相続した少数株式を会社に買い取ってもらった解決事例

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本ページは、相続した非上場株式の処分に関する解説のうちの一つです。全体像は、次の中核となるページをご覧ください。
本ページは、相続を契機とする事案において、実際にどのような順序で前提問題を整理し、資料を取得し、会社との協議を行ったか、及び各段階に要した期間の幅を述べる事例のページです。会社が自己の株式を取得する場合の条文上の枠組み、相続人等に対する売渡しの請求及び確認すべき期限は、上記の中核となるページに集約しています。
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親から相続した非上場会社の少数株式について、会社との関係が疎遠になっており、配当もなく、決算の内容も分からないまま、このまま持ち続けるべきか、会社に買い取ってもらうべきかを迷っておられた依頼者の事例です。相続人が複数であったこともあり、株式を整理しておきたいというご希望をお持ちでした。
ご依頼をお受けするにあたり、当事務所はまず次の事項を確認いたしました。
| 定款における譲渡制限の定め | 株式譲渡承認請求の手続を採り得るかを判断するため | 定款、登記事項証明書 |
|---|---|---|
| 定款における相続人等に対する売渡請求の定め | 会社から売渡しを求められる可能性を把握するため | 定款 |
| 定款における売主追加請求の排除の定め | 会社が取得する際の手続上の負担を把握するため | 定款 |
| 会社の機関構成及び株主構成 | 意思決定の主体と他の少数株主の存否を把握するため | 登記事項証明書、株主名簿 |
| 会社の財務状況 | 分配可能額及び株式の価値を検討するため | 直近3期分の決算書 |
| 相続税の申告の内容 | 評価の前提となった数値を把握するため | 相続税の申告書、株式の評価に関する明細書 |
このうち、相続税の申告書に添付された株式の評価に関する明細書は、会社から資料の開示を受けられない段階においても、会社の総資産、従業員数、取引金額、配当金額、利益金額、簿価純資産価額といった数値を把握する手がかりとなります。この類型では、まずこの明細書の写しを税理士から取り寄せるところから始めることが多くあります。
相続に起因する前提問題の整理
相続を契機とする事案では、株式そのものの検討に入る前に、前提となる事項の整理を要することが少なくありません。
遺産分割が終了するまでの間、株式は共同相続人の準共有に属し、権利を行使する者一人を定めて会社に通知しなければ、原則としてその株式についての権利を行使することができません(会社法第106条)。この状態のままでは、会社に対する情報の請求も、売却の申入れも、安定した形では行えません。
また、遺産分割が終了していても、株主名簿の名義書換が行われていない例が見受けられます。株式の譲渡は、取得者の氏名又は名称及び住所を株主名簿に記載又は記録しなければ会社その他の第三者に対抗することができませんので(会社法第130条第1項)、名義書換が未了である場合には株主名簿記載事項の記載又は記録の請求を検討いたします(会社法第133条)。相続による取得は一般承継ですので、譲渡制限の定めは及びませんが、名簿上の整理は別途必要です。
さらに、定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めが置かれていないかを確認いたします。会社は、この定めがある場合には、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、その株式を会社に売り渡すことを請求することができます(会社法第174条)。この請求は、相続その他の一般承継があったことを会社が知った日から1年以内にしなければならないとされています(会社法第176条第1項)。売渡しの請求があった場合の売買価格は協議によって定めますが、協議が調わないときは、請求があった日から20日以内に裁判所に売買価格の決定の申立てをすることができます(会社法第177条第1項、第2項)。この期間内に申立てがないとき(期間内に協議が調った場合を除きます。)は、売渡しの請求はその効力を失うものとされています(同条第5項)。
会社が株主との合意により自己の株式を取得する場合の株主総会の決議、売主追加請求とその排除、相続人等からの取得の特則及び分配可能額による財源規制については、相続した非上場株式を会社に買い取ってもらうにはに集約しています。本類型において重要でありましたのは、公開会社でない会社が一般承継により株式を取得した者からその株式を取得する場合には、原則として売主追加請求の規定が適用されないという点であり、相続を契機とする事案では会社にとって手続上の負担が比較的軽くなり得るため、会社が検討に応じやすい要素の一つとなります。
株式の価値についての検討
次に、資料に基づいて株式の価値を検討いたしました。ご相談者のお手元にあった資料は、相続税の申告書及び会社から届いた株主総会の招集通知程度でしたので、株主として認められている手段を用いて、検討に必要な情報の範囲を確認するところから始めています。
株主は、営業時間内はいつでも、計算書類及びその附属明細書等の閲覧又は謄本の交付等を請求することができます(会社法第442条第3項)。この請求には持株比率の要件がありません。株主総会の議事録についても、営業時間内はいつでも閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。会計帳簿及びこれに関する資料については、総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主又は発行済株式(自己株式を除きます。)の100分の3以上の数の株式を有する株主が、理由を明らかにして請求することができます(会社法第433条第1項。拒絶事由につき同条第2項)。
ここで確認を要しましたのは、相続税の申告に用いた評価額と、売買における価格とが別個のものであるという点です。相続税評価額は、課税の公平と大量の事案の画一的な処理を目的として財産評価基本通達の定めに従って算定されるものであり、売買価格を規律するものではありません。この点は、記事「相続税評価額と実際の株式売買価格が違う理由」に整理しています。
そのうえで、会社の純資産の内容、保有する不動産その他の資産の含み損益、事業に用いられていない資産の有無、収益の推移、非経常的な損益の有無、役員報酬その他の費用の水準を確認し、複数の考え方によって幅をもった検討を行いました。この段階で重要でしたのは、単一の金額を主張することではなく、どのような前提を置けばどのような結論となるのかを整理し、会社側の説明と突き合わせられる状態にしておくことでした。
代理人としての協議の申入れ
その後、当事務所が代理人として会社に対して協議の申入れを行いました。ご本人が直接申し入れられた際とは異なり、法律関係と資料に基づく協議として整理されたことにより、会社側においても改めて検討がなされる状況となりました。会社側にも代理人が就き、双方の代理人の間で書面によるやり取りを重ねる形となる例が多くあります。
なお、申入れの方法、時期、資料の提示の順序、価格に関する主張の組立て方につきましては、案件ごとに事実関係が異なり、また当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、詳細は公開していません。
要した期間の幅
本類型において要した期間は、事案によって相当の幅があります。類型としての一般的な目安を段階ごとに整理いたしますと、次のとおりです。いずれも概ねの目安であり、個別の事案における期間を示すものではありません。
| 段階 | 一般的な期間の幅 | 期間を左右する主な事情 |
|---|---|---|
| ご相談から受任及び資料の整理まで | 数週間程度 | 相続関係の確定の要否、資料の保有状況 |
| 遺産分割及び名義書換の整理 | 数か月程度から1年を超える場合まで | 相続人の数、他の遺産の内容、相続人間の協議の状況 |
| 資料の取得 | 数週間から数か月程度 | 会社の対応、拒絶事由の主張の有無 |
| 株式の価値の検討 | 数週間から数か月程度 | 資料の分量、含み損益の検討の要否 |
| 会社との協議 | 数か月程度から1年を超える場合まで | 会社側の意思決定の速度、株主総会の開催時期 |
| 合意及び決済 | 数週間から数か月程度 | 手続の履践、資金の手当て、対価の支払方法 |
会社が自己の株式を取得する場合には株主総会の決議を要しますので(会社法第156条第1項、第160条第1項)、その開催時期が全体の期間に影響いたします。また、分配可能額の状況によっては、対価を分割して支払う方法が検討され、決済までの期間が延びることもあります。
なお、相続税の申告及び納付の期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月)との関係は、相続した非上場株式を会社に買い取ってもらうにはに集約しています。この期限までに株式の売却が完了することは、実際にはほとんどありません。納税資金の手当ては、株式の売却とは別に検討することとなります。また、相続により取得した財産を一定の期間内に譲渡した場合の譲渡所得に関する特例が設けられていますので(租税特別措置法第39条)、時期の検討に当たっては税理士にご確認ください。
結果と、この類型から申し上げられること
本類型におきましては、当初は株式の買取りに応じられなかった会社との間で、最終的に発行会社による買取りに至っています。価格その他の条件につきましては、依頼者が特定されるおそれがありますので記載いたしません。
この類型から申し上げられますのは、会社が一度買取りを断ったという事実が、それだけで以後の協議の成否を決めるものではないということです。会社の回答の理由を確認し、法律上の位置付けを整理し、価値についての検討を経たうえで改めて協議を行うことにより、結論が変わることがあります。とりわけ相続を契機とする事案では、株式が相続によってさらに分散していくことが会社にとっても不利益であるという事情があり、会社の側にも整理の利益が認められる場合があります。
もっとも、これはあらゆる事案において妥当するものではありません。会社の財務状況、株主構成、資料の有無によっては、任意の買取りに至らないこともあります。その場合には、譲渡制限株式についての株式譲渡承認請求(会社法第136条、第138条)及び売買価格の決定の申立て(会社法第144条第2項)を含め、法律上の手続を検討することとなります。この手続には20日という期間の制限がありますので(会社法第144条第5項、第7項)、通知を受領された場合には速やかな確認が必要です。
この類型における留意点
第一に、会社に対して口頭で「その金額でよい」と述べてしまわれますと、合意が成立したと評価される場合があります。回答は書面によることとし、内容についてはあらかじめご相談ください。
第二に、相続税の申告書、株式の評価に関する明細書、遺産分割協議書、会社から届いた書面は、いずれも後の検討の手掛かりとなりますので、そのまま保管なさってください。
第三に、遺産分割が未了である場合には、その整理が先行いたします。相続人の間で株式の帰属について意見が異なる場合には、まずその点の解決が必要となります。
第四に、定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある場合には、会社の側から先に手続が開始されることがあります。会社が相続を知った日から1年という期間がありますので(会社法第176条第1項)、相続の開始から間もない時期には、この点の確認が特に重要です。
第五に、この段階で株式買取業者から打診を受けられる方がいらっしゃいます。業者は株式の買手であり、株主ご本人の代理人ではありません。売却をなさいますと株主の地位を失い、その後に採り得る手段も失われます。なお、株式買取業者の事業形態につきましては、当該事案の株式譲渡契約が弁護士法第73条に違反し無効であると判断した大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(令和6年(ネ)第149号 株主権確認等請求控訴事件。上告棄却により確定)があります。業者一般が違法であるという趣旨ではありませんが、具体的な業務態様によっては法的問題が生じ、裁判例において違法性が認定された事例があるということです。契約の前にご相談いただくことをお勧めいたします。
同種のご相談をご検討の皆様へ
相続によって非上場株式を取得され、会社に断られた経緯がある場合であっても、当時のやり取りの記録が残っていれば、検討の手掛かりとなります。相続税の申告書及び株式の評価に関する明細書、遺産分割協議書、会社に送付された書面、会社から届いた回答書、株主総会の招集通知は、いずれも有用です。資料がお手元にない場合であっても、ご相談をお受けしています。
本事例は複数の事案を組み合わせて再構成した一般的な類型であり、同様の結果を保証するものではありません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
相続によって非上場株式を取得された方のご相談は、弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)へお寄せください。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主側の代理人としてお受けいたします。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
- 代表弁護士 土屋 勝裕(東京弁護士会所属)
売却に伴う課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文・裁判例
会社法 第106条(共有に属する株式についての権利の行使)、第116条(反対株主の株式買取請求)、第130条第1項・第133条(対抗要件及び名義書換の請求)、第136条・第138条・第144条第2項・第5項・第7項(譲渡等承認請求及び売買価格の決定)、第155条第3号・第156条第1項・第160条・第162条・第164条第1項(自己株式の取得及び売主追加請求)、第174条・第176条第1項・第177条第1項・第2項・第5項(相続人等に対する売渡しの請求)、第182条の4(株式の併合に係る株式買取請求)、第309条第2項第2号(特別決議)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧等)、第433条第1項・第2項(会計帳簿の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等の請求)、第461条第1項第3号(分配可能額による財源規制)、第785条・第797条・第806条(組織再編に係る反対株主の株式買取請求)
相続税法 第27条第1項(相続税の申告期限)/租税特別措置法 第39条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)/弁護士法 第73条
裁判例 最高裁判所平成27年2月19日第一小法廷判決(共有に属する株式についての議決権の行使)、大阪高等裁判所令和6年7月12日判決(令和6年(ネ)第149号 株主権確認等請求控訴事件。上告棄却により確定。株式買取業者に対する株式譲渡契約につき弁護士法第73条違反による無効を判断)
相続によって取得された株式は、放置しているうちに次の相続を迎え、権利関係がさらに複雑になっていきます。断られた経緯があっても、時期が変われば結論も変わり得ます。まずは、相続税の申告書と会社からの書面をお持ちください。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
具体的なご相談をお考えの株主の皆様へ
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