自己株式取得における売主追加請求権とは?取得の制限や手続きもわかりやすく解説
株式会社が何らかの理由で自己株式を取得する場合にいくつかの方法があります。その際に制約になり得る条件としてあげられるのが、売主追加請求権です。
売主追加請求権がどのような権利なのか、自己株式取得のプロセスの中でどのような制約、役割を果たす要件なのか、確認してまいりましょう。
売主追加請求権とは?
ここでは、まず自己株式取得のプロセスにおける売主追加請求権の内容、それが認められない場合があることについて解説いたします。
売主追加請求権の内容
特定の株主から会社が株式を有償で取得することを株主総会で決議する場合に、その他の株主にとって不利になり得ることがあります。すべての株主の平等性の観点から、特定の株主を売主とする議案にその他の株主も自らを売主に追加する権利がある、売主追加を請求することができることを売主追加請求権といいます。(会社法160条)。
会社はそのような請求をする機会を与えるために、株主総会の2週間前までに全株主に対して、売主追加請求権がある旨を通知する必要があり、株主は株主総会の5日前までに売主追加請求権を行使する必要があります。
売主追加請求権が認められない場合
ただし、次のような場合には、売主追加請求権が認められず、売主追加請求権の事前通知も不要となっています。
(1)非公開会社にて、相続により株式を取得した株主から自己株式を取得する場合(会社法162条)
(2)子会社から株式を取得する場合(そもそも子会社が親会社の株式を取得できない、 会社法135条)
(3)市場価格のある株式を市場価格以下で取得する場合(会社法161条)
(4)定款で売主追加請求権を認めないと定めた場合(その定めには株主全員の同意が必要)(会社法164条)
(5) 株主が株式譲渡承認請求・株式買取請求を行い、会社が株式譲渡承認を拒否して、会社が自己株式を取得することとなった場合(会社法155条2号)
自己株式の取得自己株式とは?
売主追加請求権の出てくる自己株式取得のプロセスとはどのようなものなのか、確認してまいりましょう。
自己株式とは?
自己株式とは、株式会社が発行している株式について、自ら保有している株式のことをいいます。金庫株とも言われます。
自己株式の取得は、自社株買いとも言われ、以前はインサイダー取引や株価操縦の恐れから、原則禁止でしたが、2001年の法改正により、可能になりました。ただし、悪用を防止するための一定のルールが設けられています。
自己株式の取得
自己株式の取得とは、発行した株式を発行した会社が取得することです。一般的には、上場企業は市場にて不特定多数の株主から購入して自己株式を取得することが多く、非上場企業では、特定の株主から自己株式を購入することが多いです。
一方で、自己株式は消却することもできます。その分、発行済株式総数が減少し、その旨の登記をしなければなりません。
自己株式取得の目的
自己株式取得の目的としては、次のようなものがあります。
・敵対的買収に対抗するため
・株価対策のため
・M&Aの代金支払いに利用するため
・事業承継のため
・株主還元のため
・株主総会の議決権分散の防止のため
・株主への出資金の返還のため
敵対的買収に対抗するため
発行済株式総数が減少することで、既存株主、会社自らの持株比率が高まり、敵対的な企業の株式購入余地が減少し、買収リスクを軽減できます。また、経営上、会社に批判的な少数株主からの反対意見も弱めることができます。
株価対策のため
取得後に消却することにより、発行済株式総数が減少し、1株あたりの利益や純資産が増大し、需給関係からも株価が上昇します。その結果、会社の評価も上がります。
M&Aの代金支払いに利用するため
M&Aにて、他社を買収する際に、買収代金を現金ではなく、自己株式で支払うこともできます。
事業承継のため
会社の後継者が会社を引き継ぐために株式を引き継ぐ場合に、株式の購入や、相続、贈与などが発生して、その購入代金や納税資金など、多額の資金が必要になることも多いです。その際に会社が後継者から株式を自己株式として購入することで、後継者は持株と引き換えに資金を得ることができます。
株主還元のため
自己株式を取得し、消却することにより、発行済株式総数が減少し、1株あたりの利益が増大することから、会社の利益を株主に還元するのと同じ効果が見込めます。
株主総会の議決権分散の防止のため
非上場企業においては、経営者ではない株主に相続が発生すると、その子供が株式、その議決権を取得するなど、株式の取得者が分散していくことになるため、議決権の分散の防止、経営者への支配権の集中のために、自己株式の取得が必要になります。
株主への出資金の返還のため
株主がその出資金の返還を求める場合、会社には返還の義務はないため、出資金の返還ではなく、会社としての自己株式の取得により、買取をすることで対応する場合があります。
自己株式取得におけるメリット・デメリット
自己株式取得によるメリットとしては、発行済株式総数を減少させることで、1株あたりの利益、資産が高まり、株価や財務指標が改善することがあります。
一方でデメリットとしては、株式取得に大きな資金を必要とするため、会社の資金余力、投資の余力が損なわれることが問題となります。
自己株式取得の制限
自己株式の取得には、財源規制が設けられています。自己株式を購入する際に、その金額に上限が設けられているということです。具体的には、買取時点の分配可能額の範囲内でのみ、自社株を購入できるということで、その金額はおおむね、次のような計算の金額になります。
分配可能額 =その他資本剰余金の額+その他利益資本剰余金の額―自己株式帳簿価額
上限が設けられている理由は、自己株式の取得が株主への会社財産の分配になるため、会社に対する債権者の保護を図る必要があるからです。
ただし、次のような場合には、財源規制がありません。
・単元未満の自社株式の買取請求に応じる場合
・無償で自社株式を取得する場合
・他の会社の事業の全部を譲受により自社株式を取得する場合
・吸収合併や吸収合併による承継により自社株式を取得する場合
自己株式を取得できる場合
自己株式の取得できる場合が会社法155条にて設定されています。
その内容としては、次のようなものがあります。
(1)取得条項付株式を自己株式として取得する場合
(2)株式譲渡を制限されていて、譲渡ができないときに株式を自己株式として取得する場合
(3)株主との合意により自己株式を取得する場合
(4)取得請求権付株式の株主より、取得請求をされて自己株式として取得する場合
(5)全部取得条項付種類株式の取得の決議が株主総会で承認可決されて自己株式として取得する場合
(6)相続人から株式を取得できるよう定めていて、自己株式として取得する場合
(7)株主より単元未満株式の買取りの請求があり、自己株式として取得する場合
(8)株主の所在が不明で競売できる要件が整った段階で、会社が自己株式を買い取る場合
(9)組織再編などで端数の株式が発生し、会社が自己株式を買い取る場合
(10)他企業の全ての事業を譲受する際に、他企業が当該会社の株式を保有していて、会社が自己株式として取得する場合
(11)合併の際に、合併消滅会社が存続会社の株式を保有していて、存続企業が自己株式として取得する場合
(12)吸収分割の際に、吸収される会社が承継会社の株式を保有していて、承継会社が自己株式として取得する場合
(13)上記の条件以外に法務省令で定める場合
これらの条件の中で、売主追加請求権が認められているのは、(3)株主との合意により自己株式を取得する場合になります。
自己株式取得の手続き
自己株式の取得の方法としては、大きく分けて2つあります。1つは、不特定多数の株主から取得する方法、もう1つは特定の株主から取得する方法です。
いずれの方法も、株主総会の決議が必要になります。不特定多数の場合は、株主総会の普通決議で出席議決権の過半数の賛成で決議されます。一方、特定の株主からの購入の場合は、特別決議で出席議決権の3分の2の賛成で決議されます。
株式総会の決議後、取締役会で取得する株式数や期日を決定します。
また、売主追加請求権については、株主との合意により自己株式を取得することを前提にした権利であることから、特定の株主から取得する場合に生じる権利であり、不特定多数の株主から取得する場合には、その権利は生じません。
不特定多数の株主から取得する方法
不特定多数の株主、つまり特定の株主が対象ではないということで、株主平等の原則から、採用されることの多い方法です。ミニ公開買い付けとも言われます。
手続きとしては、次のような流れになっています。
(1)株主総会普通決議(会社法156条)
(2)取締役会の決議(会社法157条)
(3)株主への通知・公告(会社法158条)
(4)株主の会社に対する譲り渡しへの申し込み(会社法159条1項)
(5)会社の株主からの譲り受け(会社法159条2項)
(1)株主総会普通決議
株式会社が株主との合意により当該株式会社の株式を有償で取得するには、あらかじめ、株主総会の決議によって、次に掲げる事項を定めなければならない。
・取得する株式の数
・株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額
・株式を取得することができる期間(1年を超えない)
(2)取締役会の決議
株式会社は、株主総会の普通決議による決定に従い株式を取得しようとするときは、その都度、取締役会の決議により、次に掲げる事項を定めなければならない。
・取得する株式の数
・株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
・株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額
・株式の譲り渡しの申込みの期日
(3)株主への通知・公告広告
会社は、取締役会で決議し、定めた事項について、全株主に通知しなければならない。公開会社であれば、公告によることもできる。
(4)株主の会社に対する譲り渡しへの申し込み
通知を受けた株主は、株式の譲渡を申し込みすることができる。その際、会社に対し、その申込みに係る株式の数を明らかにしなければならない。
(5)会社の株主からの譲り受け
株式会社は、株式の譲り渡しの申込みの期日において、前項の株主が申込みをした株式の譲受けを承諾したものとみなす。
特定の株主から取得する方法
特定の株主から自己株式を取得するケースとして多いのが、敵対的買収(M&A)や株式公開買付け(TOB)による他社からの脅威に対抗するために友好的な株主から自己株式を取得するケース、また、大口株主から自己株式を取得して、株価を改善したいケースなどです。
不特定多数の株主から取得する方法とは異なるのが、事前に売主追加請求権が株主に付与されている点と、一部の事項が株主総会の特別決議での決議を要する点です。
(1)事前に特定株主以外の株主に売主追加請求権があることを通知する(会社法160条2項・3項)
(2)特定の株主からの取得に関する内容と通知について、株主総会特別決議が必要となる(会社法160条1項)
(3)取締役会の決議(会社法157条)
(4)株主への通知・公告広告(会社法158条)
(5)株主の会社に対する譲り渡しへの申し込み(会社法159条1項)
(6)会社の株主からの譲り受け(会社法159条2項)
(1)事前に特定株主以外の株主に売主追加請求権があることを通知する
株式会社が特定の株主から自己株式を取得しようとする場合には、その他の株主に対して、売主追加請求権を与える必要があります。
売主追加請求権は、株主平等の原則のもと、株主に平等に株式の売却の機会を与えるために、株主は自己株式の売主として、特定の株主に自らを加えた議案を株式総会の議案とすることを請求できる権利になります。
(2)特定の株主からの取得に関する内容と通知について、株主総会特別決議が必要となる
会社が特定の株主から自己株式を取得する場合には、取得する株式の数、株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及びその総額、株式を取得することができる期間、株主に対する通知などについて、株主総会の特別決議により、決議する必要があります。
(3)取締役会の決議
株式会社は、株主総会の特別決議による決定に従い株式を取得しようとするときは、その都度、取締役会の決議により、次に掲げる事項を定めなければならない。
・取得する株式の数
・株式一株を取得するのと引換えに交付する金銭等の内容及び数若しくは額又はこれらの算定方法
・株式を取得するのと引換えに交付する金銭等の総額
・株式の譲り渡しの申込みの期日
(4)株主への通知・公告広告
会社は、取締役会で決議し、定めた事項について、全株主に通知しなければならない。公開会社であれば、公告によることもできる。
(5)株主の会社に対する譲り渡しへの申し込み
通知を受けた株主は、株式の譲渡を申し込みすることができる。その際、会社に対し、その申込みに係る株式の数を明らかにしなければならない。
(6)会社の株主からの譲り受け
株式会社は、株式の譲り渡しの申込みの期日において、前項の株主が申込みをした株式の譲受けを承諾したものとみなす。
自己株式取得における売主追加請求権を排除できるケース
会社としては、自己株式を取得するのに自らが望む相手から株式を取得したいところですが、売主追加請求権の行使により、別の株主からも株式を取得しないといけない、株式の買取り希望株数が、株主総会で決議された買取株式数の上限を超えると、按分でそれぞれから取得することになり、望む株主から想定した株数を取得できないということになりかねません。
ここでは、売主追加請求権を排除できるケースとして、次のようなケースを確認したいと思います。
・定款に売主追加請求権を排除すると定めるケース(会社法164条)
・株式の譲渡制限のある会社(非公開会社)において、相続人から自己株式を取得するケース(会社法162条)
・株主が株式譲渡承認請求・株式買取請求を行い、会社が株式譲渡承認を拒否して、会社が自己株式を取得することとなったケース(会社法155条2号)
定款に売主追加請求権を排除すると定めるケース
株式会社の設立後に定款を変更して売主追加請求権を排除する旨を追加するには、すべての株主の同意が必要です。(会社法164条)。会社設立当初から、定款に予め盛り込むか、定款を変更するのであれば、株主の同意の得られやすいタイミングで前もって準備することが肝要です。
株式の譲渡制限のある会社(非公開会社)において、相続人から自己株式を取得するケース
売主となる株主が、相続した株式に関して、相続後に一度も議決権を行使していなければ、会社がその株主から自己株式を取得する際には、売主追加請求権が排除されます。
逆に相続後に議決権を行使していれば、売主追加請求権は認められます。(会社法162条)。
株主が株式譲渡承認請求・株式買取請求を行い、会社が株式譲渡承認を拒否して、会社が自己株式を取得することとなったケース
非公開会社における譲渡制限株式について、株主が買主を立てて、株式譲渡承認請求・株式買取請求を行い、会社がその株式譲渡を承認する義務はなく、拒否すると、会社は自ら買い取るか、買取人を指定して、買い取りさせなければなりません。
その場合、通常、株主間の持株比率を維持したい会社としては、自ら買い取りする、自己株式として取得することが多いです。この場合、その取引は相対取引となり、売上追加請求権は排除されます。それは売主追加請求権の前提である、株主との合意による取得に当たらないからです。(会社法155条2号)。
自己株式を特定の株主から取得したい会社は、その特定の株主に承認拒否前提で、株式譲渡承認請求・株式買取請求をしてもらい、拒否して、自己株式を取得すれば、売上追加請求権を排除できることになります。
ただし、売上追加請求権を排除できたとしても、自己株式の取得自体は株主総会の決議を必要とするため、敵対的株主の反対で否決される可能性もあります。
また、特定の株主の株式譲渡承認請求・株式買取請求に対応し、結果として会社が自己株式を取得すれば、株式を手離して資金を得たい他の株主が同様に株式譲渡承認請求・株式買取請求する可能性が出てきます。
その場合には、想定外のことで、もし譲渡先が敵対する先となれば、会社としては買取せざるを得ず、買取に応じる場合でも買取価格が折り合わない場合は、巨額の供託金を用意した上で裁判所による買取価格の決定に従わざるを得ないという状況にもなります。想定外の資金流出のリスクを抱えることになります。
まとめ
過去に原則禁止であった自己株式の取得は、経済の発展とともにさまざまなニーズの高まりにより、現在は一定のルールのもとに認められています。そのルールの一つとして、株主平等の原則の観点から、売主追加請求権が認められています。株主からすれば、権利であり、会社からすると制約にもなるものです。
会社としては、その発展の過程において、会社の買収などのM&Aや敵対的買収への備え、株価対策、経営権の維持・継承まで、資本構成に関わる施策が、慎重かつ適切に行われなければなりません。それらに関係してくる自己株式の取得、売主追加請求権について参照していただき、必要に応じて専門家のアドバイスを受けながら、会社として適切な対応をしていきましょう。