株式売買価格決定申立とは?申立の方法・手続きの流れ・注意点について

非上場株式・少数株式の売却で
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株式譲渡承認請求が認められない場合、会社や指定買取人に対して株式の買取を請求することができます。その際、株式の売買価格を決定する必要があります。

もっとも、売買価格については話し合いで決定することが困難です。そこで、株式売買価格決定申立をすることになります。

この記事では、株式売買価格決定申立とは何か、手続きの流れ、注意点などを解説していきます。

株式売買価格決定申立とは

株式売買価格決定申立とは、株式譲渡承認請求が認められなかった場合に、会社または指定買取人に対して株式の買取を請求する際において、裁判所に対して株式売買価格の決定を申し立てることを指します。

すなわち、会社及び指定買取人と株式譲渡承認請求者は、株式の譲渡価格に関しては、交渉により決定するものとされています。しかし、交渉がまとまらなかった場合、裁判所に対して、株式売買価格決定申立をすることができます。

これは別名、株価決定裁判とも言います。

株式売買価格決定申立をするまでの流れ

株式売買価格決定申立をするまでの流れは以下のようになります。

1.会社に対する株式譲渡承認請求

株主が譲渡制限の付されている株式を譲渡しようとする場合、会社に対して、株式譲渡承認請求を行う必要があります(会社法第136条)。

また、株主は、株式譲渡が不承認とされた場合に備えて、会社に対して、株式の買取先を指定する請求をすることができます(会社法第138条)。これを株式買取先指定請求と呼ぶことにします。

株式の買取先としては、会社または株式の買取人を指定する方法があります。買取人として指定された者のことを指定買取人と言います。

2.株式譲渡の不承認の決議及び買取人を指定する決議

株式譲渡承認請求があった場合、会社は、当該株式譲渡を承認するか否かを決議することになります。これは、株主総会または取締役会(取締役会設置会社の場合)による決議を要します(会社法第139条1項)。

会社は、当該株式譲渡について不承認の決議をした場合、当該株式を会社が買い取るか、または買取人を指定する決議をすることになります(会社法第140条)。

3.会社による決定内容の通知(決議の日から2週間以内)

株式譲渡の不承認の決議がなされた場合、会社は株主に対して、決議内容を通知しなければなりません。これは、株式譲渡承認請求の日から2週間以内になされる必要があります(会社法第139条2項、第145条1号)。

また、会社が株式を買い取ることになった場合には、株主に対して、その旨を通知する必要があります。その期限は、不承認決議の通知の日から40日以内となります(会社法第141条1項、145条2号)。

4.供託及び供託を証明する書面の交付

会社または指定買取人が買取りの通知をする場合には、会社または指定買取人は、供託所に一定額を供託し、かつ、供託を証明する書面を株主に交付する必要があります(会社法第141条2項、142条2項)。

5.会社が株式を買い取る場合における株式売買価格の協議

会社が株式を買い取る場合には、株主と会社との間で当該株式の売買価格を協議することになります(会社法第144条1項)。

もっとも、株式の売買価格の評価方法は様々あり、当事者間で協議が調わないことの方が多いのが現状です。

6.裁判所に対して売買価格決定申立をする

株主は、株式の売買価格に関する協議が調わなかった場合、会社から株式を買い取る旨の通知がなされた日から20日以内に、裁判所に対して売買価格決定申立をすることができます。

株式売買価格決定申立が行われる場合とは

この株式売買価格決定申立は次のような場合に行うことができます。

  1. 会社から会社が自己株式の取得を行う旨の通知および株式譲渡代金(仮)の供託を証する書面の交付を受けた時
  2. 指定買取人から指定買取人が株式の買取を行う旨の通知および株式譲渡代金(仮)の供託を証する書面の交付を受けた時、

どちらも、通知および書面の交付を受けた時から「20日以内」に、申立をする必要があります。

また、この「20日以内」に株式売買価格決定申立の提起がない場合には、「一株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額」(簿価純資産価格)が株式売買価格であるとされます(会社法第144条5項)。

そのため、この「一株当たり純資産額に対象株式の数を乗じて得た額」(簿価純資産価格)に不満である場合には、株式売買価格決定申立を行うことになります。

株式売買価格決定申立における売買価格の決定方法

裁判所は、株式売買価格決定申立で株式の売買価格を決定する際に、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければなりません(会社法第144条3項)。

株式売買価格決定申立では、裁判所において、株価鑑定人(通常は専門の公認会計士)が指名されます。株価鑑定人(通常は専門の公認会計士)は株式価値評価書を作成して提出し、その金額を基準として、裁判所は判断することになります。

裁判所では、たいてい、時価純資産法と収益還元法(簿価純資産法や類似業種批准方式などではありません)をバランスよく使用して株式価値を評価します。

時価純資産法とは、貸借対照表の資産負債を時価に評価しなおして、評価しなおした純資産額から一株当たりの純資産額を計算し、株式の価値を評価する方法です。

また、収益還元法とは、会社の一株当たりの利益を一定の資本還元率で除することにより、一株当たりの株価を算出する方法です。

そのほか、簿価純資産法は、会社の会計上の純資産額を基準として、一株当たりの純資産額を計算する方法です。類似業種批准方式とは、上場している同業他社等と比較して相対的に株価の価格を決定づける方法です。

株式売買価格決定申立をする上での注意点

申立をするか否かを決める時間が少ない

株主は、会社または指定買取人から株式を買い取る旨の通知および供託の書面の交付を受けてから「20日以内」に、株式売買価格決定申立をするか否か決定し、申立をする場合には、訴訟書類を作成しなければなりません。

しかし、この訴訟書類の作成はかなりハードな作業であるため、準備時間はぎりぎりとなってしまいます。

したがって、「20日以内」に、株式売買価格決定申立を提起するのであれば、株式譲渡承認請求を受領した時点で、すでに決定しておかないといけないでしょう。

申立の準備には法律知識を要する

株式売買価格決定申立をする場合、訴訟書類を作成する必要があります。しかし、訴訟書類を作成するには、ある程度の法律知識を要します。

株主自身で訴訟書類を作成するのは困難な作業となるでしょう。そこで、訴訟書類の作成については、法律の専門家である弁護士に依頼するのが良いでしょう。

訴訟書類の作成はM&Aの経験豊富な弁護士に依頼する

どの弁護士でも訴訟書類を作成することは可能です。もっとも、弁護士はそれぞれ専門分野を持っており、誰でも依頼すればよいというものでもありません。

そこで、株式売買価格決定申立のようなM&Aに関する訴訟の場合には、M&Aに特化した弁護士に訴訟書類の作成を依頼することが望ましいです。

まとめ

本記事では、株式売買価格決定申立について、手続きの流れや注意点などについて解説しました。

株式売買価格決定申立は、手続きに時間がかかる一方で準備期間が限られています。したがって、株式売買価格決定申立をするか否かは、株式譲渡承認請求をするときに、一緒に検討するとよいでしょう。

また、株式売買価格決定申立についてもっと知りたい、または申立のやり方を教えてほしいという場合には、M&Aを専門とする弁護士または法律事務所に依頼することをお勧めします。

参考:会社法

(売買価格の決定)
第144条  第141条第1項の規定による通知があった場合には、第140条第1項第2号の対象株式の株式売買価格は、株式会社と譲渡等承認請求者との協議によって定める。
2  株式会社又は譲渡等承認請求者は、第141条第1項の規定による通知があった日から20日以内に、裁判所に対し、株価決定申立をすることができる。
3  裁判所は、前項の決定をするには、譲渡等承認請求の時における株式会社の資産状態その他一切の事情を考慮しなければならない。
4  第1項の規定にかかわらず、第2項の期間内に同項の申立てがあったときは、当該申立てにより裁判所が定めた額をもって第140条第1項第2号の対象株式の株式売買価格とする。
5  第1項の規定にかかわらず、第2項の期間内に同項の申立てがないとき(当該期間内に第1項の協議が調った場合を除く。)は、一株当たり純資産額に第140条第1項第2号の対象株式の数を乗じて得た額をもって当該対象株式の株式売買価格とする。
6  第141条第2項の規定による供託をした場合において、第140条第1項第2号の対象株式の株式売買価格が確定したときは、株式会社は、供託した金銭に相当する額を限度として、売買代金の全部又は一部を支払ったものとみなす。
7  前各項の規定は、第142条第1項の規定による通知があった場合について準用する。この場合において、第1項中「第140条第1項第2号」とあるのは「第142条第1項第2号」と、「株式会社」とあるのは「指定買取人」と、第二項中「株式会社」とあるのは「指定買取人」と、第4項及び第5項中「第140条第1項第2号」とあるのは「第142条第1項第2号」と、前項中「第141条第2項」とあるのは「第142条第2項」と、「第140条第1項第2号」とあるのは「同条第1項第2号」と、「株式会社」とあるのは「指定買取人」と読み替えるものとする。
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