相続税を払った非上場株式を売却するときの価格の考え方

いずれの方式によるかは、会社の規模の区分と、株式を取得した者の属性(同族株主に該当するか否か等)によって定まります。同じ会社の株式であっても、取得者が誰であるかによって評価額が大きく異なるのは、この仕組みによるものです。

重要な点は、これらが課税価格を計算するための画一的な基準であって、当事者が売買をするときの価格を定めるものではないという点です。売買価格は、原則として当事者の合意によって定まります。会社法上の手続の中で裁判所が価格を決定する場合には、株式譲渡承認請求の時における会社の資産状態その他一切の事情が考慮されます(会社法第144条第3項)。財産評価基本通達によることが定められているわけではありません。

両者が乖離する理由の詳細は、記事「相続税評価額と実際の株式売買価格が違う理由」(B08)に整理しております。

第2節 評価額が高く出る場合と低く出る場合

表2 乖離の方向と主な要因

方向 主な要因
相続税評価額が売買の目安より高くなりやすい場合 純資産価額方式が適用され、含み益のある不動産を多く保有している場合
同上 過去の配当や利益の水準に比して資産が厚い場合
相続税評価額が売買の目安より低くなりやすい場合 配当還元方式が適用され、配当が僅少又は無配である場合
同上 収益力が高いにもかかわらず資産が少ない場合

配当還元方式が適用される場合、無配又は低配当の会社では評価額が著しく低くなることがあります。この評価額を根拠として会社が低額の買取りを提示する例が見られますが、配当還元方式は課税上の特例的な取扱いであり、当事者間の売買における適正な価格を示すものではありません。

逆に、純資産価額方式によって高額の評価となり、多額の相続税を納付したにもかかわらず、会社からは低額の提示しか受けられないという事態も生じます。相続税の負担と換価の可否とが連動していないことが、この問題の本質です。

第3節 相続税評価額は協議においてどのような位置を占めるか

相続税評価額が売買価格を定めるものでない以上、協議において「相続税評価額であるから正しい」という主張は成り立ちません。もっとも、相続税評価額をまったく無視することも適切ではありません。相続税の評価明細書は、会社の資産、負債、利益、配当を一定の様式に従って整理した資料であり、当事者の一方が恣意的に作成したものではないためです。

表3 相続税評価額の位置付け

用い方 評価
売買価格そのものとして主張する 根拠として不十分です。課税のための評価にとどまります
会社の財務内容を把握する資料として用いる 有用です。純資産及び利益の水準を確認できます
会社の提示額との乖離を検証する手がかりとする 有用です。乖離の理由の説明を求める端緒となります
配当還元方式による低額の評価をそのまま受け入れる 適切ではありません。課税上の特例的な取扱いです

したがいまして、実務においては、相続税の評価明細書を出発点として会社の財務の概況を把握したうえで、売買における評価を別途検討するという順序をとることとなります。会社から提示を受けた金額については、その算定方法と基礎となった数値の説明を求めることが第一歩です。

第4節 売却する場合の税務上の枠組み

相続により取得した株式を売却した場合、譲渡による所得は譲渡所得として課税の対象となります。

表4 基本的な枠組み

事項 内容
取得費 相続(限定承認に係るものを除きます)により取得した資産については、被相続人の取得費を引き継ぎます(所得税法第60条第1項)
課税方式 一般株式等に係る譲渡所得等として申告分離課税の対象となります
取得費加算の特例 相続財産を一定の期間内に譲渡した場合、相続税額のうち一定の金額を取得費に加算することができます(租税特別措置法第39条)

取得費は相続税評価額ではなく、被相続人が取得した際の価額を引き継ぐという点が重要です。古くから保有されている株式では取得費が極めて低額である場合があり、売却価額の大部分が譲渡所得となることがあります。他方、取得費加算の特例には期間の制限がありますので、売却の時期は検討の対象となります。

税率、特例の適用要件及び具体的な計算は税制改正により変わり得ます。個別の適用については税理士にご確認ください。

第5節 価格を検討する際に確認すべき事項

表5 確認事項

確認事項 内容
相続税の申告書及び評価明細書 いずれの評価方式によったか、基礎となった数値を確認いたします
直近3期分の計算書類 相続時から現在までの財務の変化を確認いたします
勘定科目内訳明細書 資産の内容、含み損益の可能性を確認いたします
不動産の一覧 取得時期、帳簿価額、固定資産税評価額を確認いたします
配当の履歴 配当還元方式の当否に関係いたします
株主構成 同族株主に該当するか否かの判定に関係いたします
被相続人の取得の経緯 取得費の把握に関係いたします

相続税の申告書に添付された評価明細書は、会社の資産及び損益を一定の方法で整理した資料ですので、売買価格を検討する際の有用な出発点となります。ただし、そこに記載された評価額をそのまま売買価格として主張することは、方法として適切ではありません。売買における評価は、純資産に着目する方法、収益に着目する方法等により、別途検討することとなります。評価手法の概要は、記事「非上場株式の時価純資産法を少数株主側からどう見るか」(B04)及び既存記事(/archives/share_kabushikikachisanteihouhou/)に整理しております。

第6節 弁護士に相談する意味

相続の事案では、相続税の申告のために作成された資料が手元に残っていることが多く、これを起点として会社の財務状況を把握することができます。他方、相続税評価額をそのまま売買価格として主張したり、逆に会社が示す配当還元方式による低額の評価を受け入れたりすることは、いずれも適切ではありません。

弁護士は、株主本人の代理人として、資料の確保、評価に関する検討、協議及び必要に応じた裁判手続を行います。株式買取業者は買手であり、株主本人の代理人ではありません。当事務所は株式を買い取る立場ではなく、株主の方が株式を保有したまま手続を進めるものです。

よくあるご質問

質問1 相続税評価額で買い取ってもらうことはできますか。

当事者が合意すれば、その金額で売買することは可能です。もっとも、会社に応ずる義務はありません。また、相続税評価額が適正な売買価格であることを法的に根拠付けるものでもありません。

質問2 会社が配当還元方式による金額を提示してきました。

配当還元方式は、同族株主以外の株主等が取得した株式について課税上適用される評価方式です。当事者間の売買における適正な価格を示すものではありませんので、その旨を前提に、別途の評価に基づく検討を行うこととなります。

質問3 相続税を納めた金額を下回る価格でしか売れないのですか。

そのような場合があり得ます。相続税の課税価格と売買価格とは連動しないためです。したがいまして、相続の段階で、遺産分割の内容と併せて換価の見通しを検討しておくことが望まれます。相続の後であっても、まず会社の財務状況を確認することから着手いたします。

質問4 売却の時期によって手取り額が変わりますか。

取得費加算の特例には期間の制限がありますので、売却の時期が税負担に影響する場合があります。具体的な適用については税理士にご確認ください。

交渉手法の詳細について

具体的な交渉方法は、株主構成、財務状況、株価、従前の経緯等により異なり、当事務所が個別案件を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは詳細を開示しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、相続した非上場株式・少数株式について、株主側の代理人としてご相談をお受けしております。

ご相談の際には、相続税の申告書及び評価明細書の写し、定款の写し、株主名簿の写し、直近3期分の決算書、会社とのやり取りの記録をご用意ください。お手元にない場合でもご相談いただけます。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • 所在地 〒105-6017 東京都港区虎ノ門四丁目三番一号 森トラスト城山トラストタワー17階

本記事は一般的な法律上の枠組みをご説明するものであり、結論は事案ごとの事実関係及び資料によって異なります。結果を保証するものではありません。課税関係については税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文

会社法 第144条第3項(裁判所による売買価格の決定における考慮事情)

相続税法 第22条(評価の原則)

所得税法 第60条第1項(贈与等により取得した資産の取得費等)

租税特別措置法 第39条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)

内部リンク

送客先ランディングページ /landing/sharesozoku/(第6号。主)、/kaitorikakaku_arasoi/(第3号。補助)

既存記事 /archives/share_sozokudemerit/、/archives/share_kabushikikachisanteihouhou/、/archives/unlisted-share-fair-price/

関連記事 B04、B08、D01、D02、D08

相続税の申告書は、価格を検討するための貴重な資料です。まずはその写しをお持ちください。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。