株式買取業者に売却した後に会社との関係はどうなるか
1 結論 原則として関係は切れますが、切れない場合もあります
株式の譲渡が有効に行われ、株主名簿の名義書換えがなされますと、売主は株主でなくなります。以後、発行会社との間に生ずる問題は、業者と会社との間の問題です。
もっとも、次の3つの場合には、売主が引き続き、あるいは改めて当事者としての立場に置かれます。第1に譲渡制限株式について会社の承認が得られていない場合、第2に売買契約に基づく協力義務がある場合、第3に売買契約の効力が争われる場合です。
| 場面 | 売主の立場 | 主な根拠 |
|---|---|---|
| 承認及び名義書換えが完了した場合 | 株主でなくなり、以後の当事者は業者です | 株主名簿の名義書換え |
| 会社の承認が未了の場合 | 会社との関係では、なお株主として扱われることがあります | 会社法第136条以下 |
| 契約上の協力義務がある場合 | 資料の提出、事実関係の説明等を求められます | 売買契約の定め |
| 契約の効力が争われた場合 | 株式は売主に帰属したままとなり、代金の返還を要します | 弁護士法第73条等 |
2 株主の地位を失うということの意味
株主でなくなりますと、株主総会における議決権、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利のほか、計算書類等の閲覧等の請求(会社法第442条第3項)、会計帳簿等の閲覧謄写の請求(会社法第433条)、株主名簿の閲覧等の請求(会社法第125条)といった権利も行使することができなくなります。
これらの権利は、株式の価値を検討するうえで重要な情報を取得する手段でもあります。売却の後に価格が適切であったかを検証しようとしても、そのための情報を会社から取得する法律上の手段は失われております。価値の検討は、売却の前に行っておく必要があります。
3 譲渡制限株式は、会社の承認がなければ会社との関係で効力を主張できません
多くの非上場会社は、定款において株式の譲渡について会社の承認を要する旨を定めております。この場合、当事者間で売買契約を締結いたしましても、会社の承認がなければ、会社との関係において譲渡の効力を主張することができません。
譲渡承認の請求は、譲渡しようとする株主が行うほか(会社法第136条)、取得した者が行うこともできます(会社法第137条)。会社が承認をしない旨を決定した場合には、会社又は指定買取人が当該株式を買い取ることとなります(会社法第140条)。売買価格は協議によりますが、協議が調わないときは、通知があった日から20日以内に裁判所に対して売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第144条第2項)。
すなわち、業者に売却なさった後も、会社との関係では、承認が得られるまで売主が株主として扱われることがあります。会社から通知が届き、あるいは名義書換えがされないまま時間が経過するのは、この構造によるものです。
4 売買契約上、売主が協力を求められる場合があります
売買契約には、売主の表明保証、資料の提供義務、譲渡承認手続への協力義務、業者と会社との紛争における協力義務が定められていることがあります。これらの条項がある場合、売却の後であっても、資料の提出や事実関係の説明を求められることがあります。
また、表明保証に反する事実が判明した場合には、補償を求められる可能性があります。株式の取得の経緯、相続の有無、担保の設定の有無など、表明保証の対象とされている事項に不確かな点がある場合には、署名の前に確認しておく必要があります。
5 売買契約の効力が争われた場合の帰結
大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。同条は、他人の権利を譲り受けて、訴訟、調停、和解その他の手段によりその権利の実行をすることを業とすることを禁ずる規定です。
この裁判例をもって株式買取業者一般が違法であると申し上げるものではありません。具体的な業務態様によっては法令との関係で問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるという趣旨です。もっとも、売買契約が無効とされますと、株式は売主に帰属したままであり、受領した代金は返還すべきこととなります。売却から相当の期間が経過した後にこの問題が生じますと、原状の回復が容易でない事態も想定されます。
なお、同族会社におきましては、少数株式が第三者である業者に移転することにより、会社側及び親族との事実上の関係が悪化することがあります。法律上の効果ではありませんが、将来にわたって会社又は親族との関係を維持なさりたいご意向がある場合には、売却先の選択そのものを慎重にご検討いただく必要があります。
6 売却の前に確認しておくべき事項
売却の後に確認できることは限られておりますので、確認は売却の前に行う必要があります。具体的には、定款における譲渡制限の定めの有無、株主名簿の記載、株式の取得の経緯、直近の決算の内容、契約書における表明保証及び協力義務の範囲、代金の支払の時期です。これらを確認したうえで、発行会社又は大株主との任意の協議という選択肢と比較してご判断いただくことが穏当です。
よくあるご質問
質問1 売却した後に会社から通知が届きましたが、どうすればよいですか。
譲渡承認に関する通知である可能性があります。通知の内容によっては期間の制限がある手続に関わることがありますので、通知書面をお持ちのうえ速やかにご相談ください。
質問2 名義書換えがされていないのですが、私はまだ株主なのでしょうか。
名義書換えがされていない場合、会社との関係においては、なお名簿上の株主として扱われます。承認の有無及び手続の進行状況を確認する必要があります。
質問3 売却した価格が低かったと後から気付いた場合、取り戻せますか。
価格が低いという一事をもって契約を無効とすることはできないのが原則です。もっとも、勧誘の態様、契約の内容、業者の業務態様によっては契約の効力が問題となることもあります。経緯を伺ったうえで検討いたします。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
株式買取業者への売却の後に生じた問題についても、弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)がご相談を承っております。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主側の代理人です。
- 電話番号 03-6435-8418/受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
ご相談に際しましては、業者との売買契約書、代金の入金が分かる資料、会社から届いた書面、定款及び株主名簿の写しをお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。なお、具体的な交渉の進め方は当事務所の実務上の知見に属しますので公開しておりません。
本記事の根拠条文・裁判例
会社法 第125条(株主名簿の閲覧等の請求)、第136条・第137条(譲渡等承認請求)、第140条(会社又は指定買取人による買取り)、第144条第2項(売買価格の決定及び20日の期間)、第433条(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)
弁護士法 第73条(他人の権利を譲り受けて訴訟その他の手段によりその権利の実行をすることを業とすることの禁止)
裁判例 大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)
内部リンク
- ランディングページ第8号 株式買取業者へ売る前に弁護士へ相談(/kaitorigyousha_dashin/。主)
- ランディングページ第9号 譲渡制限株式の売却・株式譲渡承認請求相談(/landing/share/。補助)
- 既存記事 株式買取業者への株式売却を弁護士法違反で無効とした判例(/archives/share_hanrei_hiben/)
- 新設記事 株式買取業者と株主側弁護士は何が違うのか(E02)
- 新設記事 株式買取業者に売る前に会社との任意買取交渉を検討する理由(E06)
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。



