株式買取業者の提示額が会社提示額より高い場合でもすぐ売るべきか

この記事の位置付け
本ページは、株式買取業者への対応に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページを御覧ください。
本ページは、会社の提示額と株式買取業者の提示額という2つの提示額をどのように位置付けて比較するかという一問に絞って述べるページです。契約条項の確認、売却の効力、売却後に生ずる事態及び他の選択肢との比較は、非上場株式を株式買取業者に売る前に確認すべきことに集約しています。
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会社から低額の株式買取価格を提示された後に、株式買取業者からこれを上回る金額の提示を受け、直ちに応ずるべきか迷われる方がいらっしゃいます。結論から申し上げますと、金額の多寡のみで判断なさることは適切ではありません。いずれの提示額も相手方が自らの計算に基づいて示した金額であり、株式の価値そのものではないからです。本記事では、2つの提示額をどのように位置付けて比較すべきか、契約条件として何を確認すべきかを整理いたします。
結論 2つの提示額を並べる比較では判断できません
会社の提示額と株式買取業者の提示額は、いずれも相手方が自らの利益を前提として算出した金額です。両者を並べて高い方を選ぶという比較の仕方では、そもそも株式の価値がいくらであるのかという最も重要な事項が検討の外に置かれてしまいます。
ご検討いただきたいのは、第一に株式の価値についての客観的な検討、第二に売買契約の条件、第三に売却後にご自身の地位がどうなるかという3点です。金額の比較は、これらを確認した後に行うべき最後の作業です。
会社の提示額は交渉の出発点にすぎません
会社が提示する株式買取価格は、多くの場合、相続税の課税実務における評価の考え方や、配当実績を基礎とする評価の考え方によって算出されています。これらは、課税上の取扱いを定めるための評価であり、当事者間の売買における適正な価格を定めるために設けられた基準ではありません。
したがって、会社の提示額が低いことは、株式の価値が低いことを意味するものではありません。会社の保有する不動産の含み損益、遊休資産、収益力、過去の役員報酬の水準など、評価の前提となる事実を検討すれば、異なる結論となることがあります。会社に一般的な株式買取義務がない以上、価格は協議によって定まるものであり、提示額は協議の出発点にすぎません。
株式買取業者の提示額はどのように形成されるか
株式買取業者は、株式を取得したうえで、発行会社又は支配株主からその株式の買取りを求め、あるいは法的手続を通じて回収を図り、取得価格との差額を収益とする事業形態を採るのが一般的です。したがって、業者の提示額は、業者が見込む回収額から、業者の利益、要する費用及び回収できない危険を差し引いて形成されるものと考えられます。
このことは、2つの意味を持ちます。第一に、業者の提示額が会社の提示額を上回るということは、業者において、会社の提示額を超える回収が可能であると見込んでいることをうかがわせる事情です。第二に、しかしながら、業者の提示額は回収見込額から利益等を差し引いた後の金額ですから、株式の価値の上限を示すものではありません。
売買契約の条件と売却の効力は別途確認を要します
もっとも、金額の比較に先立ち、売買契約の条件(代金の支払時期及び方法、分割払の有無、表明保証及び補償、解除、専門家への相談を制限する定めの有無等)を確認する必要があります。確認すべき条項の一覧、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について弁護士法第73条に違反し無効であると判断した大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(令和6年(ネ)第149号 株主権確認等請求控訴事件。上告棄却により確定)を含む売却の効力に関する説明、及び業者から回答期限を示された場合の考え方は、非上場株式を株式買取業者に売る前に確認すべきことに集約しています。
比較すべきものを整理いたします
ご検討の順序としては、まず定款、株主名簿、決算書等の資料を確認して株式の価値を検討し、次に発行会社又は大株主との任意の協議、株式譲渡承認請求(会社法第136条)及びこれに続く手続といった選択肢を確認したうえで、最後に業者の提示額と比較することが穏当です。
なお、比較に際しましては、受領する金額そのものではなく、費用を差し引いた後の手取りの額でお考えいただく必要があります。業者への売却であれば手取りは契約額から諸費用を差し引いた額となり、代理人を通じた協議であれば会社等から受領する額から弁護士費用及び実費を差し引いた額となります。
よくある御質問
質問1 業者の提示額の方が高いということは、会社の提示額が不当だという証拠になりますか。
そのようには申し上げられません。業者の提示額は業者の採算計算の結果であり、株式の適正な価格を証明するものではありません。もっとも、会社の提示額を再検討する契機とはなり得ます。
質問2 会社と業者を競わせれば価格が上がるのではないでしょうか。
そのような単純な図式では捉えられません。譲渡制限の有無、株主構成、会社の資力、承認手続の見通しによって、採り得る手段は異なります。個別の進め方につきましては、実務上の知見に属しますので、本記事では申し上げません。
質問3 業者の提示額を会社に伝えてもよいのでしょうか。
伝え方によっては、その後の協議に影響を及ぼすことがあります。事案の内容によって判断が分かれますので、お伝えになる前にご相談いただくことをお勧めいたします。
質問4 既に契約書に署名してしまった場合はどうなりますか。
契約書の内容、代金の支払状況、会社に対する株式譲渡承認請求の有無によって、現在の法律関係は異なります。事案によっては契約の効力が問題となることもありますので、資料をお持ちのうえご相談ください。
本記事における非開示事項について
本記事は、一般的な法律上の説明を目的とするものです。発行会社又は大株主との交渉の具体的な進め方、資料及び情報の提示の順序、価格に関する主張の組立て方につきましては、案件ごとに事実関係が異なり、また当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、詳細は公開していません。個別の事案における方針は、ご相談の際に、事実関係及び資料を拝見したうえで申し上げます。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
株式買取業者からの提示を受けておられる方のご相談は、弁護士法人M&A総合法律事務所へお寄せください。
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ご相談に際しましては、業者から交付された提示書面及び契約書の案、会社から示された価格に関する書面、定款、株主名簿の写し、直近3期分の決算書をお持ちいただけますと、より具体的なご説明が可能です。これらの資料がお手元にない場合であっても、ご相談をお受けしています。
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