判所に対し売買価格の決定を申し立てることができます(同法第177条第2項)。期間の制限がある手続ですので、書面を受け取った日を必ず記録してください。
急ぎ始めた理由を推測ではなく資料により確かめる方法
以上の3つの類型は、いずれも推測にすぎません。少数株主が採るべきは、推測を確信に変えることではなく、資料により事実を確かめることです。具体的には、次の順序で進めます。第1に、登記事項証明書を取得して、役員の変動、資本金の額の変動、定款の定めの変更、支店や目的の変更を確認します。登記事項証明書は、株主でなくても誰でも取得することができますので、最初に着手すべき資料です。
第2に、計算書類等の閲覧を請求して、直近の業績と純資産の状況を確認します。第3に、持株比率の要件を満たす場合には、会計帳簿の閲覧謄写を請求して、費用の支出の内容を確認します。上場の準備や第三者への売却の準備が進んでいる場合、監査、法律事務、証券に関する助言その他の費用が計上されていることがあります。第4に、株主総会議事録及び取締役会議事録の閲覧により、決議の経過を確認します。これらの手段については、次の大見出しの後に詳しく述べます。
会社の予定は株式の価値にどう影響するか
会社がM&A又は株式上場を予定していることは、株式の価格にどのように影響するのでしょうか。結論から申し上げますと、それは考慮され得る事情の1つですが、当然に価格を引き上げるものではありません。以下、法律上の枠組みに即して整理いたします。
売買価格の決定において考慮される「一切の事情」
譲渡制限のある株式について、株主が会社に対し株式譲渡承認請求をし(会社法第136条、第138条)、会社が承認をせずに会社又は指定買取人が買い取ることとなった場合において、価格の協議が調わないときは、株主又は会社は、裁判所に対し売買価格の決定を申し立てることができます(同法第144条第2項)。この場合において、裁判所は、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮して、売買価格を定めるものとされています(同条第3項)。
この「一切の事情」という文言は、極めて広いものです。会社の資産状態はもとより、収益の状況、1株当たりの収益又は配当の額、同種の株式の取引の実例、そして将来の事情の見込みまでが、これに含まれ得ます。この点について、広島地方裁判所平成21年4月22日決定(平成20年(ヒ)第1号、第2号、第6号、第8号 株式売買価格決定申立事件)は、会社法第144条第3項にいう一切の事情には、収益の状況、1株当たりの収益又は配当の額、将来の事情の見込み等が含まれる旨を判示しています。
将来の事情がどこまで考慮されるか
もっとも、将来の事情であれば何でも考慮されるというものではありません。裁判所が価格を定める基準の時は、譲渡等承認請求の時です。したがって、その時点において客観的に予測することができた事情であるかどうかが問われます。会社の内部で漠然と検討されていたにとどまる事柄や、その後に初めて生じた事情は、考慮の対象とされにくいと考えられます。
ここから導かれる実務上の帰結は、次のとおりです。会社の予定を価格の主張に用いようとするのであれば、その予定が基準となる時点において既に具体化しており、かつ資料によって裏づけられることが必要になります。噂や伝聞では足りません。だからこそ、資料の取得が最初の課題となるのです。
会社の予定を理由に当然に価格が上がるわけではないこと
「会社が売却を予定しているのだから、その売却の価格で買い取るべきである」という主張は、直ちに認められるものではありません。第三者への売却の価格には、支配権を取得することに対する上乗せが含まれていることがあり、少数株主が保有する株式の価格が当然にこれと同じになるとは限らないためです。また、売却の交渉が成立するかどうかも、その時点では確定していません。
同じことは、株式上場の予定についても当てはまります。先に述べたとおり、上場の予定は実現しないことがあり、実現した場合でも直ちに自由な譲渡ができるとは限りません。したがいまして、「上場すれば必ず高く売れる」という前提で判断を組み立てることは適切ではありません。当事務所は、そのような断定を申し上げません。
それでも情報を取得すべき理由
それでは、会社の予定を知ることに意味はないのでしょうか。意味は大いにあります。理由は3つあります。第1に、会社の予定を知ることによって、会社が示した金額がどの前提に立つものであるかを判断できるようになります。第三者への売却を前提とする金額と、相続税の評価額とでは、そもそも目的が異なります。第2に、期間の制限がある手続を、いつ、どの順序で用いるかという設計が可能になります。第3に、会社の側が急いでいるという事実そのものが、協議における当方の立場を左右いたします。
なお、相続税評価額と実際の株式売買価格が異なる理由の一般論については、別に解説のページを設けていますので、相続税評価額と実際の株式売買価格が違う理由をご覧ください。また、非上場株式の相続税評価の見直しの検討状況につきましては、非上場株式の相続税評価が60年ぶり見直しへに整理しています。この見直しは、令和8年8月20日現在、なお検討の段階にあり、内容も適用の時期も確定していません。確定していない事項を確定したものとして申し上げることはいたしません。評価額が上がる見込みであるにもかかわらず会社が適正な価格で買い取らないという場面につきましては、株式の評価額が上がる見込みなのに、会社が適正な価格で買い取ってくれずお困りではありませんかのご案内のページに、当事務所の取扱いを整理しています。
会社の予定を知るための手段
会社の予定を知るための手段は、会社法が株主に認めている閲覧謄写の請求です。手段ごとに、要件、対象となる資料、及び会社が拒むことができる場合が異なります。まず一覧を掲げ、その後に個別に述べます。
| 手段 | 根拠となる条文 | 持株数の要件 | 何を知るために用いるか |
|---|---|---|---|
| 計算書類等及びその附属明細書の閲覧謄写 | 会社法第442条第3項 | ありません(株主であれば足ります) | 純資産の状況、利益の推移、役員報酬の総額、関係会社との取引の概況 |
| 会計帳簿及びこれに関する資料の閲覧謄写 | 会社法第433条第1項 | 議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上 | 個別の費用の支出の内容、助言者への支払、資産の移動 |
| 株主総会議事録の閲覧謄写 | 会社法第318条第4項 | ありません | 定款の変更、種類株式の発行、役員の選任その他の決議の経過 |
| 定款の閲覧謄写 | 会社法第31条第2項 | ありません | 譲渡の制限の定め、相続人等に対する売渡しの請求の定め、種類株式の定め |
| 株主名簿の閲覧謄写 | 会社法第125条第2項 | ありません | 発行済株式総数の分布、支配株主の持株比率、他の少数株主の存在 |
| 取締役会議事録の閲覧謄写 | 会社法第371条第2項及び第3項 | ありません(ただし裁判所の許可を要する場合があります) | 会社の業務執行に関する決定の経過 |
| 登記事項証明書の取得 | 会社法第911条ほか | ありません(株主でなくても取得できます) | 役員の変動、資本金の額の変動、目的及び機関の設計の変更 |
計算書類等及び附属明細書の閲覧(持株数の要件がありません)
株主は、会社の営業時間内は、いつでも、計算書類等及びその附属明細書について閲覧の請求をし、又は費用を支払って謄本若しくは抄本の交付を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求には持株数の要件がありません。1株しか保有していない株主であっても請求することができます。最初に着手すべき手段の1つです。
ここで確かめるべきは、次の点です。純資産の額とその推移、売上高及び利益の推移、役員報酬の総額、関係会社との間の取引の概況、そして販売費及び一般管理費の内訳のうち助言に関する費用です。会社が第三者への売却又は株式上場を準備している場合には、通常の営業活動では説明のつきにくい費用が計上されていることがあります。もっとも、これのみをもって予定の存在を断定することはできません。あくまで手がかりです。会社の決算書をお持ちでない場合の進め方につきましては、非上場株式を相続したが会社の決算書を持っていない場合に整理しています。
会計帳簿の閲覧謄写の請求(3%の要件)
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主、又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主は、会社の営業時間内は、いつでも、請求の理由を明らかにして、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。定款により要件を緩和している会社もありますので、定款の定めを先に確認してください。
請求に当たっては、理由を明らかにしなければなりません。理由は、具体的に記載する必要があります。例えば、保有株式の適正な価格を算定するため、直近3期分の総勘定元帳、勘定科目内訳明細書、関係会社との取引に関する契約書及び請求書の閲覧謄写を求める、といった記載です。会社は、法律の定める拒絶事由に当たる場合には請求を拒むことができます(同条第2項)。請求者が会社の業務の遂行を妨げる目的で請求を行ったときや、請求者が会社と実質的に競争関係にある事業を営むときなどが、これに当たるものとされています。
会社が任意に応じない場合には、会計帳簿の閲覧謄写を求める訴えを提起し、又は仮処分を申し立てることを検討いたします。時間を要する手続ですので、期間の制限がある他の手続との前後関係を設計してから着手する必要があります。
取締役会議事録の閲覧謄写の請求とその許可の要否
取締役会設置会社においては、株主は、その権利を行使するため必要があるときは、取締役会の議事録の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第371条第2項)。ここで注意を要するのは、許可の要否が会社の機関の設計によって異なるという点です。監査役設置会社、監査等委員会設置会社又は指名委員会等設置会社においては、この請求をするために裁判所の許可を得なければなりません(同条第3項)。これらに当たらない会社においては、営業時間内であればいつでも請求することができ、裁判所の許可は必要ありません。
したがいまして、まず登記事項証明書により、その会社が監査役設置会社等に当たるかどうかを確認します。許可が必要な場合には、裁判所に対し許可の申立てをいたします。もっとも、裁判所は、閲覧又は謄写をすることにより会社又はその親会社若しくは子会社に著しい損害を及ぼすおそれがあると認めるときは、許可をすることができないものとされています(同条第5項)。この点は、申立ての際にあらかじめ検討しておく必要があります。
取締役会議事録には、業務執行に関する決定の経過が記載されます。会社が第三者への売却又は株式上場に向けた具体的な決定をしている場合、その決定が議事録に現れることがあります。ただし、記載が概括的なものにとどまる例も多く、必ず判明するというものではありません。
株主総会議事録、定款及び株主名簿の閲覧
株主は、株主総会議事録(会社法第318条第4項)、定款(同法第31条第2項)及び株主名簿(同法第125条第2項)の閲覧謄写を請求することができます。いずれも持株数の要件はありません。株主名簿により発行済株式総数の分布と支配株主の持株比率を確定し、定款により譲渡の制限の定め及び相続人等に対する売渡しの請求の定めの有無を確認し、株主総会議事録により決議の経過を確認いたします。この3点は、後に述べる締め出しへの備えを検討するための前提となります。
登記事項証明書により機関及び資本の変動を確かめる
登記事項証明書は、法務局において誰でも取得することができます。会社に知られることなく取得できる資料であるという点で、最初に着手する資料として適しています。確認すべきは、役員の変動の時期と内容、資本金の額の変動、発行可能株式総数及び発行済株式総数の変動、株式の譲渡の制限に関する定め、機関の設計(監査役設置会社であるかどうか)、目的の変更、並びに本店の移転です。短期間に複数の変更が集中している場合には、会社の側で何らかの動きがあることを疑う手がかりとなります。
いま売る場合と待つ場合の比較
会社から買取りの打診を受けた少数株主が最も悩まれるのは、いま応ずるべきか、それとも時期を待つべきかという点です。この判断は、事案ごとの事実関係により異なりますので、一般的な結論を申し上げることはできません。申し上げられるのは、それぞれの選択によって何が確定し、何が失われ、何が生じ得るかという構造です。以下に整理いたします。
| 観点 | いま応ずる場合 | 時期を待つ場合 |
|---|---|---|
| 確定するもの | 受け取る金額と時期が確定します。協議の負担及び費用の負担が終わります。 | 何も確定しません。会社の予定が実現するかどうかも確定しません。 |
| 失われるもの | その後に会社の状況が変わった場合であっても、価格を争う地位を失います。 | 期間の制限がある手続について、期間が経過したものは用いることができなくなります。 |
| 生じ得る事態 | 会社の予定が実現し、後にその内容を知ることになる場合があります。 | 株式の併合、組織再編、特別支配株主の株式等売渡請求により、意思にかかわらず株式を失う場合があります。 |
| 要する期間の見込み | 合意の成立から代金の受領まで、通常は数箇月です。 | 裁判所の手続に至った場合、価格の確定まで1年から2年以上を要することがあります。 |
| 必要となる情報 | 提示額の算定の前提、基準日、依拠した資料の範囲、算定者の氏名及び独立性 | 支配株主の持株比率、定款の定め、会社の機関の設計、直近の決算の内容 |
いま売る場合に確定するもの
会社の提示に応じて合意が成立すれば、受け取る金額と時期が確定いたします。協議に要する時間と費用の負担も終わります。株式を保有し続けることによる相続税の負担の問題からも解放されます。これらは、いずれも小さくない利点です。ただし、合意が成立した後に、その価格が低すぎたことを理由として合意の効力を争うことは、容易ではありません。応ずる前に検証すべきであるというのは、この一点に尽きます。
待つ場合に生じ得る事態
時期を待つ場合、少数株主が最も注意を要するのは、意思にかかわらず株式を失う手続が用いられる可能性です。株式の併合により端数のみを保有する状態とされる場合、組織再編により保有する株式が他の会社の株式又は金銭に変わる場合、及び特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条)により株式を取得される場合があります。これらの手法ごとの対抗手段につきましては、スクイーズアウトへの対抗手段とはに詳しく整理していますので、そちらをご覧ください。
本記事において申し上げたいのは、手法の解説ではなく、備えとして何を確かめておくかという点です。すなわち、これらの手続はいずれも会社の側の決議によって開始されるものであり、少数株主の側が開始を選ぶことはできません。したがって、開始された場合に直ちに動けるよう、あらかじめ資料と持株の状況を把握しておくことが必要になります。
待つ場合に失われる期間の制限のある手段
会社法上、価格を争うための手続には、いずれも短い期間の制限が定められています。株式譲渡承認請求に伴う売買価格の決定の申立ては、会社から買取りの通知を受けた日から20日以内です(会社法第144条第2項)。この期間内に申立てをしないときは、1株当たり純資産額に対象となる株式の数を乗じて得た額をもって売買価格とするものとされています(同条第5項)。すなわち、期間を経過すると、価格を争う機会そのものが失われます。
組織再編に反対する株主の株式買取請求についても、価格の決定の申立ては効力発生日から30日以内とされています。手続の全体の流れと期限につきましては、合併・会社分割・株式交換・株式移転・株式交付に反対するときに整理していますので、そちらをご覧ください。
判断のために必要な情報の一覧
いま応ずるか時期を待つかを判断するために、少なくとも次の情報が必要です。第1に、提示された金額の算定の前提。第2に、直近3期分の計算書類等の内容。第3に、支配株主の持株比率と議決権の割合。第4に、定款における譲渡の制限及び相続人等に対する売渡しの請求の定め。第5に、会社の機関の設計。第6に、会社から受け取った書面の日付と、そこに記載された期限。これらが揃わないまま判断をすることは、目隠しをして選択をすることにほかなりません。
締め出しに備えて確かめておく事項
会社がM&A又は株式上場を予定している場合、少数株主の株式が整理の対象となる可能性があります。ここでは、その備えとして確かめておくべき事項を、順に述べます。手法ごとの対抗手段の解説は先にご案内したページに譲り、本記事は確かめる事項に限ります。
支配株主の持株比率と議決権の割合
最初に確定すべきは、発行済株式総数と、支配株主及びその同族関係者が保有する株式の数です。株主名簿の閲覧謄写により確認いたします。議決権の割合が3分の2以上であれば、株式の併合その他の特別決議を要する事項を単独で可決することができます。10分の9以上であれば、特別支配株主の株式等売渡請求(会社法第179条)を用いることができます。この比率がどの水準にあるかによって、会社が採り得る手続の範囲が変わり、したがって少数株主が備えるべき事項も変わります。
あわせて、自己株式の有無、種類株式の発行の有無、及び議決権のない株式の有無を確認いたします。定款と登記事項証明書により確認することができます。
株式の併合及び組織再編に反対した場合に採り得る手続
株式の併合により端数が生ずることとなる場合、反対する株主は、会社に対し、自己の有する株式のうち端数となるものを公正な価格で買い取ることを請求することができます(会社法第182条の4第1項)。価格の決定について協議が調わないときは、効力発生日から30日以内に、裁判所に対し価格の決定の申立てをすることができます(同法第182条の5第2項)。
組織再編に反対する株主についても、同様の仕組みが定められています。消滅する会社等の株主については会社法第785条第1項、存続する会社等の株主については同法第797条第1項、新設型の組織再編については同法第806条第1項が、それぞれ株式買取請求を認めています。また、株式の内容についての特別の定めを設ける定款の変更その他一定の場合については、同法第116条が株式買取請求を認めています。いずれについても、価格の決定の申立ては効力発生日から30日以内とされています(同法第786条第2項、第798条第2項、第807条第2項、第117条第2項)。
ここで少数株主が確かめておくべきは、次の点です。すなわち、これらの請求は、株主総会に先立って会社に対し反対する旨を通知し、かつ株主総会において反対することを要するものが多いという点です。通知を欠いたために請求ができなくなる例が実際にあります。会社から株主総会の招集の通知を受け取ったときは、その内容を直ちに確認する必要があります。
手続によって価格の争い方が異なること
本記事において最も申し上げたい点が、ここにあります。同じ非上場株式の価格であっても、どの手続によって争うかにより、裁判所の判断の枠組みが異なり得るということです。とりわけ、少数株主が保有する株式であることを理由とする減額、すなわち非流動性ディスカウントの可否について、最高裁判所は、根拠となる条文を異にする2つの場面において、異なる判断を示しています。
| 手続 | 根拠となる条文 | 期間の制限 | 非流動性ディスカウントに関する裁判例の状況 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡承認請求に伴う売買価格の決定の申立て | 会社法第144条第2項及び第3項 | 買取りの通知を受けた日から20日以内 | 最高裁判所第三小法廷令和5年5月24日決定(令和4年(許)第8号 株式売買価格決定に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件)は、DCF法により算定された評価額から非流動性ディスカウントを行うことができる旨を判示しています。 |
| 組織再編に反対する株主の株式買取請求 | 会社法第785条第1項、第797条第1項、第806条第1項、第116条 | 効力発生日から30日以内 | 最高裁判所第一小法廷平成27年3月26日決定(平成26年(許)第39号 株式買取価格決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件)は、非上場会社において会社法第785条第1項に基づく株式買取請求がされ、裁判所が収益還元法により価格を決定する場合に、非流動性ディスカウントを行うことはできない旨を判示しています。 |
| 株式の併合に反対する株主の買取請求 | 会社法第182条の4第1項 | 効力発生日から30日以内 | 公正な価格として判断される点は組織再編の場合と共通いたしますが、個別の事案における取扱いは事案により異なります。 |
この2つの決定は、いずれも最高裁判所の判断ですが、対象となる場面が異なります。前者は譲渡制限株式の売買価格の決定に関するものであり、後者は組織再編に反対する株主の株式買取請求における公正な価格に関するものです。したがいまして、2つの決定を混同して一般化してはなりません。「最高裁判所は非流動性ディスカウントを認めない」と述べることも、「認める」と述べることも、いずれも正確ではありません。どの条文に基づく手続であるかによって、判断の枠組みが異なるのです。
少数株主の側から見た実務上の帰結は、次のとおりです。どの手続を用いるかという選択は、単なる手順の問題ではなく、価格の水準そのものに影響し得る選択であるということです。会社の側が組織再編を予定している場合には、その手続の中で価格を争う道が開かれることになります。他方、自ら株式譲渡承認請求から始める場合には、別の枠組みで価格が判断されることになります。着手の前に、順序と期限を設計しなければならない理由は、ここにあります。
期間の制限が定められている手続
期間の制限は、いずれも短く、かつ起算日が手続ごとに異なります。株式譲渡承認請求に伴う売買価格の決定の申立ては、買取りの通知を受けた日から20日以内です。組織再編及び株式の併合に反対する株主の価格の決定の申立ては、効力発生日から30日以内です。相続人等に対する売渡しの請求に対する売買価格の決定の申立ては、請求の日から20日以内です。いずれについても、書面を受け取った日を記録し、封筒を保存しておくことが必要です。日付の立証ができないために不利益を受ける例があります。
打診に応ずる前に確かめる5つの事項
会社から買取りの打診を受けたとき、応ずるか否かを判断する前に確かめるべき事項を5つに整理いたします。なお、会社が提示する価格の検証の手順そのものにつきましては、会社が提示する株式買取価格はどのように検証するかに詳しく整理していますので、あわせてご覧ください。本記事では要点のみを掲げます。なお、提示された金額の当否について当事務所にご相談をお考えの場合の進め方は、株式の評価額が上がる見込みなのに、会社が適正な価格で買い取ってくれずお困りではありませんかのご案内のページに記載しています。
提示額の算定の前提(目的、基準日、評価の方法)
第1に確かめるべきは、提示された金額が何のために、いつの時点を基準として、どの方法により算定されたものかという点です。同じ会社の株式であっても、相続税の申告のために算定した金額、会社が自己株式として取得する際に算定した金額、及び第三者への売却を前提として算定した金額は、いずれも異なり得ます。目的が異なれば前提が異なり、前提が異なれば結論の金額が異なるためです。
会社が相続税の評価額を根拠としていないか
第2に、提示額が相続税の評価額を根拠とするものでないかを確かめます。相続税の評価額は課税のための評価であり、会社法上の公正な価格とは別個の概念です。もっとも、実務においては、相続税の評価額が価格の交渉の出発点として持ち出される例が少なくありません。会社が「相続税の評価額であるから適正である」と説明する場合、その説明は、会社法上の価格の当否を当然に基礎づけるものではありません。
回答の期限を設けられた場合の対応
第3に、会社が回答の期限を設けてきた場合の対応です。会社が任意の交渉として設けた期限は、法律上の期間の制限とは別のものです。両者を混同してはなりません。任意の交渉における期限は、当方から延長を求めることができます。他方、会社法上の期間の制限は、当事者の合意によって延ばすことができません。したがって、期限を示されたときは、まずそれが法律上の期間の制限であるのか、会社が一方的に設けたものであるのかを確かめてください。会社法上の株式買取請求権と任意の株式買取交渉が別のものであることにつきましては、会社法上の株式買取請求権と任意の株式買取交渉は別物に整理しています。
書面により根拠を求める方法
第4に、根拠を書面により求めることです。口頭で尋ねても、記録が残りません。次の4点を書面により求めてください。
- 評価の方法。純資産に基づく方法、収益に基づく方法、DCF法(ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法)、類似する会社と比較する方法のいずれによったのか。複数を併用した場合はその割合。
- 基準日。いつの時点の財務の数値を用いたのか。
- 依拠した資料の範囲。どの期の計算書類等を用いたのか。関係会社との取引をどのように取り扱ったのか。
- 算定者の氏名又は名称及び会社との関係。会社から独立した者による算定であるか。
書面の文面は、簡潔で足ります。例えば、次のようなものです。「貴社から令和8年何月何日付け書面によりお示しいただいた1株当たり何円という金額につきまして、算定の方法、基準となる日、依拠された資料の範囲、及び算定をされた方の氏名又は名称と貴社との関係を、書面によりご教示くださいますようお願い申し上げます。」この請求に対して会社が回答をしないという事実それ自体も、後の手続において意味を持ちます。
記録の残し方
第5に、記録の残し方です。会社から受け取った書面は、封筒を含めて保存してください。消印の日付が起算日の立証に用いられることがあります。面談をした場合には、その日時、場所、出席者、及び述べられた内容を、当日のうちに書面に残してください。電話で連絡があった場合には、その後に電子メールにより「本日お電話にて承りました内容は次のとおりで相違ないかをご確認ください」と確認を求める、という方法があります。この場合、電子メールの文面は当方の記録となります。なお、この確認の文面を書く際にも、断定的な表現を避け、事実のみを記載してください。
この場面でしてはならない6つの対応
最後に、この場面において、かえって不利益を生じさせる対応を6つ掲げます。いずれも、実際のご相談において繰り返し目にするものです。
会社の説明をそのまま前提として判断すること
「この金額が相続税の評価額です」「これ以上は出せません」「他の株主も同じ金額で応じています」という説明を、そのまま前提として判断してはなりません。いずれも、資料により確かめることのできる事柄です。他の株主が応じているかどうかは、株主名簿と、可能であれば他の株主への確認により判断いたします。
記録に残らない形でやり取りを進めること
口頭のやり取りのみで協議を進めることは、後に協議の経過を明らかにする手段を失わせます。会社の側が面談のみを求めてくる場合には、面談の後に書面又は電子メールにより内容を確認してください。
期限を確かめないまま検討を続けること
期間の制限のある手続について、期間が経過すると、価格を争う機会そのものが失われます。会社から書面を受け取ったときは、まずその書面が何についての通知であるかを確かめ、起算日を特定してください。判断がつかない場合には、この点のみでも早期にご相談ください。
根拠を示さないまま金額だけを求めること
「もっと高く買い取ってほしい」と述べるだけでは、会社の側に応ずる理由が生じません。会社の財務の内容に基づく根拠を示すことが、協議を動かす前提となります。そのためにも、資料の取得が先行しなければなりません。
資料を廃棄し、又は書き換えること
古い株主名簿の写し、会社からの通知書、封筒、決算書、株式の取得の経緯を示す書面は、いずれも価格を検証し、又は株主であることを示す資料となります。古いものであっても廃棄なさらないでください。また、記憶に基づいて書面に加筆することは、資料としての価値を損ないます。
会社の予定を推測により断定して交渉すること
「上場するつもりなのだから、その分を上乗せしてほしい」といった主張を、資料の裏づけなく行うことは適切ではありません。事実でなかった場合に当方の主張全体の信用が失われますし、会社の側に不必要な警戒を生じさせます。確かめるべきは資料であり、述べるべきは資料により裏づけられた事実です。
よくあるご質問
この場面について、実際に多く頂戴するご質問と、それに対する当事務所の考え方を掲げます。いずれも一般的な説明であり、個別の事案における結論は、事実関係及び資料によって異なります。
会社の予定を教えてもらえるのですか
会社が任意に説明する義務を負うものではありません。もっとも、株主は、計算書類等の閲覧(会社法第442条第3項)、会計帳簿の閲覧謄写(同法第433条第1項)、株主総会議事録及び取締役会議事録の閲覧謄写(同法第318条第4項、第371条第2項)により、資料の側から事実を確かめることができます。予定そのものが記載されていない場合であっても、費用の支出、決議の経過、役員の変動から、相当程度の判断が可能です。
上場すれば必ず株式の価格が上がるのですか
そのように申し上げることはできません。上場の準備は中止されることがあり、上場が実現した場合であっても、上場前から保有していた株式については一定期間にわたり譲渡が制限される取扱いがされることがあります。上場後の株価も、市場の需給により定まるものです。会社の予定は、価格を検討するうえで考慮し得る事情の1つにとどまります。
買取りの打診を断ると不利益を受けるのですか
打診に応じないこと自体によって、株主としての権利が失われることはありません。株主としての地位も、閲覧謄写の請求をする権利も、そのまま残ります。他方、会社の側が株式の併合、組織再編その他の手続に進む可能性はありますので、断る場合には、その後に採り得る手続をあらかじめ整理しておくことが必要です。
回答の期限を切られた場合はどうすればよいのですか
まず、その期限が会社法上の期間の制限であるのか、会社が一方的に設けたものであるのかを確かめてください。後者であれば、延長を求めることができます。前者であれば、期間内に手続をとらなければなりません。書面の記載のみでは判断がつかないことが多いため、書面をお持ちのうえで早期にご相談ください。
持株比率が低くても意味があるのですか
あります。計算書類等の閲覧、株主総会議事録、定款及び株主名簿の閲覧謄写には、持株数の要件がありません。また、株式譲渡承認請求及びこれに伴う売買価格の決定の申立ては、1株を保有していれば行うことができます。持株数が少ないことは、1株当たりの価格が低いことを意味するものではありません。
相続税評価の見直しを待つべきなのですか
相続税評価の見直しは、令和8年8月20日現在、なお検討の段階にあり、内容も適用の時期も確定していません。確定していない事項を前提として時期を判断することは適切ではありません。他方、会社の側から買取りの打診が現に来ている場合には、期間の制限のある手続との関係がありますので、待つという判断そのものが取り返しのつかない結果を招くことがあります。個別の事情によりますので、まずは書面をお持ちのうえでご相談ください。
費用はどの程度かかるのですか
弁護士費用の額は、当事務所の弁護士費用一覧のページの非上場株式及び少数株式に関する項目に基づきます。初回のご相談において、想定される費用の見込みを具体的に申し上げます。裁判所の手続に至る場合には、申立ての手数料及び鑑定に要する費用が別途生ずることがあります。
まとめ
会社自身がM&A又は株式上場を予定している局面において、少数株主が置かれている不利は、価格の水準そのものよりも、情報の偏りにあります。会社は自らの予定を知り、資料を持っています。少数株主は、そのいずれも持っていません。この状態のまま金額の当否を論じても、協議は動きません。
したがって、採るべき順序は明確です。第1に、登記事項証明書、計算書類等、定款、株主名簿、議事録により、資料の側から事実を確かめます。第2に、提示された金額について、目的、基準日、評価の方法、依拠した資料の範囲及び算定者を、書面により求めます。第3に、株式譲渡承認請求に伴う売買価格の決定の申立て、組織再編に反対する株主の株式買取請求、株式の併合に反対する買取請求のいずれによって価格を争うことになるのかを見定め、それぞれの期間の制限に照らして着手の順序を設計します。第4に、記録を残します。
会社の予定は、会社法第144条第3項にいう一切の事情の1つとして考慮され得るものですが、それ自体が当然に価格を引き上げるものではありません。「上場すれば必ず高く売れる」という前提で判断を組み立ててはなりません。確かめるべきは資料であり、述べるべきは資料により裏づけられた事実です。
会社から買取りの打診を受けておられる方、示された金額の根拠が示されないままである方、期限を示されて判断に迷っておられる方は、書面をお持ちのうえでご相談ください。株式の評価額が上がる見込みであるにもかかわらず会社が適正な価格で買い取らないという場面につきましては、株式の評価額が上がる見込みなのに、会社が適正な価格で買い取ってくれずお困りではありませんかのご案内のページに、当事務所の取扱いを整理しています。事実関係と経緯を伺えば、初回において見通しと費用の見込みを申し上げられる場合が多くあります。もっとも、結果をお約束するものではありません。見通しも要する期間も、事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。
具体的なご相談をお考えの皆様へ
本ページの主題に関し、当事務所の取扱内容、対応の進め方及び費用の考え方は、次のご案内のページに整理しています。あわせてご覧ください。




