非上場株式・少数株式で巨額の相続税が発生するのに現金化できない場合の対策法とは?
非上場株式・少数株式は売却・現金化できないのに巨額の相続税が発生する!対策はないのか?!
オーナー企業のオーナーの遺産を相続する場合、その相続財産のほとんどが自社株というケースがよくあります。
このような非上場株式・少数株式を相続する場合に、巨額の相続税が発生することがあります。
この巨額な相続税を支払うのに、もともと現金がプールしてあったり資産を持っていればいいのですが、それができるほど余裕のある人はほとんどいません。
また、この巨額な相続税を支払うために、相続した非上場株式を売却して現金化したくてもなかなか難しいのが現実です。
結局、巨額な相続税を支払う原資が捻出できずに、相続放棄をしなければならないケースも数多くあります。
今回は、非上場株式・少数株式は売却や現金化できないのに、なぜこんなに巨額の相続税が発生してしまうのかついて弁護士が徹底解説していきます。
非上場株式・少数株式に対する相続税が巨額になる理由
非上場株式を相続した場合に支払う相続税は、巨額になるケースがあります。
巨額の相続税を支払わなければならない理由として、以下の2つが考えられます。
①資産価値が高いため
相続税は、相続する資産の金額が多ければ多いほど高い税率が課される累進課税制度で算出されます。
そのため、相続財産の価値が高ければ、それだけ相続税額も大きくなるのです。
即ち、相続する株式の資産価値が高ければ、それだけ多くの相続税を支払うことになります。
相続する株式が上場株式である場合は、証券取引所などでの市場価格がはっきりしているため、株式の評価は比較的容易に算出できます。
一方、相続する株式が非上場株式の場合は、上場株式のような市場価値がないため、税務署が独自の算出方法によって株式の資産価値を算出しています。
このため、創業から長年経営している企業などは、株式の資産価値が高額になる傾向にあります。
また、経営状況や利益によっても株式の資産価値が変動するため、業績が良い企業の株式ほど資産価値が高くなるのです。
このように資産価値が高く算出された非上場株式を相続した場合、巨額の相続税を支払うだけの現金を持っていれば問題ないのですが、そのようなケースはほとんどないでしょう。
また、多くの場合は、相続する遺産に占める非上場株式の割合が多く現金は少ないため、巨額の相続税の支払いに苦慮することになります。
②相続税の増税
非上場株式の相続税が巨額になる理由の一つとして、平成27年の相続税法の改正による増税が挙げられます。
平成27年の相続税法の改正で行われた増税により、基礎控除の縮小と相続税率が以下のように変更されました。
改正前の基礎控除
5,000万円(定額控除額)+1,000万円(相続人一人あたりの控除額)×法定相続人の数
改正後の基礎控除
3,000万円(定額控除額)+ 600万円(相続人一人あたりの控除額)×法定相続人の数
相続税率は、以下の表の通りに課税価格が2億円超~3億円以下と6億円超の場合に引き上げられました。
課税価格 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | ー |
1,000万円超~3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超~5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超~1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超~2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超~3億円以下 | 45%(改正前40%) | 2,700万円 |
3億円超~6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55%(改正前40%) | 7,200万円 |
このように、基礎控除の縮小と相続税率が高くなったことによる相続税の増税に加えて、現在の株価高騰傾向により非上場株式の評価額も軒並み高くなっています。
そのため、非上場株式を相続した場合にも、場合によっては巨額な相続税の支払いが発生するのです。
非上場株式・少数株式の相続に伴い巨額の相続税を支払うためには
相続税は、非相続人が亡くなった日の翌日から10ヵ月以内に支払う必要があります。
この巨額な相続税を支払うために、十分な自己資金があれば問題はありません。
また、相続財産の中に相続税を支払うだけの現金がある場合も同様に問題はありません。
しかし、巨額な相続税を支払うだけの現金が無く、やむ無く相続放棄をする人が多いのが現状なのです。
相続放棄とは、被相続人の財産を相続する権利を一切放棄することです。
相続放棄は相続の開始を知った時から3ヶ月以内に行わなければならず、基本的には撤回することはできません。
相続放棄をしない方法の一つとして、相続をした非上場株式を売却し現金化する方法があります。
しかし、非上場株式を売却して現金化することは、簡単なことではありません。
仮に、売却できたとしても、非上場株式の適正価格での売却はほとんど無理なのです。
非上場株式・少数株式の売却や現金化が難しい理由
日本の株式会社の中の99.8%は、非上場株式といわれています。
上場株式を売買するのには、証券取引所などの市場があるため比較的容易です。
一方、非上場株式は売買する市場がないため、株式を売買するのにはなかなか難しいのが現状です。
その中で非上場株式を売却する方法として、以下の3つが挙げられます。
①買い手となる第三者を自分でみつける
非上場株式は売買する市場がないため、自分で株式を買ってくれる第三者を見つけなければなりません。
この場合に株式の売買益を求める投資家には、流通していないことが原因でなかなか売り込むことは難しくなります。
そのため、この会社の株を所有している他の株主や、経営権を狙っている投資家などが主な売却対象先になりますが、簡単に買ってくれることはほとんどありません。
仮に買いたい先が運良く見つかったとしても、買いたい先との直接の交渉が基本になるため買い叩かれることも少なくありません。
このことは、売却しようとしている株式が業績を大きく伸ばしている優良企業であったとしても、例外ではないのです。
また、希望する価格で買ってくれる先が見つかったとしても、会社が売却を認めない場合もあります。
特に同族会社などの創業者とその親戚関係者で持ち株比率が50%を超えている会社は、株主としての第三者が入ってくるのを嫌がります。
このように、非上場株式を売却するために買い手となる第三者を自分でみつけることは、非常に困難なことなのです。
②会社に買い取ってもらう
非上場株式を売却する方法として、弁護士などの専門家にサポートをしてもらい株式発行会社と任意交渉を行うことで、株式を買い取ってもらうという方法もあります。
但し、会社には任意交渉に応じる義務がないため、会社にとってメリットがなければ交渉に応じてもらえないケースもあります。
また、交渉に応じてもらったとしても、会社には非上場株式を買い取る義務もありません。
会社側としても買い取るのに何億のも資金を支払いたくなく、できるだけ安い価格で買いたいのが実状です。
そのため、仮に買い取ってもらえる場合の買値は、適正価格ではなく会社側の主張する買い叩かれた金額になりやすいのです。
そして、会社側は足元を見て安く買い取ることにより、オーナー一族に株式を集約させ少数株主を排除することもできます。
特に、オーナーの横暴や、ワンマン社長の専横や、不誠実な同族会社や、会社支配権の濫用などが行なわれている会社では、非上場株式を適正な価格で買い取ってもらうことはまずありえません。
このように、非上場株式を売却するのに会社に買い取ってもらう方法も、なかなか難しいのが現実です。
③民事調停を利用して売却を行う
強制力はありませんが、非上場株式を売却するのに民事調停を利用する方法もあります。
非上場株式を売却するための民事調停には裁判官が介入しますが、売り手にとって有利な状況になるわけではありません。
また、民事調停は当事者同士の任意の合意が基本のため、一般的に売買価格は適正価格よりも低くなることが多くなります。
非上場株式・少数株式の物納
相続税の支払いは、基本的には現金一括支払いです。
例外としては、現金一括支払いが困難な場合、納税者の申請により基本的には担保を提供することにより分割で納付を行う延納という制度があります。
相続税の現金一括納付も延納による納付も困難な場合、現物で相続税を納付する物納という制度があります。
物納が認められるためには所轄税務署の事前の許可が必要で、物納のルールに沿っているかや、金銭で支払えないのかや、金銭の代わりに提供するものは何かなどで判断されます。
非上場株式は限られている物納できる財産の中に含まれますが、物納できる対象物の優先順位としては低くなっています。
即ち、非上場株式等は優先順位の第2順位に含まれていて、他の相続財産の中に第1順位の不動産等があった場合は第1順位の対象物を物納しなければならない仕組みになっているのです。
日本の相続のケースでは相続財産の中に不動産が含まれていることが多いため、非上場株式を物納の対象と認められることは多くありません。
また、非上場株式は所轄税務署によっては管理処分不適格財産と判断され、物納が許可されない可能性もあるのです。
事業継承税制による非上場株式・少数株式の相続税の繰り延べ
近年事業承継税制が導入され、非上場会社の株式等を相続により取得した場合は、一定の要件のもと納税が猶予されています。
しかし、事業承継税制は事業の継承を前提とした制度のため、経営に関与できない場合は利用することができません。
いくら非上場株式を相続できる創業家一族であったとしても、後継者となる代表取締役などの事業を継承する対象者でなければこの制度は適用されないのです。
納税猶予を続けるための要件は、申告期限後の5年間は以下の条件を満たす必要があります。
- 後継者が会社の代表者であること
- 雇用の8割以上を維持していること
- 後継者が筆頭株主であること
- 上場会社、風俗営業会社に該当しないこと
- 猶予対象株式を継続保有していること
- 資産管理会社に該当しないこと
この条件を満たさなくなった場合は、相続税を全額納付する必要があります。
申告期限後の5年経過後は、以下の条件を満たす必要があります。
- 猶予対象株式を継続保有していること
- 資産管理会社に該当しないこと
株式を譲渡して条件を満たせなくなった場合は、譲渡した割合分だけ相続税を納付する必要があります。
資産管理会社に該当した場合は、相続税を全額納付する必要があります。
非上場株式・少数株式を保有することでおこる問題点
非上場株式を相続した場合、巨額な相続税がかかることや、売却して現金化するのが難しいことをこれまでに見てきました。
仮にこの巨額な相続税を支払って非上場会社の株式を相続した場合でも、株式を保有するするメリットはほとんどなく、むしろデメリットは数多くあります。
以下では、非上場株式を保有することによる問題点を挙げていきます。
①会社の経営に対して影響力を発揮できない
会社の経営権を得るためには、議決権のある株式の2分の1以上を保有しなければなりません。
非上場会社の株式は創業者一族で2分の1以上を保有していることが多く、株式を保有していても少数であれば経営に口を出すことはほぼできないのです。
即ち、議決権のある株式の2分の1以上を保有していなければ、株主総会で議決権を行使しても通るケースはほとんどありません。
そもそも、非上場会社によっては、株主総会でさえ開催されないところもあるくらいです。
そのため、非上場株式を保有していても、経営に関わるというメリットはほぼないのです。
一方、相続した非上場会社の株式が議決権のある株式の2分の1以上ある場合は、会社の経営権争いに巻き込まれる可能性も考えられます。
特に、相続した会社の経営にまったく興味のない人にとっては、いつの間にか経営権争いに巻き込まれ困惑してしまいます。
そのため、株式の売却を考えても適正価格では売れず、買い叩かれてしまうことも多々あるのです。
②配当金が支払われないことも多い
株主である以上配当金を受け取れるのが当たり前と思っている人も多いですが、配当できる利益がなければ受け取ることはできません。
また、配当を行うかどうかは、取締会や株主総会によって決定されます。
例え配当可能な利益がでていたとしても、議決権のある株式の2分の1以上を保有している非上場会社の創業者一族が配当を行うことを決定しなければ配当金は支払われないのです。
そのため、株式を保有している会社の経営が順調であったとしても、創業者一族が経営権を握っている非上場会社の場合は、配当金が支払われないことも多々あるのです。
非上場株式・少数株式の株式買取請求の手続の流れ
相続した非上場株式を第三者に売却することが決まった場合でも、その会社の株式は譲渡制限が付いていて勝手に売却できない場合があります。
このような譲渡制限の付いた株式の売却先を自分で見つけてきた場合に、所定のの手続きをとることにより会社に対して株式買取請求権を行使することができます。
以下は、株式買取請求の手続の流れになります。
①譲渡制限株式
なかなか見つからない非上場会社の買い手をせっかく見つけてきても、譲渡制限が付いている場合は取締役会や株主総会での承認がなければ売却することができないのです。
このように、譲渡制限が付いている株式のことを譲渡制限株式と言います。
そして、非上場株式の大半が、譲渡に会社の承認が必要な譲渡制限株式になっているのです。
非上場株式を譲渡制限株式にしておく理由として、会社にとっては望ましくない先や、都合の悪い先人を株主にすることを防ぐことができるからです。
他にも譲渡制限株式にすることにより、以下のメリットがあります。
- 取締役が1名以上いれば監査役や取締役会の設置義務がないこと
- 株式の分散や会社の意思に反する人に株式が渡るなどの相続クーデターを阻止できること
- 株主からの請求が無ければ株券を発行しなくても良いこと
- 最大10年まで役員の任期を延長できること
- 意図しない第三者に渡ることを防止できるため後継者に株式を集めることができること
- 1週間前またはさらに短期間での株主総会の招集が可能なこと
②譲渡制限株式の譲渡承認請求
譲渡制限株式を第三者に譲渡する場合、会社の承認を得るために株式譲渡承認請求を行う必要があります。
譲渡承認請求を行うのは譲渡される側と譲渡する側のどちらでも良いのですが、譲渡される側が行う場合は原則譲渡する側と共同で行わなければなりません。
一方、譲渡する側の株主は、単独で譲渡承認請求をすることができます。
譲渡承認請求を行うには、会社に対して株式譲渡承認請求書という書類を提出する必要があります。
株式譲渡承認請求書には、譲渡する株式の数と株式を譲渡される側の氏名または名称や、会社が株式譲渡承認の不承認を決定した場合に会社または指定買取人に買取請求を行うのならばその旨記載する必要があるのです。
③譲渡承認請求をされた会社側の対応
譲渡承認請求をされた会社は、取締役会または株主総会による譲渡承認機関の承認決議で譲渡の承認可否の決定をします。
承認可否の決定を行う譲渡承認機関は、取締役会が設置されている会社の場合は取締役会になり、設置されていない会社の場合は株主総会です。
取締役会での承認条件は取締役の過半数の出席と出席した取締役の過半数の賛成で、株主総会での承認条件は議決権の過半数を持つ株主の出席と出席した株主が持つ議決権の過半数の賛成です。
また、譲渡承認を取締役会などで行わないことを定款に定めてある場合は、取締役会などを必要とせずに代表取締役や取締役全員の承認で譲渡承認の決定とすることができます。
譲渡承認機関での譲渡承認決議を終えた会社は、承認する場合もしない場合も株主に結果を通知する必要があります。
なぜなら、譲渡承認請求を受けた日から2週間以内に通知を行わなければ、承認決議の承認、不承認にかかわらず自動的に譲渡についての承認を決定したとみなされてしまうからです。
④譲渡承認請求が承認だった場合の株式譲渡契約の締結
譲渡承認請求を受けた会社が譲渡承認機関の承認決議の結果承認だった場合は、株主と譲渡先との間で株式譲渡契約締結が行われます。
株式譲渡契約の締結は、譲渡される側と譲渡する側が株式譲渡契約書に以下の内容を記載することにより行われます。
- 株主の氏名
- 株式を譲渡する価格
- 譲渡側の支払い方法
- 譲渡側の支払い期限
- 株主からの除名手続きの内容
- 新しい株主としての株主名義の書き換え請求の内容
株式譲渡契約の締結は、承認を実行条件として譲渡承認請求前に行われる場合もあります。
株式譲渡契約の締結が実行された後、株主と譲渡先と共同で会社に対して株主名簿の書き換えを請求します。
株主名簿の書き換えの完了後に株主は、株主名簿記載事項証明書の交付を行うことができます。
株主名簿記載事項証明書を交付することにより、株主名簿に新しい株主として記載されているかを確認することができるのです。
⑤譲渡承認請求が不承認だった場合の買取請求
譲渡承認機関の承認決議の結果が不承認となった場合でも、譲渡承認請求をする際に会社または指定買取人による買取請求を行うことを記載しているケースがあります。
会社または指定買取人による買取請求を行うことを記載していた場合、会社側は自身が対象株式を買い取るか指定買取人を指定するかのどちらかを決定して、譲渡買取請求の手続きを行わなければなりません。
そのため、元々の決まっていた第三者への株式の譲渡はできなくなります。
会社が買い取る場合は、取締役会が設置されている会社であっても株主総会を開く必要があります。
そして、株式を買い取ることや買い取る株式数について、株主総会の特別決議で決定するのです。
その後に、必要な供託を実施し供託を証明する書面を交付して、会社が株式を買い取ることを決定した通知が株主に対して行われます。
この通知は、譲渡承認請求が不承認と決定したという通知から40日以内に株主に対して行われなければ、会社が買い取ることを決定していても譲渡承認をしたものとみなされるのです。
一方、指定買取人が買い取る場合は、定款に定めがある場合を除けば取締役会が設置されている会社は取締役会の決議が、取締役会が設置されていない会社は株主総会の特別決議が必要です。
指定買取人が株式を買い取ることを決定した通知が株主に対して行われます。
この通知は、譲渡承認請求が不承認と決定したという通知から10日以内に株主に対して行われなければ、指定買取人が買い取ることを決定していても譲渡承認をしたものとみなされるのです。
会社または指定買取人による買取請求が承認されたら、譲渡制限株式の売却価格を決定します。
株主と会社または指定買取人との当事者間での協議により株式の価格は決定されますが、協議ではなかなかうまくいかない場合が多いです。
協議で株式の価格が決まらない場合は、会社または指定買取人が株式を買い取るという通知が行われてから20日以内であれば、裁判所に譲渡制限株式の売却価格の決定を申し立てできます。
この申し立ては株主側からでも会社側からでも双方から行うことができ、裁判所は適切な売買価格を決定します。
会社または指定買取人が株式を買い取るという通知が行われてから20日以内に売買価格決定の申し立てが行われない場合は、簿価純資産価格で株式売買価格が決定されることになります。
まとめ
非上場株式・少数株式は、売却できなければ巨額な相続税がかかる場合がかかるため、結局相続放棄をしなければならないケースも多々あります。
この相続税制には大きな瑕疵があるとしか考えられず、なかなか対策がないのが現状なのです。