非上場株式の相続税評価額はどのように決まる?上場株式との違いや計算方法を解説 

相続開始時に被相続人の遺産に株式がある場合は、相続手続きが必要ですし、相続税の納税が必要になることもあります。会社法上は発行株式会社の資本金額を発行済み株式総数で割ることで、一株あたりの株式の価額を求められますが、税法上は市場価格を基準にするため、計算式が複雑でわかりにくいです。 

また、上場株式のように投資用の株式については、市場価格を基準にできますが、非上場株式の場合は何を基準にすべきかが問題になります。上場株式と非上場株式、それぞれの相続税評価額の計算方法と違いを解説します。 

株式は相続税の対象になる 

被相続人の遺産を相続した場合や遺贈を受けた場合は、その遺産が「相続税がかからない財産」に該当しない限り、相続税の対象となります。相続税がかからない財産とは、祭祀の道具や一定額までの生命保険金、退職手当金、功労金などです。 

株式は、投資目的の株式はもちろん、被相続人の事業のために保有していた株式でも相続税の対象になります。 

上場株式と非上場株式の違い 

株式は、大きく上場株式と非上場株式の2種類に分類できます。両者の大きな違いは、市場価値が明確かどうかです。 

上場株式は、日々の株式市場の値動きからリアルタイムに株式の価値を知ることができますが、非上場株式の場合は、株式の価値をどのように判断したらよいのかが問題になります。 

株式の相続における特有の問題点 

株式はその価値をどう判断するかが大きな問題となります。 

会社法では、原則として、「発行済み株式総数×一株の発行価格=資本金」の関係になるため、一株あたりの株式の価額は発行株式会社の資本金額を発行済み株式総数で割って求めた数字で判断することができます。 

しかし、税法上の株価は証券取引市場で取引されるときの株価を意味します。 

上場株式ならば、株価が明確ですが、日々、値動きがあるために、相続が発生した際はどの時点を基準に株式の価値を判断したらよいのかが問題となります。株価が上昇した時点を基準にすると、相続税が高額になってしまいますし、逆に相続の時点では価値がなかったものの、その後、株価が上昇した場合は、株式を相続した人と他の遺産を相続した人との間で不公平感が生じてしまう可能性があります。 

また、非上場株式の場合は、株式の価値を判断しづらいために相続トラブルになりやすいと言えます。 

このように税法上の株価と会社法上の株価は異なっており、相続時は税法上の株価を基準とするため、非常に分かりにくく、トラブルになりやすいことから、専門家への相談が必須となっています。 

上場株式の相続税評価額の決め方 

上場株式を相続する場合の相続税評価額の計算式は次のとおりです。 

1株あたりの金額  保有株式数 

上場株式の場合、1株あたりの金額、つまり株価は、日々の証券取引市場において値動きがあります。そこでどの時点の株価を基準にすべきかが問題となるわけです。 

相続時の上場株式株価の決め方 

原則として、相続または遺贈の場合の上場株式株価は、「被相続人の死亡の日の最終価格」になります。 

被相続人が月曜日から金曜日の間までに亡くなった場合は、その日の終値を基に計算すればよいわけです。 

土日祭日に亡くなった場合は、近い日の最終価格が採用されます。具体的には、土曜日に亡くなったのであれば、金曜日の終値が採用されます。 

しかし、株式は急激な変動が生じることもあります。例えば、被相続人が亡くなる前日に、保有株式の会社がビジネス上の転機となるような重大発表を行ったために一気に株価が値上がりしてしまう事態も考えられます。このような場合、値上がりした株価で評価すると、相続税の負担が重くなるわけです。 

そこで被相続人が亡くなった日の終値が、次の3つの価額のうち最も低い価額を超える場合は、その最も低い価格を採用できることになっています。  

  • 被相続人が亡くなった月の毎日の最終価格の月平均額 
  • 被相続人が亡くなった月の前月の毎日の最終価格の月平均額 
  • 被相続人が亡くなった月の前々月の毎日の最終価格の月平均額 

なお、上場株式の株価については、「上場株式の評価明細書」を提出して確定する必要があります。 

非上場株式の相続税評価額の決め方 

非上場株式の相続税評価額は、株式を取得する相続人がその株式を発行した会社の経営支配力を持っている同族株主であるかどうかにより異なります。 

相続人が経営者一族の場合は、株式の取得により会社の経営に関わることが予想されますから、会社の規模やその保有する資金により相続税評価額が変わってきます。 

一方、相続人が会社経営に関与しない少数株主の場合は、年間に受け取れる配当金の額が株式の価値ということができるため、配当金の額に注目して相続税評価額を決定します。 

原則的評価方式 

原則的評価方式は、相続人が経営者一族の場合に採用される非上場株式株式の評価方法です。 

原則的評価方式では、まず、その会社の従業員数、総資産価額、取引金額から、大会社、中会社、小会社のいずれに該当するのかを判断します。 

大会社、中会社、小会社のいずれに該当するのかは、「評価上の株主の判定及び会社規模の判定の明細書」により判断しますが、従業員数が70人以上の場合は自動的に大会社に区分されます。また、従業員数が5人以下、総資産価額が5,000万円未満、取引金額が8,000万円未満の場合は小会社です。 

それ以外の会社は、大会社と中会社のいずれに該当するのかの判断が必要になります。 

大会社は類似業種比準方式 

会社規模の判定の明細書により、大会社に該当する場合は、「類似業種比準方式」と呼ばれる評価方法により一株あたりの株価を算出します。 

大会社の場合は、上場企業とほぼ変わらない規模であることも考えられるため、類似する上場企業の株価を基に評価することになります。 

計算式は次のとおりです。 

類似業種の上場企業の株価 × 配当金額、利益金額、純資産価額を比準評価した値 × 0.7 

このうち、「配当金額、利益金額、純資産価額を比準評価した値」は、次の計算により算出します。 

(評価会社の1株当たりの配当金額/類似業種の1株当たりの配当金額 + 評価会社の1株当たりの利益金額/類似業種の1株当たりの利益金額 + 評価会社の1株当たりの純資産価額/類似業種の1株当たりの純資産価額) ÷ 3 

なお、類似業種の業種目および業種目別株価などは、国税庁ホームページで確認できます。 

小会社は純資産価額方式 

会社規模の判定の明細書により、小会社に該当する場合は、「純資産価額方式」と呼ばれる評価方法により一株あたりの株価を算出します。 

小会社の場合、上場企業の株価を基準に判断すると過大評価になってしまう可能性があるため、会社の資産を基準に判断するわけです。 

具体的には、貸借対照表に記載された保有資産から債務や法人税等を差し引き、その残額を発行株式数で割って算出します。 

中会社は併用 

中会社に該当する場合は、類似業種比準方式と純資産価額方式が併用されます。 

計算式は次のとおりです。 

類似業種比準価額 × L 1株当たりの純資産価額(純資産価額方式によって計算した金額) × 1 L 

なお、中会社は、会社の規模によりさらに3種類に分類することができます。 

中会社の中でも大規模の会社の場合は、類似業種比準価額の割合が大きくなり、小規模の会社であれば純資産価額の割合が大きくなります。 

そのため、上記Lに当てはまる数字は、規模の大きな会社から順に、「0.90」「0.75」「0.60」となります。 

換言すれば、「類似業種比準方式90%+純資産価額方式10%」、「類似業種比準方式75%+純資産価額方式25%」、「類似業種比準方式60%+純資産価額方式40%」の比重で評価するわけです。 

特例的な評価方式(配当還元方式) 

相続人が会社経営に関与しない少数株主の場合は、株式発行会社の規模に関係なく、特例的な評価方式である配当還元方式により一株あたりの株価を評価します。 

少数株主の場合は、会社経営に関与することができない上に、上場株式と異なり簡単に売却することもできません。 

そのため、相続後10年間でもらえる配当金の総額を株式の評価額と判断するわけです。 

具体的には、相続開始前の2期中の配当金額の平均値により1株あたりの年配当金額を算出し、これを10倍した額を株式の評価額とします。 

ただし、配当がない場合や、配当金が250銭以下の場合は、1株あたりの年配当金額を250銭と仮定して計算します。 

非上場株式の発行済み株式数の求め方 

発行済み株式数は、「直前期末における資本金額 ÷ 50円」により、算出するのが基本です。 

2001年に商法が改正される前までは、株式の額面金額を50円とするのが原則でした。現在でも、ほとんどの会社では、額面金額50円として株式を発行しています。 

そのため、その株式会社の資本金額を50円で割った数字が、発行済み株式総数と一致していることが多いです。 

ただ、現在では、株式の額面金額を50円としなければならないルールがあるわけではないため、株式の額面金額を50円としていない会社も増えているので注意が必要です。 

株式を相続した場合のポイント 

株式を相続する場合に被相続人と相続人の双方が知っておくべきことを解説します。 

特に、非上場株式の相続では、被相続人が経営者でその相続人が後継者というケースもあると思います。この場合は、事業継承税制を利用することで相続税を実質ゼロにすることも可能なので、ご利用を検討してください。 

相続開始前の売却益等については準確定申告 

被相続人が亡くなる前に、株式の取引を行っており、売却益などが出ていた場合は、その売却益については確定申告を行う必要があります。 

この手続きは、準確定申告として、相続開始から4か月以内に相続人が手続きしなければなりません。株式を相続するかどうかに関わらず、相続人の義務になります。 

また、国外転出時課税制度による準確定申告が必要になることもあります。 

国外転出時課税制度とは、国内で株式や投資信託などの有価証券を1億円以上有している人がその有価証券の全部または一部を国外に居住する親族等に贈与した場合に、有価証券の譲渡等があったものとみなして、その含み益に対して所得税が課税される制度です。 

贈与の場面だけでなく相続時にもこの制度が適用されることになっています。 

具体的には、相続開始時に、国内に居住する被相続人が株式や投資信託などの有価証券を1億円以上有している場合において、国外に住んでいる相続人等が相続や遺贈によってその有価証券の全部または一部を相続することになった場合です。相続開始時に有価証券の譲渡がなされて、被相続人に含み益が生じたものとみなされて所得税が課税されるため、準確定申告が必要になります。 

相続開始後の売却益には譲渡所得税がかかる 

相続人が株式を相続した後で売却し、譲渡益を得た場合は、これに対しては譲渡所得税がかかります。 

ただ、相続開始日の翌日から310か月以内の譲渡であれば、「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」を利用することもできます。 

これは、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することにより、譲渡所得税を軽減する制度です。 

なお、この特例は譲渡所得のみに適用されるもので、株式等の譲渡による事業所得および雑所得には適用されないため注意してください。 

非上場株式の相続時のみなし配当課税の特例 

個人が非上場株式をその発行会社に売却した場合は、実質的に発行会社からの払い戻しがなされたことになりますから、税務上、配当を受け取ったとみなされて、みなし配当課税が課されます。 

具体的には、譲渡価額から資本金等の額を差し引いた分が配当所得とみなされて所得税が課税されます。総合課税として最大55%という重い税負担になります。 

ただ、相続税を払った個人が相続開始日の翌日から310か月以内に非上場株式をその発行会社に売却した場合であれば、資本金等の額を超える部分について、みなし配当課税とせず、全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額とする特例を受けられます。 

この特例を利用すれば、譲渡対価の全額を非上場株式の譲渡所得の収入金額とすることができ、取得費と譲渡に要した費用を控除して算出した譲渡所得金額に対して所得税を課税する形になるため、税負担を軽くすることができます。 

非上場株式の相続税評価額の軽減に有効な事業継承税制 

非上場株式を所有していた被相続人が発行株式会社の経営者で相続人がその後継者である場合は、事業承継税制を利用することにより贈与税や相続税を猶予又は免除してもらうことができます。 

経営者が経営する会社の株式を所有したまま亡くなった場合は、後継者が株式を相続するに当たり、多額の相続税の納税が必要になることがあります。この場合、事業継続のために必要な資金が相続税の納税によりなくなってしまい、後継者がいるのに廃業に追い込まれる事態になりかねません。事業承継税制はそのような事態を避けるための制度です。 

事業継承税制は、法人向けと個人向けの制度があり、法人向け制度は、一般措置と特例措置の2種類の制度があります。 

一般措置では、後継者が非上場株式等を相続した場合、相続税の納税猶予・免除制度を利用できます。 

具体的には、発⾏済議決権株式等の3分の2までの分につき、相続税の80%の納税が猶予され、後継者の死亡、次の後継者へ贈与といった免除事由が生じることにより、相続税の納税が免除されます。 

特例措置の場合は、さらに優遇措置が拡大され、発⾏済議決権株式等の上限なしで、相続税の100%の納税が猶予されるため、事実上、相続税の納税が不要になります。 

事業承継税制の一般措置を利用するためには、相続発⽣後5ヶ⽉を経過する⽇の翌⽇から8ヶ⽉を経過する⽇までの間に都道府県知事に申請して認定を受ける必要があります。被相続人である先代経営者に関する要件、相続人である後継者に関する要件、対象会社に関する要件等、様々な要件を満たす必要があるので、認定を受ける際は要件を満たしているかどうか専門家に相談する必要があります。 

また、特例措置を利用するためには、相続開始前に特例承継計画を策定し、税理⼠、公認会計⼠、弁護⼠等の認定経営⾰新等⽀援機関の所見を得た上で、都道府県に提出しておく必要があります。 

なお、特例措置は2018年(平成30年)11日から2027年(令和9年)1231日までの10年間限定の措置です。さらに、特例承継計画の提出期限は、2026年(令和8年)331日までとなっているので制度の利用を検討されている経営者の方は早めにご相談ください。  

まとめ 非上場株式の相続税評価額の仕組みは複雑 

非上場株式の相続税評価額の仕組みについて、一通り解説しました。 

基本的な事項はこの記事で解説したとおりですが、実際の非上場株式の相続の場面では考慮すべきことが多岐にわたるため、相続税評価額を求めるための計算も複雑です。 

当事者同士だけで話し合っても間違った認識の下で、話を進めてしまう可能性があるため、早めに専門家にご相談いただくのが最善です。