株式譲渡承認請求・株式買取請求の際の売主追加請求の可否

譲渡制限株式を保有する株主にとって、他の株主が会社に対して株式の買取手続き(株式譲渡承認請求)を進めている動きは、「自分もこの機会に売り抜けたい」と考えるきっかけになります。
通常、会社が特定の株主から自社株を買い取る際には、公平性の観点から他の株主にも「私からも買い取ってほしい」と請求する権利(売主追加請求権)が認められています。
しかし、株式譲渡承認請求に伴う買取の場面では、売主追加請求は認められません。
本記事では、似ているようで異なるこの2つの制度の違いと、売却を希望する株主がとるべき対応について解説します。
株式譲渡承認請求/買取請求の流れ
株式譲渡承認請求・株式買取請求の際に売主追加請求が可能かを説明するにあたり、株式譲渡承認請求・株式買取請求の流れを簡単に解説します。
譲渡制限株式を第三者に売却したい株主は、会社に対して株式譲渡承認請求を行います(会社法136条)。これは、「この相手に株式を譲渡してよいか」を会社に確認する手続きです。
会社が譲渡を承認すれば、株主は希望する相手に株式を売却できます。
しかし、会社が譲渡を承認しない場合は、会社自らまたは会社が指定する買取人が当該株式を買い取ることになります(会社法140条)。
① 株主が会社に譲渡承認請求を行う
② 会社が承認または拒否を決定する
③ 拒否の場合、会社または指定買取人が株式を買い取る
④ 買取価格について協議し、折り合わない場合は裁判所に価格決定を申立てる
この制度は、譲渡制限があるために自由に売却できない株主の投下資本回収を保障することを目的としています。そのため請求を行った株主個人に限定される点が特徴です。
「売主追加請求」とは何か
売主追加請求とは、会社が特定の株主から自己株式を取得しようとする際に、他の株主が「自分の株式も一緒に買い取ってほしい」と請求できる権利です(会社法160条第3項)。
この権利が認められている背景には、株主平等の原則があります。
会社が特定の株主だけを相手に自己株式を取得すると、その株主だけが株式を現金化できる一方、他の株主はその機会を得られないという不平等が生じます。そこで、他の株主にも「私の株式も買取対象に加えてほしい」と主張する権利を与えることで、株主間の公平性を確保しているわけです。
譲渡承認請求のプロセスで「売主追加請求」はできない
譲渡制限株式を持つ株主が会社に対して譲渡承認請求を行い、会社が譲渡を拒否して自ら買い取る場合、他の株主は会社法160条第3項に基づく売主追加請求(自分も売主に加えてほしいという請求)を行うことはできません。
売主追加請求は、あくまで会社法156条に基づく通常の自己株式取得(会社と特定の株主が合意して行う取得)においてのみ認められるからです。
ここで疑問が生じます。合意による通常の自己株式取得も譲渡承認請求に伴う買取も、「会社が株を買い取る」という点では全く同じです。それにもかかわらず、なぜ譲渡承認請求に伴う買取では売主追加請求ができないのでしょうか。
それは、以下の表の通り、2つの制度の目的が全く異なるからです。
| ① 合意による通常の自己株式取得 | ② 譲渡承認請求に伴う買取 | |
| 根拠条文 | 会社法156条・160条 | 会社法136条~145条 |
| 制度の主な目的 | 剰余金の処分、持ち合い解消、株式流通量の調整、敵対的買収の防止など | 株主の投下資本回収の確保 |
| 売主追加請求の可否 | 可能(株主平等のため) | 不可(156条2項で適用除外) |
通常の自己株式取得(①)は、剰余金の処分、持ち合い解消、株式流通量の調整などが主な目的です。したがって、会社と特定の株主だけに自己株式取得が認められると、ほかの株主との不平等が生じます。そこで会社法は、他の株主が不利益を被らないよう「私も混ぜてほしい」と言える権利(売主追加請求)を認めたわけです。
一方、譲渡承認請求に伴う買取(②)は、譲渡を制限された特定の株主を救済するための特別な手続きです。この制度の目的は特定株主の投下資本回収にあり、剰余金処分や持ち合い解消といった通常の自己株式取得のケースとは全く異なるため株主平等は問われません。ゆえに、譲渡承認請求に伴う買取では売主追加請求が認められないのです。
例外・誤解しやすいポイント
「株主総会の決議があるから便乗できる」わけではない
実務上でよくある誤解に、「会社が買い取るには株主総会の決議が必要なのだから、その総会の場で自分も売主に追加するよう主張できるのではないか?」というものがあります。
たしかに譲渡承認請求に伴う買取であっても、会社が買い取る決定をするには原則として株主総会の決議が必要です。しかし、当該決議はあくまで特定の株主(請求者)から会社が買い取ることの是非を決めるものであり、参加者を募るための決議(160条の決議)ではありません。
したがって、株主総会の場で他の株主が「自分も便乗して売主追加請求権を行使しよう!」と考えても、そもそも法的な根拠がないため認められないのです。
相続人による譲渡承認請求との混同にも注意
株式を相続した人が譲渡承認請求を行うケースもありますが、この場合も他の株主が便乗することはできません。相続人による譲渡承認請求も会社法137条に基づく手続きであり、156条第2項で売主追加請求の適用対象外となるからです。
定款による売主追加請求権の排除
通常の自己株式取得の場面であっても、定款で売主追加請求権を排除する規定が置かれている会社もあります(会社法164条)。
そのような場合、たとえ通常の自己株式取得のケースであっても売主追加請求は認められません。譲渡制限株式を取得する際は、定款をよく確認しておくことが重要です。
譲渡制限株式を売りたい場合、各自が譲渡承認請求を行う必要がある
では、他の株主が譲渡承認請求に伴う買取を進めている様子を見て、「自分も譲渡制限株式を会社に売りたい!」と考えた場合はどうすればよいのでしょうか。
便乗による売主追加請求ができない以上、解決策は一つしかありません。株主自身が会社に対して株式譲渡承認請求を行う必要があります。
会社法136条・138条に基づき、譲渡承認請求の当事者として正式に手続きを開始してください。そうすることで初めて、会社は当該株式譲渡について「承認」か「拒否(=買取)」かの判断を下すことになるのです。
ただし、「あの人があの価格で売れたのだから、自分も同じくらいの価格で買い取ってくれるはずだ」とは言えません。会社側の承認判断や買取価格の交渉は、先行者とは別件であり、会社の財務状況の変化や、交渉のタイミングによって条件が変わる可能性があるからです。
したがって、非上場会社の株式を会社に売りたいと考えている方は、独断で進めるのではなく、株式譲渡に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。



