非上場株式を売れずに10年以上保有している場合の出口

相続の反復 相続のたびに株主が増え、権利関係が細分化いたします
相続税の負担 換価が困難である一方、相続財産としては課税の対象となります
資料の散逸 株券、取得の経緯を示す書類、過去の決算書が失われてまいります

特に相続との関係は重要です。非上場株式は相続税の課税対象となる財産であり、相続税法上、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるものとされております(相続税法第22条)。取引相場のない株式の評価については財産評価基本通達に定めがあり、株主の区分に応じて評価方法が異なります。配当が支払われていない株式であっても、会社に純資産があれば相当額の評価となる場合があります。

換価が容易でない一方で課税の対象にはなるという構造が、保有の長期化とともに次世代へ引き継がれてまいります。相続人が複数となる場合には、遺産分割が調うまで株式は相続人の準共有となり、権利の行使には権利行使者を定めて会社に通知することが必要となります(会社法第106条)。株主の数が増えるほど、後日の意思統一は難しくなります。

第3節 制度上考えられる出口

表2 出口の類型と相手方

類型 相手方 法的性質 主な留意点
任意の買取交渉 会社 契約の締結に向けた交渉 相手方に応ずる義務はありません
任意の買取交渉 支配株主・親族株主 契約の締結に向けた交渉 分配可能額の制約を受けません
株式譲渡承認請求 会社又は指定買取人 会社法上の手続 譲受人を明らかにする必要があります
第三者への譲渡 事業会社等 契約 少数株式では買主が限られます
保有の継続 負担は次世代へ引き継がれます

任意の買取交渉は、法律上の権利の行使ではなく、契約の締結に向けた交渉です。会社が買主となる場合には、株主総会の決議によって取得する株式の数、対価の内容及び総額、取得することができる期間を定めることとなり(会社法第156条第1項)、特定の株主から取得するときはその決議は特別決議によらなければなりません(会社法第160条第1項、第309条第2項第2号)。また、対価の総額は分配可能額を超えることができません(会社法第461条第1項第3号)。会社の財務状況が交渉の前提となるのは、この財源規制があるためです。

これに対し、支配株主や親族株主が買主となる場合には、この財源規制は及びません。

株式譲渡承認請求は、株主の側から手続を開始することができる制度です(会社法第136条)。この請求に際して、会社が承認をしない旨の決定をする場合には会社又は指定買取人が買い取ることを請求する旨を明らかにしておくことができます(会社法第138条第1号ハ)。もっとも、譲受人を明らかにすることが前提となり、また、買取りの通知があった日から20日以内に売買価格の決定の申立てをしないときは、1株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額が売買価格となります(会社法第144条第2項、第5項、第7項)。手続の全体は、既存記事「株式譲渡承認とは」(/archives/minority-share-transfer-approval/)に整理しております。

第4節 出口を検討する前に確認すべき事項

長期保有の事案では、まず現在の権利関係と会社の状況を確定させることが出発点となります。

表3 確認事項と確認の方法

確認事項 確認の方法
定款の内容 会社に写しの交付を求めます。譲渡制限、売渡請求の定めの有無を確認いたします
株主名簿上の記載 株主名簿の閲覧謄写請求(会社法第125条第2項)によります
保有株式数と発行済株式総数 株主名簿、登記事項証明書等によります
会社の財務状況 計算書類等の閲覧謄本交付請求(会社法第442条第3項)によります
過去の配当の有無 過去の通知書、確定申告書の控え等によります
取得の経緯 遺産分割協議書、贈与契約書、払込みの記録等によります

定款については、相続人等に対する売渡請求の定めの有無を確認することが特に重要です。会社は、定款の定めがあるときは、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができます(会社法第174条)。この請求は、会社が相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内にしなければならないものとされております(会社法第176条第1項)。長期保有の事案では、この期間が既に経過している場合もあれば、次の相続の際に問題となる場合もあります。

なお、株主名簿の名義が被相続人のままとなっている例が少なくありません。株式の取得を会社に対抗するためには株主名簿への記載又は記録が必要とされておりますので(会社法第130条第1項)、名義書換の請求を検討することとなります。

第5節 弁護士に相談する意味

長期保有の事案の特徴は、法律問題そのものよりも、事実関係と資料が失われていることにあります。したがいまして、まず現在の株主としての地位を裏付ける資料を確保し、会社の財務状況を株主に認められた情報取得の手段によって把握することが先行いたします。会社法は、株主に対し、計算書類等の閲覧及び謄本の交付の請求(会社法第442条第3項)、一定の議決権又は株式を有する株主に対しては会計帳簿の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)を認めております。

弁護士は、株主本人の代理人として、これらの手続と協議を行います。株式買取業者は買手であり、株主本人の代理人ではありません。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。

よくあるご質問

質問1 10年以上経過していると、もはや権利は主張できないのではありませんか。

株主としての地位は、期間の経過によって消滅するものではありません。名義が被相続人のままであっても、相続による承継の事実を資料により示すことができるのであれば、名義書換を請求することが考えられます。ただし、既に発生した剰余金の配当を受ける権利のような個別の金銭債権については、消滅時効の問題が生じ得ます。

質問2 以前に会社から断られておりますが、再度申し入れることはできますか。

任意の交渉には回数や期間の制限がありません。会社の財務状況、株主構成、経営の体制は時間とともに変化いたしますので、当時の回答が現在の判断と同じであるとは限りません。もっとも、結論は事案によって異なります。

質問3 会社が休眠状態に近い場合はどうなりますか。

会社に事業活動がほとんどない場合であっても、不動産その他の資産を保有していることがあります。この場合、資産の価額が株式の価値を基礎付けることとなりますので、まず計算書類の内容を確認することとなります。他方、会社に分配可能額がないときは、会社自身が買主となることができません(会社法第461条第1項第3号)。

質問4 自分の代で処理しないと、子に迷惑がかかりますか。

相続が生じますと、株式は相続財産として承継され、遺産分割が調うまでは相続人の準共有となります。株主の数が増えるほど意思統一は難しくなり、資料の散逸も進みます。次の相続の前に権利関係を整理しておくという考え方については、記事「二次相続の前に少数株式を整理するという考え方」(D06)に整理しております。

交渉手法の詳細について

具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。長期保有の事案では、資料の確保から着手いたします。

ご相談の際には、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、株券又は出資の記録、遺産分割協議書、会社とのやり取りの記録をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階

本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文

会社法 第106条、第107条第1項第1号・第108条第1項第4号(譲渡制限株式)、第125条第2項(株主名簿の閲覧謄写請求)、第127条(株式の譲渡の自由)、第130条第1項(対抗要件)、第136条・第138条第1号(譲渡等承認請求)、第144条第2項・第5項・第7項(売買価格の決定)、第155条第3号・第156条第1項・第160条第1項(自己株式の取得)、第174条・第176条第1項(相続人等に対する売渡請求)、第309条第2項第2号、第433条第1項、第442条第3項、第461条第1項第3号(財源規制)

相続税法 第22条(評価の原則)

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