親族会社の少数株式を手放したい場合の進め方
第2節 親族感情と法的整理を分けて考える
親族会社の株式に関するご相談では、法律上の論点よりも先に心情の問題が語られることが多くあります。「兄弟の仲を壊したくない」「弁護士を立てたと知られたら、親族の集まりに出られなくなる」といったお気持ちです。これらは軽視されるべきものではありませんが、心情を理由に検討そのものを止めてしまいますと、時間の経過によって選択肢が減っていく結果を招きます。
そこで、次の二つを意識的に分けて整理することをお勧めしております。第一に、法律上どのような権利があり、どのような手続を採り得るのかという整理です。これは事実と条文によって定まる事柄であり、親族関係の善し悪しによって変わるものではありません。第二に、その権利をどの範囲で、どのような順序で、どのような伝え方で用いるのかという判断です。ここに親族関係への配慮が入ります。
表2 分けて考えるべき二つの層
| 層 | 内容 | 判断の基準 |
|---|---|---|
| 法律上の整理 | 株主であるか、何株か、譲渡制限の有無、採り得る手続、価格の考え方 | 事実関係と会社法その他の法令 |
| 進め方の判断 | 誰に、いつ、どのような形式で申し入れるか、代理人を立てるか | 親族関係、従前の経緯、ご本人のご希望 |
前者を確認しないまま後者だけを悩み続けている状態が、最も時間を失いやすいものです。この二つを混ぜますと、「親族だから権利を主張すべきでない」という誤った結論に至りやすくなります。株主が自らの株式について売却を申し入れることは、親族であるか否かにかかわらず、正当な行為です。
第3節 手放す前に確認しておく法律関係
具体的な申入れに進む前に、次の事項を確認いたします。これらは、その後に採り得る手段の範囲を画します。
表3 最初に確認する事項
| 確認事項 | 確認の目的 | 主な資料及び根拠 |
|---|---|---|
| 発行済株式総数と保有株式数 | 持株比率と行使できる権利の範囲を把握するため | 登記事項証明書、株主名簿(会社法第121条、第125条第2項) |
| 定款の譲渡制限の定め | 株式譲渡承認請求の手続を採り得るかを判断するため | 定款(会社法第31条第2項)、第107条第1項第1号、第108条第1項第4号 |
| 売主追加請求の排除、相続人等に対する売渡請求の定め | 会社が取得する際の負担及び将来の売渡請求の可能性を把握するため | 定款、会社法第164条第1項、第174条 |
| 会社の機関構成、株券発行会社か否か | 承認機関及び手続の方式を確認するため | 登記事項証明書、定款 |
| 直近3期分の計算書類 | 価格の検討及び分配可能額の検討のため | 計算書類等(会社法第442条第3項) |
株主は、営業時間内はいつでも、計算書類及びその附属明細書等の閲覧又は謄本の交付等を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求には持株比率の要件がなく、1株でも保有していれば請求することができますので、資料が手元にない場合の出発点となります。定款及び株主名簿についても、それぞれ閲覧等の請求が認められております(会社法第31条第2項、第125条第2項)。会計帳簿及びこれに関する資料については、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等が、理由を明らかにして請求することができます(会社法第433条第1項。拒絶事由につき同条第2項)。
相続によって株式を取得され、遺産分割が終わっていない場合には、株式は共同相続人の準共有に属し、権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ、原則としてその株式についての権利を行使することができません(会社法第106条)。最高裁判所平成27年2月19日第一小法廷判決は、共有に属する株式についての議決権の行使は、特段の事情のない限り、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられる旨を判示しております。親族会社ではこの点の整理が先行することがあります。
第4節 誰に買い取ってもらうかという選択肢
株式を手放す場合の相手方には複数の可能性があり、それぞれ手続と検討事項が異なります。
表4 買主の選択肢と特徴
| 買主 | 法律上の枠組み | 主な検討事項 |
|---|---|---|
| 発行会社(自己株式の取得) | 会社法第155条第3号、第156条以下 | 株主総会の決議、売主追加請求、分配可能額による財源規制 |
| 親族である大株主又は後継者、他の親族株主 | 当事者間の売買契約及び譲渡承認 | 個人の資金調達、譲渡承認の手続、株主構成への影響 |
| 第三者 | 譲渡承認が得られるかが前提となります | 承認されない場合の会社又は指定買取人による買取り |
| 株式買取業者 | 業者が買主となる売買契約 | 業者は株主本人の代理人ではないという利益構造 |
発行会社が買主となる場合には、株主との合意による有償の自己株式取得となり、株主総会の決議を要します(会社法第155条第3号、第156条第1項)。特定の株主から取得する場合には特別決議によらなければならず(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)、原則として他の株主は自己をも売主に加えることを請求することができます(会社法第160条第2項、第3項)。ただし、定款でこれを排除することができ(会社法第164条第1項)、また、公開会社でない会社が一般承継により株式を取得した者からその株式を取得する場合には、原則としてこの請求は適用されません(会社法第162条)。相続によって株式を取得された方の場合に手続上の負担が比較的軽くなり得るのは、この定めがあるためです。
また、自己株式の取得は株主に対する会社財産の払戻しに当たりますので、株主に交付する金銭等の帳簿価額の総額は、分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第3号)。分配可能額があることと、支払う現金が手元にあることとは別の問題です。親族会社では、資産の大部分が事業用不動産である場合など、資金繰りの事情が進み方に影響することがあります。親族である大株主が買主となる場合には財源規制は及びませんが、個人としての資金調達が必要となります。会社の支配関係を維持したいという後継者側の事情と、株式を現金化したいという株主側の希望とが一致する場面でもあります。
株式買取業者については、業者は株式の買手であり、株主本人の代理人ではありません。買手は取得価額が低いほど利益が大きくなる立場にあります。売却をいたしますと株主の地位を失いますので、その後に採り得る手段も失われます。大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定)は、株式買取業者に対する非上場株式の譲渡契約について、弁護士法第73条に違反し無効であると判断いたしました。業者一般が違法であるという趣旨ではありませんが、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるということです。
第5節 任意の交渉が調わない場合の制度上の受け皿
親族間の話合いが進まない場合、譲渡制限株式については、株式譲渡承認請求という制度上の受け皿があります。株主は、その株式を他人に譲り渡そうとするときは、会社に対し、譲渡を承認するか否かの決定をすることを請求することができます(会社法第136条)。この請求では、譲り渡そうとする株式の数及び譲受人の氏名又は名称を明らかにし、あわせて、会社が承認をしない旨の決定をする場合には会社又は指定買取人が買い取ることを請求する旨を明らかにいたします(会社法第138条第1号イからハまで)。会社が承認をしない旨の決定をし、かつ買取りの請求がされているときは、会社は対象株式を買い取らなければならず、又は指定買取人を指定することとなります(会社法第140条)。手続の全体は、既存記事「株式譲渡承認請求の手続」に整理しております。
ここで特に留意を要するのは期間です。会社又は指定買取人からの買取りの通知があった日から20日以内に裁判所に売買価格の決定の申立てをしないときは(その期間内に協議が調った場合を除きます。)、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(会社法第144条第2項、第5項、第7項)。この20日という期間は極めて短く、徒過した場合の影響が大きいものです。
親族会社の場合、この手続を用いることが親族関係に与える影響を懸念される方が多くいらっしゃいます。もっとも、この手続は法律が正面から株主に認めたものであり、これを用いること自体が不当な行為と評価されるものではありません。
第6節 価格をどのように検討するか
親族間の売買では、「相続税の申告のときに使った金額でよいのではないか」「額面のとおりでよい」といった提案がされることがあります。しかし、相続税の申告に用いる評価額は、課税の公平と大量の事案の画一的な処理を目的として財産評価基本通達の定めに従って算定されるものであり、売買における当事者間の合意価格とは目的も算定方法も異なります。額面(券面額)は、株式の価値とは無関係の数値です。
売買価格の検討においては、会社の純資産の内容、保有資産の含み損益、収益の推移、役員報酬の水準といった事実を確認したうえで、複数の考え方によって幅をもって検討いたします。裁判所が売買価格を定める場合にも、譲渡等承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情を考慮するものとされております(会社法第144条第3項)。
表5 価格の検討において確認する主な事実
| 区分 | 確認する事実 | 意味 |
|---|---|---|
| 資産 | 不動産、有価証券、保険積立金の含み損益 | 帳簿価額と時価との差が価値に影響いたします |
| 資産 | 事業に用いられていない資産の有無 | 事業価値とは別に検討いたします |
| 収益 | 直近数期の損益の推移と非経常的な損益 | 一時的な要因の有無を確認いたします |
| 費用 | 役員報酬、地代家賃その他の親族間取引 | 事業の実態に照らした水準かを確認いたします |
| 負債 | 借入金、役員退職慰労金の見込み | 純資産の額に影響いたします |
親族会社では、会社と親族との間の取引が事業の実態と離れた条件で行われている例があります。役員報酬の水準、会社が親族から借りている不動産の賃料、親族に対する貸付金などです。これらは、いずれの評価の考え方を用いる場合であっても、その前提となる事実です。
第7節 親族間の譲渡に伴う税務上の留意点
親族間の株式の売買では、価格の設定が税務上の問題を生じさせることがあります。個人の間で著しく低い価額の対価で財産の譲渡が行われた場合には、その財産の時価と対価との差額に相当する金額を贈与により取得したものとみなされます(相続税法第7条)。親族関係にあることのみを理由として時価から大きく離れた価格を設定いたしますと、意図しない課税を招くおそれがあります。
また、非上場株式を譲渡した場合の譲渡所得の課税においては、その時価の算定について所得税基本通達に取扱いが定められており、財産評価基本通達の定めを一定の修正を加えたうえで用いる旨が示されております。売買価格の検討と税務上の時価の検討とは目的が異なる別個の作業ですが、実務上は双方を意識して進める必要があります。課税関係は税理士にご確認ください。
第8節 弁護士に依頼する意味
弁護士が行う業務は、株主本人の代理人として、法律関係を整理し、資料に基づいて協議を行い、必要に応じて法律上の手続を採ることです。親族の説得を代行することではありません。
親族間の案件において代理人が関与する意義は、次の三点にあります。第一に、当事者間では感情的な応酬になりやすいやり取りを、書面による事務的な協議として整理できることです。第二に、株主としての情報取得の手段(会社法第442条第3項、第433条第1項等)を用いて、価格の検討に必要な資料の範囲を確保できることです。第三に、手続に伴う短い期間(会社法第144条第2項、第145条)を管理し、失権を避けることです。
なお、当事務所は株式を買い取る立場ではありません。株主の方が株式を保有したまま、会社又は大株主との任意の買取交渉、価格の検討、必要に応じた裁判手続を行うものです。
よくあるご質問
質問1 親族に弁護士を立てたと知られると、関係が完全に壊れてしまわないでしょうか。
代理人を立てることは、相手方を訴えることと同じではありません。実際には、当事者間の直接のやり取りが感情的になっている場面において、協議を事務的な形に整理するために代理人が用いられることが多くあります。
質問2 名義を貸しただけであり、自分は本当の株主ではないと言われています。
名義株の主張がされている場合には、払込みの原資を誰が負担したか、配当を誰が受領していたか、議決権を誰が行使していたか、税務申告でどのように扱われていたかといった事実を確認いたします。株主名簿の記載は対抗要件に関わるものであり(会社法第130条第1項)、実質的な株主が誰かという問題とは別に検討を要します。
質問3 遺産分割が終わっていませんが、自分の相続分だけ先に売ることはできますか。
遺産分割が終了するまでの間、株式は共同相続人の準共有に属します。共有持分の処分と株式そのものの譲渡とは異なる問題であり、実務上は遺産分割の帰趨と併せて検討することが多くあります。
質問4 会社の決算書を見せてもらえません。
計算書類及びその附属明細書等については、株主は営業時間内はいつでも閲覧又は謄本の交付等を請求することができます(会社法第442条第3項)。これは1株でも保有していれば行使できる権利です。会社が応じない場合には、書面による請求を行い、なお応じられないときは法的な対応を検討いたします。
質問5 定款に相続人等に対する売渡請求の定めがあると言われました。
会社は、定款の定めがある場合には、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求することができます(会社法第174条)。この請求は、相続その他の一般承継があったことを会社が知った日から1年以内にしなければならないとされております(会社法第176条第1項)。売渡しの請求があった場合の売買価格は協議によって定めますが、協議が調わないときは、請求があった日から20日以内に裁判所に売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条第1項、第2項)。
交渉手法の詳細について
具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。親族が経営する会社の株式に関するご相談も多数お受けしております。
ご相談の際には、定款の写し、株主名簿の写し、登記事項証明書、直近3期分の決算書、株式を取得された経緯が分かる資料、会社又は親族とのやり取りの記録をご用意いただけますと検討が早く進みます。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
- 代表弁護士 土屋 勝裕(東京弁護士会所属)
本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文・裁判例
会社法 第31条第2項、第106条、第107条第1項第1号・第108条第1項第4号、第121条・第125条、第130条第1項、第133条、第136条・第138条・第140条・第144条・第145条、第155条第3号・第156条第1項・第160条・第162条・第164条第1項、第174条・第176条第1項・第177条第1項・第2項、第309条第2項第1号・第2号、第433条、第442条第3項、第461条第1項第3号
相続税法 第7条(著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合のみなし贈与)/弁護士法 第73条
裁判例 最高裁判所平成27年2月19日第一小法廷判決(共有に属する株式についての議決権の行使)、大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)
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親族の会社の株式であるからこそ、切り出しにくく、そのまま年月が過ぎてしまいがちです。しかし、法律上の整理は、感情の問題とは別に、いつでも始めることができます。まずは、お手元にある資料を持って一度ご相談ください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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