株式買取業者の提示額が会社提示額より高い場合でもすぐ売るべきか

会社から低額の買取価格を提示された後に、株式買取業者からこれを上回る金額の提示を受け、直ちに応ずるべきか迷われる方がいらっしゃいます。結論から申し上げますと、金額の多寡のみで判断なさることは適切ではありません。いずれの提示額も相手方が自らの計算に基づいて示した金額であり、株式の価値そのものではないからです。本記事では、2つの提示額をどのように位置付けて比較すべきか、契約条件として何を確認すべきかを整理いたします。

1 結論 2つの提示額を並べる比較では判断できません

会社の提示額と株式買取業者の提示額は、いずれも相手方が自らの利益を前提として算出した金額です。両者を並べて高い方を選ぶという比較の仕方では、そもそも株式の価値がいくらであるのかという最も重要な事項が検討の外に置かれてしまいます。

ご検討いただきたいのは、第一に株式の価値についての客観的な検討、第二に売買契約の条件、第三に売却後にご自身の地位がどうなるかという3点です。金額の比較は、これらを確認した後に行うべき最後の作業です。

2 会社の提示額は交渉の出発点にすぎません

会社が提示する買取価格は、多くの場合、相続税の課税実務における評価の考え方や、配当実績を基礎とする評価の考え方によって算出されております。これらは、課税上の取扱いを定めるための評価であり、当事者間の売買における適正な価格を定めるために設けられた基準ではありません。

したがって、会社の提示額が低いことは、株式の価値が低いことを意味するものではありません。会社の保有する不動産の含み損益、遊休資産、収益力、過去の役員報酬の水準など、評価の前提となる事実を検討すれば、異なる結論となることがあります。会社に一般的な買取義務がない以上、価格は協議によって定まるものであり、提示額は協議の出発点にすぎません。

3 株式買取業者の提示額はどのように形成されるか

株式買取業者は、株式を取得したうえで、発行会社又は支配株主からその買取りを求め、あるいは法的手続を通じて回収を図り、取得価格との差額を収益とする事業形態を採るのが一般的です。したがって、業者の提示額は、業者が見込む回収額から、業者の利益、要する費用及び回収できない危険を差し引いて形成されるものと考えられます。

このことは、2つの意味を持ちます。第一に、業者の提示額が会社の提示額を上回るということは、業者において、会社の提示額を超える回収が可能であると見込んでいることをうかがわせる事情です。第二に、しかしながら、業者の提示額は回収見込額から利益等を差し引いた後の金額ですから、株式の価値の上限を示すものではありません。

4 売買契約の条件を確認する必要があります

金額のほかに、契約条件として確認すべき事項があります。代金の支払時期及び支払方法、分割払とされていないか、支払が将来の事情にかからしめられていないか、表明保証及び補償の条項がどのように定められているか、契約締結後の解除が可能か、といった点です。

また、譲渡制限が付された株式につきましては、会社の承認がなければ会社との関係において譲渡の効力を主張することができません(会社法第136条以下)。承認が得られなかった場合に契約がどうなるのか、承認請求を誰が行うのかについて、契約書の定めを確認する必要があります。さらに、第三者への相談を制限するかのような条項が置かれている場合には、特に慎重なご検討を要します。

5 売却の効力が後に争われる可能性があります

大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。同条は、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によってその権利の実行をすることを業とすることを禁ずる規定です。

この裁判例をもって株式買取業者一般が違法であると申し上げるものではありません。具体的な業務態様によっては弁護士法その他の法令との関係で問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるという趣旨です。もっとも、売買契約の効力が争われることとなれば、株式の帰属及び代金の返還をめぐって、長期間にわたり不安定な状態が続くことがあります。目先の金額の差と、この不安定さとを併せてご検討ください。

6 比較すべきものを整理いたします

ご検討の順序としては、まず定款、株主名簿、決算書等の資料を確認して株式の価値を検討し、次に発行会社又は大株主との任意の協議、株式譲渡承認請求(会社法第136条)及びこれに続く手続といった選択肢を確認したうえで、最後に業者の提示額と比較することが穏当です。

なお、比較に際しましては、受領する金額そのものではなく、費用を差し引いた後の手取りの額でお考えいただく必要があります。業者への売却であれば手取りは契約額から諸費用を差し引いた額となり、代理人を通じた協議であれば会社等から受領する額から弁護士費用及び実費を差し引いた額となります。

7 回答期限を設けられた場合の対応

業者から短い回答期限を示され、期限を過ぎれば提示額を維持できないと告げられることがあります。もっとも、期限が付されていることは、確認を省略してよい理由にはなりません。

期限内に判断がつかない場合には、期限の延長を求めることも、いったん見送ることも可能です。署名の後に問題が判明した場合の負担は、期限を延ばすことによる負担よりも大きいのが通常です。ご不安がある場合には、署名の前にご相談ください。

よくあるご質問

質問1 業者の提示額の方が高いということは、会社の提示額が不当だという証拠になりますか。

そのようには申し上げられません。業者の提示額は業者の採算計算の結果であり、株式の適正な価格を証明するものではありません。もっとも、会社の提示額を再検討する契機とはなり得ます。

質問2 会社と業者を競わせれば価格が上がるのではないでしょうか。

そのような単純な図式では捉えられません。譲渡制限の有無、株主構成、会社の資力、承認手続の見通しによって、採り得る手段は異なります。個別の進め方につきましては、実務上の知見に属しますので、本記事では申し上げません。

質問3 業者の提示額を会社に伝えてもよいのでしょうか。

伝え方によっては、その後の協議に影響を及ぼすことがあります。事案の内容によって判断が分かれますので、お伝えになる前にご相談いただくことをお勧めいたします。

質問4 既に契約書に署名してしまった場合はどうなりますか。

契約書の内容、代金の支払状況、会社に対する譲渡承認請求の有無によって、現在の法律関係は異なります。事案によっては契約の効力が問題となることもありますので、資料をお持ちのうえご相談ください。

本記事における非開示事項について

本記事は、一般的な法律上の説明を目的とするものです。発行会社又は大株主との交渉の具体的な進め方、資料及び情報の提示の順序、価格に関する主張の組立て方につきましては、案件ごとに事実関係が異なり、また当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、詳細は公開しておりません。個別の事案における方針は、ご相談の際に、事実関係及び資料を拝見したうえで申し上げます。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

株式買取業者からの提示を受けておられる方のご相談は、弁護士法人M&A総合法律事務所へお寄せください。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで
  • 土曜日・日曜日・祝日も受付いたします

ご相談に際しましては、業者から交付された提示書面及び契約書の案、会社から示された価格に関する書面、定款、株主名簿の写し、直近3期分の決算書をお持ちいただけますと、より具体的なご説明が可能です。これらの資料がお手元にない場合であっても、ご相談をお受けしております。

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