株式交換の適格要件と税制改正についてわかりやすく解説
株式交換の適格要件を満たすかどうかで、税務処理や税制優遇が異なります。
このため、この記事では株式交換の適格要件について重点を置いて解説していきます。
ぜひ参考にしてみてください。
株式交換とは
株式交換とは、発行済株式を既存の会社が取得することで、会社の完全親子関係を創設するM&Aの手法です。
会社法第2条31号によって定められており、組織再編のための行為となります。
なお、株式交換には以下の6つのメリットがあり、経営統合や会社買収、会社の連結を強めるときなどによく使われることが多いです。
1.M&Aの手法の中でも手続きが簡単である
2.簡易株式交換や略式株式交換が利用出来る
3.対価として社債や株式を選択出来るため現金の準備が不要である
4.完全子法人が1つの法人として残るため独立性を保てる
5.吸収合併と比較して統合や業務のスリム化で禍根や火種を残す可能性が低い
6.親法人の株式を対価にすることで子法人が親法人の経営に参加出来る
ただし、以下の4つのデメリットがあるため、注意するようにしてください。
1.株式交換の手続きは深い会社法の知識が必要になるため個人では要件の判断が難しい
2.対価に親法人の株式を利用した場合は経営に子法人が参加するリスクがある
3.負債や不要な資産などを引き継ぐリスクがある
4.新株予約権や株式を対価にした際に親法人の株価が下落する可能性がある
株式交換については、「株式交換によるM&Aのメリット・デメリットと手続の流れ!」の記事で詳しく解説しているので、気になる方は確認してください。
株式交換の課税について
株式交換には、課税されるケースと課税されないケースが存在します。
課税の有無の大まかな違いは、「適格要件」を満たしているか否かです。
適格要件を満たした「適格株式交換」に関しては、株式を帳簿価額で引き継ぐため、基本的には課税されません。
一方、適格要件を満たしていない「非適格株式交換」である場合には、完全子法人が所有する資産が時価評価され、「時価-簿価」を税務上の評価損益とみなされるため、課税されてしまうケースがあります。
このため、適格要件について詳しく理解しておくことが重要です。
なお、完全子法人が所有する資産とは、「固定資産・土地・有価証券・金銭債権・繰延資産」を指します。
株式交換の適格要件とは
株式交換の適格要件とは、「適格株式交換」が適用されるために必要な条件のことです。
適格要件を満たしておらず「適格株式交換」が適用されない場合は、「非適格株式交換」と呼ばれ、税務処理や税制優遇が異なるので、適格要件について正確に理解しておくようにしてください。
なお、適格株式交換に該当する可能性があるのは、以下のようなケースです。
- 親法人が子法人を完全子法人化するケース
- 同一グループ内で企業の資本組み替えするケース
- 似たような規模の会社同士で行う株式交換のケース
ただし、適格要件は株式交換直前の株式所有関係などによって細かく条件が決められているため、条件は詳細まで確認するようにしましょう。
非適格要件との税制処理の違い
株式交換の非適格要件とは適格要件に該当しないものを指し、「適格株式交換」とは税務処理や税制優遇が異なるので注意が必要です。
「適格株式交換」は資産を帳簿薄価額で引き継ぐことになるため基本的に課税されないのに対し、「非適格株式交換」は資産を引き継ぐ際に時価で引き継ぐことになるため、譲渡損益が発生して課税されるケースがあります。
具体的にどういったケースで税金が掛かるのかを、以下の表にまとめたので確認してください。
対象 | 税金について |
完全親法人 | 税金が掛からない |
完全子法人 | 所有する資産が時価評価され、「時価-簿価」を税務上の評価損益に対して税金が掛かる |
完全子法人の株主 | 金銭が含まれるケースは、子法人の株式の時価と対価となる金銭の差額に対して税金が掛かる |
完全親法人の株主 | 税金が掛からない |
なお、株式交換をする際の税務上の取り扱いは、非適格株式交換が基準で適格株式交換が例外になります。
適格要件の条件
適格要件の数は、完全支配や支配関係や、共同事業目的なのかによって異なります。
具体的には、以下の表でそれぞれの要件を確認していきましょう。
要件 | ①完全支配関係 | ②支配関係 | ③共同事業目的 |
支配関係継続 | 〇 | 〇 | 〇 |
金銭等不交付 | 〇 | 〇 | 〇 |
事業移転 | ― | 〇 | 〇 |
事業継続 | ― | 〇 | 〇 |
事業関連性 | ― | ― | 〇 |
株式継続所有 | ― | ― | 〇 |
規模・経営参画 | ― | ― | 〇 |
では、上記の内容について詳細に解説していきます。
完全支配関係
完全支関係とは、法人の発行済株式のうち除外株式を除いたすべてを直接もしくは間接に所有することで、法人が完全に支配されている時の両社の関係です。
例えば、A社(親)がB社(子)の株式をすべて所有しているケースや、A社(親)とB社(子)がC社(子)の株式を合算して100%所有しているケースが挙げられます。
なお、除外株式とは以下の2つのことです。
- 自己株式
- 従業員持株会が所有する株式ならびにストックオプションなどにより役員などによって取得された株式
ただし、従業員持株会が所有する株式ならびにストックオプションなどにより役員などによって取得された株式は、その株式の総数が自己株式を除く発行済株式の5%未満の場合に限られます。
支配関係
支配関係とは、50%超える法人の発行済株式を直接もしくは間接に所有することで、法人が支配されている際の両社の関係です。
例えば、A社(親)がB社(子)の株式をすべて所有しているケースや、A社(親)とB社(子)がC社(子)の株式を50%超所有しているケースが挙げられます。
共同事業再編
共同事業再編とは、発行済株式の50%以下の持分関係の法人で組織再編が行われる際の関係を指します。
適格要件の数が他の関係と比較して多くなるため注意が必要です。
適格要件
適格要件には7種類あります。
以下の表でまとめてありますので、参考にしてください。
要件 | 内容 |
支配関係継続 | 以前からの支配関係が株式交換を実行した後も続けること。 |
金銭等不交付 | 株式交換の対価として、「完全親法人の株式」以外の資産が交付されないこと。
金銭の交付が基本的に認められないが例外もある。 |
事業移転 | 子法人の直前に在籍している従業者のうち、概ね80%以上が株式交換後に子法人に残ることを求めること。 |
事業継続 | 完全子法人の主な事業のいずれかを継続すること。 |
事業関連性 | 子法人の主な事業と親法人の事業が相互に関連性を有すること。
事業が複数ある場合は、1つでも関連性を有していれば問題ない。 |
株式継続所有 | 対価として交付される親法人株式が株主により継続的に所有されること。 |
規模・経営参画 | 親法人と子法人の事業における、売上高または従業者数の片方の差が5倍を超えないこと。
株式交換前の法人役員のすべてが、株式交換の際に退任しないこと。 (1名でも役員として残れば、他の役員が全員退任しても問題ない) |
ちなみに、金銭等不交付の解説にある例外とは、主に以下のようなケースを指します。
- 交付株式に端数が生じた際の端株を買い取るための資金
- 再編に反対した株主が買い取りを要求してきた際に支払う買取資金
- 子法人となる会社の株式の所有割合が3分の2以上の場合の他の株主に対して金銭を交付するケース
上記のようなケースは、金銭を交付しても対価要件を侵害することはありません。
適用要件の税制改正の内容
適格要件は2016年、2017年、2019年の3度改正されています。
これらの改正では、改正前と比較して適格条件が緩和されました。
ここでは、2016年、2017年、2019年の3度の改正によって変更された内容について詳しく解説していきます。
2016年の改正
2016年の民法改正では、「特定役員の継続要件」と、「子法人の株式の所得価額」について変更されています。
まず、特定役員の継続要件の変更点は、改正前は株式交換前の子法人の役員が全員残らないと適格要件が適用されなかったのに対して、改正後は1人でも残れば適用されるようになった点です。
この改正により、2016年以前と比較すると特定役員の継続要件をクリアしやすくなり、適格要件の株式交換がやりやすくなりました。
つぎに、「子法人の株式の所得価額」の変更点は、改正以前は株式交換直前の子法人の簿価純資産価額しか使えなかったのに対して、改正後は株式交換を実行した際に、事業年度の前事業年度の末の子法人の簿価純資産価額を使えるようになった点です。
この改正により、わざわざ株式交換の直前に計算して簿価純資産価額を割り出す必要がなくなり、計算にかかる時間と手間を省くことが出来るようになりました。
ただし、上記の内容が適用される条件は、「株主が50人以上いる子法人」に限られます。
2017年の改正
2017年の改正では、少数の株主から大株主が強制的に株式を取得するM&Aの手法である「スクイーズアウト」に関連する税制の整備が行われました。
改正前は、親法人が子法人に交付するのは親法人の株式に限定されていましたが、改正後は、子法人となる会社の株式の所有割合が3分の2以上の場合の他の株主に対して金銭を交付しても適格要件が適用出来るようになっています。
具体的には、スクイーズアウトの手法として現金を対価とする株式交換を実行した場合は、改正前は適格要件を満たせなかったため、子法人で譲渡損益や時価評価損益に税金が掛かることもあり選択されていませんでした。
しかし、この改正によって現金を対価とする株式交換を実行しても、条件はありますが適格要件を適用出来るようになったため、スクイーズアウトの手法の選択肢が増えたことになります。
2019年の改正
2019年の改正では、小規模の子法人を存続会社とする逆さ合併における支配関係継続について改正されています。
改正前は、逆さ合併を実行した場合は株式交換前の支配関係を継続出来ないため、適格要件を満たせず非適格要件になってしまい、逆さ合併は子法人で譲渡損益や時価評価損益に税金が掛かる状態でした。
しかし、2019年の改正によって、逆さ合併の場合は支配関係継続について合併の直前までに判断することに変更されています。
この改正により、逆さ合併においても適格要件を満たせるようになりました。
適格要件税務処理のポイント
株式交換で課税対象となり得るのは、「親法人・子法人・子法人の株主」になります。
では、適格要件を満たしているケースでは、それぞれどういった税務処理をされるのでしょうか?
それは、以下の表を確認することでわかります。
対象 | 税金について |
完全親法人 | 税金が掛からない |
完全子法人 | 完全子法人は株式交換をしても株主が変わるだけなので、それに対する税金が掛からない |
完全子法人の株主 | 株主に税金が掛からない |
なお、適格要件に該当する場合は、株主の人数によって株式の取得価額の算出方法が異なるため注意が必要です。
株式交換前の子法人の株主の人数 | 取得価額の算出方法 |
50人未満 | 株式の取得価額をもとに算出 |
50人以上 | 簿価純資産をもとに算出 |
前述したように、子法人の株主に関しては、50人以上であっても課税されません。
まとめ
株式交換は適格要件を満たしているかどうかで、税務処理や税制優遇が異なります。
そのため、株式交換を実行する際は、適格要件を満たしているかどうかの確認が重要です。
この記事では、株式交換の適格要件について詳しく解説しているので、参考にしてください。