同族会社の株式譲渡承認とは?承認請求の流れ・売却方法・税金を解説

同族会社の株式を相続したり、親族から引き継いだりしたものの、「この株は売れるのか」「名義を変えるにはどうすればよいのか」と悩む方は少なくありません。
近年は中小企業の後継者不在が課題となっており、帝国データバンクが発表した全国『後継者不在率』動向調査(2025年)によると、国内企業の後継者不在率は50.1%とされています。後継者がいないだけでなく、相続によって同族会社の株式が思いがけず親族に分散し、保有しているだけの状態になっている方も増えています。
同族会社の株式は非上場であることが多く、定款で譲渡制限が付されているケースが一般的です。譲渡制限株式では、譲渡先が親族であっても、会社(取締役会や株主総会など)の承認が問題になります。会社の承認がないまま株式を譲渡しても、譲受人は会社に対して株式の取得を主張できず、株主名簿の名義書換請求、議決権行使、配当の受領などで問題が生じる可能性があるため、事前に定款と承認手続きを確認することが重要です。
また、会社法上、譲渡制限株式について会社の承認を求める手続きは「譲渡等承認請求」と呼ばれます。譲渡等承認請求の際に、会社が承認しない場合には会社または指定買取人による買取りを求める旨を明らかにしていれば、不承認後に買取手続きへ進みます。譲渡等承認請求には通知期限や申立期限があるため、日付を確認しながら対応する必要があります。
さらに、非上場株式には市場価格がないため、売買価格は「時価」を前提に検討します。身内間で安く譲ったつもりが贈与とみられるなど、税金の問題につながることもあります。
この記事では、同族会社の株式譲渡承認の基本から、譲渡等承認請求の流れ、不承認となった場合の買取手続き、用意する書類、税金と注意点、2024年以降の最新動向まで、弁護士が解説します。
同族会社の株式を動かす方法は、譲渡(売買)・贈与・相続の3つに分かれます。対価の有無、かかる税金、会社の承認の要否は次のように異なります。
| 移す方法 | 対価 | 主にかかる税金 | 会社の承認 |
|---|---|---|---|
| 譲渡(売買) | あり | 売主に譲渡所得課税(一般に20.315%) | 譲渡制限株式は必要 |
| 贈与 | なし | 受贈者に贈与税 | 譲渡制限株式は必要 |
| 相続 | なし | 相続人に相続税 | 原則不要(包括承継) |
譲渡制限株式(定款で譲渡に会社の承認を要する株式)では、譲渡・贈与のいずれでも会社の承認手続きが前提になります。非上場株式の売却・譲渡の全体像については、非上場株式を売りたい方へ(売却・譲渡方法から税金・価格算定まで)もあわせてご覧ください。
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同族会社で保有される株式とは

同族会社とは、一般には家族や親族など限られた関係者に株式が集中している会社を指して使われる言葉です。一方で、法人税法上は、一定の株主等とその同族関係者が会社の株式や議決権を一定割合以上保有している会社を指すなど、税法上の定義もあります。
本記事では、家族や親族を中心に株式が保有されている会社を、一般的な意味で「同族会社」と呼びます。
本記事で使う用語の意味
| 用語 | 意味 | 注意点 |
|---|---|---|
| 同族会社 | 家族や親族など、限られた関係者に株式が集中している会社を指すことが多い言葉です。 | 法人税法上の「同族会社」と、一般的な意味での同族会社は完全に同じではありません。 |
| 同族株式 | 同族会社の株主が保有する非上場株式や譲渡制限株式を指して使われることがある便宜的な表現です。 | 「同族株式」は会社法上の典型的な法令用語ではないため、本記事では原則として「同族会社の株式」と表記します。 |
| 同族株主 | 相続税や贈与税で非上場株式を評価する際に、株主本人と同族関係者の議決権割合をもとに判定される税務上の概念です。 | 同族株主にあたるかどうかで、株式の評価方式が変わることがあります。 |
同族会社で株式の扱いが問題になりやすい理由
同族会社では、親族間で株式が分散していたり、世代交代によって会社との関係が薄くなった株主がいたりします。たとえば、兄弟姉妹その他親族が株式を分散して保有し、ひと家族あたり「数%~30%程度」の持分になっているケースがあります。
このような場合、株主には議決権があるものの、会社の経営に関わる機会が少なく、配当も積極的に行われないことがあります。その結果、株主にとって経済的な利点が見えにくくなり、「株式を手放したい」「名義を変更したい」と考える場面が生じます。
ただし、同族会社の株式は非上場株式であり、かつ譲渡制限株式であることが多いため、売却や贈与を検討する際には、会社の承認手続きや株式評価の確認が必要になります。
同族会社の株式は非上場株式・譲渡制限株式であることが多い

同族会社の株式は、金融商品取引所に上場されていない「非上場株式」であることが多くあります。また、定款で譲渡制限が設けられている「譲渡制限株式」であるケースも少なくありません。
それぞれの意味を分けると、次のとおりです。
| 種類 | 意味 | 株主にとっての注意点 |
|---|---|---|
| 非上場株式 | 金融商品取引所に上場されていない株式です。 | 市場価格がないため、売買価格を一律に確認できません。買い手を探しにくく、価格の算定にも検討が必要です。 |
| 譲渡制限株式 | 譲渡によって株式を取得する場合に、会社の承認を要する旨が定款で定められている株式です。 | 会社の承認がなければ、譲受人が会社に対して株式の取得を主張できず、株主名簿の名義書換などで問題が生じる可能性があります。 |
非上場株式は価格を確認しにくい
上場株式は、証券取引所を通じて売買されるため、市場価格を確認しやすく、売却先も比較的見つけやすい特徴があります。
一方、非上場株式には取引市場がありません。そのため、売却価格を決める際には、会社の資産・収益・配当状況・過去の取引例などを踏まえて検討する必要があります。
譲渡制限株式は会社の承認手続きが問題になる
譲渡制限株式とは、譲渡によって株式を取得する場合に会社の承認を要する旨が定款で定められている株式をいいます。会社にとって好ましくない人物が株主となり、議決権を取得することを防ぐために、中小企業や同族会社では譲渡制限が設けられていることが多くあります。
譲渡制限株式である場合、株式譲渡契約を結んだとしても、会社の承認がなければ、譲受人は会社に対して株式の取得を主張できません。売却や贈与を検討する場合は、まず定款を確認し、譲渡承認機関や手続きの流れを把握することが重要です。
同族会社の株式を移転する場面では、非上場株式としての価格算定と、譲渡制限株式としての承認手続きの両方を確認する必要があります。
同族会社の株式を移す方法(譲渡・贈与・相続)

同族会社の株式を別の人に移す方法は、大きく分けて「譲渡(売買)」「贈与」「相続」の3つです。譲渡や贈与によって株式を移す場合、対象が譲渡制限株式であれば、会社の承認手続きが問題になります。一方、相続は法律上当然に権利義務を承継する包括承継であり、通常の売買や贈与とは性質が異なります。
株式譲渡(売買)
株式譲渡は、株式を売って対価を受け取る方法です。同族会社の株式譲渡では、買い手が親族・役員・従業員など会社に近い人に限られやすい傾向があります。譲渡制限株式であれば、譲渡先が親族であっても、会社の承認手続きを確認する必要があります。承認が得られた場合は、株式譲渡契約を締結し、代金の支払い・受領を行ったうえで、会社に株主名簿の名義書換を請求します。
株式の贈与
株式を無償で渡す場合は贈与になります。贈与であっても、譲渡制限株式であれば会社の承認手続きが問題になる点は売買と同じです。また、贈与は受け取った側に贈与税が課される可能性があり、非上場株式の評価額の検討も必要です。形式上は売買であっても、時価より著しく低い価額で譲ると、税務上は差額部分が贈与とみられる可能性があるため、価額の根拠を残して進める必要があります。
相続で株式を取得した場合
相続は法律上の包括承継であり、通常の意味での「譲渡」とは性質が異なります。ただし、同族会社では、相続によって株主が増えることを避けたい場面もあり得ます。
定款に「相続人等に対する売渡請求」に関する定めがある場合には、相続人が株式を取得した後に、会社から売渡しを求められる可能性があります。相続人が複数いる場合は、遺産分割で株式の帰属が決まるまで手続きが進みにくくなるため、早い段階で株主名簿や定款の内容を確認しておくことが重要です。相続による非上場株式の取得から名義書換・評価までの流れは、非上場株式の相続手続きと相続税評価の方法で詳しく解説しています。
3つの方法の選び方
3つの方法は、誰にどのタイミングで株式を移すか、税金がどうかかるか、会社法上の手続きが必要かといった点で違いがあります。譲渡(売買)は対価を伴い、譲渡益が出る場合は譲渡所得課税が問題になります。贈与は対価を伴いませんが、受け取る側に贈与税が課される可能性があり、非上場株式の評価額の検討が必要です。相続は会社の譲渡承認を経て発生するものではありませんが、相続税の負担・遺産分割協議・株主名簿の名義書換などの手続きが問題になります。どの方法が適しているかは、株式の評価額・譲渡先・税負担・時期・会社の定款内容によって変わります。
同族株主が存在するかしないかの判定方法

同族株主に該当するかどうかは、相続税や贈与税で非上場株式を評価する際に重要です。同族株主に該当する場合と、同族株主以外の少数株主に該当する場合では、適用される評価方式が変わることがあります。
判定では、株主本人だけでなく、配偶者・直系血族・兄弟姉妹などの同族関係者を合わせた「同族関係者グループ」の議決権割合を確認します。
判定の流れ
- 株主本人と同族関係者を合わせた同族関係者グループを確認します。
- 各同族関係者グループの議決権割合を確認します。
- 議決権の50%超を有するグループがあるかを確認します。
- 50%超のグループがない場合は、筆頭株主グループの議決権割合が30%以上かを確認します。
- ご自身がどのグループに属するか、ご自身の議決権割合が何%かを確認します。
判定の目安
| 会社の株主構成 | 同族株主にあたる株主 | 注意点 |
|---|---|---|
| 議決権の50%超を有する同族関係者グループがある場合 | その50%超のグループに属する株主が同族株主にあたります。 | 30%以上50%未満の別グループがあっても、原則として同族株主にはあたりません。 |
| 議決権の50%超を有する同族関係者グループがない場合 | 筆頭株主グループの議決権割合が30%以上であれば、そのグループに属する株主が同族株主にあたります。 | 筆頭株主グループの議決権割合が30%未満であれば、同族株主のいない会社として扱われます。 |
| 同族株主以外の少数株主にあたる場合 | 同族株主にはあたりません。 | 配当還元方式が用いられることがあります。 |
同じ会社の株式であっても、誰が取得するか、どの株主グループに属するかによって評価方式が変わることがあります。株式評価を行う前に、株主名簿・議決権割合・親族関係を確認しておく必要があります。
株式評価方法の決定

非上場株式は市場価格がないため、相続税・贈与税の申告、親族間の売買、会社法上の売買価格決定など、場面ごとに評価の考え方が問題になります。
特に、相続税や贈与税の計算では、財産評価基本通達にもとづき、会社規模や株主の立場を踏まえて評価方式を選びます。
主な評価方式
| 評価方式 | 概要 | 使われやすい場面 |
|---|---|---|
| 類似業種比準価額方式 | 同業上場会社の株価・配当・利益・純資産などを参考にして評価する方法です。 | 大会社など、上場会社との比較になじみやすい会社で用いられることがあります。 |
| 純資産価額方式 | 会社の資産と負債を時価で評価し、純資産をもとに株式価値を算定する方法です。 | 小会社や、資産内容の影響が大きい会社で用いられることがあります。 |
| 併用方式 | 類似業種比準価額方式と純資産価額方式を組み合わせる方法です。 | 中会社などで用いられることがあります。 |
| 配当還元方式 | 配当金額をもとに株式を評価する方法です。 | 同族株主以外の少数株主などで用いられることがあります。 |
評価方式を決める主なポイント
相続税・贈与税の評価方式は、主に次の要素によって変わります。
- 株主が同族株主に該当するか
- 同族株主以外の少数株主に該当するか
- 評価会社が大会社・中会社・小会社のいずれにあたるか
- 会社の資産・負債・利益・配当の状況がどうなっているか
- 株主が保有する議決権割合がどの程度か
同族株主に該当する場合は、類似業種比準価額方式・純資産価額方式、または両者を併用する原則的評価方式が用いられることが多くなります。一方、同族株主以外の少数株主などでは、配当還元方式が用いられることがあります。
売買価格を決めるときの注意点
財産評価基本通達による評価額が、常に売買価格や会社法上の売買価格決定の基準になるわけではありません。実際の株式譲渡では、会社の資産・収益・配当状況・過去の取引例・株主の立場などを踏まえて、価格の合理性を検討する必要があります。
親族間で時価より著しく低い価格にすると、税務上は贈与とみられるおそれがあります。後から価額の根拠を確認できるよう、決算書・資産内容・配当実績・過去の売買例・株式評価資料などを残しておく必要があります。少数株主が適正な価格で売却するための考え方は、非上場株式の譲渡適正価格はいくらかでも詳しく解説しています。
具体的な算定は個別事情で変わるため、専門家への確認が欠かせません。同族会社の非上場株式に関するご相談をお受けしておりますので、お困りの場合はお問い合わせください。
同族会社の株式を保有するデメリット

同族会社の株式は、相続税の評価額が高くなる一方で、換金しにくいことがあります。経営に関与していない株主ほど、保有を続ける負担が問題になりやすくなります。
同族会社の株式には高額な相続税がかかる可能性がある
同族会社の非上場株式を相続した場合、相続税の計算上、株式評価額が高額になることがあります。特に、相続人が税務上の同族株主に該当する場合は、類似業種比準価額方式や純資産価額方式などの原則的評価方式が用いられることが多く、配当還元方式よりも評価額が高くなる傾向があります。
会社の業績が良好で利益が積み上がっている場合や、不動産・有価証券などの含み益を有する資産を保有している場合は、非上場株式の評価額が高くなる可能性があります。また、現在の業績が悪化していても、過去に積み上がった内部留保や保有資産の価値によって、株式価値が高く評価されることがあります。
一方で、同族株主以外の少数株主などに該当する場合は、配当還元方式が用いられることがあります。この場合は、原則的評価方式よりも評価額が低くなることもあります。
このように、同じ会社の株式であっても、誰が取得するか、どの株主グループに属するかによって評価方式が変わります。相続税の負担を把握するには、株主構成・議決権割合・会社規模・財務内容を確認したうえで評価することが重要です。
同族会社の株式は譲渡が難しく価額も低くなりやすい
原則として、株式は自由に譲渡できるものとされています。しかし、同族会社の非上場株式は、買い手が限られやすく、経営に関与していない少数株主にとっては配当や議決権行使による利点が見えにくいことがあります。そのため、保有を続ける負担はある一方で、譲渡相手を見つけにくいという問題が生じます。
また、中小企業の同族会社では、定款で株式に譲渡制限を付していることが多くあります。譲渡制限株式の場合、会社の承認がなければ、譲受人が会社に対して株主としての権利を主張しにくく、株主名簿の名義書換も進めにくくなります。
同族会社では、株式を外部に出したくないという意向から、譲渡の承認が得られにくいことがあります。また、会社や経営者が少数株主の株式を高い価格で買い取ろうとしないため、価格交渉で対立することもあります。
非上場株式には市場価格がないため、売買価格は「時価」を前提に検討します。時価の考え方は一つではなく、会社の資産・収益・配当状況・過去の取引例などを踏まえて算定することになります。時価純資産法や収益還元法といった方法が用いられることもあります。
特に、親族間で極端に低い価額を付けて譲った場合、税務上は贈与とみられる可能性があります。価格の根拠を用意しつつ、譲渡等承認請求の手続きと合わせて慎重に進める必要があります。同族会社の株式の取扱いに不安がある場合は、早めに弁護士へご相談ください。
同族会社の株式を売却・換価するメリット
同族会社の株式は、保有し続けるだけでは利益を得にくい一方、売却や換価によって現金化や負担の軽減につながる場合があります。経営に関与しない株主にとっては、配当がないまま株式を保有し続けるよりも、発行会社や既存株主への売却、買取手続きによる換価を検討する利益が大きい場合があります。
保有しても得にくい利益を現金化できる
経営に関与しない少数株主の場合、議決権を持っていても会社の意思決定に関わる機会は限られ、配当も積極的に行われないことがあります。こうした株式は持ち続けても経済的な利点が見えにくく、いわゆる「塩漬け」の状態になりがちです。
売却や会社による買取りに応じることができれば、塩漬けになっていた資産を現金に換えられる可能性があります。非上場株式は買い手が限られますが、発行会社・既存株主・第三者への売却という選択肢があり、状況に応じて換価の道筋を見立てられます。具体的な売却方法は、非上場株式を売りたい方へ(売却・譲渡方法から税金・価格算定まで)もあわせてご覧ください。
相続税の納税資金や生活資金に充てられる
同族会社の非上場株式は、相続税の計算上、評価額が高くなることがあります。換金しにくい株式に高い評価額がつくと、現金が手元にないまま納税の負担だけが重くなる事態も起こり得ます。
株式の一部または全部を売却して現金化できれば、相続税の納税資金や生活資金に充てやすくなります。相続で取得した株式を一定の期間内に発行会社へ譲渡する場合には、税負担の面で配慮された特例が用意されていることもあるため、相続が絡むときは早めに検討しておくと選択肢が広がります。
親族間の権利関係や将来のトラブルを避けられる
株式が親族間に分散したまま保有が続くと、世代交代とともに株主が増え、権利関係が複雑になっていきます。誰がどれだけ株式を持っているのかが見えにくくなると、会社の意思決定や配当をめぐって意見が対立する場面も生じます。
早い段階で株式を売却・換価しておくことは、将来の相続や親族間の対立を避けることにもつながります。誰に・どの株式を・どのような価格で移すのかを明確にしておくことで、後の紛争の芽を小さくできる場合があります。手放すかどうかの判断に迷うときは、保有を続ける負担と換価できる金額の両面から検討するとよいでしょう。
同族会社の株式を売却する方法

前述のように、同族会社の株式は、買い手を探しにくいだけでなく、譲渡制限によって会社の承認手続きが必要になることが多いです。会社の承認が得られない場合、譲受人は会社に対して株式の取得を主張できないため、譲渡等承認請求の流れを押さえておく必要があります。
譲渡制限株式では、株主が会社に譲渡等承認請求を行う際に、承認しない場合には会社または指定買取人による買取りを求める旨を明らかにしておくことができます。この請求をしていた場合、会社が不承認とした後は、会社自身が買い取るか、指定買取人を指定して買い取らせる手続きに進みます。
価格は、まず当事者間の協議によって決めます。協議が整わない場合には、一定期間内に裁判所へ売買価格決定の申立てを行い、裁判所の判断を求めることがあります。
また、合併・会社分割・事業譲渡など一定の会社行為に反対した株主には、反対株主の株式買取請求権が認められる場合があります。
同族会社の株式譲渡では、会社法上の「譲渡等承認請求」が特に問題になりやすい手続きです。譲渡制限株式の承認手続きそのものの流れは、株式譲渡承認とは?譲渡制限株式の譲渡承認手続きの流れと注意点でも詳しく扱っています。
前提として確認しておきたいポイント
同族会社の株式譲渡は、定款の定めや会社ごとの運用によって必要な対応が変わることがあります。譲渡等承認請求を出してから「株券が見つからない」「名義が相続人のまま」などの理由で手続きが止まることもあるため、事前に確認しておくことが重要です。
- 定款で譲渡制限が付いているか
- 譲渡承認機関が取締役会・株主総会・その他定款で定めた機関のいずれか
- 不承認の場合に、会社または指定買取人による買取りを請求するか
- 株券発行会社かどうか(株券の所在、提出や交付が必要か)
- 株主名簿の名義が誰になっているか(相続・遺産分割の途中なら先に名義の問題を確認)
- 譲渡する株式の種類と数、譲受人(譲渡先)の氏名または名称、住所等
- 譲渡価額の根拠(決算書、評価資料、過去の取引例など)
譲渡等承認請求
同族会社の株式は譲渡制限株式であることが多く、売却先が親族・役員・従業員であっても会社の承認手続きが必要になることがあります。まずは、譲渡先と譲渡する株式の内容を特定したうえで、会社に対して譲渡等承認請求を行います。
会社が承認すれば、株式譲渡契約を締結し、代金の支払い・受領を行い、株主名簿の名義書換を請求します。株主名簿の名義が変更されることで、譲受人は会社に対して株主として扱われることになります。
一方、会社が不承認とする場合でも、譲渡等承認請求の際に会社または指定買取人による買取りを求める旨を明らかにしていれば、会社自身による買取りまたは指定買取人による買取りの手続きへ進みます。買取手続きには期限があり、会社や指定買取人からの通知が期間内にされない場合には、譲渡が承認されたものとみなされることがあります。
譲渡等承認請求の流れ(承認された場合/不承認の場合)
譲渡等承認請求の流れは、大きく「承認されて譲渡が成立する場合」と「不承認となり買取手続きに移る場合」に分かれます。
譲渡等承認請求(会社への申請)
株主は会社に対して、譲渡先(譲受人)と譲渡する株式を特定したうえで、譲渡等承認請求を行います。不承認の場合に会社または指定買取人による買取りを求めたいときは、譲渡等承認請求の段階でその旨を明らかにしておく必要があります。なお、譲渡等承認請求は譲渡人が単独で行えるか、譲受人と共同で行う必要があるかが場面によって異なります。詳しくは譲渡等承認請求の共同請求の要否をご覧ください。
譲渡の承認または不承認の決定と通知
譲渡等承認請求がされた場合、定款で定められた譲渡承認機関が、承認するか不承認とするかを決定します。定款に定めがない場合、取締役会設置会社なら取締役会、取締役会非設置会社なら株主総会の決議で決定します。
また、会社は請求の日から2週間以内に決定通知をする必要があり、通知がなければ承認されたものとみなされます。
承認された場合の流れ(譲渡完了まで)
会社が譲渡を承認した場合は、譲受人との間で株式譲渡契約を締結し、代金の支払い・受領を行います。次に、会社に対して株主名簿の名義書換を請求し、株主名簿の名義が変わることで、譲受人は株主として扱われることになります。
株券発行会社の場合は、株券の扱い(提出や交付の手続き)が必要になることがあるため、株券発行の有無を早めに確認する必要があります。
不承認の場合の流れ(会社または指定買取人による買取り)
譲渡等承認請求の際に、不承認の場合は会社または指定買取人による買取りを求める旨を明らかにしていた場合、会社が不承認とすると、会社自身が買い取るか、指定買取人(会社が指定する第三者)を指定して買い取らせる手続きに進みます。
会社が買い取る場合は、株主総会の特別決議により、買い取る旨と買い取る株式数を決定します。そのうえで、会社は原則として一株当たり純資産額に対象株式数を乗じた額を供託し、供託を証明する書面を交付して、株主へ買取りの通知を行います。
指定買取人を指定する場合は、取締役会設置会社では取締役会、取締役会非設置会社では株主総会の特別決議によって指定します。指定買取人は原則として一株当たり純資産額に対象株式数を乗じた額を供託し、供託を証明する書面を交付して、株主へ通知します。
通知には期限があります。会社による買取りでは不承認通知の日から40日以内、指定買取人による買取りでは不承認通知の日から10日以内に通知がされないと、譲渡が承認されたものとみなされることがあります。
株券発行会社の場合、株主側にも株券供託などの対応が必要になることがあります。期限を過ぎると不利益が生じる可能性があるため、株券発行の有無と株券の所在を早めに確認する必要があります。
株式の価格(売買価格)の決め方
買取りに進んだ場合は、会社または指定買取人と株主で、まず株式の売買価格を協議します。非上場株式は市場価格がないため、協議では「時価」を念頭に、会社の資産や収益・配当の状況・過去の取引例などを踏まえて、価格の根拠をそろえることが大切です。
協議が整わない場合には、裁判所に株式売買価格決定の申立てを行い、最終的に裁判所が価格を定めることになります。なお、買取りの通知後20日以内に申立てがされないと、供託額が売買価格と扱われることがあります。
譲渡等承認請求の期限まとめ
ここまでの手続きには、複数の期限が時系列で関わってきます。期限を一覧で確認できるよう、申請から価格決定までの流れを並べました。
- 第1日目:株主が会社へ譲渡等承認請求書を提出します。不承認の場合に会社または指定買取人による買取りを求めたいときは、この段階でその旨を明らかにします。
- 請求から2週間以内:会社が承認・不承認を決定し、株主へ通知します。期間内に通知がない場合は、譲渡が承認されたものとみなされます。
- 不承認通知の日から40日以内:会社が自ら買い取る場合は、株主へ買取りの通知を行う必要があります。期間内に通知がない場合は、譲渡が承認されたものとみなされることがあります。
- 不承認通知の日から10日以内:指定買取人が買い取る場合は、指定買取人から株主へ通知を行う必要があります。期間内に通知がない場合は、譲渡が承認されたものとみなされることがあります。
- 買取通知から20日以内:会社または指定買取人と株主の間で売買価格について協議が整わない場合、株主または会社などは裁判所に売買価格決定の申立てをすることができます。20日以内に申立てがされないと、供託額が売買価格として扱われることがあります。
譲渡等承認請求は、わずかな日数の積み重ねで進む手続きであり、通知の遅れや申立ての失念が大きな不利益につながることがあります。請求書を提出した日付や、会社からの通知を受け取った日付は、必ず記録に残す必要があります。
売買価格の評価で論点になる非流動性ディスカウント
不承認後の買取で売買価格を裁判所が決める場合、非上場株式の換金のしにくさをどのように評価へ反映させるかが問題になることがあります。上場株式と比べて売却先が限られ、市場で直ちに換金できないことを理由に、評価額から一定の減価を行う考え方を非流動性ディスカウントといいます。
もっとも、非流動性ディスカウントが常に認められるわけではありません。評価方法の中で市場性の欠如がすでに考慮されている場合に、さらに減価を行うと二重に控除することになり得ます。そのため、会社法上の売買価格決定では、採用される評価方法・株主の立場・会社の財務状況・過去の取引例などを踏まえて、非流動性ディスカウントを考慮すべきか、その幅をどの程度とするかが争点になります。
譲渡等承認請求書に記載する事項
譲渡等承認請求では、会社が「誰に」「どの株式を」移そうとしているのかを判断できるよう、情報を明確にします。一般に、少なくとも次の事項を記載しておく必要があります。
- 譲渡する株式の種類と数
- 譲受人(譲渡先)の氏名または名称
- 会社が譲渡を承認しない場合に、会社または指定買取人による買取りを請求するかどうか
また、会社や定款の運用によっては、譲渡日・譲渡価額(有償の場合)・譲受人の住所や連絡先などの記載や資料の提出を求められることがあります。売却によって投下資本の回収を目指す場合は、不承認時の買取請求の有無を明確にしておくことが重要です。
株式譲渡承認で用意する書類(代表例)
会社の形態や株券発行の有無によって異なりますが、手続きの過程では次のような書類が使われます。
- 譲渡等承認請求書
- 承認決議の議事録(取締役会または株主総会)および承認通知書
- 株式譲渡契約書(売買の場合)
- 株主名簿の名義書換請求書
- 株券(株券発行会社の場合)
※(不承認で買取りに進む場合)供託を証明する書面、会社または指定買取人からの通知書類
書類の不足や記載漏れがあると手続きが止まりやすいため、早めに定款と会社の運用を確認して準備することが重要です。
株式買取請求権
なお、ここまで説明した会社または指定買取人による買取りは、譲渡制限株式の譲渡等承認請求が不承認となった場合の手続きです。これとは別に、合併・会社分割・事業譲渡等の一定の会社行為に反対する株主には、会社法上、反対株主の株式買取請求権が認められる場合があります。両者は根拠となる制度と請求できる場面が異なるため、区別して理解する必要があります。
反対株主の株式買取請求権とは、会社の重要な決定に反対する株主が、自己の保有株式を公正な価格で買い取るよう会社に請求できる権利です。少数株主が非上場株式を売る手続きとしての株式買取請求権の詳細は、株式買取請求権とは?少数株主が非上場株式を売る手続きと注意点で解説しています。
代表的には、次のような場面で問題になります。ただし、対象行為・事前通知の要否・請求期間・株券提出の要否は場面ごとに異なるため、個別に確認が必要です。
- 全部の株式に譲渡制限を付す定款変更を行う場合
- 一定の種類株式に譲渡制限や全部取得条項を付す定款変更を行う場合
- 事業の全部または重要な一部の譲渡、他の会社の事業全部の譲受けなど、会社法上の事業譲渡等を行う場合
- 吸収合併・吸収分割・株式交換などの組織再編を行う場合
- 新設合併・新設分割・株式移転などの組織再編を行う場合
- 株式の併合により1株に満たない端数が生じる場合
- その他、会社法上、反対株主の株式買取請求権が認められる場合
反対株主の株式買取請求の流れ
反対株主の株式買取請求は、対象となる会社行為によって細部が異なりますが、基本的には次の流れで進みます。
- 株主総会に先立つ反対通知と株主総会における反対の主張
株主総会決議を要する行為について反対株主の株式買取請求権を行使する場合、原則として、株主総会に先立って反対する旨を会社に通知し、株主総会で当該議案に反対する必要があります。ただし、対象となる会社行為や株主総会の有無によって要件が異なるため、通知方法と期限を個別に確認することが重要です。
- 株式買取請求
反対株主の株式買取請求は、会社行為の効力発生日の20日前から前日までなど、会社法で定められた期間内に行う必要があります。新設合併等の場面では、会社の通知または公告から一定期間内に請求する必要があるなど、期間の考え方が異なる場合があります。
請求の際は、対象となる株式の種類や数を明示する必要があります。株券発行会社の場合には、対象株式に係る株券の提出が必要になることがあります。
株式買取請求を行った後は、原則として、会社の承諾がない限り請求を撤回できません。ただし、価格協議が整わず、法律で定められた期間内に株式価格決定の申立てがされない場合には、撤回が認められる場面もあります。
- 株式買取価格の協議・決定
株主と会社は、株式の買取価格について協議します。協議が成立した場合、会社は会社法で定められた期間内に代金を支払う必要があります。
協議が整わない場合には、株主または会社が裁判所に対して株式価格決定の申立てを行うことがあります。申立期間を過ぎると、請求の効力や価格決定に影響する可能性があるため、反対株主の株式買取請求を検討する場合は、早い段階で期限を確認しておく必要があります。
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同族会社の株式譲渡で生じる税金と注意点

同族会社の株式譲渡では、売主が個人か法人か、買主が個人か会社か、そして譲渡価額が「時価」と比べてどうかによって課税関係が変わります。非上場株式は市場価格がないため、価格の根拠が弱いと、譲渡益の課税だけでなく、贈与や配当とみなされる問題が出ることがあります。取引を決める前に、誰が誰に譲るのか、価格をどう決めるのかを前提として確認する必要があります。
売主と買主の組合せによる課税のパターン
同族会社の株式譲渡では、売主と買主のどちらが個人か法人かによって、課税の関係が変わります。譲渡価額が時価と比べて適正か、低額か、高額かでも結果が異なります。代表的なパターンは次のとおりです。
売主が個人・買主が個人の場合
適正価額での譲渡であれば、売主に株式等に係る譲渡所得課税が生じます。税率は所得税15%、住民税5%であり、別途、復興特別所得税が課されるため、所得税部分を含めると一般に20.315%となります。時価より著しく低い価額で譲渡した場合、買主側に贈与税が課される可能性があります。
売主が個人・買主が法人(同族会社など)の場合
適正価額での譲渡であれば、売主に株式等に係る譲渡所得課税が生じます。法人に対して時価の2分の1未満の対価で譲渡した場合には、時価で譲渡したものとみなして売主に所得税が課される取扱いがあります。また、買主である法人側でも受贈益が認識される場合があります。
売主が法人・買主が個人の場合
法人側は譲渡益が法人税の対象になります。時価より著しく低い価額で個人へ譲渡した場合、差額部分が買主個人への給与・役員給与・寄附金などとして扱われ、所得税や法人税の課税関係が生じることがあります。
売主が法人・買主が法人の場合
原則として、譲渡益が法人税の対象になります。時価とかい離した取引では、寄附金や受贈益として処理される場合があり、両法人で課税関係を確認する必要があります。
特に親族間や同族会社との取引では、当事者が決めた価格が税務上の時価として認められるとは限りません。財産評価基本通達の評価額だけで一律に判断できるわけでもないため、取引の目的・当事者の関係・会社の財務内容・過去の取引例などを踏まえて、価額の根拠を残しておく必要があります。
売った側に生じる課税(譲渡益が出た場合)
個人が非上場株式を売って利益が出た場合、一般株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象になります。
譲渡益は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算します。税率は所得税15%、住民税5%であり、別途、復興特別所得税が加算されます。復興特別所得税を含めると、所得税部分は15.315%となり、住民税5%と合わせて一般に20.315%となります。
取得費は、購入時の契約書や払込書面、相続で取得した場合は相続税申告の資料などから確認します。取得費が分からないときは、一定の場合に売却代金の5%を取得費とする扱いが認められることがあります。
たとえば、取得費が分からない非上場株式を1,000万円で譲渡し、譲渡費用がない場合を考えます。取得費を売却代金の5%(50万円)とすると、譲渡所得は1,000万円-50万円=950万円となり、これに20.315%を乗じると税額はおよそ193万円です。取得費の有無や他の所得との関係で結果は変わるため、あくまで目安としてご覧ください。
売主が法人の場合は、株式の譲渡益は法人税等の対象になります。個人の譲渡益課税とは計算や申告の前提が異なるため、売主が個人か法人かを踏まえて検討することが必要です。
低額譲渡や身内取引の注意点(贈与とみられる可能性)
親族間で「円満に終わらせたい」という理由から、時価よりも著しく低い価額で株式を譲ることがあります。
しかし、時価と大きくかい離した価額での譲渡は、税務上、低額譲渡として問題になる可能性があります。個人から個人へ著しく低い価額で譲渡した場合、時価と対価との差額が贈与により取得したものとみなされ、買主側に贈与税が課されることがあります。個人間の低額譲渡で「著しく低い価額」にあたるかどうかは、取引の内容や当事者の関係、評価額とのかい離などを踏まえて個別に判断されます。
また、個人から法人へ時価の2分の1未満の対価で譲渡した場合には、売主側で時価による譲渡があったものとみなされ、所得税が課されることがあります。法人側でも受贈益が問題になる場合があります。個人間の低額譲渡と法人に対する低額譲渡では、判断基準や課税関係が異なる点に注意が必要です。
低額譲渡と指摘されるリスクを下げるには、決算書・株式評価の算定資料・第三者の評価書・過去の取引例などをもとに、譲渡価額の根拠を用意しておく必要があります。
時価より高い価額で譲渡した場合の取扱い
低額譲渡とは反対に、時価より著しく高い価額で株式を譲渡した場合にも、課税の問題が生じることがあります。個人どうしの取引で買主が時価を大きく上回る価額を支払ったときは、時価を超える部分が実質的な贈与とみなされ、受け取った売主に贈与税が課される場合があります。
買主が法人の場合は、時価を超えて支払った部分が寄附金などとして扱われ、損金に算入できないことがあります。価額が時価から離れるほど、低額・高額のいずれの方向でも想定外の課税につながりやすいため、価額の根拠を残しておくことが大切です。
会社が買い取る場合の注意点
会社が自己株式として株式を買い取る場合、会社法上の手続きと税務上の取扱いを分けて確認する必要があります。会社法上、株式会社が自己株式を取得する場合には、原則として分配可能額の範囲内で行う必要があります。分配可能額とは、剰余金等を基礎に計算される、株主に払戻しできる上限額のことです。
税務上は、株主が会社から受け取る金銭等の全額が株式の譲渡対価として扱われるとは限りません。自己株式の取得では、受領額の一部が配当とみなされる「みなし配当」が生じることがあり、その部分は配当所得などとして扱われ、残りが株式の譲渡対価として扱われることがあります。みなし配当が生じると総合課税の対象となり税負担が大きくなる場合があるため、非上場株式の配当金とみなし配当(自己株買いの留意点)もあわせて確認しておく必要があります。
会社による買取りは、分配可能額・株主総会決議・供託・みなし配当・譲渡所得課税など複数の論点が重なります。買取りの方法や株主の属性によって課税関係が変わるため、実行前に専門家へ確認しておくことが重要です。
相続で取得した株式を発行会社へ売る場合の特例
相続や遺贈で取得した非上場株式を、相続税の申告期限の翌日以後3年以内(相続の開始からおおむね3年10か月以内)に発行会社へ譲渡した場合、要件を満たすと、本来は配当とみなされる部分(みなし配当)が生じず、売却代金の全額が譲渡所得として扱われる特例があります(租税特別措置法9条の7)。この特例は、相続または遺贈により財産を取得し、その相続または遺贈について納付すべき相続税額がある個人が対象です。
あわせて、納めた相続税の一部を株式の取得費に加算できる特例の適用余地もあります。適用を受けるには、非上場株式を発行会社へ譲渡する日までに、所定の届出書を発行会社へ提出する必要があります。発行会社側にも届出書の提出や保存に関する対応が必要になるため、相続が絡む売却では税理士に確認しながら進めてください。相続で取得した非上場株式の取扱いは、非上場株式の相続手続きと相続税評価の方法でも解説しています。
同族会社の株式譲渡で起きやすいトラブルと対処法

同族会社の株式譲渡は、会社が応じない、価格で折り合わない、書類がそろわないといった事情で止まることがあります。会社の回答遅れ、価格対立、株券紛失、相続後の名義未処理は、手続きの停滞や期限徒過につながりやすい問題です。いずれの場面でも対応の時期を逃すと選択肢が大きく狭まるため、早い段階で弁護士へ相談されることをおすすめいたします。
会社が譲渡等承認請求に応じない・回答が遅い
会社が譲渡等承認請求の日から2週間以内に承認・不承認の決定を通知しない場合は、譲渡が承認されたものとみなされます。ただし、みなし承認を主張するには、会社に対して適法な譲渡等承認請求を行ったこと、請求日がいつであるかを後から説明できる状態にしておくことが重要です。書面で請求内容と日付を残すこと、内容証明郵便を用いることが有効です。
売買価格で折り合わない
不承認後の買取手続きで、会社や指定買取人と価格の交渉がまとまらないことがあります。買取通知から20日以内であれば、株主側からも裁判所に売買価格決定の申立てができます。期間内に申立てをしないと、供託額が売買価格として扱われることがあるため、買取通知を受けた段階で早めに弁護士へ相談しておくことが重要です。
株券を紛失している
株券発行会社の場合、譲渡や買取の場面で株券の提出や交付が必要になります。株券が見つからないときは、株券喪失登録の手続きを経て再発行する必要があり、相応の日数がかかります。手続きの初期段階で株券発行の有無を確認する必要があります。
相続したまま名義書換ができていない
相続によって株式を取得しても、株主名簿の名義書換をしていないと、会社に対する権利行使に支障が生じることがあります。譲渡等承認請求や株主としての権利行使を検討する前に、相続による株式取得を会社に説明し、株主名簿の名義書換に必要な手続きを確認する必要があります。相続人が複数いる場合は、遺産分割協議で株式の帰属を決めてから書換請求を行うことが一般的です。
親族間の感情的な対立で話が進まない
身内同士の交渉では、価格や手続きに対する不満が感情的な対立に発展しやすく、当事者同士では話が進まなくなることがあります。早い段階で第三者である弁護士を間に立てることで、感情面の対立から離れて、法的な手続きに切り替えることができます。
同族会社の株式譲渡をめぐる近年の動き

同族会社の株式譲渡を取り巻く制度や社会的な状況は、近年大きく動いています。
後継者不在率は依然として高い水準
帝国データバンクが発表した「全国『後継者不在率』動向調査(2025年)」によると、国内企業の後継者不在率は50.1%とされており、依然として国内の半数近くの企業が後継者を見つけられていません。同族会社では、後継者不在によって会社の存続が難しくなる一方で、相続によって同族会社の株式が思いがけず親族に分散することも増えています。
同じ調査では、2025年に代表者交代を行った企業のうち、血縁によらない内部昇格が同族承継を上回ったことも示されており、事業承継の場面では脱ファミリー化の動きも見られます。こうした流れのなかで、経営に関わらない親族が同族会社の株式を保有し続けるケースも生じています。
事業承継税制の動向
事業承継税制は、後継者が先代経営者から非上場株式を贈与または相続によって取得した場合に、一定の要件のもとで贈与税・相続税の納税猶予を受けられる制度です。法人版の特例措置については、一定の要件を満たす非上場株式等の承継について、贈与税・相続税の納税猶予や免除を受けられる場合があります。
法人版事業承継税制の特例措置を利用するには、原則として、特例承継計画を期限までに都道府県へ提出する必要があります。中小企業庁の案内では(2026年時点)、特例承継計画の提出期限は2027年9月30日まで、特例措置の対象となる贈与・相続の期限は2027年12月31日までとされています。
後継者への株式承継を検討する場合は、特例承継計画の提出・後継者や先代経営者の要件・会社の要件・贈与や相続の時期などを確認する必要があります。制度の期限や要件は改正により変わる可能性があるため、利用を検討する場合は最新情報を確認し、早めに専門家へ相談しましょう。
相続時精算課税制度の改正
2024年1月1日以後の贈与から、相続時精算課税制度に年間110万円の基礎控除が設けられました。相続時精算課税制度は、原則として60歳以上の父母または祖父母などから、18歳以上の子または孫などへ贈与する場合に選択できる制度です。
同族会社の株式を生前贈与で後継者へ移す場合、暦年課税による贈与と相続時精算課税制度のどちらを選ぶかによって、贈与時と相続時の課税関係が変わります。株式評価額・将来の相続財産・後継者の資金負担などを踏まえ、事前に試算してから利用を検討することが重要です。
非上場株式の評価や売買価格をめぐる動き
非上場株式の売買価格については、譲渡制限株式の売買価格決定の場面で、非流動性ディスカウントをどのように扱うかが問題になることがあります。非流動性ディスカウントとは、非上場株式が市場で容易に換金できないことを理由に、評価額から一定の減価を行う考え方です。
ただし、非流動性ディスカウントが常に認められるわけではありません。採用される評価方法や、すでに市場性の欠如が評価に反映されているかによって、考慮の可否や幅は変わります。少数株主が会社や指定買取人と価格を協議する場面では、評価方法と減価の根拠を慎重に検討する必要があります。
よくある質問
同族会社の株式譲渡については、よく似た疑問が寄せられます。代表的な質問にお答えします。
Q. 同族会社の株式を売却した場合、どのような税金がかかりますか?
個人が非上場株式を譲渡して利益が出た場合、一般株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象になります。税率は所得税15%、住民税5%であり、別途、復興特別所得税が課されるため、一般に20.315%となります。譲渡益は「譲渡価額-(取得費+譲渡費用)」で計算します。売主が法人の場合は、譲渡益が法人税等の対象になります。価額の決め方によっては、贈与税・受贈益課税・寄附金課税・みなし配当といった別の税金がかかる場合もあるため、価額の根拠を残しておくことが大切です。
Q. 株式を無償で親族に譲渡することはできますか?
無償で株式を渡す場合は、通常、贈与として扱われます。受け取った側に贈与税が課される可能性があるため、非上場株式の評価額を確認する必要があります。譲渡制限株式である場合は、無償であっても会社の承認手続きが問題になります。また、個人から法人へ無償または著しく低い価額で譲渡する場合など、時価で譲渡したものとみなされる場面もあります。
Q. 家族間で株式を譲渡する手順を教えてください。
家族間でも、譲渡制限株式であれば会社への譲渡等承認請求が必要になることがあります。まず定款を確認し、譲渡承認機関・譲渡する株式の種類と数・譲受人を特定します。承認が得られた場合は、家族間で株式譲渡契約を締結し、代金の支払いを行い、会社に株主名簿の名義書換を請求します。価額の根拠を残しておくこと、株券発行会社であれば株券の所在や交付方法を確認しておくことが必要です。
Q. 同族会社の株式を個人間(親族間)で譲渡するときの注意点は?
個人間の譲渡であっても、譲渡制限株式であれば会社への譲渡等承認請求が必要になることがあります。価格面では、時価より著しく低い価額で譲ると差額が贈与とみなされ、買主に贈与税が課される場合があり、反対に時価より著しく高い価額にも課税の問題が生じることがあります。決算書や評価資料などで価額の根拠を残しておく必要があります。親族間では感情面の対立も起きやすいため、価格や手続きで折り合いがつかないときは、早めに弁護士へご相談ください。
Q. 譲渡等承認請求を会社が無視した場合はどうなりますか?
適法な譲渡等承認請求をしたにもかかわらず、請求の日から2週間以内に会社から承認・不承認の通知がないときは、譲渡が承認されたものとみなされます。後から請求の日付や内容を説明できるよう、譲渡する株式・譲受人・不承認時の買取請求の有無などを記載した書面を作成し、内容証明郵便などで請求しておくことが重要です。
Q. 同族会社へ株式を贈与した場合、課税関係はどうなりますか?
個人から同族会社への株式の贈与は、原則として法人側で受贈益として法人税の対象になります。また、贈与によって会社の純資産が増えると、その会社の株主にも利益が及ぶことから、株主に対するみなし贈与の問題が生じることがあります。
Q. 株券を紛失した状態でも株式譲渡はできますか?
株券発行会社の場合、株券の提出や交付が手続きの前提となります。紛失している場合は、株券喪失登録の手続きを経て、所定の期間後に株券を無効とする取扱いが必要です。手続きには相応の日数がかかるため、譲渡を予定している場合は早めの対応が望まれます。
ここに挙げた質問以外にも、お一人お一人の事情によって判断が必要な論点は数多くあります。当事務所では同族会社の株式譲渡に関するご相談をお受けしておりますので、お気軽にお問い合わせください。
同族会社の株式の換価や手続きでお悩みの方へ

同族会社の株式は、譲渡等承認請求や反対株主の株式買取請求権を検討することで、換価や権利関係の解決につながる場合があります。これらの手続きが使えない場面であっても、任意の交渉・民事調停・裁判所への申立てなど、状況に応じた方法を検討できます。
ただ、手続きには細かい期限があり、書面の書き方や通知の方法ひとつで結果が変わることがあります。同族間の交渉では、感情的な対立から話が進みにくくなることも少なくありません。
同族会社の株式は、相続で取得した方にとって扱いに困りやすい資産ですが、法的な手続きによって動かせる場面があります。お一人で悩み続ける前に、早めの相談を検討してみてください。当事務所では同族会社の株式や非上場株式に関するご相談をお受けしておりますので、お困りの場合はご相談フォームよりお問い合わせください。
本記事の要点
同族会社の株式譲渡は、非上場であることに加えて、譲渡制限によって会社の承認が必要になるケースが多く、手続きが止まりやすい分野です。
譲渡等承認請求の流れを押さえておけば、承認された場合は契約と株主名簿の名義書換によって譲渡を進められます。不承認となった場合でも、譲渡等承認請求の際に会社または指定買取人による買取りを求める旨を明らかにしていれば、買取手続きに進みます。価格の協議が整わないときは、一定期間内に裁判所へ売買価格決定を申し立てる方法もあります。
非上場株式は「時価」を前提に価格を検討する必要があり、親族間での低額譲渡は贈与とみられる可能性があるなど、税金面の注意点もあります。売主と買主のどちらが個人か法人か、譲渡価額が時価と比べてどうかによって、課税の結果は大きく変わります。
同族会社の株式譲渡承認は、定款の定めや会社の運用・株券発行の有無によって必要書類や進め方が変わります。手続きや価格で迷いがある場合は、早めに弁護士へ相談することを検討してみてください。



