株式譲渡承認請求は単独で行うことが可能ですか?共同で行う必要があります!

会社が望まない第三者が株主になることを防ぐため、多くの非上場会社では株式の譲渡に会社の承認を必要としています。この譲渡制限株式の譲渡承認請求を単独で行うべきか、共同で行うべきかは、M&A実務における重要な判断ポイントです。

そこで本記事では、非上場株式の譲渡を検討している株主やM&A実務に関心を持つ経営者・法務担当者に向けて、株式譲渡承認請求の2つの方法(会社法136条・137条)の違いや手続上の注意点について分かりやすく解説します。

「株式譲渡承認請求」とは?

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株式は自由に譲渡できるのが原則ですが、株式を公開していない非上場会社(中小企業など)の多くは、定款で株式の譲渡に会社の承認が必要であると定めています。これが「譲渡制限株式」です。

譲渡制限株式を第三者に売却(譲渡)しようとする際に、会社に対して「Aさん(譲受人)に株式を譲渡することを承認してください」と請求する手続のことを「株式譲渡承認請求」といいます(会社法136条ほか)。

本来株式は自由に譲渡できるのですが、譲渡制限株式の場合、会社が望まない第三者による株式取得を防止し、経営の安定性を確保する必要があります。そのため、譲渡を承認する手続を定めることで、株式の取得者を慎重に吟味する機会を設けたわけです。

譲渡制限株式を会社の承認なく譲渡しても、譲渡人と譲受人の関係では有効です。しかし会社に対して株主としての権利(配当の受領など)を主張することはできません。権利のない株式は紙切れ同然です。したがって株式譲渡承認請求は、譲渡制限株式を売却する上で必要不可欠な手続だといえます。

株主(譲渡人)は単独で承認請求できる

株式譲渡の承認請求は、株式を譲渡する株主(譲渡人)が行う方法と、株式を取得した者(譲受人)が行う方法の2つがあります 。どちらが請求するかによって、会社とのやり取りの相手方が変わり、手続の有利不利に大きく影響するため、慎重に選ぶ必要があります。

株式を第三者に譲渡しようとする株主(譲渡人)は、単独で会社に対して「〇〇さんに株式を譲渡することを承認してください」と請求できます(会社法136条)。

株式取得者(譲受人)は共同での承認請求が原則

すでに株式を取得した人(譲受人)が、会社に対して「この株式を取得したことを承認してください」と請求するケースでは、原則として元の株主(譲渡人)と共同でなければ請求が認められません(会社法137条)。

これは旧来の会社法において、株式取得者を名乗る人物が真の権利者であるか確認する手続がなかったからです。

現在の会社法制下では、株式取得者(譲受人)が株式を取得した客観的な証拠を提示できるケースに限り、単独で譲渡承認請求を行うことができます(会社法施行規則24条)。

〈株式取得者(譲受人)が単独で承認請求できる主な例外事由〉

  • 確定判決がある場合
  • 合併・会社分割等の組織再編により株式を取得した場合
  • 会社に対して株券を提示した場合(株券発行会社の場合)
  • 競売により株式を取得した場合

「会社が誰を交渉相手として手続を進めるべきか」という視点から、株主による承認請求(会社法136条)と株式取得者による承認請求(同137条)の大きな違いをまとめました。

  株主(譲渡人)からの承認請求(会社法136条) 株式取得者(譲受人)からの承認請求(会社法137条)
承認請求できる人 株主(譲渡人)  株式取得者(譲受人) 
承認請求の方法 株主が単独で請求できる 

株主(譲渡人)および株式取得者(譲受人) が共同で請求する

※確定判決がある場合や株券を提示した場合など、単独請求できる例外あり 

会社が通知を送付する相手方 株主(譲渡人)  株式取得者(譲受人) 
承認拒否時の買取協議・株価決定申立の相手方 株主(譲渡人)  株式取得者(譲受人) 

株式譲渡承認請求の際に株券を提示する場合は株券の現物をいったん引き渡す必要がある

先ほど、株式取得者が単独で承認請求できる例外事由として、「株式取得者(譲受人)が、会社に対して株券を提示して譲渡承認請求を行う場合」をあげました。

この「株券を提示」とは、株券を見せるだけでなく、いったん会社に対して株券そのものを引き渡す必要があります。

しかし、株主(譲渡人)と会社が揉めていたり、株式取得者(譲受人)が会社にとって好ましからざる株主であるような場合、会社からの嫌がらせで株券を返してもらえなくなったり、「受け取っていない」と主張されたりするおそれがあります 。

株券の現物を会社に引き渡してしまうと、どのような取り扱いを受けるか予測できないこともあるため、株式取得者としては心理的に強い抵抗感があることでしょう。

当事務所が関与した案件でも、株券の返還を巡ってトラブルになったケースがありました 。このようなリスクを避けるためにも、株券を提示して譲渡承認請求を行う場合は、弁護士などの専門家に対応を依頼することを推奨します。

株主(譲渡人)と株式取得者(譲受人)が「共同」で株式譲渡承認請求をする場合の注意点

会社法137条に基づいて、株主(譲渡人)と株式取得者(譲受人)が「共同」で株式譲渡承認請求をする場合、株式譲渡承認請求ができる主体は株式取得者(譲受人)です。

この場合に会社側は、株式取得者(譲受人)を相手に手続を進めていかなければなりません。株式取得者(譲受人)に対して株式譲渡承認・拒否通知を送り、株価決定申立(株価決定裁判)においても同人を相手とする必要が生じます。

しかし会社としては、株主(譲渡人)の方が組し易いのであり、会社にとって好ましくない株式取得者(譲受人)はできれば相手にしたくないわけです。すきあらば株式取得者(譲受人)を無視しようとします。そのため、株券の現物を提示するケースでは、先にあげたような「嫌がらせ」を受けるリスクが生じます。

そのようなリスクを避けるためには、あくまで株式取得者(譲受人)が株式譲渡承認請求を行うのであり、会社法136条に基づく株式譲渡承認請求ではなく、会社法137条に基づく株式譲渡承認請求であることを明示する必要があります。

この明示を怠ると、会社側は「株主(譲渡人)が株式譲渡承認請求を行っている! 」などと強弁し、株主(譲渡人)を相手に手続を強引に進めてゆきかねません。これではいつまでたっても株主(譲渡人)は、会社や社長とのトラブルから抜け出すことができないでしょう。

まとめ

譲渡制限株式の取得者(譲受人)が株主(譲渡人)と共同で承認請求を行う場合、「会社法137条に基づく株式譲渡承認請求であること」「株式譲渡承認・拒否通知は株式取得者(譲受人)に対して送付すべきであること」「株価決定申立(株価決定裁判)の相手方も株式取得者(譲受人)であること」を明示することが重要です。

会社側としては好ましくない第三者を排除するべく、強引な解釈のもと、株式取得者を排除してくるおそれがあります。このような会社側の戦略的対応に対して適切な対策をとるには、株式譲渡の実務に優れた弁護士等の専門家の存在が欠かせません。

M&A総合法律事務所は、譲渡制限株式の承認請求手続を含むM&Aの取引全般について、豊富な実務経験を有する専門家チームです。

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参考:本記事に関連する会社法および会社法施行規則

(株主からの承認の請求)

第136条 譲渡制限株式の株主は、その有する譲渡制限株式を他人(当該譲渡制限株式を発行した株式会社を除く。)に譲り渡そうとするときは、当該株式会社に対し、当該他人が当該譲渡制限株式を取得することについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。(株式取得者からの承認の請求)

第137条 譲渡制限株式を取得した株式取得者は、株式会社に対し、当該譲渡制限株式を取得したことについて承認をするか否かの決定をすることを請求することができる。

2 前項の規定による請求は、利害関係人の利益を害するおそれがないものとして法務省令で定める場合を除き、その取得した株式の株主として株主名簿に記載され、若しくは記録された者又はその相続人その他の一般承継人と共同してしなければならない。(譲渡等承認請求の方法)

第138条 次の各号に掲げる請求(以下この款において「譲渡等承認請求」という。)は、当該各号に定める事項を明らかにしてしなければならない。

1 第136条の規定による請求 次に掲げる事項
イ 当該請求をする株主が譲り渡そうとする譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)
ロ イの譲渡制限株式を譲り受ける者の氏名又は名称
ハ 株式会社が第136条の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第140条第4項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨2 前条第1項の規定による請求 次に掲げる事項
イ 当該請求をする株式取得者の取得した譲渡制限株式の数(種類株式発行会社にあっては、譲渡制限株式の種類及び種類ごとの数)
ロ イの株式取得者の氏名又は名称
ハ 株式会社が前条第1項の承認をしない旨の決定をする場合において、当該株式会社又は第140条第4項に規定する指定買取人がイの譲渡制限株式を買い取ることを請求するときは、その旨(譲渡等の承認の決定等)

第139条 株式会社が第136条又は第137条第1項の承認をするか否かの決定をするには、株主総会(取締役会設置会社にあっては、取締役会)の決議によらなければならない。
ただし、定款に別段の定めがある場合は、この限りでない。

2 株式会社は、前項の決定をしたときは、譲渡等承認請求をした者(以下この款において「譲渡等承認請求者」という。)に対し、当該決定の内容を通知しなければならない。

会社法施行規則

(株式取得者からの承認の請求)

第24条 法第137条第2項に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 株式取得者が、株主として株主名簿に記載若しくは記録がされた者又はその一般承継人に対して当該株式取得者の取得した株式に係る法第137条第1項の規定による請求をすべきことを命ずる確定判決を得た場合において、当該確定判決の内容を証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき。
二 株式取得者が前号の確定判決と同一の効力を有するものの内容を証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき。
三 株式取得者が当該株式会社の株式を競売により取得した者である場合において、当該競売により取得したことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき。
四 株式取得者が組織変更株式交換により当該株式会社の株式の全部を取得した会社である場合において、当該株式取得者が請求をしたとき。
五 株式取得者が株式移転(組織変更株式移転を含む。)により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した株式会社である場合において、当該株式取得者が請求をしたとき。
六 株式取得者が法第197条第1項の株式を取得した者である場合において、同条第2項の規定による売却に係る代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき。
七 株式取得者が株券喪失登録者である場合において、当該株式取得者が株券喪失登録日の翌日から起算して1年を経過した日以降に、請求をしたとき(株券喪失登録が当該日前に抹消された場合を除く。)。
八 株式取得者が法第234条第2項(法第235条第2項において準用する場合を含む。)の規定による売却に係る株式を取得した者である場合において、当該売却に係る代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき。

2 前項の規定にかかわらず、株式会社が株券発行会社である場合には、法第137条第2項に規定する法務省令で定める場合は、次に掲げる場合とする。
一 株式取得者が株券を提示して請求をした場合
二 株式取得者が組織変更株式交換により当該株式会社の株式の全部を取得した会社である場合において、当該株式取得者が請求をしたとき。
三 株式取得者が株式移転(組織変更株式移転を含む。)により当該株式会社の発行済株式の全部を取得した株式会社である場合において、当該株式取得者が請求をしたとき。
四 株式取得者が法第197条第1項の株式を取得した者である場合において、同項の規定による競売又は同条第2項の規定による売却に係る代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき。
五 株式取得者が法第234条第1項若しくは第235条第1項の規定による競売又は法第234条第2項(法第235条第2項において準用する場合を含む。)の規定による売却に係る株式を取得した者である場合において、当該競売又は当該売却に係る代金の全部を支払ったことを証する書面その他の資料を提供して請求をしたとき。

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