元役員が保有する少数株式を会社に買い取ってもらうには
| 名義株の疑義 | 役員就任の要件を満たすために名義のみを借りたという主張が後日され得ます |
|---|---|
| 保証債務の残存 | 会社の借入れについて個人保証が残っている場合があります |
退職慰労金は、定款又は株主総会の決議によって定められるものであり(会社法第361条第1項参照)、株式の売買代金とは法的性質が異なります。両者を一体として提示された場合には、内訳を明確にすることが必要です。
また、会社の金融機関からの借入れについて在任中に個人保証をしている場合、退任後も保証契約が当然に終了するわけではありません。株式の処理と併せて、保証の解除についても整理の対象とすることが考えられます。
第3節 買取りの相手方と法的な枠組み
表2 買取りの相手方ごとの整理
| 相手方 | 法的性質 | 主な制約 |
|---|---|---|
| 会社(自己株式の取得) | 契約の締結に向けた交渉 | 分配可能額の範囲内に限られます |
| 現経営者・支配株主 | 契約の締結に向けた交渉 | 財源規制は及びません |
| 指定買取人 | 会社法上の手続の中で会社が指定します | 譲渡承認請求を経る必要があります |
| 第三者 | 契約 | 譲渡制限がある場合は会社の承認を要します |
会社が自己の株式を取得する場合、株式会社は株主との合意により自己の株式を有償で取得することができ(会社法第155条第3号、第156条第1項)、株主総会の決議によって取得する株式の数、対価の内容及び総額、取得することができる期間を定めます。特定の株主から取得するときは、この決議は特別決議によらなければならず(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)、その特定の株主は原則としてこの決議において議決権を行使することができません(会社法第160条第4項)。また、他の株主は原則として自己をも売主に加えることを請求することができますが(会社法第160条第2項、第3項)、定款でこれを排除することができます(会社法第164条第1項)。対価の総額は分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第3号)。
会社が任意の交渉に応じない場合には、譲渡制限株式について株式譲渡承認請求という制度上の受け皿があります(会社法第136条)。この請求に際し、会社が承認をしない旨の決定をするときは会社又は指定買取人が買い取ることを請求する旨を明らかにしておくことができます(会社法第138条第1号ハ)。ただし、譲受人を明らかにすることが前提となり、買取りの通知があった日から20日以内に売買価格の決定の申立てをしないときは、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(会社法第144条第2項、第5項、第7項)。
第4節 価格について確認すべき事項
表3 確認事項
| 確認事項 | 意味 |
|---|---|
| 取得時の書類 | 取得価額、譲渡に関する合意の有無を確認いたします |
| 定款 | 譲渡制限、売渡請求の定め、売主追加請求権の排除の有無を確認いたします |
| 直近3期分の計算書類 | 純資産、利益の水準、分配可能額の目安を確認いたします |
| 不動産その他の資産 | 帳簿価額と時価との差異の有無を確認いたします |
| 過去の株式の売買事例 | 他の株主との間の取引価額の有無を確認いたします |
| 退職慰労金の取扱い | 株式の対価と区別して整理いたします |
会社から価格の提示を受けた場合には、その算定方法と基礎となった数値の説明を求めることが出発点となります。「額面である」「取得したときと同じ金額である」といった説明は、算定方法の説明ではありません。非上場株式の評価においては、純資産を基礎とする方法、収益を基礎とする方法、類似する会社の指標を用いる方法等が用いられ、いずれを採るかによって結論は大きく異なります。評価手法の詳細は、既存記事(/archives/share_kabushikikachisanteihouhou/)及び記事「会社が提示する株式買取価格はどのように検証するか」(B02)に整理しております。
なお、相続税の計算に用いられる財産評価基本通達による評価額は、課税のための評価であり、当事者間の売買価格を定めるものではありません。この点は記事「相続税評価額と実際の株式売買価格が違う理由」(B08)に整理しております。
第5節 弁護士に相談する意味
元役員の事案の特徴は、退任によって会社の情報から遮断される一方、在任中の人間関係が残るために、本人が直接交渉しにくいという点にあります。
会社法は、株主に対し、計算書類等の閲覧及び謄本の交付の請求を認めており(会社法第442条第3項)、総株主の議決権の100分の3以上の議決権又は発行済株式の100分の3以上の数の株式を有する株主には、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写の請求を認めております(会社法第433条第1項)。退任後であっても、株主である限りこれらの権利は失われません。
弁護士は、株主本人の代理人として、資料の確保と協議を行います。株式買取業者は買手であり、株主本人の代理人ではありません。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。
よくあるご質問
質問1 退任時に「株は返す」と口頭で述べた記憶がありますが、拘束されますか。
譲渡の合意が成立していたかどうか、成立していたとして対価をいくらとする合意であったかは、当時の書面その他の資料により判断されます。対価について合意がない場合には、売買契約として成立していないと評価される余地もあります。結論は事案によって異なります。
質問2 会社は「規程により額面で買い取る」と述べております。
社内規程や持株会の規約に取得価額を定める例があります。そのような定めが当該株式の譲渡に及ぶかどうかは、規程の適用範囲、株式の取得の経緯、本人の同意の有無等によって判断されます。まず規程及び取得時の書類を確認する必要があります。
質問3 退職慰労金と株式買取りをまとめて提示されました。
両者は法的性質の異なるものです。退職慰労金は役員報酬に関する規律の対象であり、株式の売買代金は株式の対価です。内訳を明確にしたうえで、それぞれについて検討することが適切です。
質問4 個人保証が残っている場合はどうすべきですか。
保証契約は株式の保有とは別個の契約ですので、退任や株式の譲渡によって当然に終了するものではありません。株式の処理と併せて、金融機関及び会社との間で保証の取扱いを整理することを検討いたします。
交渉手法の詳細について
具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。
ご相談の際には、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、株式の取得時の書類、退任に関する書類、会社とのやり取りの記録をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文
会社法 第105条第1項(株主の権利)、第136条・第138条第1号・第144条(譲渡等承認請求及び売買価格の決定)、第155条第3号・第156条第1項・第160条・第164条第1項(自己株式の取得)、第174条(相続人等に対する売渡請求)、第309条第2項第2号(特別決議)、第330条(会社と役員との関係)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第433条第1項(会計帳簿の閲覧謄写請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧及び謄本の交付の請求)、第461条第1項第3号(分配可能額による財源規制)
内部リンク
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