少数株主が非上場株式を買い取ってもらう方法
お困りではありませんか?

退職した会社の株式がいつまでも手元に残っている。
相続で一部だけ非上場株式を引き継いだが、会社のこともよく分からない。
このように、「名義だけ株主」の状態に違和感や不安を抱えている少数株主は少なくありません。
とはいえ、非上場株式は、上場株式のように証券会社を通じてボタンひとつで売却できるものではありません。「そもそも誰に売れるのか」「会社は買い取ってくれるのか」「提示された金額は適正なのか」が分からず、動きたくても動けない、という声もよく聞かれます。
しかし、会社法上のルールや、これまでの株式の売買の慣行を踏まえると、少数株主であっても会社に対して買取りを求めたり、会社の提示条件を見直してもらったりできる場面があります。
本記事では、少数株主が非上場株式を会社に買い取ってもらうために、まず押さえておきたい基本的な考え方と主な手段を整理していきます。
非上場株式とは?
最初に、この記事で扱う「非上場株式」がどのような性質のものかを簡単に整理しておきます。
上場株式とどこが違うのか、なぜ「売りにくい」と感じやすいのかをイメージしておくと、このあと出てくる手続や選択肢が理解しやすくなります。
非上場株式と上場株式の違い
株式は、株式会社に対する持分(株主としての地位)を表す権利であり、会社が株券を発行している場合には有価証券として取り扱われます。その点は上場株式も非上場株式も変わりません。
大きく異なるのは、「売買の場」があるかどうかです。上場株式は証券取引所に上場されているため、証券会社を通じて市場でいつでも売買できます。
売りたい人と買いたい人が市場に集まるので、株主が自分で相手を探さなくても、一定の価格で取引が成立します。
これに対して、非上場株式は証券取引所に上場されていません。つまり、市場がありません。
株式を手放したいと思ったとき、誰に売るのか、いくらで売るのか、どのような手続で売るのか を、株主自身が考えて動く必要があります。
「相場」が見えにくいのも非上場株式の特徴です。
このような事情から、非上場株式は「売りたいときにすぐ現金化できるとは限らない株式」と言えます。
譲渡制限株式のポイント
非上場会社の株式は、多くの場合「譲渡制限株式」となっています。譲渡制限株式とは、会社の定款で「株式を第三者に譲渡するには会社の承認が必要」と定められている株式のことで、会社法2条17号で定義されています。
この仕組みは、会社が望まない第三者に株主として入り込まれるのを防ぐためのものです。
特に、同族会社や家族経営の会社では、経営権を守る目的で譲渡制限が付けられていることがほとんどです。
ここで注意したいのは、「譲渡制限=譲渡禁止」ではないという点です。
譲渡そのものが法律上認められないわけではありませんが、次のようなステップが必要になるのが一般的です。
- 株主が、誰にどのような条件で株式を譲渡したいかを会社に通知する
- 会社が、その譲渡を承認するかどうかを判断する
- 承認されれば、その相手に売却する手続きに進む
このように、第三者への売却を考える場合には、会社の承認が大きな意味を持ちます。非上場株式の買取りを検討する際には、まず定款を確認し、自分の株式にどのような譲渡制限が付いているかを把握することが出発点になります。
誰に売ることができるのか
非上場株式を手放したい少数株主が、現実的な選択肢として検討できる売却先は、おおまかに次の三つです。
1つ目は、会社そのものです。
株式発行会社が自己株式として買い取るケースや、会社が指定した買取人が株式を取得するケースがあります。
株式発行会社にとっても株主構成を整理できるメリットがありますが、自己株式の取得には分配可能額の範囲内でしか取得できないという会社法上の財源規制があるため、会社の財務状況によっては希望どおりの買取りに応じられないこともあります。
2つ目は、他の株主です。
代表者や主要株主、親族といった既存株主が買い受けることで、株主構成を整理するパターンです。この場合も、株式が譲渡制限株式であれば、会社の承認手続を経る必要があります。
3つ目は、第三者です。
個人や法人の投資家、いわゆる株式買取業者などはここに含まれます。
第三者への売却は、買い手が見つかれば現金化の手段になり得ますが、会社との関係や、将来的にトラブルが生じないかといった点を慎重に検討する必要があります。
このように、「誰に売るか」によって、必要となる手続や注意すべきポイントは変わってきます。少数株主としては、自分がどの選択肢を取り得るのかを整理したうえで、会社にどのように働きかけていくかを考えることが重要です。
非上場株式を買い取ってもらうパターン
非上場株式を手放したい少数株主にとって、「会社に買い取ってもらえるかどうか」は大きな関心事です。
ここでは、現実的に取り得るパターンを整理していきます。
第三者に売却し会社の承認を得る方法
まず考えられるのは、第三者の買い手と条件を決めたうえで、その譲渡について会社の承認を求める方法です。
譲渡制限株式であっても、会社が承認すれば第三者に売却することができます。
会社法上は、株主が会社に対して行うこの申立てを「株式譲渡承認請求」(会社法136条・137条)と言います。
このとき、会社が譲渡を承認しない場合には会社や第三者に株式を買い取らせるよう求める「株式買取先指定請求」(会社法138条)を併せて行うこともできます。
流れのイメージ
典型的な流れは、次のようなものです。
- 株式を買いたい第三者を探す
- 売却条件(株数・価格・支払時期など)を合意する
- 会社に対して、誰にどのような条件で株式の譲渡したいかを通知する
- 会社が承認した場合、その第三者との間で売買契約を結び株式の名義書き換えを行う
この方法では、「誰が株主になるのか」を会社が事前に確認できるため、会社との利害が一致しやすい場合には選択肢になり得ます。
会社への譲渡承認のポイント
会社に株式の譲渡承認を求める際には、
- 相手方がどのような人物・法人なのか
- どの程度の持株比率になるのか
- 会社との関係にどのような影響があるか
といった点が判断材料になります。会社が新たな株主を歓迎しないと見込まれる場合には、次に述べる「会社や指定買取人に直接買い取りを求める方法」も検討対象になります。
会社や指定買取人に直接買い取りを求める方法
株式を第三者に譲渡する場合、株主は会社に対して株式譲渡の承認を求めることができます(譲渡承認請求、会社法136条・137条)。
このとき、株主が「会社が承認しないのであれば会社または会社が指定する者に買い取ってほしい」とあらかじめ求めておくと、会社が承認しない場合に会社自身や指定買取人が株式を買い取ることになります(会社法138条・140条)。
この仕組みを利用して、少数株主として会社側に買取りを求めていく場面があります。
譲渡承認と買取りの関係
譲渡制限株式の譲渡承認を会社に求めた結果、会社が「承認しない」と判断することがあります。
このとき、譲渡承認請求とあわせて「承認しない場合には会社又は指定買取人が買い取るよう求める」旨の請求(株式買取請求)をしていれば、会社は承認しない代わりに会社自身が買い取るか、指定買取人に買い取らせる必要があります。
他方で、そのような請求をしていない場合には、会社は単に譲渡を承認しない決定をするにとどまり、会社側に買取義務が生じるわけではありません。
会社が提示する買取条件への向き合い方
会社が買取りに応じる場合でも、その条件が少数株主にとって納得できるとは限りません。提示された価格や支払条件が、会社の状況と比べて不自然に低くないかどうかを確認することが重要です。
- 直近の決算書の内容
- 配当の有無や水準
- 将来の事業見通し
などを踏まえて検討し、「この条件で合意してよいかどうか」を慎重に判断する必要があります。不安がある場合には、後の交渉や手続を見据えて、早めに専門家に相談することも選択肢になります。
株式買取業者を利用する場合の位置づけ
近年、少数株主から非上場株式を買い取ることを専門とする業者も見られるようになっています。「会社とは距離を置きたい」「早く現金化したい」というニーズがある場合、こうした業者が選択肢として提示されることもあります。
ただし、株式買取業者は金融商品取引法上の登録業者ではなく、あくまで任意の取引相手にすぎない場合もあるため、業者選定や契約条件の確認には注意が必要です。
株式買取業者に売却するメリット
株式買取業者に売却する場合、
- 買い手探しの手間を省ける
- 条件交渉の相手が明確になる
- 場合によっては短期間で現金化できる
といった点がメリットとして挙げられます。
会社と直接交渉することに心理的な抵抗がある少数株主にとって、窓口が一つにまとまること自体が安心材料になることもあります。
注意しておきたいポイント
一方で、株式買取業者に売却する場合には、いくつか注意点もあります。
- 提示される価格が、会社の状況に見合っているか
- その後、業者と会社との間でどのような取引が行われるのか
- 将来、会社との関係に悪影響が出ないか
といった点を確認せずに話を進めてしまうと、後になって「もっと条件を検討すべきだった」と感じる可能性があります。
また、会社が買取業者を紹介してくることもありますが、その場合には、「本当に自分にとって最善の選択なのか」「他に取り得る選択肢はないのか」という視点から冷静に検討することが大切です。
会社の買取義務と少数株主の権利
「会社は株を買い取ってくれないのか」「断られたらもう諦めるしかないのか」。少数株主として最初に気になるのは、この点ではないでしょうか。
ここでは、会社の買取義務と、少数株主側がどのような立場にあるのかを整理します。
会社は非上場株式を必ず買い取らなければならないのか?
まず押さえておきたいのは、
会社が少数株主の株式を必ず買い取らなければならない、という一般的なルールはない
ということです。
原則として「義務なし」がスタートライン
株主は、会社の出資者ではありますが、「やめたいから会社にお金を返してもらう」という仕組みにはなっていません。
そのため、株主が「この株を会社に買い取ってほしい」と考えても、それだけで当然に買取義務が生じるわけではありません。
ここが、雇用契約や取引契約とは違うところです。株主であることをやめたいと思っても、その出口は自分で確保していく必要があります。
特定の場面で問題になる「買取義務」
もっとも、全く何もできないわけではありません。
会社法のルールの下で、たとえば次のような場面では、会社が株式を買い取る方向で動かざるを得ないことがあります。
・譲渡制限株式について、株主が譲渡承認請求とあわせて会社や指定買取人による買取りを求めたにもかかわらず、会社が承認しない場合(会社法138条・140条)
・組織再編(株式交換や合併、会社分割など)に反対する株主が、会社法上の反対株主の株式買取請求権を行使した場合(会社法116条、182条の4、469条、785条など)
譲渡承認請求と会社の対応期限
譲渡制限株式を第三者に売ろうとする場合、株主は会社に対して譲渡承認を求めることになります(会社法136条・137条)。このとき、会社がいつまでも放置してよいかというと、そうではありません。
会社が判断すべきこと
株主から株式の譲渡承認の請求を受けた会社は、おおまかに次のいずれかを選ぶ必要があります。
- 株式譲渡を承認する
- 株式譲渡を承認しない代わりに、あらかじめ株式買取請求がされている場合には会社や指定した者に株式を買い取らせる
どの選択を取るにしても、会社は、原則として株式の譲渡承認請求の日から2週間以内に承認するかどうかを通知し、その後40日以内(指定買取人による買取りの場合は10日以内)に買取りの方針を決めて通知しなければなりません。
これらの期間内に何の通知もしない場合には、会社が株式の譲渡を承認したものとみなされるという「みなし承認」のルールが定められています(会社法145条)。
放置されているときの少数株主の立場
実際には、会社からの連絡が遅れ、株主としてはしばらくのあいだ状況が分からないままになることもあります。
このような場合でも、法律上は上記の期間経過により株式の譲渡を承認したものと扱われる可能性があるため、会社に対して現在の検討状況や今後の対応予定を確認しておくことが重要です。
こうした場合にどう対応できるかは、定款の定めや個別事情によって変わりますが、
- 会社に対し、書面で回答を求める
- 交渉の経緯を記録しておく
- 必要に応じて、第三者(弁護士など)を通じて対応を促す
といったステップを検討することになります。会社が何も動かないからといって、必ずしも株主が諦めなければならないわけではありません。
不利な条件を押し付けられないための考え方
会社が非上場株式の買取りに応じるとき、少数株主として気を付けたいのは「提示された条件が一方的に不利ではないか」という点です。
ここでは、そのための基本的な考え方を整理します。
「最初の提示=最終条件」と思い込まない
会社から株式の買取条件が提示されると、 「相手は会社なのだから、この条件に従うしかない」と感じてしまう方も多いです。
しかし、最初に提示された条件が最終的な条件とは限りません。会社としても、株主との関係や将来の紛争リスクなどを考慮しつつ、条件を調整する余地がある場合があります。
一度で即決せず、条件の根拠を尋ねたり、比較のために、他の選択肢も頭の片隅に置いておくといった姿勢が大切です。
「情報を揃える」ことが交渉の第一歩
価格や条件について話し合う前に、少数株主としてできることがあります。
それは、次のような情報を整理しておくことです。
- 会社の直近の決算書・事業報告書
- 株数・持株比率
- 会社からの過去の提案内容ややり取りの記録
このような情報がそろっていれば、会社からの条件が妥当かどうかを検討しやすくなりますし、専門家に相談する場合にも話が早く進みます。
非上場株式の買取価格の考え方
会社に非上場株式を買い取ってもらうことを考えるとき、やはり一番気になるのは「いくらで売れるのか」という点です。
ここでは、非上場株式の価格がどのような考え方で決められることが多いのかを、イメージしやすい形で整理します。
非上場株式の主な評価方法
非上場株式の価格を考えるとき、よく使われる考え方はいくつかのパターンに分けることができます。
ここでは代表的な三つを取り上げます。
純資産ベースで考える方法
1つ目は、会社が持っている資産と負債をもとに計算する方法です。
簡略化して言えば、
会社の資産 − 会社の負債 = 会社全体の価値(純資産)
と捉え、その金額を発行済株式数で割って、1株あたりの価値を考えるイメージです。
この方法は、比較的わかりやすく、資産内容がしっかりしている会社では一定の目安になります。
一方で、将来の成長性や収益力までは十分に反映されにくい、という面もあります。
収益や将来キャッシュフローを重視する方法
2つ目は、会社が将来どのくらい利益やキャッシュフローを生み出すかに着目する方法です。
過去の利益の水準、今後の事業計画、業界の状況などを踏まえ、「この会社はどのくらいの価値がある事業なのか」を数字の形に落とし込んでいきます。
将来の見込みを反映できる一方で、前提とする数字やシナリオによって結果が変わりやすく、評価の仕方によって幅が出ることも多い方法です。
類似業種の株価を参考にする方法
3つ目は、上場している類似業種の会社の株価や指標(PER・PBRなど)を参考にする考え方です。
同じ業種で似たようなビジネスをしている会社の市場での評価を手掛かりにして、非上場会社の価値を推し量ろうとするものです。
これも一つの目安になりますが、会社ごとの事情の違いをどこまで調整するかがポイントになります。あくまで「参考になるもの」として位置付けておくとよいでしょう。
少数株主ディスカウントの考え方
非上場株式の評価を考える場面で、少数株主がよく直面するのが、いわゆる「少数株主割引(マイノリティ・ディスカウント)」や「非流動性ディスカウント」です。
これは、会社全体の価値から機械的に計算した1株あたりの価値よりも、少数株式の価値を低く見る考え方です。
なぜ「少数だから安い」と言われるのか?
少数株主は、会社の経営を実際にコントロールする力を持っていないことが多いです。
そのため、
- 経営方針を決めることができない
- 配当や自己株取得の決定に影響を与えにくい
- 株式の流動性が低い
といった点を理由に、「同じ1株でも、支配株主の株と少数株式の価値は違う」と説明されることがあります。
この考え方を前提にすると、会社全体の価値から計算した1株あたりの値よりも、少数株主の株式の価格が低く抑えられることになります。
ただし、会社法上の株式買取請求権に基づく裁判所の価格決定などでは、事案によってはこのようなディスカウントを認めない判断もあり、一律に少数株主の株式が安く評価されるわけではないことにも注意が必要です。
どこまで受け入れてよいのか
問題は、「どの程度のディスカウントであれば妥当と言えるのか」という点です。
ここには一律の答えはなく、会社の規模や事業内容、株主構成や支配関係、将来の配当や売却の見込みといった要素によって判断が分かれます。
少数株主としては、
- 「少数だから安くて当然」という説明だけで納得しない
- どのような根拠でディスカウントしているのかを確認する
- 必要に応じて、第三者の視点で妥当性を見てもらう
といった意識を持つことが大切です。
会社の提示額をチェックするポイント
会社から株式の買取価格の提案を受けたとき、少数株主としては、その金額が妥当かどうかを判断しなければなりません。
ここでは、検討の際に意識しておきたいポイントを簡単に整理します。
決算書や事業状況と比べてみる
まずは、会社の公開されている情報と照らし合わせてみることが有用です。
- 直近数期分の決算書
- 売上や利益の推移
- 自己資本の水準
- 将来の投資計画や事業方針
これらと買取価格を比べることで、「会社全体の価値と比べて極端に低くないか」「事業の状況とあまりにかけ離れていないか」といった感覚を持つことができます。
もちろん、決算書だけで全てが分かるわけではありませんが、何の手掛かりもないまま金額だけを見るよりは、判断材料が増えます。
条件全体で見る
金額だけでなく、条件の全体像を確認することも重要です。
- 支払方法(一括か分割か)
- 支払時期
- 何らかの条件や前提が付いていないか
同じ金額でも、支払のタイミングや条件によって、実質的な価値は変わります。「総額だけ」で判断するのではなく、条件全体をセットで見る姿勢が大切です。
不安が残るときの対応
自分だけでは判断しきれないと感じる場合や、会社からの説明に違和感がある場合には、早めに専門家に意見を求めることも選択肢になります。後になってから条件を蒸し返すのは難しい場面が多いため、合意の前に「本当にこの条件で良いのか」を確認しておくことがポイントです。
よくあるトラブルと対応の方向性
非上場株式を手放そうとするとき、少数株主が直面しやすいトラブルの形はいくつかパターンがあります。
ここでは、よく見られる場面と、そのときに意識しておきたい考え方を整理します。
極端に低い買取価格を提示された場合
会社から株式の買取提案があったものの、「あまりにも安いのではないか」と感じるケースは少なくありません。このとき、感情的になってしまう前に、まずは落ち着いて状況を整理することが大切です。
提示された瞬間にやるべきこと
提示された条件を聞いた直後に、その場で「YES/NO」を決める必要はありません。
- いったん持ち帰って検討したい旨を伝える
- 条件の内容を文書でもらう(書面・メールなど)
- いつまでに回答すればよいか確認する
といった対応をしておくと、後から冷静に検討しやすくなります。
口頭の説明だけで終わらせず、「提案内容を残す」ことがポイントです。
確認しておきたい情報
提案が妥当かどうかを考えるには、会社側の説明や資料が手掛かりになります。
- その金額になった理由(計算の前提や評価方法)
- 参考にした決算期や数値
- 将来の事業見通しをどう織り込んでいるのか
こうした点を尋ねても、正当な提案であれば説明が付くはずです。
説明があいまいな場合や、「会社としてはこれしか出せない」の一点張りで理由が示されない場合には、慎重に対応した方がよい場面かもしれません。
会社が買取や回答を先延ばしにする場合
株式の譲渡や買取りについて相談しても、会社からの反応が遅く、話が一向に進まないケースもあります。
この状態が長く続くと、株主としては身動きが取れなくなってしまいます。
放置されることで起きること
会社が何も決めないまま時間だけが過ぎると、株を売ることもできない。配当や情報提供は従来どおり株主として受け続けるが、将来の見通しは立たないという、宙ぶらりんな状態が続きます。
場合によっては、相続や事業再編といった別の出来事が先に起こり、状況がさらに複雑になることもあります。
動いてもらうための働きかけ
会社に対応を促す際には、
- 書面やメールで、検討状況と今後の予定を確認する
- いつ頃までに回答をもらいたいか、期限の目安を伝える
- 応答がない場合は、その事実を記録しておく
といったステップが考えられます。
それでも動きがない場合には、第三者を通じて話をすることで、会社側の態度が変わることもあります。「まずは話を聞いてもらう相手」を用意することが、次の一歩につながる場合があります。
株式売買価格決定の申立て
株式売買価格決定の申立てとは、会社法144条に定められた「株式等売買価格の決定の申立て」という手続を指します。譲渡制限株式について会社や指定買取人が買い取ることになったものの株式価格に合意できない場合に、裁判所に対して公正と考えられる株式価格の決定を求めるものです。
会社との間で買取条件が折り合わない場合、裁判所に株式の売買価格を決めてもらう手続が用意されている場面があります。
ここでは、そのイメージと、少数株主にとっての意味合いを簡単に整理します。
どのようなときに利用できるか
株式売買価格決定の申立てが問題になるのは、一定の法律上の場面に限られます。代表的なものの一つが、譲渡制限株式の譲渡承認に関連する場面です。
典型的な場面のイメージ
流れを大まかに描くと、次のようになります。
- 株主が、第三者への譲渡について会社に承認を求める
- 会社が承認しない代わりに、会社や指定買取人が株式を買い取ることになる
- その株式価格について、株主と会社(または指定買取人)の間で合意できない
- 最終的に、裁判所に対し「株式価格を決めてほしい」と申し立てる
このように、「会社などが買い取る」こと自体は決まっているが、株式の買取価格だけが争いになっている場面で使われる手続です。
会社又は株主は、会社から自己株式の取得を行う旨や指定買取人が株式を買い取る旨の通知と、売買代金(仮)を供託したことを示す書面の交付を受けてから、原則として20日以内に株式売買価格決定の申立てを行う必要があります(会社法144条2項・5項)。
この期間内に申立てをしない場合には、多くの場合、1株当たり純資産額に対象株式数を掛けた金額が売買価格と扱われるため、不満があるときは早めに対応することが重要です。
裁判所が株式の価格を決めるときの考え方
裁判所が株式の価格を決める際には、特定の計算式だけではなく、会社の状況や様々な事情を踏まえて判断が行われます。
どのような資料や観点が重視されるか
一般的には、次のような要素が検討対象になります。
- 決算書や事業報告書などの財務資料
- 会社の事業内容や業界の状況
- 過去の配当実績や将来の収益見通し
- 類似した会社の評価の状況 など
これらを総合的に見たうえで、どのような評価方法をどの程度重視するか、少数株主であることをどこまで考慮するかが検討されます。
裁判所の判断は、必ずしも株主側・会社側のどちらか一方の主張にそのまま乗るわけではなく、双方の主張や資料を踏まえたうえで「この事案ではここが妥当」とされる株式の価格を探っていくイメージです。
申立てを交渉材料として活用する
株式売買価格決定の申立ては、実際に行うとなると時間も手間もかかります。
そのため、すべてのケースで申立てまで進むわけではありません。
「ここまでできる」と知っておく意味
少数株主として大切なのは、「いざとなれば、裁判所に株式の価格を決めてもらう手続がある。」ということを知っておくことです。この選択肢の存在を踏まえて会社と話をするのと、何も知らないまま会社の提示に従うのとでは、交渉のスタンスが変わってきます。
実際に申立てを行うかどうかは別として、会社からの提示が極端に低いと感じる場合には、裁判所での判断も見据えたうえで、妥当な価格帯を検討する。その検討結果を踏まえて、会社と再度交渉するという流れも選択肢になります。
早めに相談しておく意味
株式売買価格決定の申立てを見据える場合、証拠となる資料や経緯の整理が重要になります。
そのため、会社から提案を受けた段階や株式の価格交渉が難航し始めた段階といったタイミングで、早めに専門家の意見を聞いておくと、動き方の選択肢が広がります。
後から「もっと早く準備しておけばよかった」とならないよう、気になる段階で一度立ち止まって検討することが大切です。
弁護士に相談すべきタイミング
「どのあたりから弁護士に相談すべきか分からない」という声もよく聞かれます。
ここでは、自力で進めるにはリスクが高くなりやすい場面と、弁護士が関与することで期待できることを整理します。
自力対応の限界になりやすい場面
最初の相談は自分だけで会社と連絡を取る方が多いと思います。
ただ、次のような局面に差し掛かったら、専門家への相談を検討してよいタイミングです。
会社から具体的な条件提示があったとき
会社から、株式の買取価格、支払方法、スケジュールが具体的に示された段階は、一つの分岐点です。
この条件に合意すれば話は前に進みますが、その後に覆すことは簡単ではありません。
「この条件でサインしてよいかどうか」
「どこまで交渉の余地があるのか」
といった点を、合意前に確認しておくと安心です。
交渉が平行線になっているとき・感情的対立が強いとき
会社側と何度話し合っても、お互いの認識がかみ合わないケースもあります。また、親族間の対立や、退職時のトラブルが絡んでいると、話し合いが感情的になりがちです。
こうした状況では、言いたいことが伝わらない。余計な一言で関係がさらに悪化する。本来の目的(株式の整理)が遠のいてしまう。といったリスクがあります。
第三者として冷静に話を整理できる立場が入ることで、交渉が進みやすくなることがあります。
弁護士が関与することで期待できること
弁護士が関与することによって、単に「代わりに話をしてくれる」以上の効果が期待できます。
情報整理と「大まかな位置づけ」の把握
まず、現状の整理から始めます。
- 保有している株数や持株比率
- 会社との関係の経緯
- 会社からの提案内容やこれまでのやり取り
これらを一度棚卸しすることで、「今、どの位置にいて、どこまで目指せそうか」という大まかな見立てを立てることができます。
それだけでも、漠然とした不安が少し和らぐことがあります。
交渉・手続のサポート
弁護士が代理人として会社と交渉することで、
- 感情的なぶつかり合いを避けやすくなる
- 法律的な観点から、言うべきこと・言わなくてよいことを整理できる
- 将来の紛争を見据えた記録の残し方を意識できる
といったメリットが生まれます。
株式売買価格決定の申立てまで視野に入るようなケースでは、その前段階から一貫してサポートを受けておくことで、準備や方針の一貫性が保ちやすくなります。
相談前に準備しておきたいもの
弁護士に相談する際、あらかじめ手元に用意しておくとスムーズな資料があります。
会社や株式に関する書類
たとえば、次のようなものです。
- 株主名簿の写しや株券(交付されている場合)
- 会社の定款
- 直近の決算書や事業報告書
これらは、株式の性質や会社の状況を把握するうえでの基本資料になります。
会社とのやり取りの記録
加えて、
- 会社からの提案書・説明資料
- メールや書面でのやり取り
- 面談や電話で話した内容のメモ
といった記録も重要です。
「いつ・誰が・何を言ったか」が分かることで、交渉の経緯や今後の方針が立てやすくなります。
よくある質問(Q&A)
最後に、非上場株式の買取りについて、少数株主の方から寄せられやすい質問を簡潔にまとめます。
非上場株式は本当に売ることができますか?
非上場株式であっても、法律上、まったく売れないというわけではありません。会社や他の株主、第三者への売却など、いくつかの選択肢があります。ただし、定款で譲渡制限が付いていることが多く、会社の承認や一定の手続が必要になる点が、上場株式との大きな違いです。
会社は非上場株式を必ず買い取らなければなりませんか?
一般的なルールとして、会社が少数株主の株式を必ず買い取らなければならない、という決まりはありません。もっとも、譲渡承認の場面など、特定の状況では会社や指定買取人が買い取る方向で検討されることがあります。どのような場面に当たるかによって対応が変わるため、個別に確認することが重要です。
株式の買取価格に納得できないときはどうすればいいですか?
会社から提示された株式の価格に納得できない場合、
- 株式価格の根拠や前提となる数字の説明を求める
- 決算書などの資料と比べて検討する
- 必要に応じて、第三者の意見を聞く
といったステップが考えられます。場合によっては、裁判所に株式の売買価格を決めてもらう手続を視野に入れることもあります。
まず何から始めればいいですか?
最初の一歩としては、
- 自分の保有株数や持株比率を確認する
- 定款や決算書、会社とのやり取りを整理する
- 会社にどういう形で話を持ちかけるか方針を考える
といったところから始めるとよいでしょう。そのうえで、不安や疑問が残る場合には、早めに専門家に相談することで、適切な進め方を一緒に検討することができます。
まとめ
非上場会社の少数株主が、会社に株式を買い取ってもらうことを考える場面では、次のようなポイントが重要になります。
- 非上場株式は市場がなく、譲渡制限が付いていることが多い
- 「会社は必ず買い取らなければならない」というルールはないが、一定の場面で買取りが検討される
- 株式の買取価格の考え方にはいくつかのパターンがあり、「少数だから安くて当然」とは限らない
- 極端に低い価格やあいまいな提案に対しては、理由や資料を確認しながら慎重に検討する
- いざとなれば裁判所に株式の価格を決めてもらう手続があることを知っておくと、交渉の見通しが立てやすい
非上場株式の問題は、金額の面だけでなく、会社との関係や親族間の感情も絡みやすいテーマです。
「なんとなく不利な条件を受け入れてしまった」「もっと早く相談していればよかった」と感じてしまう前に、状況を整理して、会社以外の第三者の視点を入れてみるという一歩を踏み出すことが大切です。
弁護士法人M&A総合法律事務所では、非上場株式をめぐる少数株主の方からのご相談にも対応しています。
非上場株式の買取りについてお悩みの方は、一人で抱え込まず、まずは現状の整理からご相談いただくことをおすすめします。
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本記事で紹介している内容は、執筆時点の法令や通達等を前提とした一般的な情報提供であり、個別の事件についての法的助言や税務アドバイスではありません。実際に非上場株式の譲渡を検討する際には、必ず最新の法令や税制、具体的な事情を踏まえて、弁護士や税理士などの専門家に相談したうえで判断してください。
お困りではありませんか?



