自己株式取得で会社が少数株式を買い取る場合の会社法上の留意点
| 売主追加請求権 | 他の株主は自己をも売主に加えることを請求できます | 会社法第160条第3項 |
|---|---|---|
| 定款による排除 | 定款で売主追加請求権を適用しない旨を定めることができます | 会社法第164条第1項 |
| 相続人等からの取得の特則 | 公開会社でない会社が一般承継により取得した者から取得する場合には、原則として売主追加請求権の規定は適用されません | 会社法第162条 |
売主追加請求権は、特定の株主だけが会社に株式を買い取ってもらう機会を得ることを防ぎ、株主間の公平を図る趣旨の制度です。少数株主の側から見ますと、他の株主が売主に加わることによって、会社が取得する株式の総数が増え、1人当たりの取得数が按分により減少する可能性があります。
もっとも、定款でこの請求権を排除している会社も少なくありません(会社法第164条第1項)。株式の発行後に定款を変更してこの定めを設けるには、当該株式を有する株主全員の同意を要するものとされております(会社法第164条第2項)。したがいまして、定款の確認は実務上重要です。
なお、相続その他の一般承継により株式を取得した者から公開会社でない会社が取得する場合には、原則として売主追加請求権の規定は適用されません(会社法第162条)。相続により株式を取得した少数株主の事案では、この特則が適用される場面があります。
第3節 分配可能額による財源の制約
自己株式の取得は株主に対する会社財産の払戻しに当たりますので、交付する金銭等の帳簿価額の総額は、その効力を生ずる日における分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第3号)。
表2 財源に関する規律
| 場面 | 内容 | 根拠条文 |
|---|---|---|
| 取得の上限 | 交付する金銭等の総額は分配可能額を超えることができません | 会社法第461条第1項第3号 |
| 超過した場合 | 金銭等の交付を受けた者及び業務執行者等が支払義務を負います | 会社法第462条第1項 |
| 期末に欠損が生じた場合 | 業務執行者が一定の額を支払う義務を負う場合があります | 会社法第465条 |
分配可能額は、剰余金の額を基礎に法定の調整を加えて算出されます(会社法第461条第2項)。利益剰余金が乏しい会社、繰越損失を抱える会社では、この制約により会社自身が買主となることができない場合があります。会社が「財源がない」と説明するのは、多くの場合この規律を指しております。
このような場合、買主を会社ではなく支配株主その他の個人とする方法が検討の対象となります。個人が買主となる場合には、会社法上の財源規制は及びません。この点は記事「非上場株式を会社ではなく大株主に買い取ってもらう方法」(A09)に整理しております。
第4節 取得した自己株式の取扱い
会社が取得した自己株式については、議決権を有しないものとされております(会社法第308条第2項)。また、会社は、自己株式について剰余金の配当をすることができません(会社法第453条参照)。
会社は、取得した自己株式を保有し続けることも、取締役会の決議等により消却することもできます(会社法第178条)。処分する場合には、募集株式の発行等の手続によることとなります(会社法第199条第1項)。
少数株主の側から見ますと、自己株式の取得は発行済株式の総数のうち議決権を行使することができる株式の数を減少させるものですので、残る株主の持株比率に事実上の影響を与えます。他の株主が売主追加請求をするかどうかは、この点とも関係いたします。
第5節 少数株主側から確認すべき事項
表3 確認事項
| 確認事項 | 意味 |
|---|---|
| 定款の内容 | 売主追加請求権の排除の有無を確認いたします |
| 直近の計算書類 | 分配可能額の目安を把握いたします |
| 株主総会の招集の予定 | 特別決議を要しますので、開催時期が支払時期に影響いたします |
| 他の株主の動向 | 売主追加請求がされる可能性を検討いたします |
| 取得の枠と実際の取得 | 会社法第156条第1項の決議と第157条第1項の決定の双方を確認いたします |
| 支払の時期及び方法 | 分割払とする場合の条件を確認いたします |
会社から「手続に時間がかかる」と説明された場合、その内容が上記のいずれを指すのかを確認することが有益です。株主総会の招集には手続と期間を要しますので、合意の成立から実際の支払までに一定の期間が生ずること自体は、制度上避けられません。
第6節 弁護士に相談する意味
会社法上の手続は、会社の側が履践するものですが、その内容は株主が受け取る対価と時期に直結いたします。手続に違反した取得は効力を争われる余地があり、後日の紛争の原因ともなります。
弁護士は、株主本人の代理人として、定款及び計算書類の確認、手続の適法性の検討、合意内容の書面化を行います。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。
よくあるご質問
質問1 会社が株主総会を開かずに買い取ることはできますか。
株主との合意による有償取得については、会社法第156条第1項の株主総会の決議を要します。特定の株主から取得する場合には特別決議によらなければなりません(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)。手続を欠く取得は、効力を争われる余地があります。
質問2 私は当事者ですが、その株主総会で議決権を行使できますか。
特定の株主として取得の相手方となる株主は、当該株主総会において議決権を行使することができません(会社法第160条第4項)。
質問3 他の株主が売主に加わると、私の売却株式数は減りますか。
会社が定めた取得総数を超える申込みがあった場合には、按分により取得されることとなります(会社法第159条第2項)。結果として、当初想定した株式数の全部を売却できない場合があります。
質問4 会社に分配可能額がない場合、買取りは不可能ですか。
会社自身が買主となることは制約を受けます。もっとも、支配株主その他の個人が買主となる方法や、株式譲渡承認請求における指定買取人による買取りという方法があります(会社法第140条第4項)。指定買取人には財源規制が及びません。
交渉手法の詳細について
具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。
ご相談の際には、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、会社から示された手続の予定に関する書面をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
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本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文
会社法 第140条第4項(指定買取人)、第155条第3号(合意による取得)、第156条第1項(取得に係る株主総会の決議)、第157条(取得価格等の決定)、第158条(株主に対する通知)、第159条(譲渡しの申込み及び按分)、第160条第1項から第4項まで(特定の株主からの取得、売主追加請求権及び議決権の制限)、第162条(相続人等からの取得の特則)、第164条第1項・第2項(定款による売主追加請求権の排除)、第178条(自己株式の消却)、第199条第1項(募集株式の発行等)、第308条第2項(自己株式の議決権)、第309条第2項第2号(特別決議)、第453条(剰余金の配当)、第461条第1項第3号・第2項(分配可能額)、第462条第1項(財源規制違反の責任)、第465条(期末の欠損に係る責任)
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