会社や指定買取人からの譲渡制限株式の買取通知と売買契約の成立時期
お困りではありませんか?

非上場会社の株式(譲渡制限株式)を譲渡しようとする際、会社側から「譲渡は認めないが、代わりに会社(または指定買取人)が買い取る」という通知が届くことがあります。
この場合に実務上重要な論点となるのが、「買取通知が届いたときに株式の売買契約は成立しているか」という問題です。この判断を誤ると、会社側は予期せぬ代金支払義務を負い、また株主側は売却の機会を逃したり債務不履行責任を問われるリスクがあります。
本記事では、譲渡制限株式の買取通知と売買契約の成立時期について判例実務に沿って詳しく解説します。
本記事で解説する事案の概要
本記事では以下のようなケースを前提として解説していきます。
- (第三者に対する譲渡制限株式の譲渡承認請求):株主(または譲渡を受けた第三者)が、第三者が譲渡制限株式を取得することを認めるよう会社に対して承認請求を行った。
- (会社に対する買取請求):株主側は、承認請求とあわせて「もし会社が譲渡を認めないなら、会社側が株式を買い取ってほしい」と請求していた。
- (会社側による買取決定および通知):会社は第三者への譲渡を承認せず、その代わり会社側が買い取ることを決定し、株主側に対して買取通知を行った。
以上の状況下で生じる「買取通知があった時点で、株主側と会社側との間に売買契約は成立しているのか?」という疑問について、実務の立場から詳しく解説します。
(結論)買取通知が到達した時点で株式の売買契約が成立
会社側からの買取通知が株主等に届いた時点で、当事者間の意思の合致(合意)を待たずに、直ちに株式の売買契約が成立します。
したがって買取通知を送った会社側が「やっぱり買うのをやめたい」と翻意したり、株主側が「その相手には売りたくない」と主張したりすることは原則としてできません。
では、この買取通知はどのようなプロセスで実行され、また契約成立後の手続きはどのように進むのでしょうか。時系列に沿って説明します。
売買契約成立までのプロセスと契約成立後に生じる義務
買取通知が到達すれば株式の売買契約が成立するといっても、それ以前の手続きに不備があれば通知自体が無効になるリスクもあります。また、契約成立後には当事者双方に履行すべき義務が発生するのはもちろんです。
そこで以下では、「譲渡制限株式の売買契約が成立するまでのプロセス」と「契約成立後に生じる当事者の義務」に分けて実務の流れを解説します。
売買契約成立までのプロセス
譲渡制限株式の株主が第三者に株式を譲渡しようとする場合、以下のプロセスをふみます。
(1)承認請求
株主は会社に対して株式譲渡の承認を求めます(会社法136条等)。
(2)会社による承認・非承認の決定
会社は原則2週間以内に承認するか否かを決定し、その結論を株主側に通知しなければなりません。通知をしない場合は株式譲渡を承認したものとみなされます(同139条2項、145条1号)。
(3)買取当事者の決定と買取通知
会社が譲渡を承認しない場合、会社自身が買い取るか、特定の買取人を指定して買い取らせるかを決定します(同140条4項)。その後、会社は株主側に対して、「株式を買い取ること」や「買い取る株式の種類・数」等を通知しなければなりません(同141条1項)。
契約成立後に生じる当事者の義務
買取通知が株主側に到達し、売買契約が成立したときから、当事者には以下の法的義務が課されます。ここでの対応を誤ると、契約解除や損害賠償の対象となるため特に注意が必要です。
会社側の義務(買取資金の供託義務)
会社または指定買取人は、買取通知を行う際、あらかじめ買取資金(1株あたり純資産額×株数)を供託し、その証明書を株主側に交付しなければなりません(会社法141条2項、142条2項)。資金の裏付けがない買取通知は、適正な手続きとして認められない構造になっているのです。
株主側の義務(株券の供託義務)※株券発行会社の場合のみ
株券発行会社のケースでは、供託証明書を受け取った株主は、1週間以内に株券を供託所に預けなければなりません。これを怠った場合、会社側から売買契約を解除されるリスクがあります(同141条4項、142条4項)。
売買契約成立後に生じやすい実務上のトラブルと法的リスク
買取通知によって会社法上は譲渡制限株式の売買契約が成立します。しかし、いくらで売るか(価格決定の問題)や本当に支払われるのか(債務不履行の問題)といった契約の重要部分に関する合意や保証はまだない状態です。そのため以下のようなトラブルが生じる可能性があります。
(1)「価格」が決まらない(協議の不調)
買取通知で契約は成立しますが、通知された買取価格に株主側が納得するとは限りません。価格協議が整わない場合、売買契約自体は有効なまま、最終的には裁判所に対して売買価格決定の申立てを行い、司法の判断を仰ぐことになります。
(2)会社側が支払いを拒む(債務不履行)
資金繰りの悪化や経営判断の変更により、会社側が正当な理由もないのに「代金を払わない」と主張するケースです。しかし、すでに契約は成立しているため、これは単なる債務不履行となります。株主側からは、代金支払請求や遅延損害金の請求がなされることになり、会社側が債務不履行責任を免れることはできません。
(3)第三者との二重譲渡による混乱
株主が、会社からの通知が来る前に第三者と売買契約を結んでしまっていた場合です。この場合、「第三者との契約」と「会社との契約」が競合する可能性があります。
会社の承認がないまま譲渡制限株式を譲渡しても、会社には対抗できません。会社側の権利が優先するため、権利を否定された第三者から株主に対して損害賠償請求がなされるなど、複雑な紛争に発展するリスクがあります。
契約成立の根拠となる判例と条文構造
以上の通り、譲渡制限株式の買取通知が行われれば、その後の価格調整や代金支払いの過程で揉めたとしても、法律上はすでに売買契約は成立している前提で処理されるのが原則です。
では、なぜ価格すら決まっていない段階でそこまで強い拘束力が認められるのでしょうか。
その法的根拠は、最高裁判例と会社法の条文構造に求めることができます。
【根拠1】平成15年最高裁決定による「契約成立時期」の解釈
現行会社法の株式買取通知に相当する旧商法の規定は204条の3です。同規定の解釈について最高裁平成15年2月27日決定は次のように判示しました。
「取締役会が譲渡の相手方として指定した者が、株主に対して自己に株式を売り渡すべき旨を請求することによって、株主とその者との間に株式の売買が成立すると解することができる。」
最高裁は、指定買取人が株主に対して「あなたが所有する株式を私に売り渡して欲しい」と請求した時点で売買が成立すると解釈したわけです。この請求は現行法における会社側の買取通知と実質的には同じ行為です。
株式の譲渡承認手続きを定める現行会社法の構造や趣旨は旧商法と同じですから、平成15年最高裁決定の判旨は現在でも妥当すると言えるでしょう。したがって、譲渡制限株式の売買は、会社側の買取通知が株主側に到達した時点で成立することになります。
【根拠2】会社法上の「解除権」規定からの解釈
前述したように、株券発行会社における譲渡制限株式の買取通知では、株主側は所定の期間内に株券を供託する義務を負います。供託を怠ると、会社側は株式の売買契約を解除できます(同141条4項、142条4項)。
条文の文言は「売買契約を解除することができる」と定められているので、買取通知があった段階で売買契約が成立していると解釈するのが自然です。
まとめ:トラブルが深刻になる前に弁護士へ相談を
譲渡制限株式の買取通知をめぐるケースは、会社法の中でも利害対立が激化しやすい局面です。通知が到達した時点で、会社側も株主側も原則として後戻りができない点に注意しましょう。
買取通知が来てどうすればいいかわからない株主様や、これから買取通知を送ろうとしている経営者様は、自己判断で動く前に、企業法務に精通した当事務所にまずはご相談ください。貴社の状況や株主としての権利を守るために、最適な戦略をアドバイスいたします。
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