配当がない会社の少数株式は価値が低いのか
配当を行わないという判断は、財源の制約による場合もあれば、資金を設備投資や借入金の返済に充てるという経営上の判断による場合もあります。いずれにせよ、これは会社の裁量に属する事柄であり、配当を行わないこと自体が直ちに違法となるものではありません。
第2節 配当が行われていない理由は一様ではない
非上場会社で配当が行われていない理由は、会社ごとに異なります。理由によって、株式の価値に対する意味合いも変わります。
表2 配当が行われていない理由の類型
| 類型 | 内容 | 株式の価値との関係 |
|---|---|---|
| 利益の留保 | 利益を設備投資、借入金の返済、内部留保に充てています | 純資産が厚くなる方向に働きます |
| 役員報酬等による還元 | 経営に関与する株主に役員報酬等として支払われています | 利益が圧縮されているだけであり、収益力の欠如を意味しません |
| 業績不振 | 分配可能額がない、又は資金に余裕がありません | 収益方式による評価には影響いたします |
| 支配株主の意向 | 配当を抑制する方針が採られています | 会社の財産や収益力とは無関係です |
| 慣行 | 創業以来配当を行う慣行がありません | 同上 |
同族会社では、第二の類型が広く見られます。経営に関与する株主は役員報酬、役員退職慰労金、社宅その他の形で会社から経済的利益を受けており、配当という形式を採る必要がありません。他方で、経営に関与していない少数株主は、配当がない限り会社から何も受け取ることができません。この非対称が、少数株主が株式の現金化を検討される主要な動機となっております。
ここで重要なのは、役員報酬は費用として計上され、その分だけ利益が減少するという点です。「利益が出ていないから配当ができない」という説明がされている場合でも、役員報酬の水準が事業の実態に照らして通常のものであるかを確認する必要があります。
第3節 評価の考え方ごとに配当実績の意味は異なる
株式の価値の算定には複数の考え方があり、配当実績が結果に与える影響は、いずれの考え方を用いるかによって大きく異なります。
表3 主な評価の考え方と配当実績の位置付け
| 考え方 | 着目する対象 | 配当実績の影響 |
|---|---|---|
| 純資産方式 | 会社が保有する資産及び負債 | 影響いたしません。配当をしないほど純資産は厚くなります |
| 収益還元法 | 将来にわたって獲得が見込まれる利益 | 直接には影響いたしません。着目するのは利益であり配当ではありません |
| ディスカウンテッド・キャッシュ・フロー法 | 将来のキャッシュ・フロー | 同上 |
| 類似会社比準法・類似業種比準方式 | 同種の会社との比較 | 比準要素に配当を含む方式では影響いたします |
| 配当還元法 | 将来期待される配当 | 直接に影響いたします。配当がなければ極端に低い数値となります |
配当がない会社の株式について「価値がない」という説明がされる場合、その多くは配当還元法による数値が念頭に置かれております。しかし、配当還元法は、株主が配当以外に会社から経済的利益を受けることを想定しない場面で用いられる考え方であり、これを唯一の基準として売買価格を定めなければならないという法律上の定めはありません。
裁判所が譲渡制限株式の売買価格を決定する場合においても、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮するものとされております(会社法第144条第3項)。考慮の対象は会社の資産状態を含む一切の事情であり、配当実績のみに限定されるものではありません。純資産方式及び収益方式の詳細につきましては、既存記事「非上場株式の収益還元法とは」及び「非上場株式の株式価値算定方法」に整理しております。
第4節 配当還元の考え方が用いられる場面との混同
「配当がないから価値が低い」という説明の背景には、相続税及び贈与税の課税における財産の評価方法との混同があると考えられます。
相続税及び贈与税における取引相場のない株式の評価においては、財産評価基本通達に定めがあり、同族株主以外の株主等が取得した株式については、特例的な評価方式として配当還元方式が用いられます。これは、経営に関与しない少数株主にとって株式の経済的な意味が配当の受領に限られるという前提に基づく、課税上の画一的な取扱いです。
もっとも、この取扱いは、課税の公平と大量の事案の画一的な処理を目的とするものであり、当事者間の売買における価格を規律するものではありません。相続税の申告に用いた評価額をそのまま売買価格としなければならないという法律上の定めは存在いたしません。この点は、記事「相続税評価額と実際の株式売買価格が違う理由」に詳しく整理しております。
表4 目的による評価の違い
| 場面 | 用いられる基準 | 目的 |
|---|---|---|
| 相続税・贈与税の申告 | 財産評価基本通達の定め | 課税の公平と画一的な処理 |
| 裁判所による売買価格の決定 | 会社の資産状態その他一切の事情 | 当事者間の公正な価格の形成 |
| 任意の売買 | 当事者の合意 | 取引の成立 |
会社又は買手が配当還元の考え方による数値のみを示している場合には、それがいかなる前提に基づくものかを確認する意味があります。
第5節 配当がない会社でこそ確認すべき事項
配当が行われていない会社では、株主が会社の内容を知る機会が乏しくなりがちです。そのため、価値の検討の前提として、次の事項を確認いたします。
表5 確認する事項と手がかり
| 確認事項 | 意味 | 手がかり(根拠条文) |
|---|---|---|
| 純資産の額と内容 | 純資産方式による検討の前提となります | 計算書類等(会社法第442条第3項) |
| 不動産その他の資産の含み損益 | 帳簿価額と時価との差が価値に影響いたします | 計算書類、固定資産台帳 |
| 直近数期の損益の推移 | 収益方式による検討の前提となります | 計算書類等 |
| 役員報酬及び役員退職慰労金の水準 | 利益が圧縮されていないかを確認いたします | 勘定科目内訳明細書、株主総会議事録 |
| 事業に用いられていない資産 | 事業価値とは別に検討いたします | 計算書類、会計帳簿 |
| 過去の配当の有無と決議の内容 | 配当を行わない判断の経緯を確認いたします | 株主総会議事録(会社法第318条第4項) |
株主は、営業時間内はいつでも、計算書類及びその附属明細書等の閲覧又は謄本の交付等を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求には持株比率の要件がありません。株主総会の議事録についても、営業時間内はいつでも閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。会計帳簿及びこれに関する資料については、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主が、理由を明らかにして請求することができます(会社法第433条第1項。拒絶事由につき同条第2項)。
配当がない会社では、これらの請求によって初めて会社の実情が明らかになることがあります。純資産が想定を大きく超えて積み上がっていた、事業に用いられていない不動産や有価証券を保有していた、役員報酬が事業規模に照らして高い水準にあったといった事実が判明する例もあります。
第6節 配当を求めるという選択肢とその限界
配当がないこと自体を是正したいというご希望をお持ちの方もいらっしゃいます。この点については、次のとおり整理されます。
株主総会において剰余金の配当に関する議案を提案することは可能です。取締役会設置会社においては、総株主の議決権の100分の1以上の議決権又は300個以上の議決権を有する株主が、株主総会の目的である事項につき議案を提出することができるとされております(会社法第303条第2項。公開会社でない取締役会設置会社については、6か月の保有期間の要件は適用されません。同条第3項)。もっとも、提案が行われても、決議は多数決によって成立いたしますので、支配株主が反対する限り可決には至りません。
また、剰余金の配当を受ける権利は、決議がされるまでは抽象的な権利にとどまりますので、決議がないことを理由として直ちに配当相当額の支払を求めることは、一般には困難です。配当政策そのものは会社の裁量に属する事柄と位置付けられております。
そのため、実務上は、配当を求めることよりも、株式そのものを適正な価格で現金化することを検討される方が多くいらっしゃいます。会社又は大株主との任意の買取交渉、譲渡制限株式についての株式譲渡承認請求という制度上の受け皿があります。後者には短い期間の制限が置かれており、会社又は指定買取人からの買取りの通知があった日から20日以内に裁判所に売買価格の決定の申立てをしないときは(その期間内に協議が調った場合を除きます。)、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(会社法第144条第2項、第5項、第7項)。
第7節 弁護士に相談する意味
配当がないことを理由として低額の提示を受けている場合、その提示の根拠が何であるかを確認することが出発点となります。配当還元の考え方による数値であるのか、純資産の額を踏まえたものであるのか、収益をどのように見ているのかによって、検討の方向が異なるからです。
弁護士は、株主本人の代理人として、株主に認められた情報取得の手段(会社法第442条第3項、第318条第4項、第433条第1項等)を用いて資料の範囲を確保し、複数の考え方によって幅をもった検討を行ったうえで、会社との協議を行います。単一の金額を主張することではなく、どのような前提を置けばどのような結論となるのかを整理し、会社側の説明と突き合わせられる状態にすることが業務の中心です。
なお、株式買取業者は株式の買手であり、株主本人の代理人ではありません。買手は取得価額が低いほど利益が大きくなる立場にあります。大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。業者一般が違法であるという趣旨ではありませんが、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるということです。
よくあるご質問
質問1 会社から「無配当の株式に値段はつかない」と言われました。
配当の有無は、評価の考え方によって影響の度合いが異なります。純資産方式では配当実績は影響いたしませんし、収益方式が着目するのは利益であって配当ではありません。会社が示した金額がいかなる考え方に基づくものかを確認する意味があります。
質問2 赤字が続いている会社です。それでも価値はありますか。
損益が赤字であっても、会社が不動産その他の資産を保有している場合には、純資産の観点から価値が認められることがあります。逆に、資産の含み損が大きい場合には、帳簿上の純資産よりも低い評価となることもあります。決算書の数字だけで結論を出すことはできません。
質問3 役員報酬が高いのではないかと感じています。
役員報酬は費用として計上されますので、その水準は利益に影響いたします。収益方式による検討においては、事業の実態に照らして通常の水準といえるかを確認いたします。勘定科目内訳明細書等によって確認することが多くあります。
質問4 配当を出すよう会社に求めることはできますか。
株主総会において議案を提案することは可能ですが(会社法第303条第2項、第3項)、決議は多数決によりますので、支配株主が反対する限り可決には至りません。配当を求めることと、株式を適正な価格で現金化することとは別の検討です。
質問5 過去に配当がなかった分を請求できますか。
剰余金の配当を受ける権利は、株主総会の決議等によって初めて具体的な金銭債権となります(会社法第454条第1項)。決議がされていない過去の期間について、配当相当額の支払を求めることは一般に困難です。
交渉手法の詳細について
具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま、会社又は大株主との任意の買取交渉、価格の検討、必要に応じた裁判手続を行うものです。
ご相談の際には、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、会社から示された金額とその根拠が分かる資料、会社とのやり取りの記録をご用意いただけますと検討が早く進みます。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
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本記事は一般的な考え方をご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文・裁判例
会社法 第105条第1項第1号・第2項(株主の権利)、第144条第2項・第3項・第5項・第7項(売買価格の決定)、第303条第2項・第3項(株主提案権)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧等)、第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)、第453条・第454条第1項(剰余金の配当)、第458条(純資産額による制限)、第461条第1項第8号(分配可能額による制限)、第462条第1項(違法な配当に係る責任)
弁護士法 第73条
裁判例 大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)
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