相続した少数株式に配当がない場合でも持ち続けるべきか
役員報酬の水準が不相当に高いことによって配当原資が失われているような場合には、株主としてその当否を問題とする余地があります。もっとも、報酬額の当否をめぐる争いは立証の負担が重く、結論も事案によって異なります。この点は記事「配当がない同族会社で少数株主が考えるべきこと」(F04)に整理しております。
第2節 保有を続けた場合に何が起きるか
表2 保有の継続に伴う事項
| 事項 | 内容 |
|---|---|
| 収入 | 配当がなければ、保有していても現金の回収は生じません |
| 相続税 | 換価が困難であっても、相続財産として課税の対象となります |
| 次の相続 | 相続人が複数の場合、株主がさらに増えてまいります |
| 準共有 | 遺産分割が調うまで権利の行使には権利行使者の指定を要します |
| 資料 | 取得の経緯を示す資料が失われてまいります |
| 名義 | 名義書換をしないまま世代が進むと権利関係が不明確になります |
相続税法上、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価によるものとされております(相続税法第22条)。取引相場のない株式の評価については財産評価基本通達に定めがあり、株主の区分によって評価方法が異なります。同族株主以外の株主等が取得した株式については配当還元方式によることとされておりますが、区分の判定は会社の株主構成と取得者の属性によりますので、無配であっても相当額の評価となる場合があります。
相続人が複数ある場合、遺産分割が調うまでの間、株式は相続人の準共有となります。この場合、権利を行使する者1人を定めて会社に通知しなければ、原則としてその株式についての権利を行使することができません(会社法第106条)。株主の数が増えるほど、この指定は難しくなります。
第3節 保有を続ける意味がある場合
一律に手放すべきということではありません。次のような事情があるときは、保有の継続にも合理性があります。
- 会社の業績が改善しており、将来の配当が現実的に見込まれる場合
- 事業承継の一環として、親族間の株式の配分に意味がある場合
- 会社の売却(第三者への事業承継)が具体的に検討されている場合
- 株主としての権利行使により、会社の運営に関与する意思がある場合
株主には、株主総会における議決権のほか、一定の要件の下で会計帳簿の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)、株主総会の招集の請求(会社法第297条)、議題の提案(会社法第303条)等の権利が認められております。これらを行使する意思があるのであれば、保有の継続には意味があります。
他方で、権利を行使する意思がなく、配当もなく、相続の見通しも立たないのであれば、換価の検討に入ることが合理的です。
表3 保有の継続と換価の比較
| 観点 | 保有を継続する場合 | 換価する場合 |
|---|---|---|
| 現金の回収 | 配当がなければ生じません | 売買代金として一度に生じます |
| 将来の値上がり | 会社の業績により生じ得ます | 生じません |
| 相続時の負担 | 次の相続で再び課税の対象となります | 現金となり分割が容易になります |
| 株主としての関与 | 議決権その他の権利を維持いたします | 失われます |
| 手続の負担 | 名義書換、権利行使者の指定等が続きます | 手続を終えれば継続いたしません |
| 会社との関係 | 関係が継続いたします | 原則として終了いたします |
判断に当たっては、これらを一覧で比較したうえで、会社の財務状況と相続人の構成を突き合わせることとなります。特に、相続人が高齢である場合や、次の相続で株主がさらに増えることが見込まれる場合には、時間の経過そのものが判断の要素となります。
第4節 換価を検討する場合の選択肢
表4 換価の選択肢
| 相手方 | 法的性質 | 主な留意点 |
|---|---|---|
| 会社 | 任意の買取交渉 | 分配可能額の範囲内に限られます(会社法第461条第1項第3号) |
| 支配株主・親族株主 | 任意の買取交渉 | 財源規制は及びません |
| 会社又は指定買取人 | 株式譲渡承認請求(会社法第136条以下) | 譲受人を明らかにする必要があります |
| 第三者 | 譲渡 | 譲渡制限がある場合は会社の承認を要します |
なお、相続により取得した財産を一定の期間内に譲渡した場合には、相続税額のうち一定の金額を取得費に加算する特例が設けられております(租税特別措置法第39条)。この特例には期間の制限がありますので、換価を検討される場合には時期も考慮の対象となります。具体的な適用の可否及び計算については、税理士にご確認ください。
第5節 判断のために確認すべき事項
表5 確認事項
| 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|
| 定款の内容 | 譲渡制限、相続人等に対する売渡請求の定めの有無を確認いたします |
| 株主名簿 | 名義書換の有無、他の株主の構成を確認いたします |
| 直近3期分の計算書類 | 純資産、利益、分配可能額の目安を確認いたします |
| 配当の履歴 | 過去の配当の有無及び水準を確認いたします |
| 役員報酬の水準 | 計算書類及び附属明細書により確認いたします |
| 相続税の申告書 | 評価額及び評価方式を確認いたします |
| 相続人の状況 | 次の相続の見通しを確認いたします |
特に定款については、相続人等に対する売渡請求の定めの有無を早期に確認する必要があります。定款にこの定めがあるときは、会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができ(会社法第174条)、この請求は会社が相続の事実を知った日から1年以内にしなければならないものとされております(会社法第176条第1項)。
第6節 弁護士に相談する意味
保有を続けるか換価するかの判断は、会社の財務状況、株主構成、定款の内容、相続の見通しという複数の要素を突き合わせて行うものです。いずれも資料の確認を前提といたします。
弁護士は、株主本人の代理人として、株主に認められた情報取得の手段を用いて資料の範囲を確保し、協議及び必要に応じた裁判手続を行います。株式買取業者は買手であり、株主本人の代理人ではありません。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。
よくあるご質問
質問1 無配が続いていることを理由に、会社に配当を求められますか。
配当は株主総会の決議によって具体化するものですので(会社法第454条第1項)、株主が単独で会社に配当を請求することは原則としてできません。分配可能額の制約もあります(会社法第461条第1項第8号)。
質問2 相続税を納めたのに売却できないのは不合理ではありませんか。
相続税の課税と、株式の換価が容易であるかどうかとは、別の問題です。この構造が、非上場株式の相続における実務上の負担の中心にあります。次の相続の前に整理するという考え方については、記事「二次相続の前に少数株式を整理するという考え方」(D06)に整理しております。
質問3 名義が父のままです。そのままにしておいてよいですか。
株式の取得を会社に対抗するためには株主名簿への記載又は記録が必要とされております(会社法第130条第1項)。名義書換をしないまま世代が進むと、必要な資料が失われ、後日の手続が難しくなります。
質問4 相続放棄をすれば株式の問題は解決しますか。
相続放棄は相続財産の全体について効力を生ずるものであり、株式のみを放棄することはできません。また、期間の制限があります。この点は記事「相続放棄と非上場株式の処分はどう違うか」(D07)に整理しております。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、相続した非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。
ご相談の際には、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、相続税の申告書の写し、遺産分割協議書、会社とのやり取りの記録をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階
本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文
会社法 第105条第1項第1号(剰余金の配当を受ける権利)、第106条(共有者による権利の行使)、第130条第1項(対抗要件)、第136条(譲渡等承認請求)、第174条・第176条第1項(相続人等に対する売渡請求)、第297条(株主総会の招集の請求)、第303条(議題提案権)、第433条第1項(会計帳簿の閲覧謄写請求)、第454条第1項(剰余金の配当に関する事項の決定)、第461条第1項第3号・第8号(分配可能額)
相続税法 第22条(評価の原則)
租税特別措置法 第39条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)
内部リンク
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配当のない株式を持ち続けるかどうかは、資料を見れば判断の輪郭が見えてまいります。まずは決算書と定款をお持ちください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
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