配当還元方式はなぜ株価をここまで低く算定するのか 国税庁が「最低配当2円50銭」の計算方法の見直しに踏み込みました

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国税庁が「最低配当2.5円」の計算方法の見直しを、検討事項に掲げました
令和8年(2026年)8月20日、国税庁の「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議」の第5回会合が開催されました。国税庁が提出した資料(全7頁)の第5項は「配当還元方式について」であり、今後の検討事項として「最低配当2.5円とする計算方法の見直し」が明記されました(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料・令和8年8月20日)。
非上場会社の少数株主の皆様が、会社から株式の買取価格を提示されたとき、その根拠として持ち出されることが最も多いのが、この配当還元方式です。「配当還元方式で計算しましたので、1株あたり○○円です」という説明を受けた方は、少なくないはずです。
その計算方法そのものが、いま国の側から見直しの対象として名指しされています。本記事では、配当還元方式とは何か、なぜ株価がこれほど低く算定されるのか、そしてそれが株式の売買価格の基準になるのかどうかを整理いたします。
【令和8年8月20日】配当還元方式は「範囲を見直したうえで存置」との方向性です
第5回会合の資料は、配当還元方式について「特例的評価方式の趣旨を逸脱した濫用があることを踏まえ、特別の例外措置として適用の範囲等を見直した上で存置」するとし、「配当を受け取る以外に期待できない株主に対する特例的評価方式」として位置づけ直す方向性を示しました。なお、これらはいずれも検討の途中段階であり、内容も時期も確定したものではありません。
「配当還元方式で計算した金額です」という説明が、当然のように行われています
会社から示される株式買取価格の根拠は、多くの場合、税理士が作成した株価算定書です。そこには配当還元方式による計算が記載され、1株あたり数十円から数百円という金額が算出されています。
会社の説明は、おおむね次のようなものです。
- 「国税庁の定めた方式で計算しているので、これが適正な株価である」
- 「相続税の申告でもこの金額を使う。税務署も認めている金額である」
- 「配当を出していないのだから、株式に価値はない」
この説明は、前提のところで誤っています。順に見てまいります。
配当還元方式とは、どのような計算方法なのでしょうか
配当還元方式は、その株式を保有することによって将来得られると期待される1株当たりの配当金額を、一定の割合(還元率)で割り戻すことによって、元本にあたる株式の現在の価値を算出する方法です。
財産評価基本通達における配当還元方式は、直前2期の配当金額を基礎とし、還元率を10%として計算いたします。配当という要素だけを見て、株価を決める方法であるとご理解ください。
この方式は、財産評価基本通達において特例的評価方式と位置づけられています。原則的評価方式(類似業種比準方式、純資産価額方式)に対する例外であり、会社の経営に影響を及ぼさない少数株主が取得する株式について適用されるものです。
配当を出していない会社では、1株当たり2円50銭とみなされます
配当還元方式には、決定的な弱点があります。配当を出していない会社では、1株当たりの配当金額が2円50銭とみなされ、それを基礎として計算が行われるのです。
その結果、どれほど純資産が厚く、どれほど利益を上げている会社であっても、配当を出していないという形式的な理由だけで、最低額に近い株価しか算出されないことになります。
この2円50銭という数字は、かつての額面制度を前提としたものです。額面制度そのものは既に廃止されているにもかかわらず、額面を前提とした計算だけが残っているという点が、有識者会議において問題とされています。第5回会合の資料が「最低配当2.5円とする計算方法の見直し」を掲げたのは、この構造に対するものです。
数字が示す実態 評価対象会社の82.4%が無配当です
では、この「配当を出していない会社」は、どの程度あるのでしょうか。
国税庁が第1回有識者会議(令和8年4月20日)に提出した資料によれば、評価対象会社の82.4%が、直前2期において配当をまったく支払っていません(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料・令和8年4月20日)。
8割を超える会社について、「1株当たり2円50銭」という最低額が機械的に当てはめられてきたということです。
あわせて、同資料は、類似業種比準価額の中央値が純資産価額の中央値の26%から27%程度にとどまることを示しています(令和4年分から令和5年分の申告分)。また、申告評価額が純資産価額に占める割合の中央値は、大会社0.44倍、中会社0.50倍、小会社0.60倍とされています。現行の評価が、会社の実質的な価値を大きく下回っていることは、国税庁自身が公表した数字です。
還元率10%は、昭和39年以来、一度も見直されていません
もうひとつの問題が、還元率です。配当還元方式の還元率10%は、昭和39年(1964年)の財産評価基本通達の公表以来、一度も見直されていません(出典 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料・令和8年4月20日)。
還元率は、割り戻しの分母にあたります。したがって、還元率が高いほど、算出される株価は低くなります。長く続いた低金利のもとでは10%という還元率は相対的に高すぎるとの課題が、有識者会議において示されています。
第4回会合(令和8年7月3日)の議事要旨によれば、還元率及び対象株主の範囲の見直しが必要であるとの指摘が、複数の委員からなされています。他方で、還元率を引き下げるとしても、従業員持株会が事実上設立できなくなったり、少数株主の整理がより難しくなりかねないとの懸念も示されました(出典 国税庁「第4回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 議事要旨」・令和8年7月3日)。
配当還元方式が適用される株主の範囲にも、歪みが指摘されています
平成15年(2003年)の通達改正により、同族株主に該当するかどうかの判定基準が、従来の発行済株式数から議決権数へと変更されました。
その結果、議決権のない株式を大量に保有させれば、実質的には支配的な立場にある者であっても、形式上は少数株主として扱われ、配当還元方式による低い評価を受けられるという抜け道が生じたと指摘されています。
第4回会合では、対象株主の判定について「議決権割合のみではなく持株割合も用いて判定してはどうか」との提案がなされました。第5回会合の資料が「特例的評価方式の趣旨を逸脱した濫用」に言及したのも、この文脈です。
本来は高い価値のある株式が、制度の形式を利用して低く評価されてきた。少数株主の皆様が受けてきた低い評価も、この制度の歪みの延長線上にあります。
ここからが重要です 配当還元方式は、売買価格の基準ではありません
ここまで、配当還元方式が低い金額を算出する仕組みを見てまいりました。しかし、少数株主の皆様にとって最も重要なのは、次の点です。
配当還元方式は、相続税及び贈与税の課税価格を計算するための方式であって、株式の売買価格を決めるための方式ではありません。
目的が異なります
財産評価基本通達は、相続税及び贈与税の申告における評価の統一と、課税実務の便宜のために定められたものです。大量の申告を画一的に処理するために、簡便な計算式が用意されているということです。
これに対して、株式の売買価格は、当事者間で財産を移転する対価です。画一的な処理の便宜という要請は、そこには存在いたしません。
裁判所は「一切の事情」を考慮いたします
株式譲渡承認請求に対して会社が承認をしなかった場合、会社又は指定買取人が株式を買い取ることになり(会社法第140条)、価格の協議が調わないときは裁判所に対して株式売買価格決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項)。
このとき裁判所は、「会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない」とされています(会社法第144条第3項)。特定の評価方式を機械的に当てはめるのではなく、資産状態、収益力、取引の経緯等を総合的に考慮して、価格を決定するのです。
反対株主の株式買取請求の場合も同様で、裁判所は「公正な価格」を決定いたします(会社法第786条等)。いずれの手続においても、裁判所が財産評価基本通達に拘束されるという規定は、どこにもありません。
配当還元方式は、積み上がった内部留保を見ていません
非上場株式を評価する一般的なアプローチは、次の3つに分類されます。
- ネットアセット・アプローチ 純資産に着目する方法
- インカム・アプローチ 将来の利益や資金の流れに着目する方法
- マーケット・アプローチ 類似する会社の株価と比較する方法
配当還元方式はインカム・アプローチに分類されますが、配当という限定的な要素しか見ていません。配当されなかった利益は会社の資産として積み上がっており、本来は株主の持分価値を構成するはずのものです。この積み上がった資産を計算から除いてしまう点に、配当還元方式の最大の欠点があります。
国税庁が第5回会合において「類似業種比準方式を存置することは困難ではないか」とし、「インカムアプローチによる評価を主軸とすべき」との方向性を示したうえで、残余利益方式の計算式を「簿価純資産 ± 数年分の超過収益 = 評価額」と示したのも、会社の実質的な価値を評価に反映させるためです。有識者からは、超過収益の年数について「5年分が良いのではないか」との意見が出ています。
配当還元的な考え方が妥当する場面もあります
公平のために申し上げますと、配当還元方式があらゆる場面で否定されるわけではありません。会社の経営に何らの影響力も持たず、純粋に配当を受け取ることだけが期待される株主について、配当を基礎として評価することには一定の合理性があると考える立場もあります。
実務上、発行済株式総数の10%未満を保有する株主の売買については、配当還元的な考え方の採用が有用であるとする見解もあります。第5回会合の資料が、配当還元方式を「配当を受け取る以外に期待できない株主に対する特例的評価方式」と位置づけ直したのも、同じ発想によるものと考えられます。
もっとも、その場合であっても、過去の配当実績をそのまま当てはめてよいということにはなりません。同業他社の平均的な配当性向を参考として「あるべき配当額」を想定するなど、適正な価格を導くための調整が必要です。
そして、ここに重要な含意があります。会社に対して株式の買取りを求め、価格を争うことのできる株主は、「配当を受け取る以外に期待できない株主」には当たらない可能性があります。当たらないのであれば、配当還元方式という極端に低い評価の対象からは外れることになります。
会社側が配当還元方式を持ち出す理由
会社の側の事情を、率直に申し上げます。
第一に、最も安い金額が出るからです。純資産価額方式や収益還元法で計算すれば、はるかに高い金額が算出される会社であっても、配当還元方式であれば低い金額に収まります。
第二に、「国税庁の方式である」という説明が、権威を伴って響くからです。国が定めた計算方法だと言われれば、多くの方は反論を思いつきません。しかし、その方式は相続税及び贈与税の申告のためのものであって、売買価格のためのものではありません。
第三に、配当を出すかどうかを決めているのは、会社の側だからです。非上場会社では、支配株主が経営陣を兼ねていることが多く、上場会社のような配当の圧力が働きません。利益を配当せずに内部留保として蓄え、あるいは経営者一族の役員報酬として支出する。その結果として配当がゼロになり、そのゼロを根拠として株価が低く算定される。会社が自ら作り出した状態を、そのまま価格の根拠として用いていることになります。
いま確認していただきたいこと
提示された金額の計算根拠を、書面で求めてください
どの評価方式を用いたのか、どの数値を基礎としたのか、還元率はいくらか。口頭の説明ではなく、計算過程の分かる書面をお求めください。根拠を示さないまま金額だけを提示してくる場合には、その姿勢自体が交渉における重要な事情となります。
会社の純資産と利益の実額を把握してください
配当還元方式が妥当かどうかは、会社の実態と突き合わせなければ判断できません。株主には会計帳簿の閲覧謄写請求の権利があります(会社法第433条)。議決権又は発行済株式の3%以上を保有していれば行使することができ、他の株主と共同して請求することも可能です。
3%に満たない場合でも、計算書類等の閲覧謄写請求は持株数の要件なく行うことができます(会社法第442条)。
配当の実績を時系列で確認してください
何年にわたって配当がゼロであったのか。その間、会社はどれだけの利益を上げ、役員報酬をいくら支出していたのか。配当がゼロであった事実は、会社にとって有利な事実ではなく、むしろ説明を要する事実です。
ご自身の持株比率と議決権割合を確認してください
配当還元方式が適用される株主の範囲は、見直しの対象とされています。議決権割合のみではなく持株割合も用いて判定してはどうかとの提案もなされました。ご自身がどの区分に位置するのかは、今後の議論の行方によって変わり得ます。
よくあるご質問
会社から配当還元方式による金額を提示されました。応じなければならないのでしょうか
応じなければならないという法的な義務はありません。価格は当事者の協議によって定まるものであり、協議が調わないときは裁判所に対して株式売買価格決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項)。裁判所は会社の資産状態その他一切の事情を考慮いたしますので、配当還元方式による金額がそのまま採用されるとは限りません。
配当が長年ゼロです。やはり私の株式に価値はないのでしょうか
そのようなことはありません。配当がゼロであることは、会社に利益がないことを意味しません。利益が配当されずに内部留保として積み上がっているのであれば、その価値は株主の持分に反映されるべきものです。まずは会社の財務内容をご確認ください。
評価ルールの見直しによって、配当還元方式は廃止されるのでしょうか
第5回会合で示された方向性は、廃止ではなく「適用の範囲等を見直した上で存置」です。あわせて「最低配当2.5円とする計算方法の見直し」が検討事項とされています。ただし、内容も時期も確定していません。適用開始は令和10年(2028年)分の相続からと見込まれていますが、令和9年度(2027年度)の税制改正で結論が出される見込みであり、現時点では推定にとどまります。
相続税の申告で使った評価額を、そのまま売却価格として主張できますか
逆です。相続税の評価額は、売却価格の上限でも下限でもありません。実際の売買においては、会社の資産状態、収益力、取引の経緯等を踏まえて価格が定まります。相続税の評価額よりも高い価格で売買が成立することは、珍しいことではありません。
おわりに
配当還元方式は、簡便な計算式です。簡便であるということは、多くの事情を切り捨てているということでもあります。厚い純資産も、高い収益力も、蓄積された内部留保も、この計算式は見ていません。
そして、その計算式が生み出す低い金額が、長年にわたり「非上場株式に高い価値はない」という説明の根拠として用いられてまいりました。いま、その計算式そのものが、国の側から見直しの対象として名指しされています。評価対象会社の8割超が無配当であること、現行の評価が純資産価額の3割弱にとどまること、還元率が60年以上見直されていないこと。これらはいずれも、国税庁自身が公表した事実です。
弁護士法人M&A総合法律事務所は、非上場株式の少数株主の皆様の側に立って、会社に対する株式買取請求、価格の交渉、株式売買価格決定の申立てを取り扱ってまいりました。提示された金額の根拠が配当還元方式であるとき、それが皆様の事案において妥当なのかどうかを、財務内容と突き合わせて検討いたします。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
配当還元方式による低い株式買取価格を提示されている方のご相談
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出典
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第1回)」資料(令和8年4月20日)
- 国税庁「取引相場のない株式の評価に関する有識者会議(第5回)」資料(令和8年8月20日)
- 国税庁「第4回 取引相場のない株式の評価に関する有識者会議 議事要旨」(令和8年7月3日)
- 財産評価基本通達(昭和39年公表)
- 会社法(第140条、第144条、第433条、第442条、第786条)
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