親から相続した会社株式を兄弟の経営者が買ってくれない場合

親から非上場会社の株式を相続したものの、会社を承継した兄弟が買取りに応じてくれない、というご相談は少なくありません。まず前提として、会社にも、経営者である兄弟個人にも、当然に株式を買い取る義務があるわけではありません。

もっとも、それは何もできないという意味ではありません。相続により株主となった以上、株主としての権利があり、会社法上の手続もあります。本稿では、相続後の株主としての地位の確認から、採り得る手続と価格の考え方までを整理いたします。

買取義務は当然には生じません

非上場会社の株式について、株主が売却を希望したからといって、会社又は他の株主がこれを買い取らなければならないという一般的な義務は、会社法上定められていません。この点は、親族間であっても同様です。

会社法が買取りを義務づけているのは、限られた場面に限られます。譲渡制限株式について株式譲渡承認請求をし、会社又は指定買取人による買取りを請求する旨を併せて明らかにしたうえで(会社法第138条第1号ハ)、会社が承認をしない旨の決定をした場合には、会社は対象株式を買い取らなければなりません(会社法第140条第1項)。この場合を除き、買取りは当事者の合意によることになります。

したがって、実際の解決の多くは、任意の買取りの交渉によることになります。会社が買主となる場合と、経営者である兄弟が個人として買主となる場合とでは、機関決定や財源に関する規律が異なりますので、いずれを想定するかにより検討事項も変わります。

相続によって変わること、変わらないこと

相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した場合には、会社の承認を要せずに名義書換えを請求することができます(会社法第134条第4号)。名義書換えの請求は、株主名簿に記載された者との共同によることを原則としますが、一般承継の場合には、その事実を証する資料を提供して単独で請求し得るものとされています(会社法第133条第2項、会社法施行規則第22条第1項)。

もっとも、遺産分割が終了するまでの間、相続財産に含まれる株式は共同相続人の準共有に属します。この場合、共有者は、当該株式についての権利を行使する者一人を定め、会社に対してその者の氏名又は名称を通知しなければ、原則として株式についての権利を行使することができません(会社法第106条)。権利行使者の指定については、最高裁判所平成27年2月19日第一小法廷判決が、共有に属する株式についての議決権の行使は、特段の事情のない限り、各共有者の持分の価格に従いその過半数で決せられる旨を判示しています。

つまり、相続が生じたことにより株主としての地位を承継したとしても、遺産分割が未了であれば、単独で株主としての権利を行使することはできないのが原則です。売却の検討に先立ち、遺産分割の状況と名義書換えの有無を確認する必要があります。

経営者である兄弟が買取りに応じない背景

買取りに応じないという判断の背景には、一般に、次のような事情が考えられます。第1に、会社の資金繰りです。会社が買主となる場合、自己株式の取得は分配可能額の範囲内でしなければなりません(会社法第461条第1項)。分配可能額が乏しければ、会社は買い取ることができません。

第2に、個人の資力です。経営者である兄弟が個人として買い取る場合、その資金は個人が負担することになります。会社の業績が良好であっても、個人に手元資金があるとは限りません。

第3に、価格に関する認識の相違です。相続税の申告に用いた評価額、会社の帳簿上の純資産、経営者が想定する額、少数株主が想定する額は、いずれも一致しないことが通常です。

第4に、支配権に関する考慮です。持株比率の変動は会社の意思決定に影響いたしますので、誰がどの割合で株式を保有するかは、経営者にとって重要な関心事となります。これらはいずれも一般的な背景であり、個別の会社において何が決定的な要因であるかは、事案ごとに異なります。

定款に相続人等に対する売渡しの請求の定めがある場合

会社は、相続その他の一般承継により譲渡制限株式を取得した者に対し、当該株式を会社に売り渡すことを請求することができる旨を定款で定めることができます(会社法第174条)。定款にこの定めがある場合、会社の側から買取りを求められる可能性があります。

会社がこの請求をしようとするときは、その都度、株主総会の決議によって、請求をする株式の数及びその株式を有する者の氏名又は名称を定めなければなりません(会社法第175条第1項)。この決議は特別決議です(会社法第309条第2項第3号)。売渡しの請求を受ける者は、この株主総会において議決権を行使することができません(会社法第175条第2項)。

もっとも、この請求には期間制限があります。会社は、相続その他の一般承継があったことを知った日から1年を経過したときは、売渡しの請求をすることができません(会社法第176条第1項ただし書)。売買価格は会社と当該相続人との協議によって定めますが、協議が調わない場合、いずれからも、請求があった日から20日以内に裁判所に対して株式売買価格決定の申立てをすることができます(会社法第177条第1項、第2項)。この期間内に申立てがなく協議も調わないときは、売渡しの請求はその効力を失います(会社法第177条第5項)。

価格をどう考えるか

価格に関して最も多い誤解は、相続税の申告に用いた評価額がそのまま売買の価格になるというものです。相続税評価額は、相続税の課税価格の計算という目的のために定められた方法により算定される額であり、当事者間の売買における価格を定めるものではありません。両者が一致しないことは、むしろ通常です。

売買における価格の検討には、会社の財務内容の把握が不可欠です。株主は、持株数の要件なく計算書類等の閲覧謄写を請求することができます(会社法第442条第3項)。総株主の議決権の100分の3以上を有する株主は、請求の理由を明らかにしたうえで会計帳簿の閲覧謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。

なお、株式を譲渡した場合の税務上の取扱いは、譲渡の相手方及び態様により異なります。具体的な申告の判断は税理士にご確認いただく必要があります。

採り得る手続と期間制限

採り得る手続としては、第1に、会社又は経営者である兄弟との任意の買取りの交渉があります。第2に、譲渡制限株式について、現実に譲り受ける意思のある譲受人を特定したうえで株式譲渡承認請求をする方法があります(会社法第136条、第138条第1号)。この請求には譲受人の氏名又は名称を明らかにすることが必要であり、実体を伴わない譲受人を立てるべきではありません。第3に、株主としての情報取得の権利の行使があります。

いずれの手続を選択するか、またその順序をどうするかは、会社の状況、持株比率、遺産分割の進捗、従前の経緯により異なります。関連する期間制限は次のとおりです。

場面 期間 根拠条文
会社による相続人等に対する売渡しの請求 相続その他の一般承継があったことを知った日から1年以内 会社法第176条第1項ただし書
売渡しの請求に関する株式売買価格決定の申立て 売渡しの請求があった日から20日以内 会社法第177条第2項
会社による承認をするか否かの決定の内容の通知 株式譲渡承認請求の日から2週間(定款でこれを下回る期間を定めた場合はその期間) 会社法第139条第2項、第145条第1号
会社による株式買取通知 承認をしない旨の決定の内容の通知の日から40日 会社法第141条第1項、第145条第2号
指定買取人による通知 承認をしない旨の決定の内容の通知の日から10日 会社法第142条第1項、第145条第2号
譲渡制限株式に関する株式売買価格決定の申立て 株式買取通知又は指定買取人の通知があった日から20日以内 会社法第144条第2項、同条第7項
相続の承認又は放棄 自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内 民法第915条第1項
相続税の申告及び納付 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内 相続税法第27条第1項

感情の問題と法的な整理を分けて考える

兄弟間の株式の問題は、生前の介護の負担、事業への貢献、親からの生前の援助といった事情と結びついて語られることが多く、当事者同士の話合いでは論点が拡散しがちです。

法的には、遺産分割の問題、株主としての権利の問題、株式の価格の問題は、それぞれ別の枠組みに属します。これらを分けて整理し、どの問題について何を求めるのかを明確にすることが、解決に向けた第一歩となります。代理人を立てることの意味の一つは、この整理を当事者の関係から切り離して行える点にあります。

よくあるご質問

質問1 兄弟が代表取締役を務めているのだから、会社に買い取らせる義務があるのではないですか。

代表取締役の地位と、会社が株式を買い取る義務とは別の問題です。会社が自己株式を取得するには機関決定を要し、かつ分配可能額の範囲内でしなければなりません(会社法第461条第1項)。もっとも、義務がないことと、実際に買取りが成立しないこととは別です。任意の買取りにより解決に至る事案もあります。

質問2 遺産分割が終わっていませんが、先に売却の話を進められますか。

遺産分割が終了するまでは、株式は共同相続人の準共有に属し、権利行使者を定めて会社に通知しなければ原則として権利を行使することができません(会社法第106条)。売却の交渉自体を検討することは可能ですが、最終的に誰が何株を取得するかが確定しなければ、譲渡の当事者及び対象が定まりません。遺産分割の進め方と併せてご検討ください。

質問3 会社から株式を売り渡すよう求められました。応じなければならないのですか。

定款に会社法第174条の定めがあり、株主総会の特別決議を経た売渡しの請求である場合には、法定の手続に基づく請求ということになります。ただし、相続があったことを知った日から1年を経過した後の請求はできません(会社法第176条第1項ただし書)。価格については協議により定めますが、協議が調わない場合には、請求があった日から20日以内に裁判所に対して株式売買価格の決定を求めることができます(会社法第177条第2項)。速やかに弁護士にご相談ください。

質問4 相続税の申告書に記載した評価額で売却してよいでしょうか。

相続税評価額は課税価格の計算のための額であり、売買の価格とは目的を異にします。会社の資産内容や収益状況によっては、両者が大きく異なることがあります。売却に先立ち、会社の財務内容を確認したうえで検討されることをお勧めいたします。

交渉手法の詳細を開示していないことについて

当事務所では、非上場株式・少数株式について、当初は株式買取りに消極的であった会社又は関係者との交渉を行い、任意の株式買取りに至る案件を取り扱っています。もっとも、会社が株式買取りに応じるか否かは、株主構成、会社の財務状況、株式価値、株主間の従前の経緯、会社支配権、相続・事業承継の状況その他の事情によって異なります。どのような事情を踏まえ、どのような順序及び方法で会社と交渉するかは、当事務所が個別案件の経験を通じて蓄積してきた実務上のノウハウにも属するため、本ページでは具体的な交渉手法の詳細を開示していません。

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